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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 118

とおいみち 2 ぴかろん

ドライブインの食堂に入り、僕は汁物を買い、先生は窓際の席についた

そうそう
そうやって彼女は窓の外を見てたんだ

僕が席に戻るとにっこり微笑む先生

違うよ、もっと心配そうな顔しなきゃ・・

「はい。熱いから気をつけて」
「ありがとう」
「・・・」
「ん?」
「お弁当、出してよ」
「ん・・ああ・・」

ごそごそとテソンの作った弁当をあける先生

「うわ。美味しそうなキムパプ・・」

中を見て声をあげる先生
違うじゃない!それは僕のセリフだし、そのキムパプ、君が作ったものじゃないか!

「得意だった」
「・・え?」
「彼女が得意なの!」

少し苛立って答えた
全く!

キムパプを一つ箸で取り上げ、僕はいつものお祈りをする
先生は僕を見て微笑む

パクッ

「美味しい?」
「・・そうじゃなくて、不思議そうな顔だろ?」
「・・え・・」
「これは孤児院で習った歌なんだ。ご飯の前に歌うんだ」
「・・ウシク・・。知ってるよ。毎日聞いてる・・」
「彼女は知らなかったの!」
「・・あ・・ああ・・」





ウシクの様子はどんどん変になる
目の前にいる僕を僕だとわかってるのかな・・

どうも僕に彼女の役をしてもらいたいらしい・・
だが僕はウシクと彼女との道行きのやりとりなど皆目わからない・・
だから・・どうすればいいのかわからない・・

違う事をすると、不服そうだ・・

仕方ないじゃない・・

不安が募っているからなのかな・・
僕はウシクの瞳の中の、柔らかくて優しい視線と、刺すような冷たい視線とを交互に浴びながら、戸惑っていた


テソンのキムパプは最高に美味かった
食べ終わって、ウシクと僕はタバコを取り出し火をつけた
一服吸って煙を吐き出すと、その煙の向こうに射るような目つきのウシクがいた

「ん?何?」
「たばこなんか吸うな!」
「・・」
「彼女はたばこなんか吸わない!」

目の色が違う・・
不安げに揺れながら、僕を批難している

お義父さんに会うために、そして真実を告げるために、彼は自分と戦っているんだ・・
耐え切れない重圧が、彼を我儘にしている?
僕にしか当り散らせない彼を・・僕は受け止めなくちゃいけない・・

でも・・
どうすれば彼は落ち着くのか・・
僕が彼女になりきればいい?

とにかく・・ウシクの前ではひたすら大人しくしていよう・・
お義父さんに会うまでは大人しく・・ウシクの望むように振舞おう・・難しいけれど・・


それでも僕は、息抜きしたくて、トイレに行くと言って席を立った

トイレの個室に入り、便座の蓋を下げ、その上に腰掛けて僕はやっと一服たばこを吸った

ふうっ・・

あとどれぐらい時間がかかるんだろう・・
あの優しいウシクが、こんなに刺々しくなってしまうなんて・・

本当に僕と一緒に行っていいのだろうか・・
本当の事を告げさせて・・いいのだろうか・・
お義父さんは…どうなってしまうんだろう・・
マイナスの考えが次々と溢れてくる
そんな事考えてても仕方ない


僕は火を消して、ウシクのいる席に戻った




席につくとウシクが僕を睨んだ

「たばこ・・吸ったの?!」
「あ・・ごめん・・」
「吸っちゃったものは仕方ないね」

冷たく言い放った後、すぐににこやかな顔になってウシクは僕に言った

「じゃ、行こうか」

立ち上がって車に向かう僕達

「この辺りで君を裏切った男の話、聞いたんだったよね?」
「・・う・・ん・・」

小さな声で答えると、ウシクは満足そうに微笑んだ
車に乗り込む


「君は僕に『ギヒョンになりすましてくれ』って頼んだ」
「あ・・うん・・」
「十万ウォン」
「え?」
「お金、渡してくれたじゃない」
「・・あ・・うん・・」

とりあえずお金を出してみた

ウシクはにこっと笑って

「預かっといて」

と言った
どこまでが思い出で、どこまでが今のウシクなんだろう・・
僕は混乱しそうになる頭を必死で整理していた


暫く車を走らせ、田舎の洋品店の前に止まった

「ここでお義父さんに会うための服を見立ててくれたでしょ?」
「・・そうだった・・ね・・」
「今はもう夏だからね、ジャケット買わなくていいよね?」
「・・そうだね・・」

ウシクは車を発進させる

「あと・・どれぐらいで着くの?」

ついそんな事を聞いてしまった
機嫌よく運転していたウシクの顔が真顔になったのを、ルームミラーの中で見た

「自分の家なのに解んないの?!」

強い口調で言葉を投げかけるウシク

「ごめん・・。く・・車で帰ることがあまりないから・・距離感がわからなくて・・」

咄嗟に答えた
ウシクは強張らせていた表情を崩して答えた

「そうだったね・・あと30分ぐらいかな」
「そう・・ありがとう」

30分ならなんとか乗り切れるだろうな・・
少しほっとして窓の外を眺めた




海が近づいてきた
こんなのどかなところに、ウシクのお義父さんは、いるんだ・・
どんな人なんだろう・・
彼女よりも先にウシクが惚れ込んだお義父さん・・
きっと優しくて温かな人なんだろうな・・

