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ルナ・ワールド

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「在日韓国人三世の胸のうち」

「在日韓国人三世の胸のうち」 李 青若 (り・せいじゃく)
1997年 草思社

とっても読みやすい。
そして全く知らない人の個人史なのに面白い。

そしてなぜかためになる。

世の中、特に最近、在日コリアンや在日外国人系の本は増えてきている。
なのにこの本が特出するのはなぜか、と考えてみた。

今まで読んだソレ系列の本(そんなに数多いわけではないけれど)とは一味もふた味も違うのだ。そしてそれは別に文体の読みやすさだけに起因してるわけではない。

すぐには気づかなかったのが、たまたま一緒に借りてきた本と見比べてみてやっとわかった。

これは李青若という人の、在日韓国人三世でもある、一人の人間の個人史でもあり家族史でもある、という点が変わってるんだ。

もう片方の本はソレ系の本にありがちな「在日の方々の生の声を拾う」という感じのもの。一人一人に一応名前は与えられてるし、一人一人の家族環境なんかも一応データとして書いてある。でも、一人に与えられてるページ数はせいぜい30ページほど。

翻って「胸のうち」は普通の本の長さ(200ページちょっと)全てが李青若という人に関してなのだ。こっちのほうがよっぽど人間味が出る。

そもそもこちらは李青若本人が自分のことを書いている。
誰かに(誘導的に?)インタビューされてその本の趣向に合わせて、お涙頂戴の話がクローズアップされてるわけじゃないのだ。

在日韓国人であることが関係する経験も関係しない経験も全てひっくるめて李青若。
「同化してる」と言われたり、「かわいそうな歴史」を背負っている家族メンバーも背負ってない家族メンバーもいる李青若。
「優遇されることも差別」という点に気づくやわらかい頭の持ち主の李青若。
人の期待を裏切るようなことをはっきり言って、相手を驚かすことのできる李青若。
いいことも悪いこともどっちでもないことも全部ひっくるめて李青若。

理知的で、思慮深いこの人とお友達になれたら面白いだろうなぁ、と思いつつ本が閉じられたら、この本はザイニチであることもひっくるめた一人の人間、李青若を私に身近に感じさせることができた、といえる。
そしてそれは在日韓国人三世である人間を少し知り始める、ということに役立った、ということになるのではないだろうか。
全ては相手をデータの一部としてではなく、様々な個人史や家族史を持った一人の人間として見ることから始まる、と思うから。



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