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Freccia  Celeste

Freccia Celeste

混沌の使い魔 第3話

 当然のことかもしれないが、授業は中止になった。教師はおろか、ほとんどの生徒が気絶してしまった以上、やりようがない。しばらくして、タバサという青い髪の女の子が別の教師を連れてきたが、教室の惨状に随分と驚いているようだった。

 まあ、それも仕方がない。原型を留めていない場所もかなりある。随分派手に壊れてしまっているので、教室が使えるようになるにはしばらく時間がかかるだろう。

 取り合えずということで教室の片付けを命じられたが、そう時間はかからなかった。教室自体の修繕が必要なので、基本的には壊れたものの処分だけで済んだからだ。




◇◆◇




 結局午前中の授業も中止ということになり、暇を持て余していたのだが、昼食の時間だということで食堂に来た。ちなみに今回は一緒に来ている。使い魔として来る必要があるとの事だったが、何より随分と落ち込んでいるようで心配だったからだ。

 普段気丈なところもあるが、今回ばかりはさすがに堪えたらしい。
ルイズにとっては、せっかく期待してくれたのにということで、いつもよりもショックが大きかった。

 食べて少しは気が晴れてくれればと思っていたのだがそうもいかないらしい。流石にその頃には気絶していた生徒のほとんどが起きていて、あからさま聞こえるようにルイズの悪口を言っている。

 今回ばかりは言い返すこともできないのか、おとなしい。朝食を摂っていないにもかかわらず、食も進んでいない。

「気にするな。 アレだけのことができればたいしたものだ。」

 聞こえてくる悪口からするとアレは失敗だったのだろうが、失敗だということを差し引いても十分だと思う。

「……ほっといて。」

 いつもの、といってもまだ会って間もないが、ルイズらしくないと思う。多少失敗した程度ではへこたれない方が彼女らしいはずだ。

「戻るから。 食べたいなら食べなさい。 ……それと、しばらくは一人にして。」

 結局、ほとんど食べずに帰ってしまった。 慰めるべきだとは思うが、こういうのは苦手で、かけるべき言葉が浮かばない。



「……あんな調子じゃ張り合いがないわね。 慰めてあげたら?」

 さっきから様子を伺っていたらしいキュルケが話しかけてくる。

「そういうのは苦手なんだ。 代わりにやってくれ。 ――友人なんだろう?」

「……まあ、友人というのは措いておいて、私じゃ喧嘩になるもの。使い魔として慰めてあげて。」
 
 最後に一言、よろしくねと去っていった。



 ――どうしたものか

 やはりそういったことは苦手でうまい方法が思いつかない。しばらく考え込んでいたのだが、少し周りが騒がしい。 何事かと見てみれば


 ――馬鹿がいる。

 格好といい雰囲気といい、軽薄そうな少年だ。どうやら二股をかけていたのがばれたらしいが、わざわざ火に油を注ぐような真似をしている。おかげで二人から制裁を受けたようだ。これに懲りて精々少しはましになるんだな、と思ったのだが、
「あのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだ。」
まだそんなセリフを言える辺り、救いようがない。

 更に救いようがないことに、今度はシエスタに責任を押し付けている。呆れるばかりだが、彼女は随分と怯えているようで、今度ばかりは放っておくわけにも行かない。



「それくらいにしたらどうだ? 今のはどう考えてもお前が悪い。」



「その通りだギーシュ!お前が悪い!」

 少年の名前はギーシュというらしい。周りからも同意の笑い声が上がる。

「き、君はルイズの呼び出した……。 君には関係ないだろう。平民の躾は貴族の役目だ。」

「……貴族と平民、身分の差だけでそんな馬鹿なことを言っているのか?」

「何を言っているんだ。 貴族は魔法を使える。 魔法が社会を支えているんだ。ならば、魔法を使えない平民は貴族に従うべきだろう?」

 ――本気で言っているのか?

