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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 124

アフェクション  オリーさん

どうやってスヒョンに切り出そうか、僕は朝からずっと考えていた。
スヒョンが忙しいのはわかってる。
顔が広いからあちらこちらで声がかかるだろう。
でも、スヒョンしかいない。
イナはまだ落ち着かないし、落ち着いたとしてもオールインがある。
とにかく会わないと、できれば店でない方がいい。

携帯に手を伸ばそうとした瞬間、携帯が鳴った。
「ミンチョルです。」
「僕だ、ミンチョル。」
「スヒョン、ちょうどよかった・・」
「今日、もしかしたら店に遅れるかもしれない。」
「え?」
「多分大丈夫なんだが、念のため連絡しておく。」
「そうか。」
「ドンジュンのつきそいで出かけるんだ。あいつの昔の会社、自動車会社だよ。
何やらお偉いさんに呼ばれてるらしいんだ。ほら、あいつ優秀なカーデザイナーだったじゃない。
僕は行く気がなかったんだけど、一緒に来てくれって言われてね。保護者の気分で行って来るよ。」
「わかった。」

いつになく雄弁なスヒョンだった。
自分の事だけ一方的に話すのも珍しい。
いつも必ず、そっちはどうだ?と一言あるのに。
軽い違和感を覚え僕は携帯を置いた。

「スヒョンさんと連絡取れたの?」
書斎でパソコンとにらめっこしていたミンが戻ってきた。
「今日は都合が悪いらしい。ドンジュンの昔の会社に行くって。」
「そうなの。じゃあやっぱり昨日彼女とは会ったんだ。」
「彼女って誰?」
「ドンジュンさんの昔の彼女。手紙が来たって言ってたけど、昨日資料を持ってたみたいだったから。」
「そうだったのか。それで早速会社へ見学か。ふうん・・」
「スヒョンさんも映画の話があったらしいよ。」
「スヒョンが映画?」
「そう。濡れ場があるってドンジュンさんがやきもきしてたけど、それは断わったみたい。」
「そうか。」
やはり、色々忙しそうだな。

「ねえ、お昼どうする?」
「そうだな、パスタでも食べに行こうか。」
「いいね。ついでにちょっと買い物もしよう。」
そんなわけで僕とミンは昼から出かけた。
イタリアンカフェでパスタとワインを少し飲んでから、買い物もした。
ミンは最後のサマーセールだと言って、ボロシャツとTシャツを何枚か買った。
丁寧に僕の分まで選んでくれた。

「これが運動する時に着るTシャツでこっちが休みの日に着るポロね。」
いちいち僕の身体に当てては説明してくれる。
「そんなに必要ないよ。」
「安いんだから買っておこうよ。どうしても気に入らなかったら、兄さんに売りつけよう。」
「ひどいな。兄さんにも買ってやったらどうだ。」
「あの人は趣味がうるさいから、下手なことしない方がいいの。」
「そう・・か。」

今朝からミンの目に新しい光が灯った。
研ぎ澄まされた刃物のような鋭さが少し影をひそめ、
暖かく穏やかなまなざしが見え隠れする。
僕は首をかしげ、そんなミンを見つめていた。
「何、見とれてるの?」
「あ、いや。」
「いい男でしょ。」
「誰が?」
「僕。」
「確かにこの僕がまいるくらいだから、いい男でないと。」
「そうだよね。」
昼の陽射しが四方から差し込む明るい店の中で、ミンは思い切り眩しく笑った。
まるで向日葵のように。
その笑顔を見ているだけで僕の心が暖かく満たされていくのがわかった。

店から出るともうかなりいい時間になっていた。
「そろそろ帰って支度しないとまずい。」
「ほんとだ。結構時間食っちゃったね。」
「急ごう。」
歩き出した僕をミンが呼び止めた。
「ちょっと待って。」
「何?」
振り向いた僕を、紙袋を下げたミンの両手が包んだ。
ショッピングモールのどまん中、しかも人通りの多い午後の時間。

「何するんだ、こんな目立つ所で。」
僕は人目を気にした。
「いいから。」
ミンはかまわず僕をきつく抱きしめた。
「何があっても僕はそばにいるから大丈夫だよ。ハンドレッドパーセントオンユアサイドだから。」
「ミン・・」

「僕も愛してるから。すっごく愛してるから。」
ありがとう・・
僕もミンの背中に腕を回した。

店に入ると、遅れるかもしれないと言っていたスヒョンがいた。
控え室の片隅で何やら本を読んでいる、黒ブチのメガネつき。
僕は声をかけて、話があるので近いうちに時間を取ってほしいと頼んだ。
スヒョンは読んでいた本を静かに閉じると、いいよと柔らかく微笑んだ。
「メガネ似合ってるよ。少しはインテリに見える。」
「惚れ直したか。」
いつもと変わらないスヒョンだった。


海へ 4 ぴかろん

冷たい感触が俺の唇を捉えた
目を開けると三人が俺を覗き込んでいる

「あ、起きた。テジュンさん、ほら!」
「イナ、アイスキャンデーだよん」
「やめなよ…二人とも…」

ん?なんだ?アイス?冷たい…甘くて美味しい

俺は仰向けに寝そべったまま唇に当てられたアイスキャンディーをかりっと噛んだ

なんだかテジュンとギョンジンが意味ありげな瞳を見交わしている
口元が緩んでいるようにも感じる…
ラブは

「悪趣味…」

と言ってそっぽを向いている

「美味しい?」
「ん…おいしい」
「もっと…ほしい?」
「ん…ほしい」
「「…でへへへへっ…」」
「?」

二人は俺の唇にそのアイスキャンディーを触れさせて食べさせてくれている…
なんで俺に渡してくれないのか…
カリっと噛んで、まだ口の中にアイスが残っているのに、こいつら俺の口にそのアイス棒を押し付けてくる
仕方なくまた口を開けると

「「…でへへへっ」」とか「「もう少し…あーん」」とか「「この辺までかぷっと…でへへへっ」」とか…
なんかヘンなのである…

「もうっ自分で食べる!」

とその棒をひったくり、ぺろぺろ舐めてたり溶けてきたとこを吸ったりしてたら…
じいいいっと…二人が俺の口元を見つめて…生唾を飲み込んだりしている…

「ほしいの?」
「「あうっ…ほ…ほしい…ような…はふっ…」」
「へんなの…」
「「あ、ほら。溶けちゃうよ。舐めて舐めてぐふっ」」

背を向けているラブが体を揺らしている
笑ってるのか?

