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戦争の愚かさを描く超大作

 
神器(上) 神器(下)

■内 容

 太平洋戦争末期。
 軽巡洋艦「橿原」が謎の使命を帯びて日本の東へと進路を取る。
 艦内倉庫では殺人事件が起き、自殺者も相次ぐ。
 大量発生した鼠、もう一人の自分、謎の陸軍士官。
 死んだはずの戦友が現れたり・・・。
 天皇が乗艦しているという噂、そして「神器」まで・・・。

 奇想と滑稽が入り交じり、時空をも超える超・戦争文学

■感想など

【謎めいて・・・】

 軽巡洋艦「橿原」での乗組員の日々は、著者が見てきたのかと思うほど生々しくて、自分が悲惨な時代に生まれずによかったと痛感。
 で、作中語られる「天皇」や「神器」「タカマガハラ」は謎めいておりキワモノめいたSF色に心が躍ります。
 そして、軽巡「橿原」にあたえられた究極の極秘任務に最後まで引っ張ら、作者に絡み取られたような読後感・・・。
 『四次元純文学』って感じの作品です。

【滑稽に・・・】

 福金豊。これはちょっと珍しいぐらいの福々しい名前である。が、その名前を持つ当の本人は、貧乏神を図柄にしたらこうなるんじゃないかと思うような風体で、また風体にとどまらず、子供の頃から数々の深甚なる不幸に見舞われてきたとは本人の弁である。具体的にはどんな不幸かは一々聞かなかったけれど、一つだけ聞いたのは、裏の畑の肥溜に三度落ちたことである。この肥溜は人が落ちやすいと評判の肥溜で、近所の子供は誰もが一度は落ちるのだけど、三度落ちたのは自分以外いないというのである。(上巻)
 この調子で、語り口はユーモラス。
 そこに幽霊らしき人物やら、未来から紛れ込んだネズミ人間やらが現れる奇想天外な物語。

【戦争継続】

 日本の艦隊はもうほぼ壊滅しつつあるのだし、敵はもう勝ったような気分でいるはずで、人情からして油断するのが普通である。いや、およそ人であるならば、油断しないではいられないはずで、ましてやお祭り大好き人種の米国人のことだ。絶対に油断している。油断して浮かれている、一杯やりながらダンスでもしている・・・という具合に発想していくのが希望的観測というやつで、一人ならまだしも、複数の人間が抱いたりすると、希望的観測と希望的観測がお互いに共鳴共振して途轍もないことになったりするから危ない。(上巻)
 軽巡「橿原」が単独で米軍の支配海域へと向かうにあたっての乗組員の気持ち---希望的観測や楽観を滑稽に描いているのだけど、彼らの心の中にある諦めのような渇いた感情が痛い。
 敗戦の匂いをヒシヒシと感じながら、それでも戦争を継続したかつての日本への痛烈な皮肉ですね。

【特攻隊員の幽霊】

 俺が特攻機で飛んで、敵艦に突っ込んでいったとき、どんな気持ちだったか想像できるか(下巻)
 これは何故か現れた特攻隊員の言葉。
 既に死んだはずの戦友が、まだ死んでいない者への妬みや恨みを語っている。
 特攻を掛けた本人が語るのだから恐ろしく説得力があるのです。

【未来=現代】

 あそこはとても色彩が豊かで、とても賑やかで、でも、ひどく淋しい場所に思えました。何もかもがすごい速度で、すいすい過ぎ去っていくんです。雪解けの渓流の、冷たい水のように過ぎ去っていくんです。あらゆるものが眼にも留まらぬ早さで過ぎていくんです。声をかけたり手を伸ばしたりする暇もなく。(下巻)
 これは謎の物質の影響で未来を見てきた者の言葉。
 現代社会を見事に表現していて、「ひどく淋しい」「すごい速度」など悲しいほど的確。
 我々の現代=登場人物にとっての未来もまた、戦火に散っていった人々が思い抱いていた未来ではないことを悲しんでいます。


 こうして上下2巻の超大作で、戦争の愚かさや戦場の過酷さ、国の進路を決定した人々の滑稽なまでの過ちまでを、SF・奇想の姿を借りて語り尽くした著者の力業に降参しました。


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Last updated  2009.04.06 17:19:11



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