ウシクは急にブレーキを踏み、車を路肩に止めた

どうしたんだろう・・

「なに?」
「もうすぐ着くよ・・もう・・そこまで来てる・・」
「・・うん・・」
「はぁ・・あああ・・どうしよう・・どうしよう、どうしよう、どうしよう!ねぇ先生どうしたらいいの?!」


突然パニック状態に陥ったウシク
僕はどうしてやればいいのかわからない
僕は誰になって彼に声をかければいいのだろう・・

「いやだ!帰ろう先生!帰ろう!怖い!」

『先生』と言ったね?じゃあ『先生』として慰めようね・・

「大丈夫だウシク。僕が一緒にいるから!何が起こっても僕がいるから・・」
「はあはあはあ・・はあはあはあ・・」
「ウシク?」
「お義父さんが本当の事を知ったら・・」
「きっとうまくいく、きっと解って貰える」
「僕達のことも?!男同士でこんな風に一緒にいるってことも?!」
「・・それは・・言わなくていいだろ?」
「・・・せんせ・・」
「ん?」
「もし・・もし僕がお義父さんを選んだとしても・・僕を待っててくれるって言ったよね?!」

何を言い出すんだウシク・・

「言ったよ・・」
「本当に?!本当に僕がお義父さんを選んでもかまわない?」

ウシク・・。そうなのか?
君、お義父さんを選ぼうと思ってるのか?

「・・君の・・心に従えばいい・・ 」

ウシクの言葉が信じられなくて・・でも今は混乱しているのかもしれないと思って・・僕は言葉を押し出した

「・・どうすればいいのか解んないんだ・・先生・・」
「大丈夫だよ。なるようにしか・・ならないんだから・・」

ほんとうに・・なるようにしかなんないよ、ウシク・・

「僕は先生が好きだよ!お義父さんも好きだ!・・どっちかを選ぶなんて・・ 」
「僕の事は心配しなくていい。君の思うとおりやればいいんだウシク」
「・・・」
「な?ウシク」
「・・・ギヒョンだよ・・」


冷たい口調が返ってきた
そして車が動いた


僕はまた混乱した・・
何が・・待っているというのだろう・・





ホンピョの独り言 びょんきちさん

俺ってガキだよな。凝らえ性がないんだよな。
ドンヒの元彼女とかいうのが、突然店に現れたもんだからよ。
なんか、ムカッ腹立っちゃってよ。ひでえこと言っちまったんだ。
あの女怒ってすんごい勢いで走った帰ったけど、陸上選手なのかな?

ドンヒ、怒ってるかもな。俺、店にも迷惑かけちゃったしよ。
あの女、金払ってないみたいだし、俺の給料から天引きかなあ。
チーフに呼ばれて叱られちゃったよ。もっと真剣に仕事しろって。

でも、チーフ、すっごくいいこと言うんだ。
「ホンピョ、僕達の仕事は何を売ってると思う?」
「えぇっ、酒かなあ。それと芸とか技とか」
「違うよ。夢を売ってるんだ。わかるか?」
「夢ってあの寝る時に見るやつ?」

チーフは深いため息をついて話を続けた。
「お客様はみんな重い荷物をしょって生活してる」
「えっ、行商人ってこと?」
「そうじゃないっ!」
「よくわかんねんや」

チ-フは、まるで小学生に話すみたいにゆっくりと言葉を選んで話しだした。
「もしかしたら、病気の家族がいるかもしれないだろ。夫が浮気をしているかもしれない。姑とうまくいってないかも、息子が非行に走ってるかも、会社が潰れそうになってるかも、不治の病に冒されてるかも、借金取りに追われてるかも、大失恋したばかりかも、近所の奥さん連中に意地悪されてるかもしれないんだ」
「ふんふん」
「そんな現実の生活でしょっている重い荷物を降ろし、ほんの束の間の夢を見るためにBHCに行く」
「うんうん」

「僕の親指ハンカチも、イヌ先生の黒板振り返りも、ジュンホのカールおじさんも、ラブのストリップも、ジホのゴム技だって、みんなお客様を癒すための手段にしか過ぎない。お客様が明日からまた元気に生活できるように『夢』を与える。これが僕達の仕事なんだ」

「チーフ、よくわかりました」
「僕は、君に期待してるんだよ」
「えっ、俺なんかに?」
「君はとても良い素質を持っている。頑張りなさい」
「はい、頑張ります」

なんだか、俺うれしくなっちゃった。
あのチーフに認められてたなんて。
素質があるだなんて。えへへ。

ホントに俺ってダメ人間だったからよ。
孤児だからとか、親の愛情を知らないからとか、ちゃんと躾を受けてないからとか、理由にならないよな。

イナだって、ジュンホだって、ウシクだって、孤児だったけどちゃんとした大人の男になってる。

よ~~し、俺も頑張るぞ!



