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Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2006/10/19
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カテゴリ:BAR
 神戸のオフィスに先日仕事で立ち寄った後、同僚らと中華街(南京町)で軽めの夕食。その後、1軒BARをはしごした後、僕は同僚らと別れて、ひとり南京町からさらに南の「海岸通」方面を目指した。Charlie Brownに導く路地

 「あのBARは今どうなっているだろうか?」とふと、思い出したから…。「店じまいした」という噂あるが、それが本当かを確かめたかったこともある(写真左=こんな暗い路地の奥に素敵なBARがあるなんて…)。

 神戸に行っても、この港に近いエリアまで来ることは今では少ない。オフィスや小さなブティックやカフェばかりで、夜は人通りの少ない、静かなエリアになる。

 だが、昔、20数年前、神戸で仕事していた頃は、夜は結構華やかだった。外国人船員相手の酒場、いわゆる「外人バー」が数多く集まる歓楽街としても知られていた。

 海外からコンテナ貨物船が着くたびに、陸(おか)に上がった船員たちが集い、店内からは賑やかな声が、さまざまな国の言葉で、表通りまで漏れ聞こえてきた。国籍はデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ギリシァ、イギリス、タイ、フィリピンが多かった。Entrance Of Charlie Brown

 表のドアに「日本人お断り」と掲げた店が多かった。日本人は船会社の関係者くらいしか出入りできなかった(店が、外国人船員と日本人客とのトラブルをおそれたためらしい。)。そんな「外人バー」の名残りを伝える酒場は、今では数えるほど。朝着いたコンテナ船が夕刻にはもう出港してしまう現在、船員たちは陸に上がって酒場に癒しを乞うこともできない(さびしい時代になった…)。

 いま、元町界隈の酒場には外国人船員の姿はほとんどなく、BARで目立つのは日本の若者ばかり。かつての「外人バー」はさびれ廃れ、今残る店はほとんどが「日本人もウエルカム」だ(写真右=怪しげな灯りがいいなぁ、このエントランス)。

 僕がこの夜思い立ち、向かったのは、そんな昔の「外人バー」の1軒、「チャーリー・ブラウン(Charlie BRown)」という店。通い始めたのは20数年前。マスターは、「キディ」という愛称のデンマーク人(男性)だった(本名は「キディ・プリスコフ(Kidde Priskov)」と言った)。Charlie Brown

 彼自身、デンマークの船会社の船員だったが、縁合って訪れた神戸を気に入り、そのまま居ついてしまったらしい(そういう外国人・元船乗りは神戸に実に多かった)(写真左=とりあえず通りに面した青いネオンが目印)。

 中華街から南へ歩いて数分。一見さんは絶対に見逃しそうなビルとビルの間の実に細い、暗い路地の奥に、その酒場はあった。紹介者と一緒でなければ、勇気が出ず、とても入れないようなロケーションにある。

 まさに「究極の隠れ家BAR」と出合い、僕は一目惚れした。キディは日本語は少しは話せるのに、無駄口も愛想もほとんどなしという静かな男だった。僕には、そんなキディの所作がとても格好よく映った。神戸を離れた後も、年に数回は、キディの顔を見に訪れた。決して珍しい酒があるわけでもない。ただその怪しげな空間が何よりも好きだった。だから、一緒に連れて来る人は、大切な人に限った。開かれたドアが招くよ

 そんな「チャーリー・ブラウン」だったが、突然の病(後に知ったが、白血病だったという)がキディを襲う。闘病中も時々店に出ていたが、少しつらそうな姿で接客していた。そして1994年、別れを言う間もなく天国へ旅立ってしまった。まだ50歳の若さだった。キディの早すぎる死は、この酒場を愛する人間に取って、むごすぎる現実だった。彼が入院中、そして亡くなった後もしばらくの間、彼の妹と言う女性がカウンターを守った。

 さらにその後も、関係がよく分からない外国人男性が店を仕切っていたが、キディのいない「チャーリー…」には、しばらくは近づく気が起きなかった(写真右=ドアを入ってすぐ右にはキディが愛したジュークボックスが…今も)。

 しかし、僕の若き日の思い出が染みついた「チャーリー…」。この夜に躊躇はなかった。随分と久しぶりなので、店への道順も若干忘れ気味だったが、何とかたどり着けた。Charlie Brownの店内

 店には常連らしい年配の女性客が1人。カウンター内には、初めて見る高齢の女性が1人いた。頼んだウイスキー味わいながら、僕が昔、この「チャーリー…」によく通ったことやキディという名のマスターがいた思い出などを話した。

 すると、その女性が僕に近づいてきて、「私、キディの妻だった人間です。律子と言います」と話した。生前、キディは家族などプライベートなことは一切口にしなかった。長く日本に定住していたので、考えてみれば何ら不思議ではないのだが、彼に日本人の奥さんがいたことは少々驚きだった。

 聞けば、キディさんよりは9つ歳上で現在71歳という。シャイだったキディの思い出や近所の外人バーの「その後」などを語り合いながら、僕は律子さんと素敵なひとときを過ごした(写真左=上等な高い酒は置いてないけれど、実にあったかい雰囲気)。

 「キディ、素敵な店を残してくれて有難う。貴方の残した財産は貴方の愛した人にしっかり守られ、今も輝いているよ」。帰り道、僕は天上のキディにそうつぶやいた。

【Bar Charlie Brown】神戸市中央区海岸通1丁目2-15 電話なし 午後7時くらい~11時半 不定休





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Last updated  2021/06/12 10:56:45 AM
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Re:「チャーリー・ブラウン」は死なず/10月19日(木)(10/19)   カピタン さん
イカスねキディさん!