「……魔法が使える。 力があれば、何をしても良いとでも思っているのか?」

 自然と語気が荒くなる。

「な、何を怒っているんだ。 力のない平民が貴族に従うのは当然のことじゃないか!!」

「……なら、俺がお前を殺しても文句はないな。」

 そう言って、首をつかんで持ち上げる。

「……や、やめ……」

 随分と苦しそうだが、力を緩めるつもりはない。

「……お前が言っているのはそういうことだ。力があれば何をしてもいいなんて、考えるな。」

 そう言って手を離す。このままだと首の骨を折りかねない。

 自分でも気付いていなかったが、さっきこいつが言った、怒っているというのは当たっているのかもしれない。力があれば何をしてもいい、そんな言葉に千晶のことが浮かんだ。何のコトワリも選べなかった自分だが、弱いから、ただそんな理由だけでマネカタ達を皆殺しにするような考えは認められなかった。もっとも、本当に怒っていたのはそんな千晶を止められなかった自分に対してなのかもしれないが。



「……ま、待て。」

 咽てはいるが、言葉ははっきりとしている。

「……こんなことをしておいてただで済むと思うな。 決闘だ!!」

 そう高らかに言ってくる。周りには止める者もいたが聞く気はないようだ。

 俺も、断る理由はない。




◇◆◇




 ――さて、どうしたものか

 決闘ということで外に出てきたが、今現在、それぞれ武器を持った青銅の人形が周りを囲んでいる。なるほど、確かに普通の人間にとっては脅威だろう。これならば魔法の使えないらしい平民にとっては貴族が恐怖の対象になるというのも仕方がない。

 だが、所詮その程度だ。数体が手に持った武器を振りかざして切りかかって来るが、ほとんどその場から動かずにかわす。

 遅すぎる。加えて、動かす人間が素人だからだろう。精々鎧を着込んだ素人の動きだ。数に物を言わせてただ闇雲に武器を振り回すばかりで、少し体の位置をずらしてやるだけでかすりもしない。殺すつもりなんだろうが、話しにならない。もっとも、こちらは殺す気など全くないが。

 とはいえ

「どうした避けるばかりか!!」

 こちらが避けるばかりということで、調子に乗っているんだろう。少しは反省させなければ意味はない。周りにはこのギーシュと同じ考えらしき者もいるはずだ。そういった相手にも見せ付ける必要がある。

 しかし、あまり痛めつけても逆に力に溺れた千晶の二の舞だ。どこまで手加減するかが難しい。



「……そうだな。」

 力の差を見せ付けるのが手っ取り早い。

 丁度槍で突きかかってきた一体の武器をいなし、懐に入る。入ったところで腰を落として反転し、腕を取って背負い投げの要領で他の人形に向けて投げつける。


  ガシャン 

 ぶつけられた人形も含めて地面に転がる。青銅だが、硬度は普通よりも低いようで、まとめてひしゃげてしまっている。

「ば、馬鹿な!? 行け!!」

 戦闘といったものには慣れていないんだろう。作戦も無しにまとめて突っ込ませてくる。が、むしろ丁度いい。

 右手に魔力を集中させ、剣を作り出す。

 ―――ヒートウェーブ―――

 右手を横なぎに振りはらう。それにあわせて生じた剣圧が人形達に向かう。

 ――パキン――

 そんな澄んだ音と共に真っ二つになる。

 手加減しそこなったようで周りにも怪我をしている人間がいる。あとで治すからと心の中で謝罪しながら、ギーシュのもとにゆっくりと向かう。



「……ひっ、……こ、殺さないで……。」

 さっきまでの余裕はどこへやら。地面にへたり込んだままそう言って来る。もちろん、これ以上痛めつける気など毛頭ない。


「……力を向けられる側の気分はどうだ?」

 側にまで行って、上からそう言葉を投げかける。

「…………」

 何か言いたそうだが、言葉はない。この世界の価値観でずっと育ってきた以上、そう簡単に変わるなどとは思ってはいない。

「……力が全てじゃない。 力だけがあっても何もできない。」

 そう言うが、これは誰に対しての言葉だったのか、もしかしたら自分に対してだったのかも知れない。

 最後に「シェスタには謝っておけ」、そう言い残して先ほど怪我をさせた相手のもとに向かう。

「……ひっ」

 先ほどのギーシュと同じようにおびえている。自業自得とはいえ、いい気はしない。

「さっきはすまなかった。」

 そう言って、傷口にディアをかける。かすり傷ではないが、そう深い傷でもなかったのですぐにふさがる。

「え?」




「……今のは、先住魔法?」そんな言葉がそこかしこから聞こえる。心なしか、周りからの恐れの視線が強くなった気がする。例外は二人だけだ。


 青い髪の少女、タバサは
「……先住魔法。 彼なら、何か手がかりが。」
恐れよりも、興味の方が大きかった。彼女にとっては、何よりも母のことが優先する。母親を助ける手がかりになるのならどんな危険があったとしても構わない。

