| 著者・編者 | ?取優二=著 |
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| 出版情報 | 講談社 |
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| 出版年月 | 2025年9月発行 |
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著者は、埼友クリニック外来部長で医学博士、腎臓専門医の?取優二さん。抗加齢医学(アンチエイジング)の観点から、腎臓病を捉えなおす新たな手法に取り組んでいる。
?取さんは、腎臓を「尿を作るだけの臓器」と考えるのは大きな誤解であり、実際には命を支える中心的な役割を担っていることを、わかりやすく説明した一冊である。腎臓は目立たない存在であるが、体の中では24時間365日、休むことなく働き続けている。
人の体の約6割は水分でできており、その水分は「体液」と呼ばれる。体液は、細胞に栄養や酸素を届け、いらなくなった老廃物を回収する役割をもつ。腎臓は、この体液の量や濃さ、塩分のバランスを細かく調整することで、体の状態を一定に保っている。これを「恒常性(ホメオスタシス)」という。
腎臓は1日に150リットル以上もの体液を濾過している。しかし、実際に尿として体の外に出るのは1.5リットルほどであり、残りのほとんどは体に必要な水分や成分として戻されている。この「たくさん濾して、必要なものを戻す」という仕組みがあるからこそ、体は常に安定した状態を保てるのである。
腎臓の中には「ネフロン」という非常に小さな働きの単位が、左右合わせて約200万個も詰まっている。ネフロンの最初の部分である「糸球体」は、血液をふるいにかけるフィルターのような役割を果たす。ここで水分や小さな物質だけが通り抜け、赤血球やタンパク質のような大切なものは血液中に残される。その後、尿の通り道である尿細管を進む間に、水分や栄養分、塩分などが細かく調整され、最終的に不要なものだけが尿として排出される。
腎臓の働きは、老廃物を捨てることだけではない。血圧を調整したり、血液を弱いアルカリ性に保ったり、赤血球を作るよう体に指示を出したり、骨を丈夫にするビタミンDを活性化させたりもしている。つまり腎臓は、体全体のバランスを裏で支える「調整役」である。
このような複雑な働きをもつ腎臓は、進化の歴史の中で形作られてきた。生き物が海から陸へ上がる過程で、体の中に「海と同じような環境」を保つ必要が生じた。その役割を一手に引き受ける臓器として、腎臓は発達してきたのである。
一方で、腎臓は非常に「我慢強い」臓器でもある。多少機能が落ちても、痛みなどの自覚症状がほとんど出ない。そのため、知らないうちに機能低下が進み、「慢性腎臓病(CKD)」に至ることがある。日本では成人の約5人に1人が該当するとされるが、すぐに透析が必要になるわけではない点は強調されている。
腎臓の機能は加齢とともに少しずつ低下し、一度壊れた部分は基本的に元に戻らない。しかし、生活習慣によって悪化のスピードを遅らせることは可能である。極端な食事制限や運動制限が、かえって逆効果になる場合もあるため、正しい知識が重要であると?取さんは述べている。
?取さんは、腎臓は目立たないが、全身の臓器がうまく働くための「縁の下の力持ち」であり、健康寿命を左右する重要な存在だという。腎臓の仕組みを正しく知ることは、自分の体を長く大切に使うための第一歩である。
先日、尿路結石を患い5日ほど入院した。「肝臓は沈黙の臓器」と言われるが、本書で紹介されているように、腎臓はそれを上回る寡黙ぶりである。もともと腎臓内にあった欠席が、尿管内を転がり、はじめて激痛となってあらわれる。ちなみに、これは耐えられないレベルの激痛である。そんな激痛に悩まされたのも何かの機会ということで、腎臓について学ぼうと思い本書を手にした。
腎臓の機能だけでなく、生物進化の過程における腎臓の立ち位置にも触れているのが興味深い。学校の生物の教科書よりも詳しい多くの図版が掲載されており、一般の方でも理解を深めることができるだろう。
「血液は太古の海を反映する」と、カナダの生化学者のアーチボルド・マッカラムは述べているが、その血液を循環させる心臓はもちろん、心臓と協調して身体全体のホメオスタシスを保つ腎臓は、寡黙によく働く。
左右に1つずつある握り拳台の腎臓は、2つ合わせて重量約300グラム。体重が60キログラムの成人男性は、体液が約36リットル(うち血液が3リットル)あり、1日に2.3リットルほどの水分を摂取し、1.5リットルほどの尿を排泄する。一方、腎臓が1日に濾過する体液の量は150~180リットルにも達する。リアルタイムに血圧を維持するには、毎日体液を5回転させる必要があるのだ。
腎臓は、血液量・血圧を通じて心臓や血管と連携し、ビタミンD賛成では骨と関わる。脳、肺、肝臓とも連携している。腎臓機能が低下すれば、とたんに多臓器不全に陥る。
腎臓は、30代で大きさがピークとなり、60歳を超えると1年で16立方センチメートルずつ容積が減っていくという。腎臓に負荷をかけないようにするには、塩分・糖分の摂取を控え、必須アミノ酸のメチオニンを制限し、リンを多く乳製品や加工食品を避け、適度に運動することだという。いろいろ気を使わなければならないが、再生が効かない臓器なので、死ぬまで末永く付き合っていきたいと感じる次第――。
