ケイ酸の基礎知識 その2
5月31日の日本農業新聞に「ケイ酸」の特集が載っていましたが、ご覧になりましたか? ケイ酸の必要性は日に日に注目されているところですが、ケイ酸の本質が正しく理解されているとは余り思えません。国や県の農業試験場や大学でもケイ酸研究をしているところはごく僅かで、数少ない研究者がケイ酸の使用が肥料農薬の低減に役立ち環境を汚さないというデータを発表しても、それを必ずしも好ましいと思わない大が小を抑える社会情勢があるのかも知れません。 農業新聞の記事をみると「家庭園芸肥料」や「活性剤・活力素」のケイ酸ではなく、ケイ酸質肥料として大臣登録をされている肥料のようですが、大半「可溶性」か「く溶性」と表示され、それぞれ0.5モル塩酸と2%クエン酸液に溶けるケイ酸であることを表示しています。土壌中では根酸や微生物酸でケイ酸は溶解され植物根に吸収されますが、何度もお話したようにそれには時間がかかり、作物の動きでケイ酸効果を認識できる名人や達人はごく一部に限られます。 HPのケイ酸の基礎知識はご覧いただいていると思いますが、もう少し突っ込んでケイ酸についてお話しましょう。 ケイ酸は石の母体で1個のケイ素に二つの酸素がくっついて「SiO2」という化学式で表されますが、ひらがなの「く」の字の折れたところにケイ素が、両端に酸素がいて、電気的には+4のケイ素と-2の酸素2個で釣り合っています。その「く」の字が前にならえで数万数十万と繋がっているのがケイ酸の原型ですが、ケイ素は炭素と同様に手が四つあるので後ろの酸素とも手をつなぎ分解されにくい形になっています。 地球の生命活動で石が出来る過程で、本来「く」の字の折れたところにケイ素の次に多いアルミニウム(+3)や鉄(+2)が来ると、陽(+)電気が足りないのでアルミにはカリや水素(どちらも+1)などがくっつきます。鉄の場合はマグやカルシウム(どちらも+2)がくっついて電気バランスを整え、それらの石の化学式はKAlSi3O8(長石)やCaMgSi2O7(オケルマン石)のようになります。くっついたものは水溶性で即植物に吸収されるので、ケイ酸が保肥力を高めると言われる基本原理になりますが、どんな石を原料にするかによってカリ、マグ、カルシウムの過剰が起きる可能性も否定できません。。 ケイ素を中心に4つの手に酸素を掴んでいるケイ酸がモノケイ酸(一量体Si(OH)4)で、水に溶けてイオン化すると(-4)になり、二つのケイ素が一つの酸素を共有して計7つの酸素を捕まえているのがジケイ酸(二量体でー3.5)になります。一量体のケイ酸が水に溶けているものを水溶性と呼ぶべきでしょうが、肥料取締法には規定はないようです。ケイ酸は重合してゲルになる性質があるので、大量に集まってポリマーになればシリカゲルになりますが、電荷は無くなります。私はケイ酸の妙味は+にもーにも働く電荷にあると思いますが、高分子ゲルではそのような働きをするにはどうしても時間が必要です。 ケイ酸が植物の根から吸収される大きさはある研究では2000分子(=2000量体)以下と言われていますが、市販のケイ酸資材は液体であっても数万数十万の分子の三次元的コロイド状ケイ酸であることが多く、根酸や微生物酸で分解され吸収されるには長い一定の時間がかかるのです。(コロイドケイ酸溶液か真の水溶性ケイ酸液かはチンダル現象の試験で大方の判断がつきます) ケイ酸を語る上でもうひとつポイントなのが二次ケイ酸塩鉱物、つまり粘土鉱物です。火山活動で生まれた一次鉱物は安山岩、流紋岩、玄武岩などケイ酸含有量は違いますが、それらは風化の過程でとくにアルミニウムと化学反応をして粘土鉱物に変化し、Si四面体とAl八面体が1:1(それぞれが対等にくっついているカオリナイト、ハロイサイト)や2:1(Si四面体がAl八面体をサンドイッチしているモンモリロナイト、イライト)の格子構造が出来上がりますが、日本国内では保肥力(CEC)が高くて緩衝能が高い2:1構造粘土鉱物は稀にしか発見されません。2:1鉱物をケイ酸原料に使うことが肥効発現には重要なことですが、肥料取締法には言及されてはいません。 「ケイ酸成分の形態を溶媒可溶性で肥効発現の速度と関連付けて比較すると、水溶性>クエン酸アンモニウム可溶>クエン酸>0.5M塩酸の順と概括されよう」というケイ酸研究者の意見に私は賛成です。