「もう…やめなよ…すけべじじい…」
「「しいっ!」」

へーんなの!俺はアイスを平らげて、棒を咥えて上下に振った

「「ああっ!そんなっ!あああっ」」

ばこ☆

とうとう二人はラブに殴られた

「ああんラブぅ!こんやあれ…してぇぇん」

べきいっ☆

「ばかっ!」



いやらしい意味だったんだろう…
えーと…んーと…はっ…ましゃか…

俺はテジュンを睨みつけた
テジュンはでへへへっと笑って俺の唇にちゅっとキスした

「好きだよ、イナ」

そう言って本格的にキスをする
甘い…アイスキャンディーの味がのこってる

「きもちいい…」
「テジュン…」
「ん?」
「さっきやらしいこと考えてたんだろ!ギョンジンとさぁっ!」
「…」
「ぶぁかっ!」
「クフフ…」

クスクス笑ってもう一度キスするテジュン…
強烈な日差しを、避けているのに、とても…眩しい…


ラブとギョンジンはボディボードとやらをやると言って、インストラクターに講習を受けている
少し深いところまで行ってボードに寝そべり、波を待つ
波が来たら少しぱたぱたと漕ぐのかな?
ふんわりと波に乗り、浜辺に着く
それを何度も繰り返している

二人とも無邪気な笑顔で波乗りを楽しんでいる

「僕達もやる?」
「…いい…怖いもん…」
「…そか…」

テジュンと寝そべってぼんやりと二人を見ていた
やがて講習は終わり、二人はそれぞれボードに乗り、それぞれが浜にうちあげられていた

そのうちギョンジンがボードを俺たちのところに置きにきた

「テジュンさんもやれば?そっちの野良猫は絶対やんないだろうし…。簡単だよ」
「ああ…やったことある…」
「ほんと?なんだ!じゃ、これ使って」
「え?でも君は?」
「…いひひん…」

ギョンジンはスケベそうな笑いを残してラブのところへ走っていった

「あいつ何すると思う?」
「ラブをボードに乗っけて、その上から覆いかぶさるんじゃないの?」
「…やっぱり…」

そうだった…
ラブは嬉しそうにきゃーきゃー言ってるけど、その上にのっかるギョンジンは…邪悪なすけべ顔でラブの肩や背中に吸い付いたりなんかしている…
すけべ…

「どういう奴なんだよ、あいつは…」
「ああいう奴らしいよ、もともと…」
「…ラブが言ってたの?」
「…うん…」

ラブと…何を話したの?

また嫉妬が頭をもたげる

お前達、寄り添わなかった?俺の錯覚?
いいじゃん、俺だってギョンジンとキスしたもん…
別に…したくなかったけど…したもん…

「イナ、僕達もやってみようよ」
「いやだよ!」
「僕がついてるのに?」
「ひっくり返ったら溺れる!」
「助けてやる」
「いやだ!」
「…なんだよぉ…ギョンジンのいう事は聞くくせに…」
「…だぁって…お前…心配だもん…」
「なにがっ!」
「ギョンジンは…鍛えてるからさぁ…。スポーツ万能だしさぁ…」
「ふんっ!」

あ…テジュンがちっと本気で怒ってる…
やだもん…怖いもん…

拗ねて俯いていたらテジュンが立ち上がり、俺の腕をひっぱった

「来いよ」
「やだっ!」
「これに乗っかって浮いてるだけでいいよ」
「こわい!」
「…おいで…」
「…」

優しく微笑んで手を差し伸べるテジュンに俺はやっぱりついていった

ぷかぷかと浮ぶだけのつもりが、テジュンに騙され、何度か波に乗らされた
怖かったけど転覆しなかった
ラブとギョンジンのように、テジュンも俺の上にのっかり、二人で波に乗った

気持ちよかった
一人で流されるより安心できた…

テジュンももしかして…すけべな顔になってるの?

ちょっとその顔を見たくなって、すこしだけからだを傾けた
途端に水に放り出される俺

テジュンが俺を抱きとめ、水中で唇を塞ぐ…
水面に出てからも離れない…
人が見てるのに…

俺はテジュンに抱きしめられている
テジュン…


波打ち際にテジュンが座り、その足の間に俺を寝そべらせる

「なんか…変なこと考えてねぇか?」

ぱしん☆

頭を叩かれた

「いいから、砂の敷布団と、僕の太腿枕と、波のお布団とを被って、空を見てごらんよ」
「は?」
「そのまま、空を見ててごらんってこと!」
「…はい…」

そのまま仰向けに寝そべっていると、打ち寄せる波が俺の首のところまで海水を運んでくる
ああ…波の布団ね…

そして青空…

ちっぽけな俺が
海と空と大地とそしてテジュンに包まれている…
何度も波の布団を取り替えているうちに
俺の目にも海ができた
ぽろぽろと零れる涙…
海なんか嫌いだった…

ありがと…テジュン
ありがと…ギョンジン

海が嫌いじゃなくなった…

ラブ…
ちゃんと話したい
前みたいに普通にお前と話したいよラブ…

「テジュン…」
「俺、浮けるようになったよな…」
「ああ」
「泳げるかな…」
「ああ、練習すればな…」
「泳ぎたい…俺…泳ぎたいよテジュン…」
「…イナ…」


『でもさっ!浮かなきゃ泳げないんだろ?』
『…そうだよ、イナ』

唐突に甦るギョンジンの声
俺の言ったあの言葉…

浮かなきゃ泳げない…
それは…
ギョンジン…それは…
お前…

ギョンジンの言葉の意味を、俺はようやく理解できた…
俺だけが泳ぎだせずに留まっている…
みんなが先で待ってくれてるっていうのに…


涙が溢れて止まらなくなった
俺はしゃくり上げて泣いた
なんて幸せな俺…
こんなにも俺を思ってくれる人たちに囲まれて

なのになんて馬鹿な俺…
いつまでもこんなとこに佇んでいて…

なあ
浮かび上がりたいんだ…
浮きたいんだ俺…
どうしたら浮かび上がれるの?!
どうしたら心の枷が外れるの?!

