術後2年半
昨年の8月に、いわゆる「癌放置療法」について、少々本を読んで思ったことなどを備忘録的に書き留めていました。主唱者の、京大出身の中村仁一医師、慶應の近藤誠医師は先年相継いで物故されましたね。昨年の拙ブログ記事をコピーしてみますと、「要点は、癌は手術によって治癒することはあまり望めず、かえって疼痛などを来たしやすい。癌を発見された後の健康な生存年数は、むしろ放置しているほうが長くて、疼痛も来たさない。癌の治療において手術が選択される割合が高いのは、日本>米国>欧州の順だが、それは比較的日本人外科医が器用で、日本人患者が脂肪が少ないためであり、乳癌や子宮頸癌でもあまり放射線療法が選択されないのは、被爆国であることが影響している、といったことです。手術については、ステージ4や転移癌ではそもそも適応外のことも多いでしょう。お二人は、ステージ0や1の早期癌ですら手術しないほうがよいと言っているのが独特な点です。特に、腹腔内臓器の癌は、オペによって腹壁を傷つけることは不可避ですし、特に繊細な腹膜を傷つけ変形させることにより、その部位へと癌細胞が集まって活性化しやすくなることが予後を悪化させるというのです。写真の3冊+αを読みましたが、一般論を導くのは難しいようですね。私自身のことを言えば、開腹手術をしていただき結果的に良かったと思っています。癌細胞が胃壁を突き抜けて、大腸に播種、つまり広範に転移しており、ステージ4Bと確定診断されたわけですが、執刀医の先生によると、播種が重くて大腸が強い狭窄を来しており、大腸をかなり切除しなければ命も長くないという状態だったそうです。単発の転移と播種とでは、癌細胞の分量が大違いなのですね。」上のようなことを書き留めて1年余りたったわけですが、特に思いが変わったということはありません。早期で発見されたら手術を受けて良いのではないかと思いますし、その場合はやはり、執刀医の技倆が大きく、また、患者の皮下脂肪は少ないほうが手術しやすいような気がします。ある意味で手術の諾否以上に悩ましいのは、抗癌剤治療だと思えます。退職後だった私のような暢気な身ではなく、在職中だったとしたら、私の受けた類の化学療法と仕事との両立はまず不可能です。現在標準治療とされている抗癌剤は、悪性細胞のみならず正常細胞をも攻撃してしまうので辛いわけですが、近年、癌遺伝子をほぼ網羅的に調査して(ゲノム調査)、その癌に特異的な蛋白質分子にのみ作用する薬剤(分子標的薬)の開発が盛んになっているようです。期待したいものですね。ある意味で癌という病気は、認知症と並んで老化現象のひとつと言えそうな気がします。そう考えると、何より急務なのは若い人を癌から救命することだと思います。少し語弊があるやもしれませんが、退職してしばらく経った高齢者は、「癌放置療法」の主唱者らがいうように、定期健康診断は必ずしも受けずとも良いのでは…。彼らによれば、かつての日本の「老衰」死者たちのかなりの部分は、胃癌か子宮癌だったということです。疼痛もないし、死後解剖も受けていないので気づかれなかっただけだというのですねえ。私自身を顧みると、私なりに頭脳労働に堪え得ていたのは54歳まででした。ですから職種によっては、かつての55歳定年制というのは理にかなっていたと思います。70歳が定年の大学というのは自殺行為ではないでしょうか。還暦を過ぎたら喫茶店(実在の「純喫茶ぴろきゃっと」)を開店、という夢は叶えられませんでした。珈琲のみならず、私の好きな本を並べて、好きな音楽を流して、同好の士の皆さまに集っていただければ、と思っていたのですが…。