1639531 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 119

とおいみち 6 ぴかろん

嗚咽を堪えながら涙を流すウシク
僕はようやく息ができるようになった

体が自由に動かない・・
天井を見上げたまま僕は僕の破片を吸い寄せる
ゆっくりと・・
何が起きているのか見つめながらゆっくりと・・

「先生と生きていってさ、こんな風に交わっても・・何も生み出せない・・。僕の欲しかった子供だって持てない・・。先生と僕の二人だけ。男同士で家族だって?!誰も認めてくれない。僕はお義父さんが欲しかった。僕の子供が欲しかった。先生はいいよね。子供がいるんだもん、遠く離れててもちゃんと子供がいるんだもん。僕が先生なら・・家族を大切にする。子供を・・捨てたりしない!」
「・・ウ・・」
「解ってるさ!捨てたくて捨てたんじゃないよね?捨てられたのは先生の方だよね?!それもこれもみんな、昔の彼女の思い出に囚われてたから!」
「・・それは・・」
「流れてしまったって?!残ってるじゃない!ずっと・・残ってるじゃないか!先生の心の中に彼女が!」

黒いドロドロのタールが、あと少しで出尽くす・・
ウシクの言葉の棘が、僕の心に突き刺さる

「なんで・・こんな人・・。なんでアンタなんか・・好きになったんだろう・・なんで・・。出会ったんだろう・・アンタなんかと・・。関わらなけりゃ僕は僕の夢を・・今頃・・」

二人で・・築いてきたものって・・なんだったんだろう・・
僕達がここまで一緒に歩いてきたその道は、何にもならなかったの?ウシク・・

一つため息をついて、僕は目を閉じた・・

僕は・・

深呼吸をして目を開ける
痛む体を引き起こす

僕は・・ウシク・・

「お前を愛してる」


信じられないといった顔をして僕を見るウシク
涙に濡れた顔が冷たく歪み、口元に嘲笑を浮かべる


「・・何言ってんの。・・は・・。きれい事はやめなよ先生!
僕が今何をしたのか、わかってる?
僕がどういう人間だか、わかってんのかよ!
嫉妬深くて、人を羨んで、足りないものを集めたくて!
人に好かれようと必死でいい子ぶって生きてきたんだ!
わかってんのかよ!こんな僕なんか・・さっさと捨てちまえよ!」
「僕は・・お前がお義父さんの前で、健気に振舞ってるのを見て、頑張っていると思った。一生懸命演技してると思った。その裏で蠢くお前のどす黒い気持ちも見えた。そう思ってた。だけど違う!違ってた!」
「・・何が違ってたって言うの!」
「明るくて優しくて、人情のあるお前も、嫉妬して羨んで卑屈になってるお前も、全部ひっくるめてお前って人間なんだ!裏も表もない!」

ウシクの涙は止まらない
口元の笑みを浮かべたまま、ウシクはフフっと鼻先で笑った・・

「先生は嘘つきだよね・・」
「僕は嘘つきじゃない!」
「じゃ、どう説明するの?!全部流した彼女の思い出は?!残ってるじゃないか、覚えてるじゃないか!彼女を失ったって記憶が」
「記憶が消えると思うか?!」
「・・・」
「お前は親に捨てられた記憶を消せる?!」

ウシクの顔が蒼ざめる
僕は酷い言葉を投げつけている

「それとおなじだ!記憶は消せない!どこかに紛れ込んでしまうことはあっても、記憶は・・消せやしない!」
「ほら・・ほら嘘つきじゃん!僕に言ったくせに!全部流れ出てからっぽになったって!嘘つき」
「流れ出たのは思い出の中で生きていた僕の世界だ!それを流したのはお前じゃないか!」
「・・」
「お前が、過去に囚われて息をしてるだけの僕を、今を生きろって引き戻してくれたんじゃないか!」
「・・」
「違うか?!」
「・・」
「だから僕はお前を捨てない!絶対に捨てない!僕を救い出してくれたお前を見捨てたりなんかしない!全部受け止めてやる!どんなことでも、僕が受け止めてやる!」
「・・せんせい・・」
「愛してる・・」
「・・こんな・・こんな酷い僕を?」
「そう。酷いお前も醜いお前も、僕はもうとうに引き受けてる!わかんないの?」
「・・」
「優しくて明るいだけじゃない、醜いところもあるんだって僕は知ってる!お前も認めろよ!」
「・・認めるって・・」
「・・ずうっと・・嫉妬したり憎んだりしてた自分を、僕のせいにしてた事、認めろよ!」
「・・」
「汚い自分をちゃんと認めろ!これも自分だって認めろ!いいところも悪いところも持ってる、普通の平凡な人間なんだって、認めろよ!」
「・・。先生のせいに・・」





してたんだ僕は・・
先生と出会ったから、先生に関わったからこうなったって・・先生のせいにずっと・・

「してたんだ・・。僕が・・弱いだけなのに・・」

呟いた僕を先生が抱きしめた

「こんな僕を・・先生は・・」
「受け入れてるって言っただろう?聞いてなかったのか?」

上滑りしてたその言葉が、ようやく僕の心に届いた
僕は先生の何を見て先生の言葉の何を捉えていたんだろう・・

ずっと待っていてくれたのに
僕が自分で気づくのをずっと待っていてくれたのに・・
あんな酷いこと・・

「・・ごめん・・先生・・ひどいことした・・」
「・・平気だ・・。なんでもない・・」
「先生を傷つけてばかりいた・・」
「僕だって・・お前の夢を奪ってる・・」
「僕の夢・・」
「・・ウシク・・。僕を好き?」
「・・好きだよ・・大好きだよ先生・・」
「なら・・好きでいてくれる間だけでいいから・・一緒にいて・・」
「・・え・・」
「永遠の想いなんてないんだ。この先、君に好きな人ができたら、迷わずその人のところにいけばいい。君の望んでいる家庭を、その人と作ればいい。
でも今は・・。僕を好きでいてくれるなら、今は僕と一緒にいてほしい・・」
「・・せん・・」