「泳ぎたいよ…泳ぎ着きたいんだよテジュン!テジュン!」

俺の叫びをテジュンはまるごと抱きしめてくれた…


まどろみの中で(イナ) びょんきちさん

疑ってばかりいた俺 
信じることを知らなかった俺
傷つくことを恐れていた俺
愛する者から目をそらしていた俺

ちっぽけな心の小宇宙で
怒りや苛立ちは爆発し
粉々に飛び散ったかけらは 
心を突き刺し血を流す
そんなどん底の俺だったのに…

俺 海の底を見たよ 海から空を見たよ
大きく目を見開いて 閉じていた心を開いて
大きな海に包まれた 海の懐にすっぽり抱かれた

ああ こんなにも俺は愛されていたんだ
ギョンジン ラブ テジュン
ごめん ごめん やっとわかったよ俺 

今日は明日になり 明日は今日になる
くりかえしくりかえすことで 人は生きている
そこで出会った者に支えられて人は生きている

まどろみの中で おまえの鼓動を感じる俺
おまえの腕の中で 赤ん坊のように眠る俺
もう少し眠らせて もう少しこのままでいさせて
テジュン 愛してる 愛してるから


替え歌 「TOMORROW」 ロージーさん

  涙の数だけ強くなろうよ
    アスファルトに咲く花のように
  見るものすべてに怯えないで
    あしたは来るよ君のために

  突然あふれる涙 すぐには止まらないよね
  慌(アワ)ててジョークにしても その笑顔が悲しい
  見上げてごらん ほら青い空
  抱きしめてる悲しみとか 疑いとか
  捨てたらまた いいことあるから

  涙の数だけ強くなろうよ
    アスファルトに咲く花のように
  見るものすべてに怯えないで
    あしたは来るよ君のために

  季節を忘れるくらい いろんなことがあったけど
  二人でただ歩いてく それが何より大事
  元気だそうよ だけど時には
  重い荷物放り投げて 泣いてもいいよ
  付きあうから カッコつけないで

  涙の数だけ強くなろうよ
    風に揺れている花のように
  自分をそのまま信じていてね
    あしたは来るよどんな時も


  涙の数だけ強くなろうよ
    アスファルトに咲く花のように
  見るものすべてに怯えないで
    あしたは来るよ君のために
  涙の数だけ強くなれるよ
    風に揺れている花のように
  自分をそのまま信じていてね
    あしたは来るよどんな時も
  あしたは来るよ 君のために

  (岡本真夜『TOMORROW』)


行き場のない風  足バンさん

スヒョンを置いてきぼりにしたものの行くあてもなくて
結局オフィス街に囲まれた大きな公園でぼんやりとした。

ベンチで身体を伸ばし目を閉じて
夏の風にしゃらしゃらと揺れる木々と踊る木漏れ日に身を任せた。

スヒョンが悪いわけじゃないのはわかってる。
ギスの会社まで行ってくれたのに悪いことをしたとも思った。
でもスヒョンがいつもと違って見えて…

楽しそうな嬌声に目を開けると
噴水のまわりの子供達が風に運ばれるしぶきと戯れていた。
水に片足を突っ込んだ弟に兄が笑いながら手を貸している。

ドンソク…
僕は唐突に弟のことを思い出し何も考えずに携帯を取り出した。
ずいぶんコールした後ドンソクは出てくれた。
何となく繋がらないような気がしてたから嬉しかった。

「兄貴?どうしたんだ?いきなり」
「元気?」
「うん祭の後ちょっと放浪してる」
「そっか…」
「なんだよ。どうしたんだよ。また恋の悩みか?」
「ばーか」

僕は手短かに今回の事情を話した。

「どう思う?」
「どうって…兄貴の自由だよ。やりたいようにしてみたら」
「どうしたいのか自分でもよくわからないんだ」
「彼は何て言ってるんだ?」
「うん…まだちゃんとは…」
「きっちり話さなきゃダメだぞ。こじれても俺面倒みないよ」
「生意気なこと言うようになったな」
「兄貴はいつもとことんやってみるんだろう?とことん考えてみろよ」
「うん…そうだね」
「兄貴の選んだ道なら俺はいつでも応援するから」
「そうか…ありがと」
「いつになっても世話のやけるやつだ」
「ふん、兄貴を何だと思ってるんだ」
「がんばれよ」
「ん…」

昔散々世話をやかされた生意気坊主のあったかい声に
僕の気分は少し落ち着いた。

出勤時間までぶらぶらした。
何気なく本屋を覗いてみたりしたけどスヒョンの姿はなかった。
僕は何十回もため息をついて重い気分のまま店に向かった。

ドアの外で深呼吸をして中に入ると
思いがけずいきなりジュンホ君とスヒョクさんに掴まった。

「あ、来た来た!ドンジュン!ちょっと」
「何ですか?」
「今度休みをとって釣りに行こうって話しが出てるんだけどどう?」
「スヒョンさんといっしょにいきませんか?」
「釣り?」
「ソクさん結構うまいらしくって。ジュンホ君の知ってる穴場に行こうって」
「僕…ちょっと今忙しくて予定立たないかも」
「そうですか…」
「何で僕たち?」
「ジュン君が車好きだからね、どうかなって」
「ああそうか」
「じゃよていがきまったらおしえますね」
「了解」
「無理は言わないからね」
「あの…スヒョン来てる?」
「ああさっき控え室にいたけど」
「そう…どうも」

ジュンホ君達は楽しそうに奥に行ってしまった。

僕は控え室の前でまた深呼吸をした。
とりあえずスヒョンに謝らなきゃいけないと思って少し緊張して。

でもドアを開けると
そんな気持ちはどこかへすっ飛んだ。

部屋の隅でスヒョンとミンチョルさんが笑ってた。
スヒョンは座って足を組み本を膝にのせて。
ミンチョルさんはそのすぐ前でポケットに手を入れて立って。
なぜかとても穏やかな風景に思えた。