僕もこういうお店大好きですよ。日本人がやってても外国人がやってても、心の有る店は誰かが受け継いでいくのでしょうかねえ。

でも今うろついている船員は地方港のロシア人位なのかなあ。 (2006/10/19 02:00:55 AM)

Re:「チャーリー・ブラウン」は死なず/10月19日(木)(10/19)   B・G(^ ^) さん
うらんかんろさんの、長年のバー巡りはとても内容が濃いです。
素敵なお話をありがとうございます。 (2006/10/19 06:16:58 AM)

極めてハードボイルドな・・・   あとむこばると さん
こんにちは。
今回のブログとてもハードボイルドですね。
軒上 伯という作家の「また ふたたびの 冬」にでてくる外人バーのようで、(この作品、神戸南京街に住む私立探偵が海岸通りを中心に活躍するストーリーなのです。)まるで短編を読ませてもらったかのようでした。 (2006/10/19 11:33:02 AM)

カピタンさんへ   うらんかんろ さん
 カピタンさん、こんばんはー。

>イカスねキディさん! 僕もこういうお店大好きですよ。日本人がやってても外国人がやってても、心の有る店は誰かが受け継いでいくのでしょうかねえ。でも今うろついている船員は地方港のロシア人位なのかなあ。

 こういう素敵な酒場は誰かが受け継いでいってほしいと、僕もそう思います。いま、神戸をうろついているのはロシア人か中国、韓国、台湾が多いですね。あの時代が、ほんとに懐かしいです。 (2006/10/20 12:50:56 AM)

B・G(^^)さんへ   うらんかんろ さん
 B・G(^ ^)さん、こんばんはー。

>うらんかんろさんの、長年のバー巡りはとても内容が濃いです。素敵なお話をありがとうございます。

 お誉めの言葉、有難うございます。今回の話は、店を再訪した後、「これは絶対に、ブログでみんなに紹介したい」と思って、書くのにも少し力が入りました。

 キディさんの奥さんの律子さんとは、近い内にもう一度ゆっくり店を訪れて、積もる話をたっぷりしてみたいと思っています。 (2006/10/20 12:57:24 AM)

あとむこばるとさんへ   うらんかんろ さん
 あとむこばるとさん、こんばんはー。

>今回のブログとてもハードボイルドですね。軒上伯という作家の「また ふたたびの 冬」にでてくる外人バーのようで、(この作品、神戸南京街に住む私立探偵が海岸通りを中心に活躍するストーリーなのです。)まるで短編を読ませてもらったかのようでした。

 結果的に短編小説みたいになってしまいましたかねぇ…(笑)。

 神戸・海岸通りで昔からやっているBARも、今では数えるほどですが、残っている店はどれも映画の舞台になりそうな個性派ばかりです。

 都会のど真ん中のおしゃれなBARばかりじゃなく、都会でも少しはずれの猥雑なエリアにある、素敵な酒場のことを、再発見してみたいと思っているこの頃です。 (2006/10/20 01:03:08 AM)

Re:「チャーリー・ブラウン」は死なず/10月19日(木)(10/19)   ayakh さん
素敵なお話をありがとうございます。

港に近いあたりには、こういう素敵な店がひっそりたたずんでいますね。

私の父親はこういう船員が集まるBARがとても好きだったらしく、そういったところで覚えた外国のお酒や葉巻を良く家でたしなんでいました。

女ひとりで入るのは憚られて、私は行ってみたいなぁと憧れるばかりですが、ずっと残って欲しいお店ですね。 (2006/10/20 10:04:29 PM)

ayakhさんへ   うらんかんろ さん
 ayakhさん、こんにちはー。

>素敵なお話をありがとうございます。港に近いあたりには、こういう素敵な店がひっそりたたずんでいますね。私の父親はこういう船員が集まるBARがとても好きだったらしく、そういったところで覚えた外国のお酒や葉巻をよく家でたしなんでいました。女ひとりで入るのは憚られて、私は行ってみたいなぁと憧れるばかりですが、ずっと残って欲しいお店ですね。

 お父さんは、いいBARの趣味を持っておられたのですね。異国情緒あふれる神戸ですが、北野の異人館とはまた違った異国情緒が、この海岸通辺りにはありました。今はそんな雰囲気はごくわずかですが…。

 「チャーリー・ブラウン」は入るまでは勇気が要るかもしれませんが、店自体は、女性1人でも全然大丈夫ですよ。だって、店主が女性ですから(僕が訪れた時も、女性の1人客がいましたし…)。機会があれば、ぜひ一度覗いてみてください。 (2006/10/21 09:13:54 AM)

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汪(ワン)@ Re:Bar UK写真日記(74)/3月16日(金)(03/16) お久しぶりです。 お身体は引き続き大切に…

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