素人が遊びでピアノを弾いていると、いろんな出会いがあり、得難い体験をする。「一期一会」とよく言うけれど、本当にそうなってしまった、忘れ得ぬ思い出…。
10年ほど前の11月の話。僕は、友人が自宅マンションで開いたパーティーに招かれた。参加者は30人余り。友人が当時一緒に暮らしていたパートナーの女性は、プロのクラシックのピアニストだった関係で、参加者もクラシック畑の人が結構多かった。
歌の方(二期会の方なんかもいた!)やバイオリンや管楽器の奏者の方とか、いろんな人が集ったが、人柄も素晴らしい人たちばかりだった。友人のマンションには当然、グランド・ピアノがあった。プロだから、スタンウェイかなと思ったけれど、ベーゼンドルファーというメーカー(これはこれでプロの間では、結構有名なメーカーらしい)のピアノだった。
僕は、パーティー当日早めに行って、お客さんがそこそこ集まるまで、好き勝手にそのピアノで練習させてもらい、素晴らしい音色を十分に堪能させてもらった。
そして、パーティー本番。当然のように、次々と独奏や、あるいは二重奏、三重奏が入れ替わり立ち替わりが始まった。友人も、パートナーに感化されて、この日のために練習してきたオペラのアリアなんかを歌って、客を楽しませた。
僕も、プロの歌い手の方の伴奏をする幸運に少し恵まれた。クラシックの曲はほとんど弾けない僕のために、彼らはポップス(たとえばビートルズやビリー・ジョエルなど)やシャンソンの曲を、歌ってくれた。Iさんという女性バイオリニストは、「愛の讃歌」を弾いて、一緒にセッションしてくれた。
Iさんは、ほかにもバイオリンの名曲として有名なクライスラーの「愛の悲しみ」という曲を、別の方の伴奏で聴かせてくれた。その哀愁を帯びた、美しいメロディーに魅せられた僕は、パーティーの後、次の機会に一緒に演奏(伴奏)できることを願って、楽譜を買ってきて練習をし始めた。
ところが、パーティーからわずか2カ月後の翌年1月、そのIさんが、自宅近くの坂道で自転車に乗っていて転倒し、頭を打って亡くなったという、まったく信じられない知らせが届いた。新婚間もない、まだ27歳の若さだった。若手の有望バイオリニストだったIさん=稲岡和(いなおか・ゆたか)さん死去の記事は、新聞にも載った。
彼女があの日弾いたエルガーの「愛の挨拶」など素晴らしい演奏の数々は、今も心に残り、忘れることはない。上品で、気さくで、一緒にいると、その場の雰囲気がなごむような方だった。クラシック畑の人には、一見とっつきにくい印象があるけど、その日僕が出会った人はみんな素敵な方ばかりだった。「(人に会う前から)先入観を持ってはいけない」とよく言うけれど、僕はその通りだと思う。
あの日、一緒にセッションした写真(上)を見るたびに、いまだに「夢まぼろし」を見たかのような、信じられない気持ちになる。そして、人生の無常を感じてしまう。素晴らしい才能を持った彼女を、こんなにも早く天上に召してしまった神を僕は恨む。 |
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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