僕が入るとふたり同時に振り向き
スヒョンはすっと真顔になって黒い眼鏡をはずした。

そして。
僕の口はその瞬間まで全く言うつもりのなかった言葉を吐いた。

「どうぞそのままで。スヒョン今日はありがと。あとは僕がひとりで考えるからご心配なく」

僕はできるだけ静かにドアを閉めたけど
廊下を踏み出した足は不必要に大きな音を立てていた。

ちょうど店内側から出てきたギョンビンが驚いた顔で見た。

「どうかしたんですか?」
「ギョンビン…」
「ドンジュンさん?」
「…ね…今夜つきあってよ…」

ギョンビンは僕の顔を探るように見て微笑むと
小さく何度も頷いてくれた。


水の中 1 ぴかろん

日差しが傾く頃、俺達はコテージに戻り、火照った体を冷たいシャワーで冷やした
ラブとギョンジンは何やってるか知らないけど、俺達は、順番に、一人ずつシャワーを浴びた…

その日の夕食はコテージで食べる事にした
ケータリングのピザと、酒と、それからパスタだって…

「おいしーの作ってやるから!」

相変わらずハイテンションのギョンジンが、物凄く張り切っている
四人で買い物に出た

「イナとテジュンさんはお酒、調達してね。僕達、食材買いますから。んじゃ、三十分後に3番レジで…。いってきまぁす」

ちゃっちゃと段取りを決め、さっさと動くギョンジンは…カッコイイといえばカッコイイのだろう…
でも、ラブに絡みつく後姿を見ていると…かっこいいのか悪いのか、解らなくなる

「お酒、何がいいかな…」
「テジュンの好きなのにすれば?」
「…ゆっくり飲むものがいいんだろうな…。やっぱ…バーボンにしよっかなぁ…」

祭んときにドンジュンとギョンビンが持ってたバラの花の絵が描いてある瓶を、遠い目で見つめているテジュン

「それ…美味しかったの?」

俺はその瞳の奥にいるラブを、また見つけてしまう…

「ん、口当たりも香りもよくて、飲みやすい…美味しいよ」
「…」
「気持ちも解れる…」
「解れたんだ…」
「え?」
「…」

どうして浮びあがれない?
その術は海の中で得ることができたってのに…

「お前は何が飲みたいの?」
「別に…なんだってかまわない…こだわりなんかないから…」

吐き捨てるようなセリフだ…
テジュンに当たっても仕方ないのに…

「なにを苛立ってるの?」
「別に!」
「イナ…」

困った顔をして俺を覗き込むテジュンに、俺は思いをぶつけてしまった

「それ飲んで和んで抱いたのかよ!」

テジュンは驚いた顔で俺を見つめた
言ってしまってから後悔する…
また海中に逆戻りだ…

この海は水面が何かに覆われてるのか?
どうしてあと一歩が届かないんだろう…
何が俺の足を引っ張っているんだ…

見たわけでもないテジュンとラブのもつれ合う姿が俺の心を蝕んでいく
戻っちゃだめだ…

目を閉じてテジュンに謝ろうとしたとき、テジュンが静かに言った

「これを飲んで和んで…抱いた!これでいいのか!」

目を開けると赤い目をした悲しそうな顔のテジュンが見えた
謝罪の言葉を呑み込んでしまった…

「お気に召さないようだから違う物に変えよう!」

テジュンは怒りを露わにした

「テジュン、ごめん俺…」
「お前だけが感情を持ってるんじゃない!僕にだって感情がある!どうして引き戻そうとするの!僕はお前の側にいるのに!」

真っ直ぐ俺を見てテジュンはそう言った

「だってお前はこれからもずっとラブを愛していくって言った!ずっと一生心の中で…」

テジュンは俺の言葉を皆まで聞かず、バランタインを掴んでカートに入れ、他の酒を物色しだした

「これも!これも入れようか!これもだ!僕とラブが愛し合った時に飲んで酔って和んだ酒だ!」
「ごめん…テジュンごめんなさい…」

足元を見つめるとラブとテジュンが幸せそうに微笑みあいながら一つになっている姿が浮んだ
俺はぽとぽとと涙を落とした

テジュンは黙ってカートを押し、つまみになるようなものを探し始めた
その後を黙りこくって俺はついていった



約束の時間に指定のレジに向かう
俺達はあれから一言も口をきいていない

昼間、解りかけてようやく完成しそうだったパーツを、俺は自分でまた分解してしまった

レジを終えるとギョンジンが俺に声をかけた

「また沈んでる…。海の底がそんなに気に入った?」

顔は見なくてもわかる…微笑みながら瞳が怒っているんだ…

「さっ帰ろうよ。僕の美味しいパスタでみんなを元気にしちゃうよっひひん」

ギョンジンはハイテンションで車に戻った
ラブは俺達の空気を読んで、静かにしていた…



コテージに戻ると、ラブとギョンジンが夕飯を作ると言って俺たちをテラスに追い出した

「そこでキスでもえっちでもとっくみあいでも仲直りでも何でもしてて」

そう言ってギョンジンはテラスの戸の鍵をかけた
テジュンと放り出された俺は、俯いてそこにあるチェアに座った

「…イナ…。僕の心の中にはラブがいるよ。確かにいる。でも僕が今、愛してるのは…お前なんだ…」
「…無理しなくていい」
「なんでわかんないの?!そりゃ、僕はあの時ラブと愛し合ったよ。ラブに恋してた。でも…それはもう終わったんだ!」
「終わったって…心の中に生きてるんでしょ?」
「…。お前の心の中には、そんな人、いないの?」
「…」
「昔、愛した人は?心の中で生きてないの?」
「…」
「本当に泳ぎたいの?!」
「…泳ぎたい…」
「浮き上がりたいの?」
「ああ」
「力を抜いている?自分がどういう状態だか解ってる?」
「ああ!みんなに迷惑かけて我儘言って、どうしょうもない状態だってことぐらい知ってるさ!」
「…」
「どうしてラブとお前に囚われるんだろう…。俺の気持ちには関係ないのに…どうしてお前達のとこに行けないんだろう…力抜きたいのに…どうすればいいのかてんでわかんない!」
「イナ」
「投げ出したい。もうどうでもいい。別れれば済む…そんな風に思ってしまう…そんなことできないのに…」