先生の大きな愛に、僕はずっと前から包まれてたのに・・
一人でもがいて一人で沈んでた
誰も助けてくれない、誰も気づいてくれないって泣きながら、暗闇に沈んでた・・
気づかなかったのは、何も見えていなかったのは、囚われていたのは・・
辛くて、苦しくて、どっちも選べなくて、迷って・・

ああ僕だけが生きてるんじゃない
僕だけが選び取るんじゃない
人が
たくさん
この世で生きてる
自分で一つずつ選び取って
間違ったり悔やんだりしながら生きていってるんだ

お義父さんも
ソンジュも
ギヒョンも

自分の心に忠実な選択をしたり、そうでなかったりして生きていってるんだ・・
僕は僕の欲しい物をどっちにしようかと迷ってた
どっちも選べなくて苦しんでた

物じゃなくて・・それは人間だったんだ
欲しい人にも欲しい物があって
僕自身も選ばれなかったり選ばれたりしてたんだ

僕は僕の事しか考えてなかった
先生はそんな僕をずっと見守ってくれていた

愛されてる
こんな僕が愛されてる・・

「神様は・・僕の形だけのお祈りの中に・・僅かでも僕の感謝の気持ちを感じ取ってくださってたのかな?
だからこんな風に、なにもかもうまくいくようにしてくださったのかな?」

頬を伝う涙を感じながら僕は先生にそう言った

「ウシク、試練も与えられていただろう?お前は十分苦しんだ・・。僕も・・苦しかった・・」
「先生・・。ごめんなさい。ごめんなさい・・。ありがとう先生・・」

僕を捨てないでいてくれて・・
貴方を捨てようとしてたのに・・








ウシクの髪に接吻をした
本当に・・心が結ばれたと感じた

僕はウシクをベッドに横たえて、傷ついて疲れたその体にくちづけの雨を降らす
優しい雨が大地を潤すような、そんなくちづけをしてあげたかった・・

「せんせい・・」
「僕が・・お前を抱く・・」
「せんせ・・」


体の繋がりなんて、もう意味はないのかもしれない
しっかりと僕達の心は繋がっているから・・
それでも僕は、ウシクを抱きたかった
ずっとずっと前から・・ウシクを抱きたかった・・

「いい?」

ウシクは瞳を潤ませて、僕を引き寄せる

「先生が好きです・・」
「ウシク・・」

ウシクの体中に僕の跡を刻む
丁寧に吸い上げるたびにウシクは体を撓らせ小さく呻く
首筋に唇を這わせると呻きが泣き声に変わる

「せんせ・・い・・」

少し乱れた息の下でウシクが呟く
顎から耳に唇を伝わせながら僕は答える

「なんだい?」
「先生の、思い出の世界をね・・」
「ん」
「流したのは僕じゃない」
「・・」
「先生が自分で流したんだよ・・」
「・・」
「僕は、先生の防波堤に突っ込んだだけ。穴、開けただけだ」
「・・それでも・・お前が命がけで突っ込んでくれなかったら、僕は亡霊のように生きていただけだ・・だからお前が僕を・・引き戻してくれたんだよウシク」
「・・先生・・」
「・・ありがとうね・・」
「先生に会えて・・よかった・・。先生を好きになって・・よかった・・」
「ウシク・・僕も・・お前に会えて・・お前を好きになって・・よかった・・」


ウシクの全てに接吻を落とし、もう一度唇を捉えて、僕と彼とは溶け合った
穏やかな顔で悦びを感じているウシクに接吻しながら、押し寄せてくる波に身を任せた
煌めく波しぶきとともに、僕達は空に散る




息の荒いウシクに僕は呟く

「大丈夫?」

ウシクは少し僕を睨む

「いたかった・・」
「僕の方が痛かったんだからな!」
「・・ごめんなさい・・」
「でも・・」
「・・ん?・・」
「冷たいウシクも・・僕は好き」

そう言ってからウシクの肩に顔を埋めた
ウシクが僕の背中をパンっと叩いた
そうして僕達はウフフと笑った・・


替え歌 「さよならをするために」 by イヌ ロージーさん

過ぎた日の微笑(ホホエミ)を みんな君に上げる 
ゆうべ枯れてた花が 今は咲いているよ
明日からの喜びも みんな君にあげる
あの日知らない人が 今はそばに眠る

暖かな昼下がり 通り過ぎる雨に
濡れることを 夢にみるよ
風に吹かれて
胸に残る哀しみと
さよならをするために


昇る朝日のように 今は君と歩く
白い扉を閉めて やさしい夜を招き
今の幸せだけは きっと確かなはず
風に残した過去は 決して消えないけど

暖かな昼下がり 通り過ぎる雨に
濡れることを 夢にみるよ
風に吹かれて
胸に残る思い出と
さよならをするために


(ビリーバンバン『さよならをするために』)



Lover’s Room 1 ぴかろん

ラブの後をついて、ラブの部屋に入る

「・・ふぇぇ・・ひろ・・」

3LDKといった間取りなのかな?
リビングが随分広い・・

「僕の実家より・・広い・・」
「何言ってるんだよ・・」
「ここ・・どうしたの?」

まさかパトロンがいて・・
まさかギョンビンじゃあるまいし・・

「ああ、オヤジの・・」
「おやじさん?」

御曹司って言ってたっけ・・
・・ナゾだっ!

「ちゃんと家賃払ってるよ」
「・・なんで・・」
「イヤだから!」
「何が?」
「オヤジに物貰うのイヤだからだよ!」
「・・物、貰うの嫌いなんだ・・」
「人による」
「・・」

それで僕が頂いた物とかに敏感に反応してた?


僕は広いリビングに通されて、その部屋を見渡した
インテリアはアジアンテイストか・・
なんか・・椅子だらけだ・・
椅子が好き?
きっと一つ一つがラブのお気に入りなんだね・・でも・・


統一性っつーか、調和が・・とれてるようなとれてないような・・

んー・・
まったく・・
これぞ『ラブです』ってカンジの・・

なんというか・・雑多で雑把な部屋だ・・

「適当に座って」
「あ・・うん・・」

僕はその不思議な空間に心を奪われていた

ツーシーターのソファとスリーシーターのソファが一つずつにワンシーターのソファが二つ
ダイニングテーブルには椅子が四つ
それから・・寝椅子っての?がひとつと・・窓際にも椅子が一つ・・二つ・・

それも・・全部・・違うんだ・・一つ一つ全部種類が違う・・

なんか会議でも開くの?!