とおいみち 3 ぴかろん

ウシクの後をのろのろとついていく
お義父さんの家の前まで来た
ウシクは・・

いや、
ギヒョンは震えている
声をかけてやりたいけれど、なんと呼びかければいいのか解らない

ウシクが混乱しているように、僕も混乱してしまっている
深呼吸を一つして、ウシク・・ギヒョンは中に声をかけた

「こんにちは。お義父さん・・僕です」

僕ですと、ウシクは言った
引き戸が開いて中からお義父さんが出てきた

「おお!よく来た!そちらは電話で喋ったお友達かな?よくいらっしゃいました。さぁどうぞ中へ。疲れたでしょう」
「お義父さん・・顔色、よくなったね」
「ああ、体の具合はこのところずっといい。さ、お前も入りなさい。疲れたろう?」

優しげなお義父さんがウシクを気遣う
僕はあいまいな笑みを浮かべて部屋の中に入る
ウシクは・・いや、ギヒョンはギヒョンとして堂々と振舞い、韓式の礼をした
そろそろ夕食の時間、と言う頃についたので、座卓にはところ狭しとご馳走が並べられていた

「あれ?カレイの塩辛がないですね・・」
「あ?ああ・・後から持ってくるよ。それよりまず一杯やろう」
「お義父さん・・お酒は控えなきゃ・・」
「なに、この猪口一杯ぐらい構わんだろう?大事な息子が帰ってきたんだから。さ」
「じゃあ僕がまず注がせていただきます」
「そうか?嬉しいな」

ウシク・・いや、ギヒョンはお義父さんに酒を注いだ
お義父さんはギヒョンに注ぎ、そして僕の盃にも酒を注いでくれた
乾杯をしてギヒョンとお義父さんは盃を飲み干した

「わしはこれで辞めておこう。ソンジュが怖いからな。はっはっ。さ、お前達はどんどん飲みなさい」
「・・お義父さんが我慢してるのに、僕達だけ飲むなんて・・」
「何を遠慮しとるか。構わん、飲みなさい」


ギヒョンはお義父さんに注がれるまま酒を飲んだ
僕は弱いからと言って、最初の一杯を舐めるように飲んだ


いつ何時、ウシクが豹変するかわからないから・・







そして今、僕達は帰路についている
何度も泊まっていけと言われたが、ウシクは、明日の朝から仕事があるのでと笑顔で断り、僕達は車に乗り込んだ
飲まなくてよかった・・
僕が運転した

お義父さんやソンジュさんたちに笑顔で手を振って、ウシクは助手席に乗り込んだ
車を走らせた途端にウシクは顔を手で覆って俯いた
僕は何も言えず、ただ来た道を戻って行った



ずっと押し黙ったまま、ドライブは続いた
ようやく半分ぐらい来たところで、ウシクは急に僕を見つめて言った

「この辺で泊まらない?」
「え・・」
「本とは一泊するつもりだったんだから・・泊まらない?」
「でも、宿が・・」
「どこでもいいじゃない。ほら、あそこでいいよ」

ウシクが指さしたのは安宿だった

「お前がいいのなら・・」
「いいって言ってるだろ?!」

乱暴な口調で答えてウシクはそっぽを向いた

「・・もう少しましなホテルを探そう・・」
「・・・」

ウシクが泣いているのを感じた






食事の途中で、娘のソンジュさんが入ってきた
ウシク・・ギヒョンはにっこり微笑みかけたが、ソンジュさんの表情は堅かった
そしてお義父さんの横に座った

「すまなかったな・・」

唐突にお義父さんが言った
ソンジュさんは俯いた
ウシクの笑顔が強張った

「なん・・です?何が・・すまないって?」
「わしのために・・すまなかった・・許してくれ・・ウシク・・」

ウシクが凍りついた
自分がしなければならなかった告白を、お義父さんがしている
自分をウシクと呼んでいる

「君・・お義父さんに・・話し・・た?」
「前から言おう言おうと思ってたの・・でも言えずにいた。あの時貴方が電話で、『いつまでギヒョンでいればいいんだ』って言った時、やっと決心がついたの。
それに・・」

ソンジュさんは立ち上がって奥の部屋のドアを開けた
そこに男が立っていた

「入って」
「・・」

男は無言で部屋の中に入ってきた
ウシクは何がなんだか解らないといった顔をして、男とソンジュさんを見つめている

「・・キム・ギヒョンです・・」

男は言った


本物の・・ギヒョン・・


「娘から全て訳を聞いた。前後して、ギヒョンが訪ねてきた。娘とは少し前から連絡を取り合っていたらしい」
「…ご迷惑をおかけしました…。離れてみて、ソンジュがどれほど素晴らしい女性か、よくわかったんです。ダメだとは思いましたが連絡を取り、それから…また交際を始めました…。あなたとソンジュは…結婚するつもりだという事も知っています…。でも…」
「ウシク…すまん。この通りだ…。娘はこのギヒョンを忘れられずにいた。ギヒョンが戻ってきた時、全てを許し、一緒になりたいと思ったというのだ…。
お前には申し訳ないと思っている。でもわしは娘に幸せになってほしい。本当に好きな人と一緒になってほしいと思っている…。
もしもお前がソンジュの事を本当に好きならば…わしはお前に酷な事を頼んでいると解っておる…。だがどうか…」
「お義父さん…」