テジュンは、黙って俺の肩を抱いた

「解るよ…」
「解る?!」
「…そんな気持ちに僕もなったことがあるからな…。お前のせいで…」
「…」
「キスだけじゃんって思ってるんだろ?…今は平気になったさ…。けどソクとお前がキスしまくってた頃、僕がどんな気持ちでいたか…解る?」
「…許してくれてたじゃん…」
「どういう気持ちで許してたか…解る?」
「解んない…」
「別れたくなかった。そしたら許しちゃうほかないじゃん…。そんな…諦めた気持ちだったな…」
「俺にも諦めろっていうの?!」
「…そんな事は言わない…。でも、僕はお前のもとに戻ってきた。その事をちゃんと見てくれないか」
「…見てるよ。解ってるよ。俺が踏み出せば全部うまくいく事も、頭では解ってるんだ!」

なのに体が動かない…
同じところをグルグル回っているだけだ…


Life Saver  ぴかろん

「そろそろ二人を呼んで来てくれる?」
「はぁい」
「あっちょっと待ってラブ」
「ん?なぁに?」
「ちっと味見して」

ちゅるるっ

「ん、美味しいじゃん!」
「…」
「…美味しいよ、ギョンジ…んむむっ…」

はむはむはむはむ

「ぶはっ!もうっ!」
「たまんなぁぃっ!」
「ばかっ!」
「…呼んで来て、あの深刻な馬鹿二人」
「…ん…」

馬鹿はどっちだ…なんて思いながらテラスの鍵をあけ、二人に声をかけようとした
イナさんの泣き声が耳に飛び込んできた

「動けねぇんだ…どうしてもっ。これ以上先に進めねぇんだ!ドアが…開かない…開かない…」

俺は声をかけられずにギョンジンのところへ戻った

「どした?」

ギョンジンの顔を見て、笑って「声かけにくくってさぁ」と言おうと思った
出てきたのは涙で、言葉じゃなかった




口元を押えて目を潤ませるラブを僕は抱きしめた
僕の胸で耐えていた涙を溢れさせるラブ

「俺が…俺が…うまく回ってた歯車を…壊しちゃったんだよ…俺が…」
「ラブ…」
「アンタと俺は…そのお陰でこんなに…うまく回れるようになったのに…。テジュンたちは…回らなくなっちゃったんだ…俺のせいだ…」
「後悔してないんだろう?テジュンさんとの事…」
「…。して…ない…けど…。イナさんを…犠牲にした…」
「イナは…大丈夫だよ。それに…お前のせいじゃない…」
「けど…けど…」
「イナはちゃんと理解できる男だ。ドアの鍵を持ってるのはイナだ。鍵が一杯ありすぎて、どれが本物が解んないで迷ってるんだ…
もし鍵が開いたとしても、はじめての部屋に入る勇気が湧いてこないだけ。イナは…本当は…ちゃんとできるんだ」
「ギョンジン」
「そうでなきゃ困るよ…」
「…」
「僕が呼んでくるから、セッティングしといて。あっとその前に…」

僕は唇でラブの涙を掬い、ついでに唇も掬う
そしてテラスの馬鹿二人を呼びに行った

「ごはんですよぉ~。僕の美味しいパスタを食べましょおぉぉぉ」

馬鹿を呼びに行ったんだから僕も馬鹿のふりをした
テジュンさんが振り向いて、今行くよと言った

テジュンさんが選んだワインをグラスに注ぎ、馬鹿二人がテーブルにつくのを待った

「おそいっ!はやくっ!」

急かしてやると、イナは亡霊のように座った
馬鹿!



僕達はギョンジンが作ったパスタを食べた
それはタコとセロリの入ったペペロンチーノ…とでもいうのか…
それとシメジとツナとキャベツとたまねぎとベーコンの入ったポン酢風味のパスタ

「簡単にできておいしいでしょっ?味の決め手はポン酢」
「じゃ、自分で味付けしたわけじゃないんじゃんか…」
「でもタコの方は塩加減多目にしてぇタコをにんにくとたかの爪入りオリーブオイルでちっとばかし煮るような感覚でぇ」
「わかったわかった。要するにタコが美味しけりゃうまくできるんでしょ?」

赤い目をしたラブがギョンジンの相手をしている
泣いたの?

イナはまだ浮き上がれずにもがいている
ピザもパスタも口にしていない

取り分けてやろうかと思っていたらラブがささっと皿にパスタを盛った

「イナさん…どうぞ」

微笑んでイナに皿を出した



「ありがとう…」

俺は礼を言ってラブを見た
その微笑があまりにも清らかで美しくて、俺は自分がどんなに醜い顔をしているのだろうと目を逸らした
口に運んだパスタもピザも味がしない
ずっと味のないメシを食い続けている

「それ、冷めてもおいしいから食欲ないんだったら後で食べなよ」

ギョンジンの声がした
きっとまた鋭い瞳で見ているに違いない

俺以外の三人が美味しいねといいながら食事をしている
ここでも俺は取り残されている
ワインを飲んでも酔えない
俺の周りに透明な分厚い氷が張っている

三人は俺に構わず会話を続け、食べて飲んで楽しんでいる
ギョンジン…
ラブとテジュンは…寝たんだぞ…
どうしてお前は平気でテジュンと話ができるの?
どうしてラブと話すテジュンに微笑めるの?
どうしてテジュンと寝たラブを…許せるの?

食事が進む
俺は機械的に食べ物を口に運ぶ
やっとラブがよそってくれたパスタを全部口に押し込んだ
三人の会話など耳に入っていなかった
俺の目には、微笑み合うテジュンとラブの幻影が次から次へと映るだけだった…


「ラブ、テジュンさん…ちょっとイナと二人で話させてくれる?」
「あ…うん…」
「二人はここにいて。イナ、あっちのソファにいこう」
「俺達どっかよそに行かなくていいの?」
「んなことしたら心配でたまんないからそこにいてよ」
「…うん…」