ダイニングテーブルの椅子は、バナナリーフで編んであってクッション部分が派手なバティックの張ってあるものと、ラタンとバティックの、それから同じくラタンとバティックでできてるんだけど、アームつきで後姿がカワイイもの、それとラタンだけの背もたれの高いもの・・

ダイニングテーブルは幕板部分にウッドカービング(彫り)を施した一風変わったデザインのテーブル
色は黒だね・・ふーん・・

窓際の椅子は・・チークとラタンのリラックスチェアが一つと、マホガニーの肘掛なんだけど、椅子本体はバナナリーフで編んで作ったものが一つ、

ソファは・・スリーシーター(Chinois Couch)はウォーターヒヤシンスを編んだもの。座面はブラウンのヘンプでできてる
ツーシーターのがシーグラスを編んだもので、ワンシーターの一つはチーク素材の朝顔が開いたような形をしたソファ
両方とも座面は白っぽいヘンプ
もう一つのワンシーターは、やっぱりウォーターヒヤシンス(Gula Armchair)を編んだもので、座面はパープルのヘンプだって・・

編み物好き?
いや・・

あと、寝椅子だけはちょっと違うの
イタリア製の布地を張ったデイベッド・・とか言ってた
落ち着いた明るめのストライプで、調和がとれてるだろ?・・だそうです・・

あ、全部ラブから解説してもらったのを覚えたのね・・すごいでしょ?僕・・

僕はシーグラスで編まれたツーシーターのソファに腰掛け、そこにおいてあったシャンパンゴールドのペイズリー柄クッションを抱きしめて回りを見渡した
クッションも・・いくつか散らばってる
これも一つずつ違う柄・・
バティックをそのまま使ったものや、グリーンの地に同系色の糸で唐草模様のような花柄が刺繍してあるもの、スゥエードとバティック布を組み合わせたもの・・

カフェテーブルと思ってたのは、トランク?
鍵のついた木の箱だ・・キャビネット?!

テレビ、ないのかな?
ん?!ある!

籐でできたオーディオチェスト・・とでもいうのか・・
いや?たんす?
引き出しがついていて、上部に観音開きの扉があって、その中にテレビが納まっている

奥の方に薬箪笥みたいな、引き出しがいっぱいついてる木の箪笥があって、それから、台形のチェストとか・・なんか変わったものが一杯ある
円形のシェルフに、ろうそくだの携帯電話の充電器だのお香のスタンドだの・・飾りなのか実用なのかわかんないものが置いてある
ああ・・わけわかんない部屋だ・・

わけわかんないのに・・落ち着くのはなぜだろう・・

「何飲む?」
「え・・えと・・とりあえずバーボンでも・・」
「酒?!」
「え・・。だめ?」
「車でしょ?」
「・・かっ・・帰らせる気?」

言ってしまってからマズいと思い

「コーヒー」

と言うと、ラブはまた笑って用意してあった酒を出してくれた

「バーボンって言うだろうなと思ってた」

水割りを作ってくれたラブと、グラスを上げて乾杯した

一口飲んでから紙袋を渡した

「なに?」
「お前の服とそれから・・プレゼントやらなんやら・・」

ラブは中身を見た
あの絵を取り出してじっと見ていた

「これ・・ヤらしいよね・・」

僕達二人の絵を見せて微笑む

「ギョンジンの顔・・すっげぇスケベ・・」
「お前の顔のがえっちだよ!」
「ん?これは?なに?」

僕の選んだラブへのプレゼントの香水だった

「こないだのはさ・・。イヤだろうなと思って、新しいの選んだ・・」

その香水・・ル・マール・・のボトルは、男の裸体のデザインだった

こんなボトル、ラブにしか似合わないだろ?


ラブはくふっと笑ってありがと・・と言い、円形の、飾りだなにそのボトルを飾った
そしてまた紙袋から・・入れたまんまになってたブルガリブラックを出してきた

「ぷっ・・くふっくはははっあはははは」

そんなに・・笑わなくてもいいじゃんか・・

俯いた僕に、素早くキスするラブ

なによ・・何回目?

僕はすっかりラブのペースに嵌っている
抱きしめて、その次の段階に移ろうとすると、必ず吹き出して『振り出しに戻す』んだもの・・

「なんだよ。はぐらかしてるの?」
「違うよ、キスがしたいだけなの・・。ゆっくり話したいし、それに、ゆっくり・・キスがしたいから・・」
「・・ん・・」

僕はラブに唇を任せた
深くて濃くてさ・・我慢の限界がきそうなんだけどな・・でも我慢しなきゃ・・

「くはっくはははは」

また笑う~

睨みつけてやると大笑いしてラブが言った

「きちんと『ハウス』できてるじゃん?えらいえらい。くははははっ」

くそう・・あとで泣かせてやるからなっ!