ウシクの心は砕け散っていた
僕には解っていた
側にいて痛いほど感じる
でもウシクは立派に演じた

「よかった…。実は…実は僕も…好きな人ができて…。どうすればいいのか悩んでいたんです。その上僕は、お義父さんを欺いていた…。とても…苦しかった…」
「ウシク…」
「お義父さん…ソンジュさんには失礼かもしれないけど…僕は…お義父さんに一目惚れしたんです…。ソンジュさんにじゃない。好きな人ができて、よくわかりました…。
僕はお義父さんと暮らしたかった。ソンジュさんと温かい家庭を作れるとも思ってた。だって、ソンジュさんに、好意を持っていたから…。
でも、好意だけで結婚してもいいのかなとも、愛情なんて一緒に暮らすうちに湧いてくるものかもしれないとも思った。…違うんですよね…。
僕も…今日は本当の事をお義父さんに伝えようとやって来たんです。
まさか…お義父さんが僕の事を知っていたなんて思わなかった…。ごめんなさい。ギヒョンさんになりすましてて…ごめんなさい…」





ウシクはその後も立派に『明るくて優しいウシク』を演じていた
痛々しかった

あんなに苦しんで、あんなに悩んでいた事が、一瞬にして解決してしまった

タバコを吸いに出たウシクに大丈夫か?と声をかけてみた

「何が?・・万々歳じゃない・・。悩む事なんかなかったんだ・・。ほんとに・・なるようになるもんだね、先生・・」

何も見ていない瞳でそう答えたウシクのまわりに、冷たい空気が取り巻いていたのを僕は感じた




ウシクは本物のギヒョンと談笑し、ソンジュさんにおめでとうを言い、お義父さんに、これからも息子でいてもいいかと甘えた
そして僕の事も紹介してくれた

「同僚のイヌ先生・・。元高校教師だから先生って言っちゃうんです」
「そうか・・。イヌ先生、どうかウシクの事をよろしくお願いいたします」

お義父さんは深々と、僕に頭を下げた

ウシクは立派だった
恨み言の一つも言わず、明るく場を盛り上げて、あの時お前が逃げたからこんな事になったんだと本物のギヒョンを詰り、でもお前が逃げなきゃ僕はお義父さんと出会えなかった・・としんみりさせ、明るくて優しくて情の深いウシクを前面に出して頑張っていた


僕には解っていた
その影で蠢く黒い塊が・・
そしてその塊が、きっと僕に向かってくるということを・・








ようやくこじんまりしたビジネスホテルを見つけた
観光地でもないので、きっと部屋は空いているだろう・・

僕は車から降りて部屋の空きを確かめた


閑古鳥の鳴いているようなホテルだった
僕達はツインルームを取り、部屋に向かった

ウシクはかろうじて、明るくて優しくて情の深いウシクの面を被っていた
部屋に入れば、その面が砕け散ることも、僕には・・解っていた・・



ドゥノット・タッチ・ミー・イン・ザ・モーニング1 オリーさん

「コーヒーいれたよ。」
ミンの声で目が覚めた。
鼻腔をくすぐる朝の香り。
思わず顔を動かし、香りの方へ目を向ける。
れもらめっ!
起きれないっ!
らって・・・ちゅかれたっ!

そのまま、また目を閉じた。
「いらないの?」
ふんっ!
ちるもんかっ!
しゃいきん、ちっとばっかしやられすぎなのら。
昨日も・・あひん・・

「どうしたの?コーヒー飲まない?」
よくもしゃあしゃあとっ!
あんなこと、こんなことちておいて・・ヒヒン。
もう少しでミソチョルと同じ背丈になるところら・・
あぶにゃい・・
じぇえっったいっ起きないのら!

「今日、ミューズの新しい社長に会うんじゃないの?」
あ・・いけにゃい・・
そうらった・・
昨日アポ取ったのら。
く・・うう・・
しかたなく目を開けたのら。

「おはよう!」
ミンはとびきり上機嫌の笑顔ら。
こいちゅったら・・
くしょぉ、ま、眩しい・・
あっ・・
おまけにおはようのキスなんかされちった。

「コーヒーどう?」
らから!コーヒーろころじゃないのら・・
僕はグロッキーなのら。
ゼロゼロゼロ・・
ひ、ひとりでは、起きられにゃいっ!
たしゅけろ、ミンっ!

「またそんな目をして。朝から誘わないで。」
へ?
誘うって何ら?
「まだ足りなかった?」
ブルン、ブルン・・とんれもない、十分れす。
「そっか。じゃ仕方ないなあ。」
え?
な、何れすか・・も、もひかして・・

ミンがするりとまたベッドに入ってきたのら。
ひゃいんっ!
「約束までまだ時間があるから大丈夫だよ。」
は、はあ・・そりはそりは・・
れも、僕がらいじょうぶれはありましぇん・・
「だめっ、そんな色っぽい唇で誘っちゃ。」
あ、ろりはゼロゼロしゅるために開けた口れす・・

む・む・む・・はひはひ・・あふん・・へろへろ・・
や、やめ・・ああ・・もう・・ヒイン
「やっぱりキスだけじゃ嫌だよね。」
ブルン、ブルン、嫌じゃありましぇん、十分れす。
「もうっ!それならそうとはっきり言って。」
あ、あひ・・そ、そんな・・
あ、ああっと・・お、おおっと・・