ギョンジンはぼんやりしている俺の腕を引き、ソファに座らせた
ラブがバーボンを用意してくれた

「イナ…」
「…」
「なんで浮き上がれないの?」
「…」
「大丈夫だよ。怖がらなくていい。僕がついてるから…」
「…」
「どうしたの?ぼんやりして…」
「…足にね…絡みついてるんだ…」
「何が?」
「テジュンと…ラブがね…つながって…。見たわけじゃないのに見えてしまう…ほかにも一杯…。キスしてるとこや…微笑あってるとこや…。」
「…そう…。それ、僕も見たよ。体中に絡み付いてたな…」
「え…」
「ラブが僕のところに帰って来るまで、ずっと絡み付いてたよ」
「今は?」
「消えちゃった」
「どうして?!」
「ラブが…帰ってきたから」
「どうしてお前はそれを消せたの?!」
「だから…ラブが僕のところに帰ってきてくれたから…。それで全てが融けちゃった」
「…」
「お前だって、愛する人を失うって事、知らないわけじゃないだろ?愛する人と別れる苦しみ、味わったろ?」
「…うん…」
「僕は…何度もそんな経験をした…。父親も母親も、妻も恋人も子供も。弟だって失うところだった…」
「…」
「ラブは、初めて戻ってきてくれた人なんだ…。僕を選んで、帰ってきてくれた。もう、それだけでいい」
「ギョンジン…」
「どんな経験をしてこようが、今、僕のそばにいてくれるラブを、僕は愛しいと思う。精一杯愛したい。丸ごと愛したい」
「どうしてそんな事ができるの?なんで許せるのさ…。抱かれたんだぞ!他の男に…」
「それがどうしたの?僕がラブを好きだって気持ちとラブが誰かを好きだっていう気持ちは関係ない」
「そうだけど…だけど…。」
「テジュンさんを愛したラブが、テジュンさんとの愛を終えて、自分の中に仕舞いこんで僕のところへ戻ってきてくれた。…そんな風にきちんと整理できたのは、おとといぐらいかな…」
「…それまでは?」
「離したくないし逃げられたくないからしつこく追いかけて疎まれてたよ…。ラブ、テジュンさんのところに行っただろ?」
「…ああ…」
「かっこつけて、なんとか僕の方を向いてもらおうとして…。ほんとの僕を見せないでさ…。馬鹿だよね」
「ほんとのお前…」
「そうだよ…お前、知ってるだろ?気が弱くて泣き虫で自信がなくて、弟に引け目を感じて愛を求めて…手が早い僕の事…」
「…ギョンジン…」
「ラブが帰って来た時、ラブを見た瞬間、僕は体中から愛してるっていう声が聞こえたんだ…この子を愛してますって。この子の全てを僕はこのまま愛してますって…。そんな気持ちになったのは初めてだったよ…」
「…お前は…いつからそんなに凄いヤツになったの?」
「凄い?…そうかな…ヘヘ」
「そんな風になれたのは…ラブのお陰なんだね…」
「何言ってるんだよ!お前が僕を取り戻してくれたからだろ?」
「…え…」
「お前が僕の名前を生き返らせてくれた、お前が僕を呼び戻してくれた。だから僕はここにいる。あれからラブと出会って、ラブを傷つけて、ラブが戻って来てくれて、今の僕がここにいるんだ」
「…」
「お前だって浮き上がれる。泳げる。『できるって信じてなきゃできねぇぞ』ってお前が僕に言ったんだぞ!」
「…」

Life Saver 2  ぴかろん

「なぁ、覚えてる?お前のたとえ話…。黒いモンとかガラスの目玉とか、真っ白いシャツのドロ汚れだとか…。ああそれからこんなのもあった。
カレーの甘口も辛口も好きで、酒もチョコレートもどっちも好きなんだって話…」
「…ああ…」
「覚えてるか?…笑ったなぁあれ…。笑ったけどよく解った…。ありがとうイナ」
「ギョンジン…」
「お前に会えた事、感謝してる…」
「…」
「だからお前には幸せになってほしい」
「…」
「テジュンさんはラブじゃなくてお前を選んだ。お前のもとに帰ってきてる」
「けど…テジュンはラブの事、思ってる…」
「仕方ないだろ?『思うことを止められるか?!』…これもお前が言った言葉だ…。よく覚えてるだろ、僕は頭がいいからな」
「…」
「なんだよぉ、笑えよぉ…イヤミなヤツだと思われるじゃんかぁ」
「…ギョンジン…」
「テジュンさんもさ、カレーは甘口も辛口も好きでさ、酒もチョコレートもいけるクチなんだよ」
「…うん…」
「僕は甘口でも辛口でも中辛でもカレースープでもカレーパンでも好きだしさ、酒もチョコも煎餅も落雁も好きだ」
「…」
「だから…笑ってくれよぉぉ」
「ギョンジン…」
「テジュンさんを失うのが怖い?」
「…こわい…」
「だったら掴まえていればいい」
「…」
「テジュンさんはお前が飛び込んでくるのを待ってるんだぜ」
「…」
「お前らしくないよ…ぶつかりもしないで諦めちゃうなんて…」
「お前は…すごいね…」
「何が凄いの。全部イナから教えてもらった事だぞ!」
「俺は口ばっかだもん…」
「そんな事ないよ!」
「そうだもん!」
「…そう思うなら…今から実行すればいい」
「…え…」
「動けないんじゃない。動かないんだ。できないんじゃなくてやらないだけだ!これもお前が言った言葉だぞ」
「…ギョンジン…」
「浮かび上がれないんじゃない。浮かび上がろうとしてないだけ!だろ?ちゃんとよく見ろよ。テジュンさんが誰を求めてるのか…。お前だろ?
そりゃ100%お前に向いてないかもしれないけど、でも、テジュンさんはお前を見てる。お前が無理な姿勢で顔を背けてるだけなんだ。
そんな無理な姿勢でいるから、筋が違って元に戻れないんだ!」
「…。ギョンジン…」
「だろ?!」
「ギョンジン…。真似すんな…」
「…」
「たとえ話…真似すんなよ…」
「イナ」
「…お前、かっこいいよ、ギョンジン…」
「…」
「俺、浮いたのに…波に飲まれてまた溺れかかったのかな…」
「…そうかもしれないね…」
「俺…油断してたのかな…」
「…イナ…」
「パスタ、食いたい」
「ん…持ってきてやる」

ギョンジンはパスタの皿を持ってきた
そして手で掴んで俺の唇にパスタを当てた

「…何…」
「あいつらに見せつけよう!」
「…ギョンジン…」
「ふんっあいつらだってこんな事してたんだぞっいやらしいっ!ふんっ」
「…ギョンジン…」

嫉妬だとか悔しい思いだとか…融けたって言わなかったっけ?

