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2005年03月11日
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わたしは今日も23年前の銀婚式のときに新調した、なじみの深い布団にもぐりこんだ。
隣には、この布団を買ったときからほぼ毎晩となりで寝ていたSのぬくもりが感じられるような気がした。

お互い、まだ血気盛んで、好奇心と運命に導かれるまま各地、各国を転々としていたころに出会った。

Sがあと少しで現地を離れる、というときに私はそこに降り立った。
お互いの予定のまま行けば、私たちはわずか2ヶ月間だけ時間を共有する仲になる予定だった。それが一生の残りを共有する仲に変わってしまった。

出会ったときはまだ若かった私たちも、年齢とともにじょじょに白髪やしわが増えてきいった。
でも、ついに二人ともしわくちゃなおじいちゃん、おばあちゃんになったときに、わたしは二人のしわがお互いのしわになじんでいることに気づいた。
一人でしわくちゃになったのではなくて、一緒にしわしわになったのだ。

Sの暖かい手が、わたしの手をそっと包む。
その動作は、出会ってからずっと変わらなかった。
そして、しわが増えるたびに、わたしたちのしわ達は申し合わせたかのように、お互いになじむように増えていった。

Sの手は暖かいときも、熱いときもあったが、年を重ねるごとに、だんだん低温の温かみで落ち着いてきた。
冷たいときには、手を引いて、手をすこし温めてからまた私の手を握りなおした。

わたしは横に寝ているSの脚をそっと抱くのが好きだった。
その脚も、最初は若者らしいしっかりした筋肉質の脚だったのが、働き盛りの中年のときには多少たるみだし、それでも定年後には、また再開した運動のおかげで、部分的に昔なみの張りを取り戻していた。細さは昔以上になった。

布団に入るのは、だいたい私のほうがあとだった。
わたしが布団にもぐりこむと、そっと後ろから抱きかかえてくれたS。
そのSの脚に腕を絡めて深い眠りにつくわたし。

もうSのもぐりこまないこの布団の中で、私はあと何年、Sの優しい動作を、その存在を想像しながら安心した眠りにつくのだろう。









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最終更新日  2005年03月11日 04時59分44秒
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