と思いながら、もしかしたら僕が泣かされるのかもしれないなんて考えが浮んだ瞬間だった・・

「好きだよ、ギョンジン・・」
「・・ラブ・・。僕も・・好きだ」

僕の方がきっとお前の事、たくさん好きなんだよ・・ラブ・・

「ねぇところでさ、なんでこんな一杯椅子があるの?それも一つ一つ材質も形もちがうじゃん?」
「んー、椅子が好きなの」

そりゃそうだろ・・椅子がきらいでこんなにたくさんの椅子持ってる人なんて見たことないし
っていうか

「椅子が好きな人、初めて見た。でも全部アジア風?」
「ん。一番ゆったりできるからさ・・」
「ふぅん・・」

確かに・・落ち着く・・
自分がアジア人だって自覚するな・・
ダラダラしてしまいそう・・くふん・・


再会  足バンさん

ブリティッシュグリーンのオーニングが映える
広い歩道に面したオープンカフェ
街路樹からの木漏れ日が道ゆく人を優しくさらっている

ハリョンの指定してきたこの店には昔ふたりで一度だけ寄ったことがあった

電話での彼女の声は懐かしさに満ちていた
すぐにでも会いたいという彼女に僕は午後の早い時間を選んだ
彼女に会ってすぐに店に出るのは何となく気乗りがしなかったから

僕は白いテーブルに肘をついて濃い目の珈琲を飲みながら
遠くを行き交う車を眺めていた

あの雪原を思い出す…

『ここまでこられたのは君がいてくれたからだ』
『ううんそうじゃない…自分を信じたあなた自身の勝利よ』
『これからもずっと…側にいてくれない?』
『…』
『ずっと好きだった』
『私は…行かなくちゃいけないの』
『ハリョン…』
『私とあなたは夢を追いかけた”同志”なのよ』
『それ以上にはなれない?』
『ええ』
『そうか…』
『ドンジュン…』
『はっきり言ってくれてありがとう…答えはとっくに予想してた』
『ドンジュン私は…』
『もう何も言わないで』
『…』
『君に会えてよかったよ…ありがとう』
『私こそ…ありがとう…』

最初で最後の心からのくちづけ

生まれて初めて愛したひとを…そっと手放した遠い雪景色…

その懐かしいハリョンは
歩道の向こうから手を振って走ってきた
久しぶりの彼女は白いパンツスーツに身を包み
僕の記憶の中の彼女よりもずっと大人びた印象だった

「お久しぶり」
「なんだか…綺麗になったね」
「ドンジュン…あなたこそずいぶんアカ抜けたみたい」
「カッコよくなったってこと?」
「ねぇまさか…またスーツに白いソックス履いてないでしょうね?」
「もぉ勘弁してよ」

ケラケラと笑う彼女はやはり昔のままだ
そして僕は…
その左手に小さくひかるリングに目を留めた

「…私…婚約したの」
「もしかして…ギスと?」
「ええ」
「そう…やっぱりそうか…おめでとう」

僕はあらぬ再会の理由を想像していた自分に苦笑した

「何よ…変な笑い方して…」
「ごめん…僕は君がまた僕とつき合いたいって言い出すのかと思っちゃった」
「ふふ…期待させちゃった?」
「うん…ちょっとね」
「でも…それって当たらずも遠からずかも」
「え?」

ハリョンは半分くらいになったレモネードのグラスの氷を揺らして
ずいぶん経ってから真っすぐ僕の目を見て口を開いた

「また…一緒に開発の仕事をしてみない?」

あまりにも思いがけない彼女の言葉だった

「ギスがまた事業を興すの。お父さんが亡くなってすっかりだめになったキリョン自動車
 の株を買い戻して今度事業改革をするのよ」
「また…外車販売をやるの?」
「いいえ、今度はEUとの共同開発を考えてるの」
「…」
「そのためにドンジュン…あなたの力を貸してほしいの」
「僕は…」
「知ってるわ、自動車の仕事はもうしないって言ってたこと」
「じゃ何で」
「あなた本当はまだ忘れていないでしょう?開発の夢」
「ハリョン…」
「あんな大きな車への夢を持っていたあなただもの…忘れるはずないでしょう?」
「…」
「もう一度私たちと一緒に世界を相手にしてみない?」




僕が今日の予定を確認しているとジュンホ君が近づいて聞いた

「スヒョンさん…ドンジュンさんはいっしょじゃないんですか?」
「え?あいつまだ来てない?」
「はい…ちょっとでんきのはいせんみてもらおうとおもったんですが」
「そ…急ぎならギョンビンにでも聞いてみてくれる?」
「はい」

あいつ…彼女との約束は昼過ぎだって言ってたのに
やたらにこにこして出て行ったからな
どこかに遊びにでも行ったかな
でも…ああ見えても仕事に遅れるようなことはしないやつなんだけど…

「スヒョンさんってば」
「え?あ?ああ…スヒョク…何?」
「どうしたんですかボンヤリして…ミーティングだそうですよ」
「ああ今行く」

仕方なく書類を持って事務室への通路に出た時
裏口から入ってきたドンジュンと出くわして…思わず力が抜けた

「こーら遅刻」
「あ…ごめん…」
「ゆっくり話せた?」
「うん…元気だった」
「それはよかった…じゃ支度して」
「うん」

あいつはにっこり笑ってロッカールームに入って行こうとして
ドアをグイと押している

「引くんだろ、そのドアは」
「う、そか…」

くふ…まったく…わかりやすいやつ
彼女との間に懸念すべきことが発生しましたって顔にでかく書いてある。
おまけに僕にすぐに聞いてほしいことでもなさそうだ

こんな時、僕はあいつの真っすぐさが気になってしまう
透き通るその瞳に映るものが僕を通り越して
ずっと遠くまで突っ走って行ってしまいそうで…

ふと気づくとミンチョルが遠慮がちに僕の顔を覗き込んでいた

「ぼーっとしてどうした?部屋に入らないのか?」
「あ?ああ…悪い」

「スヒョン…引くんだぞ、そのドアは」

あ…こほん…


僕の先輩6  妄想省家政婦mayoさん

「先輩~今日も邪魔して..いいっスか?」
「って...そのつもりなんでしょ...ミンギ..」
「うぃっス...」
「ぷっ...」

営業が終わってから先輩は厨房のスパイ部屋で着替えながら僕に笑った...
監督は隅にあるデスク兼テーブルでバラけたマトリョーシカを元に戻している...

「先輩~今日...これで客と遊んでたっスよね......」
「ぅん...そう......」
「これさ..ソヌ君が買ったの?」
「いえ...mayoさんが持ってきました..」
「ヌナが?」
「ぅん...店で客と遊んだらどうかってさ..」
「ふ~ん...」

「ぁ..監督...」
「何?ソヌ君....」
「人形の顔と体型は...ぷっ#...監督好みかも..って言ってましたよ..mayoさん...」
「あはは....^^;;....まったくもって...そのとおり....」

ヌナの持ってきたマトリョーシカは普通の形とちょっと違っていた..
一番大きいのは首を傾げていて顔が妙に色っぽいんだ...
10個の入れ子で一番小さいのは2cmくらいかなぁ....

