093173 ランダム
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あんこくせいうん端

あんこくせいうん端

その二



 さて。あいさつも終わったし、つぎはえーと。
「それじゃあ蓮華さん、さっそくあなたのはしたがねを遣り繰りしていろいろいぢくっちゃいましょうー!」
 なんでそんなに目が輝いてるんでしょうか。オタなのか、メカオタなのか。それぐらいでないと整備士なんて勤まらないんだろうか。
「えーと、アッセンブリだっけ?」
「はいー。説明しましょうかぁ?」
 かまわないわ、と言って頭の中で構想を練り上げる。といっても昨日の内にある程度考えは纏めていたので、あとはそれをシャノンに話して細かいところをつついてもらうぐらいだ。
「ジェネレータを先ずは強化しましょう。頭とレーダーとミサイルをうっぱらって。変わりの頭はクレストの02‐TIEに」
 シャノンはふむふむと頷き、すこし眉を寄せる。
「んー、ちょっと使いにくいかも。テストしてみますぅ?」
「テスト」
 はいテストですー、と言って機体に近づき、足下のパネルを操作してコアを開放させる。どうやら実際に機体に乗るらしい。
「ちょ、ちょっとドキドキするわね」
 言いつつコアから降りてきたワイヤーに足をかけ手元のボタンをスイッチ。音もなく高速で巻き上げられ、あっという間に開放された装甲板に足が掛かる。
「CPUに擬似信号をかませて、擬似的に戦闘をする事が出来るんです。前やったときとおんなじようにやってくださーい」
 機体前面のウォークにのったシャノンがコアに横付けさせ、外部端末を操縦席のパネルにガシガシと突っ込んでいく。それを横目で見ながら恐る恐るコア内の操縦席に入り込んで腰掛ける。狭いが、シャノンが言うには軽量級のそれは人死がでるほどに狭いそうだ。これでも満足すべきらしい。
 ヘルメット代わりのHMDをかけ、手順通りに起動させていく。オールグリーンになっても動力の唸りは聞こえてこない。なるほど、こういうことらしい。
 つかの間、注文どおりの機体をがちょがちょと動かしてみて――テストの標的は、レイヴン試験のあのMTと同じだった――少し時間をかけて終わらせる。うーん。
「どおでしたかぁ?」
「機体が重いわねぇ。もっとびょんびょん動けないかしら?」
 そうだ。ジェネレータは今のところ申し分ないが、如何せん動きがにぶすぎる。あれじゃあ的とは行かないまでもせいぜい木偶だ。そもそもワタシが我慢できない。
「それじゃあ、足を逆間接に変えてみたらどうですかー?」
 いまこの機体は準間接型と呼ばれるもので、支給されるオーソドックスな機体はすべからくこれを始めとした人間型になっている。順間接はみっつに分類でき、重さからそれぞれ軽量、中量、重量と呼ばれている。この足はそのうちの中量だ。対してシャノンの言った逆間接は、その名の通り、そのまんま間接の向きが逆なのだ。このタイプは順間接に比べて装甲が薄いものの、軽くて跳躍力が高く、安定性に富み、何より比較的安い。あれこれとシャノンと言い合い、適当な形にくみ上げて機体データに転送。再度テスト開始。
「……お、これはなかなか……」
 浮いた資金でブースタが一段上のものになり、逆間接の軽さもあって先ほどのが嘘のように身軽になった。なかなか好みだ。
「オーケイ、シャノン、これで行きましょ」
「りょーかいですー。それじゃあ機体名とカラーリングをきめてくださーい」
 機体名とカラーリング。
 これがさっき言った『もう一つの識別法』だ。『レイヴンネームとその機体』――これがレイヴンを見分ける唯一無二の方法となる。
「色は黒系にしてちょうだい。細かいところはまかせるわ。機体名は」
 二本の操縦桿に手をおき、
「ナイトゴーントで」



 次の日。
 アタシはガレージの作業員用入り口のスリットにカードを入れて中に入る。ずらっと並ぶ巨人たち。昨日はガラガラだと思ったけど、あの時はほとんどの機体が依頼で出払っていたらしい。
 依頼。そう、今日ワタシはその依頼を遂行しに来たのだ。いや、行くのが正しいのかしら。
「B‐4、B‐4……あそこね」
 こうも大量のACが居るとだいぶ感覚が違う。自分の機体位置を口に出して確認しながら近づいて行く。
 はたして其処には黒くにび光る人に似た姿の巨人が居た。頭頂付近でなにやら作業していたシャノンが此方に気付き、いやに爽やかな笑顔をこっちに向ける。
「はーい! どうですかぁ蓮華さんみてくださいよこの勇ましくも優雅でりりしい姿! いやーわたしほんとは人間型が好みだったんですがあらためて整備してみると逆間接型もたまりませんねなにがすてきかってまずはあの接地面の大きさほらみてくださいよ下が全部埋まっちゃってますよそして股関節の精緻を極めたような位置感覚これはもう設計者の感覚にただただ尊敬するばかりですねさらになんといってもこの間接部のギミックこれこそがまさにッ逆間接のしんっこっちょうともいえる「分かった! 分かったから! すごいよ、ほんとすごい! だから止まって! お願いだから!」
 まずい、あのタイプは語りだしたら止まらない型、しかも今は何かテンションが異常だ。やっぱりオタか。メカオタなのか。
 シャノンはまだ何か言いたそうに口をもごもごさせてからタラップを降りてきた。間近で見るとおっそろしいほど血走った目の下に濃っゆい隈が出来ている。ごめんそれ以上近づかないで怖いの。シャノンはぎらぎらと輝く目でこっちを見下ろす。ライトが逆光になって別の何かに見える。生物兵器?
「へへへへ……久しぶりだったから、ちょっとはしゃいじゃいましたぁ……」
「……ふうん。いや、ちゃんと整備してくれてるんだったらそれでいいけど」
「まっかせてください! 思わず徹夜して綿密に綿密に綿密に綿密にくみ上げましたから! そしてさらにお得な事にそこかしこにわたしお手製じっくりいままで煮詰めて来た種々様々なギミックが」
「ちょっといま聞き捨てならないことを」
「だいじょうぶです! このわたしを! このわたしをしんじて!」
 駄目だ。いまのコイツに何を言っても通じそうに無い。アタシは溜息を一つついて用件を切り出す。
「もういいや……じゃあ、すぐに出撃できる?」
「おまかせください! いまなら無人でも動いて見せますと言ってますよ!」
「だれがだよ」
 大丈夫らしい。ケタケタと笑い出した背高女を放って置き、奥の個人用ロッカールームに入る。対Gスーツの縛りつく感覚はまだ慣れない。それに所々なんやらの機械類がくっ付いているとは言え、ほとんど身体のラインを浮き彫りにさせるこのスーツは、年頃の少女には恥ずかしすぎるんではないだろうか。アタシは、その、まあ、なんだ、聞くな。
 ヘルメットを抱えてもと来た道を戻る。ちなみにこのスーツとヘルメットは無くても動かす事は出来るらしい。乗り心地がどんなになるかは誰も知らない。経験者はだいたい死人になって帰ってくる。
 着替える間にもう機体は運搬用の専用トレーラーに運び込まれたらしい。素早い仕事だこと。小山のようなトレーラーの貨物室に乗り、寝そべっている機体の操縦席に滑り込む。シャノンを信じない訳ではないが、こういうのはやっぱり一通り自分も見ておかないと駄目だろう。機体状況を走査してコンディションを調べる。現場につく間はこうしてすごす事にした。



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