2005/08/22(月)20:34
生きた化石
我が家の庭続きの隣人であるドイツ人の I さんは、
とっても世話好きのおばあちゃんである。
私のことを子供と思っているのか
(アジア人は若く見える)
いろいろと世話を焼いてくれる。
しょっちゅう、ちょっとしたプレゼントをくれたり
街の情報を教えてくれたり、
毎日覗いては、私のことを心配している。
ある日、庭で立ち話をしていて、
たまたまカブトガニの産卵の季節の話になった。
毎年、晩春の新月の日には
大量のカブトガニがニューヨークの海岸にやってきて産卵をする。
彼らが去っていった後、砂浜を歩くと
まるでタッパーの入れ物みたいに見えるカブトガニの死骸が
そこら中に落ちているのだ。
そんな話をしていたら
I さんが、やたらニコニコするので、
何か非常にイヤな予感がしたが、
その日は、そのままさよならをして家に入った。
あくる朝、庭で朝食を取ろうとオムレツの皿を持って外に出ると
庭のテーブルの上に…、な、なんとカブトガニが乗っているではないか。
生きてはいないが本物のカブトガニ。
しかも、おなかには「ワカメ」がついている。
し、しまった。
うかつにも、カブトガニの話をしたため、
彼女は、私がカブトガニを「欲しがっている」と勘違いしたに違いない。
焦りながらも、さんざん考えた挙句、
やはり朝食のために隣の庭に出てきた I さんのところに
恐る恐るカブトガニを持って行った。
「おはようございます。カブトガニを見せてくださって
どうもありがとうございます。ここにお返ししておきますね。」
しかし、Iさんは、満面の笑みを称えて言う。
「あらぁいいのよぉ。取っておいて。」
「でも、置くところないし…。」と、食い下がる私。
しかし、この言い訳は、ちと苦しかった。
まだ、引っ越したばかりで、家の中には殆ど何もなかったのだ。
「ほらほら、ソファの後ろの壁に飾ったら?」
…。
もうやけくそで、
「ソファの後ろにカブトガニを飾るのは、ポリシーに反する。
日本人は、空白の美を愛するのだ。」
とか何とか、わけのわからないことを言って、
ワカメつきのカブトガニを、I さんの手に押し付け、走り去った私であった。
あれから1年ちょっと。
カブトガニは、いまだに隣家の庭に鎮座している。
ワカメが、どうなったかは知らない。