 
「彩色が丁寧だし...入れ子の数も多いね...普通の土産物と違う感じがするけど...」
「何でも..ロシアのアーティストの作とか...言ってましたよ.」
「そう....どうりで...」
「何かさぁー..監督が丁寧に撫でまわすと..ヤラしく見えるッス..」
「ぷっ..ホントだ..ミンギ...」
「ぁ...あのねぇー...僕は美術的に見てもいいと思うわけよ...」
「他にも珍しい形とかあるみたいですよ...」
「そう...今度聞いてみようっと.....」


「ところで..ソヌ君...今日のデートは誰?」
「しつこいですね..監督...いいじゃないですか...」
「先輩..今日..何処行ったんスか...」
「ちょっと清潭洞....」
「何しに?」
「ん?..これに合うシャツ捜しに...」

先輩はお気に入りのデニムに視線を落とした...

「いいのあったスか?」
「それがさぁー....いい生地入るっていうから...頼んできた..」
「ふ~~ん....どこっスか?」
「ぅん...清潭洞裏通りのね.....倉庫み.....」

「監督...わかったス...」
「誰...ミンギ君..」
「ヌナ...」
「えぇぇーー@@」
「み....み..ミンギ##」

「倉庫みたいな...シャツ工房っスよね...先輩...」
「ぉ...ぉん....」
「俺...そこに行ったことあるっス..ヌナに連れられて....」
「ぁぁぁ....そぉ~~.....ミンギ...それはよかった...」
「ソヌ君#..全然よくない#....」
「ぁ..あのですね...たまたま見かけてですね....」
「もしかして...尾行したんスかぁ?先輩~...」
「ぅぅ~ん....」
「で...気づかれたんスね...」
「ぉ..ぉぉん...」
「ソヌ君#...ぬけがけはよくない#実によくない#」
「ぁのですね...それはですね...んーっと...」

「ミンギ君....」
「はい...監督...」
「明日のゴム技はソヌ君で行こう#...」
「了解っス#」

先輩は引きつった顔で笑いながらカツカツ歩きで店を出た...
ヌナの尾行なんて無理だ..つーの#



ミューズ オリーさん

「イ・ミンチョルです。」
僕はミューズの受付にいた。
ミューズの新しい社長に会う為に。

ミンと朝食を兼ねたランチをすませた後、僕はミューズに向かった。
ミンは先輩に会うと言って出かけて行った。
「じゃあ、後で店でね。」
「わかった。」
「大丈夫?」
「何が?」
口が裂けても大丈夫ではない、と言いたくない。
腰がまだ痛むが僕はまったく平気な顔をした。
ミンは顔を傾けて僕を見つめ嫣然と笑った。
「そう、よかった。」
猟犬はとても逞しく育ってしまった。

受付嬢は無機質な笑顔を浮かべて受話器を取り上げた。
「イ・ミンチョル様が受付にお越しです。」
受話器を置くと彼女はまた笑顔を作った。
そして右手で螺旋系の階段を示すと歌うように僕に告げた。
「社長がお会いになります。」
「どうもありがとう。」
僕も営業用の笑顔でにこやかに答えた。

僕は階段を登りはじめた。
以前来た時はマタドール嬢のため花束を持っていた。
登りつめた広い空間はガランとしていた。
マタドール嬢が好んだ派手なデコレーションは取っ払われ
意味不明に置かれたピアノ、彼女の若い頃の大きなパネルも
すでにそこにはなかった。
マタドール嬢が来たらさぞやがっかりするに違いない。

昨日ミューズを調べて驚いた。
弟が引き継いでから、ミューズは確実に傾いていた。
ヴィクトリーから有望な歌手が大量に流れたにもかかわらず、
その歌手達はほとんど残っていなかった。
セナさえも1ケ月前に移籍していた。

ソンジェがミューズでやったことがふたつある。
ひとつ目は自分を売り出すこと。
ふたつ目は父親イ・ヨンジュン氏の追悼記念CDの制作。
ヨンジュン氏が優れた作曲家であったとしても、無謀だ。
追悼記念でCDを制作するだけにしておけばよかったのに、
ソンジェは多大な経費をかけ、それをプロモートした。
自分とセットにして・・
自殺行為だ。

クビになってしかるべきかもしれない。
だがそれはある意味ラッキーと言えた。
沈みかけた船から放り出されたわけだから。
船長として沈没していく船に乗り合わせる大役はソンジェには厳しいだろう。
そしてそんなミューズを買ったヤツは、実はあまり賢いとは言えない。

唯一、狙い目はそれだけだった。
ミューズはすでに企業としては価値がない。
ただ、そんな会社を買った馬鹿ならば、
沈みかけた船から救命ボートを一台くらいちょろまかせるかも。
ソンジェにマンションをひとつ確保してやることができたら。
僕はそう思っていた。

僕は、奥に進みながら考えてきた手を復習した。
ネクタイを直し社長室のドアの前に立った。
咳払いをひとつ、そしてドアをノックした。
「どうぞ。」
若い男の声がした。
僕はドアを開け中に進んだ。
奥のデスクの向こうに窓際に向いている革張りの椅子の背もたれが見えた。
「イ・ミンチョルです。」
僕が声をかけると、その椅子がくるりと反転した。

「そろそろ来る頃だと思ってました。」
椅子に座った若い男は陽気な声を上げた。
「君は・・」
まったく予想外の人物が僕の目の前に現れた。


Lover's Room 2 ぴかろん


この一つ一つ違う椅子に座ってぇ・・一回ずつ%&$するとぉ・・

べこん☆

「ってえっ!」
「俺の椅子で変なこと考えないでよね!」
「・・」
「何!、この椅子一つ一つでえっちしようとか考えてただろ?!」
「・・」『なんでわかるの?!』
「はあっ?!・・帰ってもらおうかな!」
「・・だあって・・」
「だってじゃない!」
「・・」
「まったく!」
「すみましぇん・・」

