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テーマ:お勧めの本(7363)
カテゴリ:本(小説)の話
昨日の朝刊を読んでいたら、作家吉村昭氏の訃報が掲載されていました。
享年79歳、膵臓癌だったそうです。 吉村作品には史実に題材をとったものが多く、非常に緻密な調査と作者の感情を交えない冷静な作風が特徴です。 かわりにユーモア等も交えられずハッピーエンドで終わったりはしないので、重く感じる場合もありますが・・・。 私のおすすめタイトルをいくつかご紹介します。 ■漂流 初めて読んだ吉村作品です。(漂流・漂着文学が好きなので手に取りました。) 江戸時代の土佐の船乗りが難破し、鳥島に漂着した史実をもとに書かれた作品です。 「板子1枚下は地獄」といわれた当時の船乗りの仕事の恐ろしさや、漂流中の様子が真に迫ります。 その後、漂着した島で待ち受けている幾多の困難には言葉もありません。 極限状態で人間が生き抜く、ということが丹念に描かれています。 非常に面白く、これで吉村作品にはまりました。 ■破船 同じ難破船でも、漂着した土地の側から書かれたものです。 かつて日本に多く存在していた非常に貧しい村が舞台です。 夜中に塩焼きの火をたき、近くを通る船の座礁を招き、その積荷を奪う。 貧しさゆえの恐ろしい村のしきたりが、思わぬ大きな災厄を運び込むことになります。 過酷で悲惨な物語です。 ■戦艦武蔵 吉村昭の作家としての地位を確かなものにした代表作です。 戦記ものではなく、武蔵の建造がメインに取り上げられています。 世界に類のない、前代未聞の巨艦、大和と武蔵の建造には多くの難題があり、なおかつ建造は完全に極秘裏に進められました。 大和は呉の海軍工廠で造られましたが、武蔵は民間企業である三菱重工で造られため、情報保持を初め、あらゆる面で非常な苦労があったことがわかります。 建造に関わった人たちにとっては、文字通り命がけの仕事でした。 なにもかも段違いだった大和と武蔵ですが、最後は戦果といえるようなものをあげることができないいまま、沈んでいきます。 武蔵沈没とその後の乗組員の悲劇的な結末に端的に触れて物語りは終わります。 そこには安易なヒロイズムやロマンティシズムは一切ありません。 戦争というものは、ヒロイックでもないしロマンティックでもない。 最近の、映画主導の戦艦大和ブームにはやや安易なものを感じます。 (テレビで慰霊に訪れた大和の乗組員の方とピースをして写真におさまるカップルをみました・・・。) 新聞によると、吉村氏は小説に書く日の天気まで調べるほど、史料にこだわっていたそうです。 まだ読んでいない作品がたくさんありますので、これからもゆっくり読んでいこうとおもいます。 吉村昭氏のご冥福をお祈りいたします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
August 3, 2006 05:36:07 PM
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