ま、また・・お花が咲いてるのら・・
あの花束は・・たぶんシャガール・・
とってもカラフルれ、ちっと歪んでいるのら・・
モネのジャポネージュが真っ赤なお着物で僕を誘う・・
グルグルグルリとゴッホのいとしゅぎが僕を翻弄しゅる・・
ジャングルでルショーの描いたライオンに食べられているのは・・ま、ましゃかっ!!
しょして・・しゃ、しゃいごはラファエロのマロンナ・・

はひ・・ん・・昇天なのら・・
僕は天使になって、神しゃまの元へ昇っていった・・

れもしゅぐに地上にもろって、わんこの悪魔の囁き。
「もう、名前呼びあってこそこそお話しちゃだめだよ。」
ヒイイン・・
「あ・・あい・・」
『しゅ、しゅまにゃい、スヒョン。しばらく店で話しかけないれくれ。
か、体がもたにゃいっ!』

その後、僕はシャワーを浴び、ミンに腰をマッサージしてもらい、
やっと何とか元に戻ったのらった。


タッチ・ミー・ウィズ・ジェラシー  足バンさん

僕はぷりぷりしているドンジュンを車に押し込んで走り出した。

「寮に行ってね!寮!」
「昨日店に泊まったんだから今日はうちに来ればいじゃない」
「いいから!」
「怒ってるの?」
「何をっ?」
「ミンチョルとお話してたこと」
「わかってるなら聞かないでよばかっ」
「ちょっと話してただけだろう?」
「ああゆうのをちょっと話してただけって言わないの!しっとり名前呼び合っちゃって」
「…」
「…」
「あ…」
「なによ」
「あ…ツ…」
「…なに?どしたの?」
「あ…いや…急に…ちょっと胸の辺りが…」
「なに?え?スヒョン痛いの?」
「ちょっと苦しくなった…」
「えっえっ?大丈夫?どうしよう運転替わるよ」
「ああ…大丈夫…治まりそう…先にうち行っていい?」
「もちろんだけど…」

僕のうちに着くとドンジュンは心配そうに僕を支えて家に入った。
ベッドに横たわった僕に冷たい水を差し出す。

「ありがと…おいしい…悪いけどネクタイ緩めてくれる?」
「うん…ね…スヒョン…大丈夫?」
「シャツも開けてくれる?」
「うん」
「で、抱きしめてみてくれる?」
「う…ん?」
「ちょっとキスもしてみてくれる?」
「…」
「優しいキスね」
「ちょっとスヒョン…」
「え?」
「どこが苦しいって?」
「えぇと…胸のこの辺りだったかな…」

すぱこーんっ!

「いい加減にしろっばかスヒョン!心配したじゃんかっ」
「だって」
「だってじゃないっ!もうホントに心配…ぎゃー!こら離せ!」
「離さない」
「この大嘘つき!悪魔!離せーっ!帰る帰る帰る帰る!」
「嘘じゃないよ。本当に心が痛かったもん」
「なんでよっっ!」
「おまえが僕を責めるから」
「責められるようなことしたからでしょっ!」

僕は暴れるやつをシーツの上にねじ伏せてうるさい口を容赦なく塞いだ。

「ぶぁっ!はぁっ!はぁ…窒息するでしょばかっ!」
「こういうジャンルで僕に勝とうなんて甘いよ」
「もうっ!そんなだから変なオファーがくるんだよっ」
「何だ…知ってるの?」
「ジホのおっさんに聞いたもん」
「断るって言ったでしょ?」
「当たり前でしょ!」
「じゃ問題ないね?」
「え?あ、うん…ないけど」

ちょっとトーンダウンしたドンジュンに今度は優しくくちづける。

「…もぉ…離し…」
「で?おまえ彼女と会うことにしたの?」チュッ
「え?…ぅ…」
「決めた?」チュッ
「う…ん…」
「僕が心配しないから気に入らないんでしょ」
「だって…」
「ばかだね…気にならないわけないでしょ」
「嘘ばっか」
「嘘じゃない」チュッ
「ほんと?」
「会いに行ってる間ひとり飲んでようかな」チュッ
「やっぱ嘘っぽい」
「泣いてようかな」チュッ
「もぉ怒るよ」
「そう言えばさっき怒ってたね」チュッ
「えと…なんだっけ…」
「こそこそとお話ってやつ」チュッ
「…そだ…もうあの人と名前呼び合ってこそこ…ん」