また怒られた・・
怒ってる顔が可愛い・・くふん・・ああんどうしよう・・
なんでこんなに可愛いんだろうくふふん・・

「顔、崩れてるよ」
「あは・・」
「ねぇ、上着脱いだら?」
「・・上着だけ?」
「言うと思った!脱がなくていい!」

ああん、反応早すぎるよぉ・・
僕は素早く上着を脱ぎ、ネクタイを緩めてシャツのボタンを少しだけ開けた

「アンタとさぁ、話しようとおもうとさぁ・・すぐ変なこと考えるから話できないんだよね」
「・・考えないっ!」
「・・ウソばっかし」
「考えないよ!その代わり僕に色っぽい表情とか見せないでよね!」
「・・」
「ねね」
「見せてねぇよ!」

ああん~拗ねるその顔がもう色っぽいんだもん~・・

でも嫌われたくないから我慢しよう、こんな事考えてるなんて知られたら・・ボコボコにされる
その上きっと・・かっこ悪いと思われ・・

「ねぇ」
「はははい」
「ニヤニヤしたり深刻な顔したりする前にさ、その、思ってることみぃんな俺に伝えてくんない?でなきゃわかんないもん」
「へ?」
「アンタがどういう人なのか・・俺・・まだ全部知らないからさ・・」
「・・」
「俺も・・話すから・・・。俺、アンタのこと・・全部知りたいから・・」
「ラブ・・」
「なんか聞きたい事あるなら聞いて」
「・・パティック・フリップ・・」
「ん」
「見せて・・」

僕は一番気になってた、ラブの持ってるパティック・フリップが見たかった
僕の時計と雰囲気似てるのかな?似てるといいな

うふ・・
そしたら

ペアだもぉん

べこん☆

「ってぇっ」
「だから・・ニヤニヤする前にぃ」
「ごめんごめん・・。ラブの時計と僕の時計とさ、雰囲気が似てたらいいなぁペアっぽくなるよなぁって思ってたのくふふん」
「・・よくできました・・」
「・・」

なによそれ!
馬鹿にしてぇっ!


ラブはキッチンに向かった

「なによ、見せてくんないの?!」
「ん?見せたげるよ。こっち来て」


…こっち来て…

はあぁん
二人っきりなのに、ちょっと奥まったところでキスでもする気ぃ?ひひん

「また顔が崩れてる!変なこと考えないでよ!見せないぞ!」
「いやん、見せて見せてぇ」

お前の全てを…なんちって

べこん☆

「いたいよラブぅ…」
「…ほんっと…ばか…」

ラブはムッとした顔をしてキッチンの引き出しを開けた

「これ」
「…え?」

なんでこんなとこにパティック・フリップ?!(Patek Phillippe ref3796J cal215S 18K 手巻き)それも

「むき出しで…」
「あんま好きじゃねぇもん…」
「…オヤジさんがくれたから?」
「…違うの頼んだのにさ、これ渡された…。こんなの普段できないだろ?」
「できるよ!十分かっちりしてるじゃないか!」
「俺いつもラフでしょーが!」
「…あ…」

でもこれじゃ…

「時計が可哀相じゃないか?」
「…ん…」

あれ?素直…

「そう思ってさ…。置き場所かえよっかなと思って…」

ラブは引き出しからパティック・フリップを取り出した

「俺さ…時計も好きなの…。こいつに罪はないんだよね…」
「オヤジさんにだって罪はないだろ?こんな高価なものくださったんだぞ」
「…。あんたは平気?」
「なにが?」
「欲しいものじゃないモン貰う事…」
「僕は…プレゼントは嬉しいな。僕は何一つ望むものをもらえなかったからな…。お前は…趣味は違っても時計が欲しかったんだろ?それ、くれるなんて羨ましい」
「…ふうん…」
「お前って…こだわりが強い人なのね?」
「…そうかも…」
「椅子はアジアン、時計はこんなの、恋人は…」
「ん?」
「ぐふふ…」

べこん☆

「ぐふふって言っただけなのにいぃぃ…」
「…。くれた人の気持ちを大切にするって…俺、してなかったかな…」
「…ラブ?」
「これさ。あんま好きじゃないけど、嫌いになれないんだよな…」

ラブはその時計を愛しそうに見つめた

「そだな、可哀相だもんな。みんなのとこにいこうね」

みんなのとこ?
みんなって・・何?!

ラブは時計を持ってリビングの薬棚まで歩いていった
ひとつの引き出しを開けてそこにパティック・フリップを仕舞った

「ちょっと・・なになに・・見せてよ!」

僕は慌ててラブが締めた引き出しを開けた

「・・これ・・何?」
「コレクション入れとくとこ」
「コレ・・クション?」

その引き出しの中で、今持っていたパティック・フリップが、『サテン地のお布団にねんねさせて貰っている』状態で、一つだけ鎮座ましましていた・・

「コレクションって・・まさかこの引き出し全部に時計が?!」
「全部じゃないよ。高価だし、そんなにたくさん買えない」
「・・」
「いいものは・・五個ぐらいかなぁ・・。あとは安物だけどお気に入りのが十個ぐらい」
「・・」

目を見開いて、僕は泥棒のように次々とその小引き出しを開けてみた
いる
いるいるいる
時計様がサテン地のお座布団でくつろいでいらっしゃる(@_@;)
なんだよこれはっ!

