◆(5)禁酒法施行が酒造業や周辺国へもたらした影響
禁酒法施行前に営業していた全米のビール醸造所(約720カ所)は、法施行後、半分以下(約330カ所)に減ってしまい(A、B、WK)、なかには食品会社に転向するところも出てきました。ただし大部分の醸造所は、アルコール分0.5%未満の「ニア・ビール(Near Beer)」という商品を売り出しました。
「ニア・ビール」と言っても、普通のビール製造工程で出来るビールのアルコール分を抜いてできる製品です。そこで、マフィアの注文に従って「ニア・ビール」というラベルを張った普通のアルコール度数のビールを製造し、闇で出荷するところも少なくなかったと言われています(A)。
バーボン・ウイスキーの蒸留所は、「医薬用」として処方されるウイスキーを細々と製造し続けましたが、それだけでは経営を維持するのは難しいため、果実栽培や炭坑事業などにも手を広げるなどしたところもありました。
なお、禁酒法時代、バーボン・ウイスキーが国外へ輸出されていたかどうかを示す史料にはまだ出合っていませんが、1920年代の欧州や日本のカクテルブックにも、材料としてバーボンが登場することから、一定量は何らかの形で国外へ輸出されていたと思われます(写真左=禁酒法時代のバーボン・ウイスキー@Rogin's Tavern )。
一方、禁酒法は米国内で発展しつつあったワイン醸造業に大きな打撃を与えました。醸造業者の多くが他国へ移住し、その後の国内ワイン産業の成長は大幅に遅れました(WK)。数少なくなったワイン業者は、自然発酵してアルコールに変化する可能性がある「固形の濃縮ぶどうジュース」の販売や、教会の宗教儀式のための合法的なワインの製造で、この冬の時代を生き延びました。
「固形濃縮ぶどうジュース」の商品には、ご親切にも、「ワインになる前にお飲みください。さもないと違法になります」「イースト菌と砂糖を入れるとアルコール発酵が進みます。お気をつけください」等の注意書が添付されていました。このジュースを購入した客の多くがそんな注意書を守るはずがなかったのは当然でしたが…(A)。一般庶民は、発酵した後の“アルコール・ジュース”を家で密かに楽しんだのです。
カナダやメキシコ、カリブ海諸国など周辺国ではアルコール飲料は違法ではなかったため、訪れる米国人の飲酒で、現地の飲食店や蒸留所・醸造所は栄えました(WK)。(写真右=密造酒の輸送中、取り締まりの警察官に摘発された車。1922年 ( C )Wikipedia 英語版 )。
とくにウイスキーを製造していて、米国と地続きだったカナダ経済はこの時代、米国への密輸出の激増で繁栄を極め、カナダ政府も輸出の際に徴収する酒税(物品税)収入の増加(1ガロン当たり9ドル)で潤ったといいます(A)。
1927年にカナダから米国に密輸されたアルコールの総量は、少なくとも約100万英ガロン=約450万リットルに相当=あったとも言われています(B)。ちなみに、消毒薬のような強烈なスモーキーな香りで有名な英アイラ島のシングルモルト・ウイスキー(ラフロイグなど)は、万一取り締まりで見つかっても、「これは消毒薬にもなり、医薬用である」と称してすり抜けたとも伝えられています。
また、17世紀(1664年)にオランダで創業したボルス社のリキュールは、米禁酒法時代に販売量を大幅に増やし、知名度が飛躍的にアップしました。その背景には、米国内に闇で流通する粗悪な酒に混ぜるためにリキュールが欠かせなかったことがあります。ボルスのリキュールは、隣国カナダから大量に密輸されたそうです。
【禁酒法時代の米国<6>に続く】
【主な参考資料・文献】
「WK」→「Wikipedia(ウィキペディア)」(Internet上の百科事典):アメリカ合衆国における禁酒法
「A」 →「禁酒法――『酒のない社会』の実験」:岡本勝著(講談社新書、1996年刊)
「B」 →「禁酒法のアメリカ――アル・カポネを英雄にしたアメリカン・ドリーム」:小田基著(PHP新書 1984年刊)
「C」 →「酒場の時代―1920年代のアメリカ風俗」:常盤新平著(サントリー博物館文庫 1981年刊)
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Last updated
2021/06/15 08:05:19 PM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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