ギョンジンを見つめるといたずらっ子のような瞳で俺を見ていた
俺はそっと口をあけ、ギョンジンの手からパスタを絡めとり、口に入れられたギョンジンの指を吸った

目の端でラブとテジュンの緊張する姿を捉えた
…少しだけ…気持ちよかった…
ギョンジンは続いてシメジのパスタを手で掴んだ
俺はまた同じようにギョンジンの手ごとそれを食べた

味がする…美味しい…

ギョンジンの手を掴んで、指を一本ずつ舐めてやった
ギョンジンの顔が歪む

久しぶりにこんな顔を見る…

ふ…ふふ…ふはは…あははは…

顔を見合わせて笑う
ちっともドキドキしない…

俺達は、俺達を見つめている四つの目を意識しながらそんな事をしていた
ギョンジン…俺はテジュンを失いたくないよ…

「ありがと…。俺の受け売りの熱弁、一生忘れない。それと海での水泳のインストラクターのお前も…」
「ふんっ!世話かけやがって馬鹿野郎」

俺はギョンジンにキスした
感謝の気持ちを込めて…
四つの目玉が見開かれたのを感じる

さっきよりもう少しいい気分になった…
ギョンジンはキスしながら微笑んでいる

「なにさ」
「くふん…らぶが妬いてるぅ…くふふん」
「色ボケ!」

史上最大のすけべ男から唇を離し、テジュンをふりかえって俺はそちらに歩いていった…
テジュンは俺の顔を引き寄せ、オリーブオイルだらけの俺の唇を激しく吸い、「あんなスケベとあんな事するな!」と怒って言った

お前こそ…あんな色気小僧とえっちなランチしたくせに…ばか…

ふふっと笑ってテジュンのくちづけに応えた
テジュンの思いが素直に入ってくる
やっと「ここにいてくれるだけでいい」と思えるようになった…

浮き上がれたのかな…

それぞれが元通りのペアになり、酒を飲んだ
ギョンジンはラブにセクハラし放題だ…
ラブはなんだかんだ文句言いながらもほんのり上気した顔をしている
今日もまたきっとギョンジンは…けほっ…

二人の、きっとすっごいだろう今夜のその…けほ…を想像していたら、テジュンが突然こう言った

「お前を抱きたい…イナ」

テジュンの瞳は燃えている
でも俺は首を横に振った

「どうして!」
「まだだめだ…」
「イナ!」
「ラブと…話がしたいから…」
「…」
「まだラブと話してないし…今夜はラブと…話できそうにもないじゃん?あれ見ろよ…」
「…じゃあお預け?」
「んふふ…」
「つまんねぇの…」
「油断してるとまた波に飲まれちゃう…」
「僕が捕まえててやる…」
「ふんっ!今度の波は甘~い波だから、お前一緒に飲み込まれちまうかもしれねぇのにっ!ふんっ!」

そうだよ…飲み込まれて底まで行ったくせに…

テジュンは上目で俺を睨んだ

「ねぇ…。ラブとの愛って…もう終わった事なの?」

ギョンジンが言った言葉を思い出してテジュンに訊ねた

「胸の奥に仕舞いこんだ…」
「…じゃあまた引っ張り出してきて着ることもある?」
「それは…お前次第だよ…」
「…」
「こらっ!沈むな!」
「沈んでねぇよ…。どうやったら額縁に入れて飾っとけるか考えてるんだよ…」
「だから…お前次第だっつーの…」

テジュンが俺の腰に巻きつく
その頭を抱きしめる…
体中が甘い痛みに覆われる

「僕達もう寝るねっひひひん」

素っ頓狂でハイテンションなかっこいいのか悪いのか解らないギョンジンの声に、俺の甘い痛みが散らされる
ギョンジンを睨みつけたけど、あいつはラブに夢中で、ラブを抱きしめてそこら中にチューチューやってる…

迷惑そうなラブ
輝いてるラブ

あいつが輝いてるのは…どうしてだろう…
暑苦しい二人の後姿を見送った俺達は、ふっと顔を見合わせた

「…ねぇ…ほんとにダメ?」

甘えた口調でテジュンが言う

「ダメにゃ…」
「…ううう!そんなかわい子ぶると我慢ができないっ!」
「ダメっちってるだろ!」
「…けち…」

膨れっ面になったテジュンの膝に跨って、俺はまだぴりぴりする唇で、刺激的なキスを十分に味わった


替え歌 「両手の中の八月」  by ラブ ロージーさん

あなたの瞳が今 俺を見つめている
いつも夢見ていたこんな 日が来ることを
お願い 放さないで 二度と放さないで
過ぎた時間に負けないように
目を閉じていた

両手の中の八月が 愛しく輝いて
身勝手な愛しかたさえ ほんとはうれしくて
どんな未来も もう怖くない
そばに いたなら

素直になれない俺 包んでくれたね
わざと冷たいふり もうできないよ
もう したくない

同じ季節が来るたびに かならず想い出す
あなたに会えた幸せを 抱きしめた夏を
何もいらない もう離れない
今日も あしたも 

両手の中の八月が 愛しく輝いて
身勝手な愛しかたさえ ほんとはうれしくて
どんな未来も もう怖くない
あなたが いたなら


(坪倉唯子「両手の中の八月」)


替え歌 「Je t'aime」  by ラブ ロージーさん

螺旋階段 堕ちるように
あなたに 心飲まれてく
長いキッスで 濡れる夜は
無限の きっと始まりさ

もう 二度と 引き返せない
愛に逆らえない

Je t'aime… Je t'aime
恋の鎖 解-hodo-く術も知らなくて
Je t'aime… Je t'aime
ただひたすら甘く深く燃える

名前を呼ぶ 声が途切れ
何度もつき堕とされても
指の先で 謎かけてく
すべてを奪いつくしてと

あなたよりも危なくなれる
夢に溺れながら

Je t'aime… Je t'aime
放さないで 俺がイヤと言ってもね
Je t'aime… Je t'aime
これ以上は 息が止まるほどに

Je t'aime… Je t'aime
恋の鎖 解く術も知らなくて
Je t'aime… Je t'aime
ただひたすら甘く深く燃える

Je t'aime… Je t'aime
ただひたすら甘く深く燃える


(坪倉唯子『ジュテーム』)


闇夜のお仕事&お留守番_6   妄想省家政婦mayoさん

「駄目ぇ#」
「大丈夫だ#...」
「やだ#....」
「テスぅー^^;...」

部屋で仕事をしていたちぇみがブルゾンを着て部屋から出て来た...
バイクで出掛けるのを察知したテスはちぇみと押し問答を始めていた...