「これなんかかわいいっしょ?へへっお気に入りなの・・。あ、これはアンタ、好きそう。30分ごとにここの絵が動くんだ、ほら」

僕に突きつけたその時計には、うっふぅぅんな女性と男性のしどけないイラストが描かれている

「こっこの絵が30分ごとに動く?!」
「貸してあげようか?どーせ全部の絵、見たいんでしょ?」
「かかか貸してって・・こここ高価なんだろっ?!いいよっ!ここにいる間に全部見るから!」
「・・そんなに長い事いるつもりなの?」
「・・だめ?」
「だめ!」
「・・けちぃ・・」

そのあともラブの時計コレクションの話を聞かされ続け、僕はラブの意外な一面を、たくさん見せてもらったのだった・・
しどけない二人の姿が、二度、変わった・・

※ 時計協力・・闇夜(^^;;)



ノーマルな人々  びょんきちさん

僕、ドンヒです。最近ちょっと混乱気味
一般常識でいえば、恋愛も結婚も男と女がするもんだよね
男と男が愛しあうって、ごく少数だよね。普通はさ
でも、僕の周りではそれが完全に逆転しているんだ

BHCで働くようになって驚いた
店のみんながあっちこっちでチュウチュウやってる
恋の鞘当て合戦も日夜勃発している

んでもって、ノーマルな僕も感染しそうで怖いんだ
なんだか最近ホンピョのこと愛おしくってたまらない
この感情はなんなんだろう。やばいよな

そういえば、オーナーが「新人育成カリキュラム」を企画したらしい
なぜか濡れ場が多いの。オーナーって何考えてるのかな。見当がつかないよ

でも、よかった。もしホンピョとの濡れ場のシーンがあったらどうしようかと思ってた
だって本気になっちゃったらまずいじゃん。って僕、何言ってるんだろう

そうだ。ホンピョに誘われてた海水浴、行ってみようかな
テプンとかジュンホとかみんなノーマルだしさ
たまには、ノーマルチームだけで友好を温めたいしな
ノーマルで健全な肉体にこそ健全な魂が宿るのだ!
だよね。たぶん


俺、ホンピョ。最近ちょっと混乱気味
この間寝ぼけちゃってよ。んで、母ちゃんと間違えちゃってよ
ドンヒの乳首をチュウチュウしっちゃったんだよな

ほんでもって、店にドンヒの昔の女が来やがってよう
いちゃいちゃするもんだから、追い出してやったんだ
でも、なんで俺、あんなに怒ったんだろう。嫉妬したんだろう
自分でもよくわかんないんだ。あの感情なんだったんだろう

もちろん、俺はノーマルさ。男には興味はない
BHCの先輩達は男同士で恋愛してるけど。絶対女のほうがいいに決まってるよな

そうそう、この間チーフに呼び出されたんだ
ちょっと怒られたけど、僕のこと「期待してる」って言ってくれた

なんか、俺、チーフの目に見つめられるとクラクラしちゃってさ
心臓ドキドキしちゃってさ。一瞬抱かれてもいいかも、とか思っちゃった
でも、すぐに我に帰ったさ。俺にはドンヒがいるもん!

って俺なに言ってるんだ。ドンヒは単なる同僚じゃないか
やばいな、俺も先輩達から感染しちゃったのかな。どないしょ
そうだ。ジュンホが言ってた海水浴に行かなくっちゃな

テプン、ジュンホ、ドンヒ、俺、ノーマルチームで楽しく遊ぼう
そうすれば、変な気持ちなんか吹っ飛ぶさ! ノーマル万歳!









十字架6 れいんさん

その男は僕の言葉には耳を貸そうともしなかった
そして、はだけた胸元から手を滑り込ませ、僕の体を愛撫した
無意識に僕は男の手首を掴んだ
抗おうとした僕は、いとも簡単に男にねじ伏せられた
逆に、男は、僕の手首を押さえつけ、僕の上にのしかかった
身動きが…とれない…

僕の唇は、その男に荒々しく塞がれた
僕は激しく顔を左右に振り、抵抗を試みた
でも僕は男に組み伏せられたまま、逃れる事ができなかった
唇は乱暴に吸われ、こじ開けられたその隙間から舌をねじ込まれた


薄汚い部屋
安っぽい酒の匂い
見知らぬ男の体臭
くぐもった笑い声
僕の体を撫で回す、下品な指先
男の荒い息遣い…


僕はなぜこんな事を…
こんな汚らわしい男の誘いにのって…
僕はこのまま、この男に…


嫌だ!そんなの嫌だ…!
この男は僕が求めている男じゃない
僕が求めているのは…


テジンさん…
ああ、テジンさん…
助けて…
お願いだから…
僕を助けて…!


彼と愛し合った時が蘇る
愛しい彼の顔が、優しい彼の声が…
僕を優しく導く指先が…


テジンさん…
僕の体に触れていいのは…
テジンさん…あなただけだ…!


「い…やだ!離せ…!」

僕はその男の肩を掴み、引き離そうとした
その瞬間、僕の頬に激痛が走った

男が僕の頬を殴ったのだ

「今さら何を言ってる!誘ったのはおまえの方だろ?」

男は何度も僕を殴った
痛みで気が遠くなりそうだった

「痛い目に遭いたくなかったら大人しくしてろ!本当はおまえもこうしてほしいんだろ?」


男は汚い言葉を僕に投げつけ、シャツのボタンを引きちぎった
そして露わになった僕の肌にむしゃぶりついた
僕の体の自由を奪い、執拗に舌を這わせる
ベルトに手がかかり、男の手が僕の中心を捉えた
男は僕のそれを弄び始めた
手や口で僕を汚そうとする


「やめ…ろ!…僕に触るな…!」


僕は渾身の力を込めてその男をつきとばした
男が床に転がり落ちる鈍い音が聞こえた
僕はそのまま駆け出し、部屋の扉を開け放した
無我夢中で走る僕に、男の罵声が遠く聞こえた



雨が降りしきる中、僕が辿りついたのは、彼と過ごしたあの家だった
閉ざされた門の前で立ちすくんでいた
足がすくんで動けない…
庭の野花たちが無残に雨にうたれているのが見えた


顔を上げて、家の灯りを確かめるのが怖かった
彼が戻ってきていなかったら…
そう思うと胸が締め付けられる
もし、そこに彼がいたとしたら…
ひと目だけでも彼を見たいと思う気持ちと、彼と会うのが怖いと思う気持ちと…
僕は混乱しそうになる…
どちらにしても、僕の目の前には辛い現実がある
そして今、それを確かめなければならなかった
僕は心を決め、顔を上げた


十字架7 れいんさん

窓の灯りはついていなかった
やはり彼は帰っていない…
もう、ここには戻らないつもりなんだ…
彼は僕の事など…もう…


僕は絶望し、立ち尽くしたまま、激しい雨に打たれていた
寂しくて…
悲しくて…


思わず顔を背けたその時に、少し離れたアトリエに小さな灯りが見えた

彼が…
彼がいる…
彼が戻って来ている…
彼に…会いたい…!