すっかりおとなしくなったのドンジュンを今度は丁寧な深いくちづけに誘う。
さて…
朝までには、ふくれてたことなど忘れさせてやろうかな。


とおいみち 4 ぴかろん

部屋に着き、僕は鍵を開けた
ウシクを促して中に入れた

部屋の灯りをともし、僕達は荷物を置いた

「ウシク、シャワーでも浴びて、今夜はゆっくりおやすみ」
「・・」
「頑張ったね。疲れたろう?」

僕は、ウシクがいつ僕にその黒い塊をぶつけてくるのか、計りながら声をかけた
ウシクはため息をつき、無言でバスルームに向かった


何日も苦しんで、迷って、悩んで、自分を壊して・・そしてようやく辿り着いた壁なのに
登ろうとした途端、向こう側から崩された

宙に浮いたウシクの心を思うと、気の毒でならない
僕と出会わなければ、彼はこんな思いをせずに済んだのかもしれないな・・

水音のするバスルームを見つめて僕はウシクが泣いているのを感じていた





なんて簡単・・
こんなことになるとは思ってもみなかった
まいったな・・
そんな手があったんだ、神様・・
僕の捧げていたお祈りは何?
そっか・・形だけだったから・・そっか・・

まいったな・・
これからどうすればいいのかな・・

もやもやしたものが漂ってる
僕の周りや僕の心に、砕け散った想いが漂ってる
彼女と結婚せずに済んだ
お義父さんはこれからも僕のお義父さんでいてくれると言った
ギヒョンもいい奴で、いや、『いい奴になった』のか・・よかったじゃない・・
お義父さんを大切にしてたし・・

万々歳
ほんとに
何であんなに、毎日毎日不安だったのだろう
先生を傷つけたり、先生に甘えたり・・迷惑ばかりかけていて仕事も忘れたりして・・


カタン

ドアの向こうで音がした
先生のシルエットがスリガラスに写った
着替えでも持ってきてくれたのだろう
優しい先生・・

「ウシク・・大丈夫?」
「…大丈夫だよ…」

僕はコックを捻り、その流れを止めた







落ち着いた声だった
黒い塊は消えたのかな?
もともと優しい子だから・・うまく感情を流せたのかもしれない・・
きっと・・明日からはまた・・いつものウシクに戻れるね・・


ウシクがバスルームから出てきた
腰にバスタオルを巻いて、髪の毛を拭きながら

冷蔵庫を開けて中を覗く

「たいしたもの、入ってないな・・。先生も何か飲む?」
「ん?・・僕はいいよ・・」

ウシクは無言で焼酎の小瓶を二本抜き取って栓を抜き、1本を僕に渡した

「付き合ってよ・・さっき全然飲んでなかったじゃん」
「・・」
「うまくいってよかったね。こんなにスムーズにいくなんて・・。不思議だ。先生のおかげだよ」
「何言ってる。お前の日ごろの行いがいいから、きっと神様がお前の願いを全部叶えてくださったんだよ」
「…神様が?」
「うん・・」
「…ふ…。乾杯!」

ウシクは瓶と瓶を軽くぶつけて、焼酎を口に運んだ
僕も・・同じようにそれを飲んだ

ウシクはベッドに腰掛け、僕を見つめた
その瞳を注意深く観察する

迷いはないか、黒い塊は潜んでないか・・

シャワーを浴びて外に出てきたウシクから、さっきまでの空気が感じられなかったから
僕は注意深く、彼の様子を探っていた

「先生・・こっちに来て・・」
「んぁ?ああ・・」

ウシクの隣に腰掛ける
ウシクが僕の肩に頭を乗せる

「先生・・」
「ん?」
「お義父さん、元気そうでよかった・・。ソンジュさんも、本物のギヒョンとうまくいってよかった・・」

平坦な調子で呟くウシクの方を見た
ウシクは頭をあげて僕の瓶にまたカチンと瓶を当て、そしてゴクゴクと焼酎を喉に流し込んだ

「そんな飲み方・・」
「大丈夫だよ。先生も飲んで。祝杯なんだからさ・・」
「・・ああ・・」

微笑むウシクは自分を取り戻しつつあるように見えた
だから僕は促されるまま瓶を口につけて酒を飲んだ


僕達はたちまちそれぞれの焼酎を空にした
飲み干した時、二人ともククッと笑った

ウシクが手を伸ばして空き瓶を取る
それを部屋の片隅に置いてまた僕の隣に座る

「ウシク・・。お疲れ様・・。君は本当に・・頑張ってた。よくやったよ・・。君の辛さは僕にも伝わってきたよ」
「・・先生・・」
「明日からは・・すっきりと生きられるね」

ウシクに笑顔を向けた
ウシクも応えて微笑んだ

「先生・・」

ウシクが僕にくちづける
そっとベッドに押し倒しながら、段々と深くくちづける・・
唇を少しだけ離して、僕の瞳を覗き込み、僕のシャツのボタンに手をかける

「先生さ、着替え持ってきた?」
「え?」

唐突な質問に戸惑っていると、いたずらっぽい笑みを浮かべてまた聞く

「着替えの服、持ってきてる?」
「・・あああ、一泊だから・・服の着替えは・・持ってないけど・・なんで?」

もう一泊ぐらいしたいのかな?

