◆(1)禁酒法(Prohibition in the United States)の成立まで
清教徒(ピューリタン)の影響が強かった米国では、独立(1776年)以前の英植民地時代から「飲酒(アルコール)は人間を堕落させて労働意欲を失わせ、家庭を破壊するもの」という強い批判がありました。
禁酒法が施行される1920年以前、全米すべてで飲酒は合法だったと思われがちですが、実は17世紀半ば、すでにマサチューセッツ州では「種類にかかわらず、度数の高い酒(※アルコール度数が何度かは不明)は違法」(1658年州裁判所判決)とされていました(WK)。
そして1851年には全米の州単位では初めて、メイン州において禁酒法が可決され、1881年にはカンザス州が州憲法によりアルコール飲料を非合法とした最初の州となりました(WK)(写真左=禁酒法の制定を訴える1910年代のポスター)。
1910年までに、すでに18州(当時の米国は46州)で、(内容は千差万別ですが)何らかの形で禁酒法が施行されていたことは意外と知られていません。
1910年代に入ると、ピューリタリズム(清教徒主義)による禁酒・家庭回帰運動が高まってきました。とくに婦人団体による禁酒法制定運動は大きなうねりとなっていました。
背景には、まもなく始まろうとしている第一次世界大戦(1914~18)がありました。戦時の国内の穀物不足に備えるとともに、労働意欲(産業力)の低下を予防しようと、やがて、全米での禁酒法の制定・施行を求める声が大きくなってきました。
もう一つ忘れてはならないのは、人種的問題です。当時、米国で一番飲まれていた酒はビールで、酒造業界を牛耳っていたのはドイツ系移民でした。そして、第一次大戦で米国、英国などの「連合国」が戦っている相手である「同盟国」は、ドイツ、オーストリア・ハンガリー帝国が中心でした。
敵国「ドイツ憎し」が「ビール憎し」になり、最終的には、非ドイツ系白人によるドイツ系移民への反感が、ビール(酒造)業界への反発に発展してゆきます。
禁酒法制定の裏側に人種問題があったことは、現在では多くの研究者が認めるところです(A、B、C)。(写真右=取締官に摘発・押収された密造酒。場所や年月日は不明)。
1917年12月18日、まず、米議会上院が飲料用アルコールの製造・販売・輸送・輸出入を禁止する合衆国憲法修正第18条を提出。1919年1月16日までに4分の3の州(当時の48州中36州)での批准が完了し、修正条項が成立しました。
その後、憲法の修正条項を具体化した「ボルステッド法」が成立したことにより、翌年1920年1月17日午前零時をもって禁酒法は発効し、米国内でのアルコール製造、販売、輸送は、ついに全面的に禁止となりました。
違反者には1000ドル以下の罰金、6カ月以下の禁固刑が科せられると規定されました(1929年にはそれぞれ1万ドル以下の罰金、5年以下の禁固刑へ引き上げ)(A)。こうして米国史上、「高貴な実験(The Noble Experiment)」と称される「禁酒法時代(The Prohibition Era)」がスタートしたのです。
【禁酒法時代の米国<2>に続く】
【主な参考資料・文献】
「WK」→「Wikipedia(ウィキペディア)」(Internet上の百科事典):アメリカ合衆国における禁酒法
「A」 →「禁酒法――『酒のない社会』の実験」:岡本勝著(講談社新書、1996年刊)
「B」 →「禁酒法のアメリカ――アル・カポネを英雄にしたアメリカン・ドリーム」:小田基著(PHP新書 1984年刊)
「C」 →「酒場の時代―1920年代のアメリカ風俗」:常盤新平著(サントリー博物館文庫 1981年刊)
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2021/06/15 07:59:55 PM
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