無意識に門を開け、僕の足はアトリエに向かった
アトリエの扉は開いていた
小さくゆらめく灯りが、ぼんやりと彼を照らしている
彼は背を向けて座っていた
両手をだらりと垂らして、力なく椅子の背にもたれかかっていた
簡単に手を伸ばす事ができたはずのその背中も、今はもう届かない気がする
僕は彼の背中をずっと見つめていた
溢れる涙が、降りしきる雨に流されていく


彼がゆっくりと振り返り、僕に視線を止めた
彼が立ち上がったと同時に、腰掛けていた椅子が転がった


厳しい顔をして僕に駆け寄る彼
また…残酷な言葉を浴びせられるのだろうか…
…それでもいい…
彼の声を聞けたなら…それでいい…


彼は僕の腕を痛い程に掴み、声を荒げて言った

「どこに行ってたんだ!こんなに濡れて…!
その顔はどうした!その服はいったい…!
…誰にやられた!何があった!答えろよ!スハ!スハ!」

彼は僕を激しく揺さぶり、息つく間もない程まくしたてた

「誰がこんな事を…!いったい誰が…こんな!」
「テジンさん…」
「スハをこんな目に遭わせた奴は…僕が…僕が…ただじゃおかない!」

彼の目に激しい怒りが宿る

「テジンさん…いいんです。僕が…悪かったんですから…」


雨にうたれてずぶ濡れの僕
シャツのボタンは引きちぎられ、肌が露わになっていた
今頃になって、殴られた頬が痛みだす
僕は痛む頬をそっと撫でた


テジンさん…
僕の事、心配してくれているの?
僕の事、まだ好きでいてくれたの?

こんな風に取り乱している彼を見たのは初めてだった

「テジンさん…僕…僕…」

彼は自分のシャツを脱いで、僕の肩にふわりとかけた
彼の香りが懐かしかった
僕は彼の胸に顔を埋めた
彼は優しく抱きしめてくれた
温かくて…
嬉しくて…


途端に体の力が抜けていく
彼は僕を抱きとめたまま、その場に崩れ落ち、膝をついた
冷たい雨にうたれながら、僕達はそのまま抱きしめ合っていた



どのくらいそうしていただろう
彼は僕を抱きかかえながら家に入った
タオルと着替えを差し出して、僕をソファに座らせた
彼が淹れてくれた熱いコーヒーに口をつけて、僕は話はじめた
病院まで行ってしまった事
飲めない酒をあおった事
見知らぬ男に抱かれそうになった事…

そこまで話した時、僕はふいに抱きすくめられた

「もういい…何も話さなくていい…」
「…僕を…許してくれるのですか?」
僕の声は、多分震えていただろう

「許しを請うのは僕の方だ。おまえを不安にさせて…追い詰めて…だからこんな事に…」
「違います!悪いのは僕です」
「僕は…おまえを苦しめてる自分が許せなかった。おまえを不幸にしたくなかった」
「どうして…?あなたの傍にいるのが僕の幸せだと、前にもそう言ったはずです」
「…僕達は互いに守っていかなければならないものがある。
これから先、二人で生きていっても、僕はおまえに、何も形あるものを残してやる事ができない…」
「形あるものなんて何もいらない。何と引きかえにしても…僕はあなたを…」
「…スハ」
「テジンさん…」
「…ありがとう…スハ…」


僕は彼の胸で泣いた
声をあげて子供の様に泣きじゃくった
あなたのところに戻ってきてもよかったのですね?
僕を愛してくれているのですね?
僕が息をできるのはここしかないのです…


彼は僕を抱きしめ、いつまでも髪を撫で続けた



ようやく僕が落ち着きを取り戻した頃、彼は僕の額にそっとキスを落とし、そして、小さな箱を差し出した


「これは?」
「開けてみて」


美しく装飾してある包みを解いて箱を開けた
中には銀色に輝くペンダントがあった
銀の細工を施した十字架のペンダント…
細身のチェーンがよく似合う
シンプルな十字架のペンダントトップには、繊細なすみれの花模様があしらってあった


「僕から…スハに…」
「十字架…?」
「うん…僕達が背負い続けながら、共に生きていける様に…」


僕はその時、彼の指に巻いてある包帯のわけに気づいた

「このケガ…もしかして…これを作っていて…?」
「ははは…ちょっと腕が鈍ったのかな。二つ作っていて…」


忙しそうにしていたあの時…
ほとんど寝ていなかったのに…
このペンダントを…
彼は…僕のために…


僕はそのペンダントを握り締めた


「嬉しくて…言葉が見つかりません…」
「…僕と一緒に…生きてくれるか…?」


僕は何度も何度も頷いた
涙がとめどなく溢れた
彼は僕をそっと抱き寄せて言った


「愛してる…」


彼の手が僕の頬を包み、そして僕達は長い長い口づけを交わした



替え歌 「I LOVE YOU」 by テジン ロージーさん

I love you もう何も話さないで 聞きたくないよ
I love you 迷いながら辿り着いた この愛
何もかも許された恋じゃないから
二人はまるで捨て猫みたい
この部屋は雨に打たれてる空き箱みたい
だからおまえは子猫のような鳴き声で

傷だらけの心と優しさ持ちより
きつく躰 抱きしめあえば
それからまた二人は目を閉じるよ
悲しい歌に 愛が毀れてしまわぬように


I love you 身勝手な二人の愛だと わかっているけれど
I love you おまえと別れられない 放したくない
何もかも許された恋じゃないから
しあわせ夢見てはいけないのかな
何度も愛してるって聞くおまえは
この愛なしでは生きてさえゆけないと

傷だらけの心と優しさ持ちより
きつく躰 抱きしめあえば
それからまた二人は目を閉じるよ
悲しい歌に 愛が毀れてしまわぬように

それからまた二人は目を閉じるよ
悲しい歌に 愛が毀れてしまわぬように


(尾崎豊『I LOVE YOU』)







© Rakuten Group, Inc.