「事故ったらやだ....」
「俺は大丈夫だ#....魔の交差点は通らないから...」
「やだ#...駄目#....」
「テス...何だ...今日に限って....」

押し問答の度に僕に抱かれているはるみは右@@..左@@..と首を向けてちぇみとテスを見る...
テスは何日か前のカリスマミンスのバイク事故のことを気にしていた...

「トファンだって何十年も前のバイク事故で未だに床に座るのホントはひどいんだ...」
「テス...そうなの?」
「ぅん...4級の認定も受けてるよ...好きなサッカーも長い時間できないもん...」
「そうなんだ...」
「ねぇ...テソンさんも止めてよ...」

「だからっ...俺は大丈夫だって言ってるだろ#...カリスマミンスより若い#」

「テス...そう言えば...ちぇみって..幾つよ...」
「んー...<<リアルタイム@カリスマミンス>>より若いのは確かだよ...」
「闇夜の都合ね...」
「ぅん...そういうこと...基本は黒蜘蛛だけどキャラは全部入ってるってこと...」
「そっか...」

「おいっ!」
「とにかく駄目#...mayoシも留守だし...何かあったら僕...何て言い訳すんのさ...」
「テスぅー....」
「今日乗らなくてもいいでしょ!パン屋の開店も控えてるんだ...そういうこと考えてよね#」
「ぉん...>_<」
「顔打ったら大変だよ..それ以上大きくなったら...」

「テス!!....ぁー..もぉー...わかった#ったく...強情なやつめ...」
「へへ...^o^....」

「テソン..シチュンは何時に来る...」
「午後4時くらいかな...そのまま店に出るから..」
「ん...それまでには戻る...」
「ぅん...わかった...」

ちぇみは結局ブルゾンを脱いで車で出掛けた...

~~~~~~
波打ち際で朝陽を浴びていた...動画のメールが届いた....
ん?....顔が見事に半分だ...あはは...最初間違ってボタンを押したのか...
顔面体操の動画の最後はいつもの瞬き頷き顔だった..俯いてちょっと笑って携帯を閉じた

砂浜から岩場へ歩いているとテソンから電話が来た....

「mayo...」
「どうしたの..声が暗いよ?...」
「ぁ..ぅん..ぁの..父さんのこと....」
「ぁ...聞いたのね...」
「ぅん...」
「テソン..そのことは帰ってから話そう...ん?」
「ぅん...mayo...」
「ん?」
「話したいこといっぱい...ある...」
「帰ってから..顔見て話そう...ん?」
「ぅん...mayo...」
「ん?...」

テソンはchu#...で電話を切った...電話の向こうの照れた顔が浮かんだ...


岩場にいると散歩のスニが近づいてきた....
女ひとりの私にスニは気軽に話しかけてきた...
スニは元ミスコリアだけあって目鼻立ちのはっきした美人顔だ..
ビョンウと出会った時はロングのソフトカールのヘアスタイルになっている...
自分を知っている私にスニは最初驚いていたがソグもビョンウも知ってると解ると静かに話始めた

スニはソグが生きていた事を離婚後に知ったが病気のこともあり会うのを躊躇した...
ビョンウに出会い穏やかな自分を取り戻せたが...
また大事な人を失う辛さをビョンウに与えたくない..
...残りの時間をジンソクと過ごすことを選んだ...
話し終えた後スニは穏やかに微笑んだ...

昨日の夜着いたビョンウはジンソクと一緒にスニの作った料理を食べ遅くまで話したそうだ
ビョンウとジンソクが散歩のスニを迎えに来た...
スニとジンソクの後ろ姿を見送るとビョンウは側に寄ってきた...

「僕を知ってるんですか?」

ビョンウははっきり物を言うタイプだ..人に迫る様に話す印象がある...
ちょっと笑い方にオーバーな印象があるが人は悪くない...

スニは最初ビョンウを警戒し自分のことを語らなかった..
そんなスニに対し
「過去を美化するのは悲しい現実から逃れるためだよ..」などど言ってのけた...
医大生だけあって多少小生意気なところもある....か....
BHCに来れば一番若いメンバーになるだろう...

夕方になる前に江原道に入りたかった私はビョンウとソウル行きの電車に乗った

ビョンウはヘジュが逝ってから一時医大を中退した..
親にバレて仕送りをストップされその間遺体安置所でアルバイトをしていた...
今は大学に復学し..そのバイトを止めたと言っていた...

「僕はそのBHCとやらに行かなくちゃならないわけ?」
「そう...」
「絶対?」
「そう...絶対...」
「僕に似てるのなら..ソグさんも?」
「ぅん..来る様になるわね...」
「ふ~~~ん...」

その後私はソウルに着くまで胃の病気についての講釈を延々と聞かされた...
少々理屈っぽいが私にはかなり参考になった...

~~~~~~
ソウル駅に着き駅の改札を出てビョンウと別れた.

「店に来る前に連絡をするように..」念を押すとビョンウは
「どうかな?...でもそのソグさんにも会ってみたいしな...」

と生意気に笑った..そして大きく手を振って駅構内の雑踏に消えた...


江原道への鉄道の便は不便だ...その代わりバス路線が何本もある.....
駅を出て横断歩道で青信号を待っていた....
横断歩道の渡った先に発車時刻の迫っている江原道行きのバスが止まっている...
じりじりと横断歩道の端で信号が青に変わるのを待っていた.....

青信号に変わろうとした時..待ちきれずに一歩..二歩と踏み出した...
その時....信号無視の車が歩道に突っ込んできた...

踏み出した足に車のバンパーの感触を感じた..

「ぁ......」

...地から足が離れ...身体が....浮いた.....
地が下に見え...振られた頭で目を見開くと....青い空が見えた....













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