「そうなんだ・・これだけなんだ」



ウシクはボタンにかけた手に力を入れた
ウシクの目の色が変わったのを、僕はしっかりと見ていた・・
一瞬にして僕のシャツは引き裂かれ、露わになった僕の肌にウシクの爪が食い込んだ


替え歌 「もうどこにも行かないで」by ミン&ドン ロージーさん

あなたの眼差しが僕は好き
時々いじわるな 唇が好き
僕を抱きしめる 腕が好き
胸に絡みつく 囁きが好き
もうどこにも行かないで
夜は短いけれど
夜は恋に傷ついた
二人だけのものだから

あなたのほほえみを 僕は好き
僕をぬり変えたくちづけが好き
二人であつめた 想い出が好き
二度と探せない この愛が好き
もうどこにも行かないで
恋はつれないけれど
恋は明日をちりばめた
二人だけのものだから

もうどこにも行かないで
夜は短いけれど
夜は恋に傷ついた
二人だけのものだから


(伊東ゆかり『私だけのもの』)



La mia casa_10  妄想省家政婦mayoさん

「先輩~大丈夫ッスか?」
「ん~...でも面白そうじゃない...ミンギ...」
「そ...そうッスかぁ?...」
「いいじゃんいいじゃん#僕も行くからさぁ...ウォニも連れて行こう#」
「ヌナも行くんスよね...」
「ぅん..」
「mayoさん...この企画...オーナーからOK出てるのかな?」
「はい...『ひひぃぃん!』って言ってました...それに..¥になりますからね」
「あはは...そう...ひひぃぃん!..ね...」
「じゃ..決まりじゃん#ソヌ君!」
「ん~....そうですね...」
「まよ君!...いつにするの?!」
「来週あたりになりますか...」

「「「「OK#」」」」

mayoシは帰り際ソヌさん達とまた話をしていた...
話し終わるのを待って僕達3人はちぇみとはるみちゃんの待つ家に帰った...


「どうだ..テソン...」
「僕はいいと思うよ...塩の量も丁度いいと思う...」
「ハーブの量が少ない?」
「あまり入れるとくどいくないか?闇夜...」
「そっか...あんまし香り強いと料理やワインが負けちゃうね..」
「ん...そう思った...」
「ちぇみ~店のはちょっと大きく作るんでしょ?」
「ん...一回りくらいか...」
「わかった..いくらにしようかなぁ~...」
「ぷっ...何かさ..テス..すっかり営業だな...」
「こいつ...もう収支表作ってんだぞ....」
「へぇ~.....」
「へっへぇ~^o^」

4人でワインとチーズ..丸いハーブパンをつまんだ後
僕ははるみちゃんを抱いてちぇみと部屋へひきあげた...


「テス...」

はるみちゃんとじゃれながらバスルームに行きかけた時ちぇみが僕を呼んだ
僕は..立ったままデスクに片手をついて背中を向けているちぇみの後ろに立った...

「何....ちぇみ...」

僕の声を背中で聞いたちぇみは振り返って僕を見た...
デスクの上の閉じてあるPCを人差し指でトントンと叩き..頭でPCを指した...

「...気づいたんだな....」
「...ぁ...ぅん...」
「...何時...」
「...今日...ちょっと昼間...」
「...そうか....」

ちぇみは俯いて小さく深呼吸をした後..間をおいて顔を上げた..

「テス...」
「ぅ...ぅん?」
「...お前が嫌なら.....やめる.....」
「...そう....じゃ......もうしないでよ...」


「...........わかった...」

そう言って目を伏せながら無言でぅんぅん頷いた後
ちぇみはゆっくりと僕に背を向けて片手をまたデスクに置いた...
その様子を見ていたはるみちゃんが僕の顔を見て首をかしげた...

『@_@.......』

『...*^_^*.....』

僕ははるみちゃんに悪戯顔でニィーと笑った...
察したはるみちゃんはトンっと床に降りてちぇみの前に回り....ちぇみに抱き上げられた..
はるみちゃんはちぇみの肩越しに僕にニィーっと笑った後にデスクにトンっと降りた...
僕は背中を向けているちぇみに声をかけた...

「ちぇみ...」
「ん.......何だ....」

チカラのない返事なんだから#...もぉ~

僕はちぇみの大きな背中に抱きついて後ろから顔を覗いた...

「ちぇみ..」
「何.....」
「うぅ~~~~そだって##....」
「な....なに?」
「だからぁ...いいよ...続けても...」
「ぉ..ぉぃ...」

ちぇみは僕に振り返った

「僕...怒ってないし...2人が遠慮してるのわかるからさ..」
「テス....」
「仕事のとか..馬鹿話でしょ?..」
「ぉ..ぉぉん....」
「僕のことは気にしなくていいよ..」
「すまん....テス...」
「ぅん#......僕さ...テソンさんに喋っちゃったんだ...」
「な...何ぃ...」
「テソンさん達...ちょっと....ちぇみは...気づいてたんでしょ?」
「ん....」

ちぇみは僕に頷くと余計なことは言わなかった...


僕とすけべぇーなおやじは..はるみちゃんとバスルームへ向かった....

「ちぇみ.....僕の声がデカイとかさぁ...言ってるでしょ.....」
「ぉ..俺は..んなことは言わん....」
「へへ...まぁ...いいや...」

僕はちょっと振り返って閉まっている僕等の部屋のドアを見た...
廊下を隔てた向こうの部屋がちょっと気になった....