 もう一人は、騒ぎを聞いて見に来ていたキュルケだ。
「やっぱり、彼すごかったのね。なら、ルイズも……。」
もともとルイズには人とは違うところを感じていたが、今回のことでそれを確信していた。



 本来なら止めるはずだった教師達はもちろん見張りについていたのだが、
「あ、貴方が」と誰が止めにいくかで揉めていた。結局、学院長の所に報告をということになったのだが、そのころにはとっくに決闘は終わっていた。




◇◆◇




「……今は一人にして。」

 今はルイズの部屋の前にいる。放って置くわけにはいかないと思って来たのだが、取り付く島もない。こんな時にはどうするべきなんだろうか。考えてはみるが思いつかない。

「……そうか。」

 そう言った所で廊下にいたキュルケに話しかけられた。

「駄目だったの?」

 そう尋ねてくる。やはりルイズのことが心配なのかもしれない。

「こういったことは苦手なんだ。」

「まあ、張り合いもないし、私からも言ってあげる。」

「すまない。……俺は外にでも行ってくる。」

 なんだかんだで付き合いは長いはず。任せるのが一番いいだろう。

「ま、あんまり期待しないでね。」




◇◆◇




「ルイズ。」

「…………」

 ガチャッ

 返事はないだろうと思っていたので、いつものように魔法で鍵を開けて入る。



「……何よ。 わざわざ私を笑いに来たの?」

 ベッドの上で足を抱えているのが見える。普段の気丈さはなく、いつものように喧嘩腰になるということもない。こうも違うと別人のように見える。

「もう、辛気臭いわね。 いつもの元気さはどうしたの?」

 こんな様子では、調子が狂ってしまう。

「……ほっといて。」

 そう言うとまた俯いてしまう。

「……さっきね、貴方の使い魔がギーシュと決闘したの。」

 いつもと勝手が違うので戸惑ってしまったが、すぐに言葉を続ける。



「……あの馬鹿……。」

 そう吐き捨てるように言う。使い魔まで問題を起こすとは思っていなかったんだろう。

「すごかったわよ? 一瞬でギーシュが作ったゴーレムを真っ二つにしちゃうんだもの。」

「え?」

 それには心底驚いたようで、思わず顔を上げてこちらを見てくる。

「使い魔を見ればメイジの実力が分かる。貴方も自信を持っていいかもしれないわよ? ……彼は外にいくって言ってたから、会ってきたら?」


 それだけ言うと出て行く。部屋に残ったのはルイズだけだ。




◇◆◇




「……やりすぎた、か。」

 キュルケとタバサは例外だったようだが、周りにいた生徒のほとんどが怯えていた。支配階級らしい貴族でもそうなら、それに対して怯える平民も

 ――もともとこうなるものなのか

 そんなことが頭に浮かぶ。



「ここにいたの。」

 誰かが近づいてくるのは分かっていたが、ルイズだとは思わなかった。

「少しは気が晴れたのか?」

「……おかげさまでね。」

 少し憮然としながら言う。キュルケに頼んだというのは気付いているのかもしれない。

「そうか、それは良かった。」

 うまく言ってくれたんだろう。勇とも、そんな関係だったのかと思う。


「友人は大切にな。」

「ツェルプストーのこと? 冗談じゃないわよ!」

 そうまくし立てるが、思うところがあるのかいつものような勢いはない。



 まあ、何にせよ元気になってくれてよかった。ルイズのような子は元気であって欲しい。そんな人間は周りも明るくさせる。そんな存在が何より自分にとってはありがたい。つい側に来ていたルイズに手が伸びる。

「……何ご主人様の頭をなでてるのよ。」

「……可愛かったからな。 いやか?」

「……別に、いいけど。」

 そっぽを向くが、照れているようで、頬が赤い。妹がいたらこんな感じなんだろう。つい笑みが浮かぶ。

「あんたが笑ってるところなんて初めて見たわ。」

「そうか?」

「そうよ。」

 ――そうかもしれないな
これもルイズのおかげだろうか。

「……ありがとう。」

「何よ、いきなり?」

 怪訝そうな顔をしているが、ルイズへの感謝は変わらない。

「気にするな。 あんまり細かいことを気にしていると大きくなれないぞ。胸とかな。」

「……何よ、あんたまで馬鹿にするの?」

 少しすねたようだが、さっきまでの暗さはない。


「……この世界に来てよかった。」

 本当に、心からそう思う。









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