カテゴリ:アート&ブックス
最近、とても気に入っているミステリー作家に横山秀夫がいる。「何をいまさら」と、笑う人もいるかもしれないが、僕が出会うのが遅かっただけなので、お許しいただきたい。
横山秀夫は、ご存じのように、寺尾聰主演で映画化された「半落ち」の原作者。硬質の筆致で描くことから、「男・高村薫」とも評されるが、当たっていないことはない。 出世作の「半落ち」は200万部を超えるベストセラーとなり、発売当時は、直木賞候補にも挙げられ、一時は受賞が有力視されたが、「プロットの一部に難がある」という審査委員がいて(重箱の隅をつつくような問題だったが)、残念ながら受賞は逃してしまった。新聞社を辞め、40歳を過ぎて文壇デビューした横山氏の受賞を、僕は陰で願っていたのだが…。 ![]() 僕は、直木賞に十分値する小説だったと思う。エンターテインメントという点でも申し分なかった。一部の審査委員は、横山氏が骨髄バンクのシステムを十分把握していなかったことを問題にした(あまり詳しく書くとこれから読む人に先入観を与えるので、この程度に留めるけれど…)。 しかし僕は、それは小説の骨格に影響を与えるほどの問題ではなかったと思う。今振り返れば、些細なことに難ぐせを付けた審査委員の作家たちを、ただ情けないと思うだけ。落選しても、批判的なことをあまり口にしなかった横山氏の方が、かえって大人に見えた。 横山秀夫は、「警察小説」というジャンルを確立した作家と言われる。新聞記者時代、警察(事件)担当だった経験を生かし、刑事(警察官)を主人公にしたり、警察組織の世界を舞台にした、心理ミステリーが多いからだ。僕はこれまで、「半落ち」の他にも、「陰の季節」「動機」などを読んだけれど、裏切られたことは、まだない(最近はちょっと乱作気味という声もあるが…)。 彼の描く登場人物は、主人公も含めてスーパーマンはいない。組織人であるが、普通の人間であることがほとんど。人間の持つ弱みとか悲哀とかが見事に描かれる。必ずしもハッピーエンドでは終わらないところは、高村薫・作品に似ている。現実の人生は、そんな甘くはないんだ、と言いたいかのように。それが横山作品の最大の魅力かも…。 映画化された「半落ち」は、原作とは少しストーリーを変えていたが、それでもとても、よく出来た作品だった(少なくとも「レディー・ジョーカー」よりは、分かりやすい映画だった)。何よりも寺尾聰の演技が素晴らしかった。ほとんど黙秘を貫く刑事の役なので、セリフは少ないが、目と表情だけであれだけの演じ切るのは立派だ。さすが宇野重吉のDNAは受け継がれている! 横山秀夫はまだ48歳。これからも、僕をわくわくさせてくれる小説を出してくれるに違いない。ミステリーがお好きで、横山作品未体験の方はぜひ、この上質の警察小説を手に取ってほしい。 ※本の画像は、Amazon HPから引用・転載しました。感謝いたします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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