『今日は大丈夫かな....』







とおいみち 5 ぴかろん

まだ・・消えてなかった・・黒い塊が僕に覆い被さっている・・
僕はふいをつかれ、言葉もでなかった
ううん、言葉を発したくても唇が塞がれていて何も言えなかったんだ・・

乱暴なくちづけで僕の唇を貪っていたウシクが、唐突に顔を上げて僕を見つめて言った

「舌」
「・・え・・」
「舌、ちょうだいよ!」

言われるまま舌を出すと同時にそれを唇で摘まむウシク

「・・ん・・」
「感じちゃった?」

彼がそう呟いた次の瞬間、僕の舌に痛みが走る

「つっ!」

ウシクが舌に歯を立てた・・
あまりの痛さに僕は腕に力を込めてウシクの体を離そうとした
でも・・舌の次に唇を噛み、顎を噛み、喉もとに喰らいつき、ウシクの黒い塊は、確実に僕を餌食にしていった

「ウシク・・痛い・・痛いよウシク・・」
「痛くしてるんだよ!わかんないの?!」

蒼白い炎が立ち上る
痛みを堪えながら、僕はなんとかウシクから逃れようともがいた

「何してんのさ、逃げようったって逃がさない!僕をこんな風にしたのは先生だよ!そうだろ?!」
「・・ウシク・・」

全身に爛れたくちづけを落としながら、ウシクは僕をののしり続けた
悲しかった・・
僕の体に十分傷をつけた後、ウシクは僕の両脚を抱えた

恐怖を感じた
ウシクの微笑みが悪魔のように見えた

いつだったかもこんな風にされた事があった・・
あの時はまだ、問題が山積みで、混乱していたウシクが僕を犯そうとしてできずにいた

だから今度も・・

「できないと思ってるんだろ?なんで?わずらわしいこと全部終わったじゃん!もう我慢しなくていいんだぜ、先生!」
「・・ウシク・・待って・・、こんなのは嫌だ!こんな風に・・」
「いつもそう言うね!解ってるよ、ほんとはしてほしいんだろ?ずっと待ってたんだろ?こうなる事をさ!」
「こんなのは!こんなのは嫌だ!」
「先生・・」
「・・」
「うそつき!」

・・え・・

「先生の心の中には、まだ彼女がいるんじゃないか!」
「・・な・・何?うああっああいやだっいやだやめて!やめてくれっううっ」

氷のように冷たい微笑みを浮かべて、ウシクは僕を貫いた
激痛が全身を走る
痛みと、それからウシクの冷笑に僕の思考は停止してしまった
打ち付けられるウシクの体が、僕の体をまっぷたつに裂いていく
涙が溢れて・・僕にのしかかる悪魔の微笑みもぼやける
ただその白い歯だけが僕の目に写る

「はぁはぁはぁ・・せんせい・・きもちいいよ、すっげぇきもちいい・・」

ウシクが動くたびに僕の体が悲鳴をあげる
僕の喉は締め付けられて声を出せない

「なんだよ、感じないの?!せっかく抱いてやってるのに!ねぇ!ねぇ!声出せよ先生!これが先生の望みなんだろ?!ねぇっ!」
「・・シク・・」

かろうじてウシクの名前を呼んだ

ウシクは動きを緩めて僕の顔を撫で、瞳を覗き込んで言った

「僕が・・事故にあったんじゃないかって思ったって?」
「・・あ・・」
「彼女と重ねてそう思ったって?!」
「・・ウシ・・」
「それ聞いた瞬間にね、せんせ」

僕を突き上げる悪魔

「僕、『お義父さん』を選んだんだぜ」

切り裂く悪魔

「先生の前でさ、『式の日取りはいつがいいかな?』って、そう言ってやろうと思ったんだぜ、せんせ」
「・・ああぅっ」

深く・・毒を・・

「全部ダメになった・・」
「・・どうし・・て・・そん・・な・・」
「どうして?!・・あの言葉を聞いた時、僕は先生に捨てられたって思ったんだよ!」

狂ったように刺される刀

「あんた、自分で気づいてなかったみたいだけどさ、あの瞬間に僕を捨てたんだよ!
だから!だからアンタを・・捨ててやるんだって・・お義父さんのところで捨て去ってやろうって・・」
「あっああっくっ」

心が張り裂けそうに痛い、からだよりも痛い・・
そんな事を・・思ってたなんて・・ウシク・・

「なのに・・またお義父さんに・・捨て・・」

突然動きを止めて、その悪魔は僕の胸に突っ伏した
震えている・・

僕を貫いていた悪魔は、のろのろと体を離し、生贄台の淵に腰掛け、顔を覆った

餌食だった僕は、生殺しのまま剥き出しにされて放り出された
息ができない・・
頭の中の何もかもが散り散りに飛んで行って言葉が繋がらない・・
悪魔の黒い塊が・・消えていた・・

僕の中に解き放った?
いや・・
いや・・

「先生と・・生きていって・・何になるの?!」

ウシクは顔を覆ったまま言った
涙で声が震えている
僕もまた、その言葉に傷つき、涙が溢れる

「僕は・・僕は家族が欲しかったんだ・・」

…ウシク…

「平凡でいいから・・子供がいて、温かい・・そんな家庭が・・欲し…」

…ウシク…

涙がとめどなく溢れ出る
ウシクの中の黒い塊がタールのように流れ出ているのを僕は虚ろな目で見ていた












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