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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 140

Fish & chips オリーさん

アリスショップで偶然教授に会えた
眼鏡の奥から怪訝そうに僕を見つめる教授に自己紹介した
写真よりもはるかにハンサムな教授は、あっさりすっぽかしたことを謝った
彫りの深い顔立ちと緩やかにカールした黒い髪は落ち着きを、
そして褐色の瞳は知的な快活さを表している
先日DVDで見た俳優に似ている
なんちゃらの日記に出てきたくそ真面目な弁護士の人
自分は人見知りするのだと言ったが、そうは見えない
でもとっかかりが掴めた
教授は今日は講義がないから君につきあおうと言ってくれたのだ

それから教授はランチをご馳走すると言ってさっさと店を出て行った
僕は大急ぎでマグネットを2個買ってから後を追った
自転車を押して教授に追いついた
「彼女におみやげ?」
「いえ」
彼女ではない
「彼女にならもっと気の利いたものを買うだろうね」
「はあ」
もっと気の利いた物・・
「先生はなぜマグネットを?」
「.秘書がボードに使うマグネットがないと言ってたのでね」
美人だけど愛想のない秘書の顔が浮かんだ
「だがアレは彼女の趣味ではないだろう。やめた」
確かに
「彼女に会った?」
「先生の居場所はわからないと言われました」
「会いたくない客が来る時は彼女はとても役に立つ」
なるほど

教授は小さなスタンドのフィッシュ&チップスの店で足を止め、慣れた様子で2人前注文した
紙で包まれた熱々のフライを受け取ると、それにビネガーを無造作にふりかけまた歩き出した
そしてクライスト・チャーチ・メドウの片隅に陣取り、そこで青空ランチになった
「ここのフィッシュ&チップスはオックスフォードで一番だよ」
教授はそう言ってタラのフライを頬張った
僕も負けずに頬張った
ビネガーの酸味が熱々のフライにほんのりとマッチしてなかなかいける
食べながら教授は僕に聞いた
「僕に用事って何かな」
「先生の論文が興味深くて、僕らの機関で役に立てたいと」
「どの論文?」
「1995年のテロリストの行動心理学です」
「あれ・・」
「10年前にあそこまで考察されているのには驚きました」
僕は正直に感想を述べた
「実はもっと前に書いた」
「え?」
教授はしばらくメドウの先に視線をむけていた
そして思い立ったように僕を振り返った
「白状しようか」
「白状?」
「あれは失敗作だ」
「でも大きな学会でアクセプトされてますよね」
「米国犯罪心理学学会」
「すごいじゃないですか」
「あそこは大きいから時々間違ってアクセプトすることがある。それを狙った」
「どういうことでしょう」
「10年前ハーバードで助手をしていた時に、ここの助教授の誘いがかかった。
誘われたと言っても公募だから他の候補者もいる。僕は若い分、論文の数が少なかった」
「論文の内容でなく数が重要ですか」
「候補者全員の論文を全部読んで評価する時間などないから、最後の最後で数が頼みになるケースもある」
「それとあの論文とどういう関係が」
「あれは学生の時に思いつきで書いてみただけだ。だからそれきり書いたことも忘れていた。
助教授にアプライする時に論文の数が他の候補者より少ないと言われて思い出した。
急いで体裁を整えて大きな学会に送りつけてアクセプトしてもらったんだ。」
「そうだったんですか」
「君の前にも何人か来てもらったが、いやな予感がして逃げてた」
「だから門前払いですか」
ハンサムな教授は、僕の方を振り返ると申し訳なさそうな顔をした
「君にも無駄足を踏ませたね」
「でも十分役立つと思いますけど」
「もう時代遅れだ」
「そうでしょうか」
「この10年で世界は急激に変化した。テロ組織はどんどん細分化して過激になってきている」
「あの論文を実践させてもらえたら、僕の国では役立つかもしれません」
教授はゆっくりと僕の顔を見つめた
「本当にそう思うのかい」
「ある程度は・・」
僕の答を聞いた教授は心底おかしいという感じで笑い出した
「ある程度か、率直な意見だ」
しまった・・しくじってしまった
ところが最後のチップスをたいらげた教授は突然立ち上がった
「研究室で話そうか」

奥さんのディナーは予想通り美味しかった
前菜はチーズと胡桃のパテにリンゴとカルバドスのゼリー添え、
メインはお約束のミートローフ
付け合せはポテトとズッキーニ、サヤインゲンを茹で上げたもの
デザートのミンスパイを食べ終わった時にはすっかり幸せな気分になった
食事の時はビール党だというアンドルーさんと一緒に黒ビールを飲んだから、
満腹感は相当なものだった
僕の食べっぷりは奥さんを満足させたようで、
彼女は途中から僕におかわりをサーブすることに専念した
「息子ができたみたい」
彼女はそう言っては、嬉々として僕の皿に料理を盛り付けた

寝る前には、アンドルーさんがまたボトルを出して僕を呼んだ
「今日は外でどうだ」
手入れの行き届いた庭の中ほどに木製のテーブルとデッキチェアが置いてあって、
今夜はそこが酒宴の席らしい
彼の話は、愛妻と愛娘の自慢で始まり、婿をけなしてから、
孫の自慢で盛り返し、最後にまた愛妻に戻る
合間に軍隊での思い出話が挿入され、とても面白い
「で、そっちはお偉い先生に会えたのか」
昨夜と同じで自分がさんざん話してから僕の事を聞いた
「偶然にお会いできて、思った以上にお話できました」

教授は研究室へ戻ると、例の秘書に今日は帰っていい、と言った
彼女は初めて笑顔になり僕に近づくと、よかったわね、と秘書でない口調で囁いた
教授の部屋は窓に向かって長方形で、両側の壁には天井まで届く本棚が立っていた
そしてその中には夥しい本が突っ込まれていた
僕は本達に見下ろされながら、課長と会ってもらえないかと
辛抱強くお願いしたがいい返事はもらえなかった

ただ、それ以外の教授の話はこれまた面白く、多岐に渡る心理学の話を聞いた
そして最後には明日の講義を受けてみないか、と誘われた
明日もう一度話を詰めてみよう

「その先生はとても頭がいいんです」
「ほお」
「15歳でアメリカに渡り、16歳でハイスクールの先生に飛び級を勧められハーバードに入ったそうです」
「そりゃすごい」
「大学を18歳で卒業してそのまま大学院へ行って、22歳の時にはもう博士課程を終わっていたって」
「優秀な人間には世の中を良くしてもらわんとな」
「そうですね」
「君も入っとるんだぞ」
「あ」
僕は政府機関の研究者だと言ってあったのを忘れていた
「でも僕はそんなに優秀じゃないので」
「謙遜はいかん」
アンドルーさんはまた僕のグラスにお酒を注いだ

しばらくして解放された僕は部屋に戻ってパソコンを立ち上げた
『こちらも変わりなし』
彼から素っ気無いメールが入っていた
短いメールを送ったら、その上を行かれた
反撃あるのみ
『今日、大学の先生と会って話をした。35歳ですごく知的でハンサムな先生だった。
ランチをご馳走になって、明日は講義を聴講できることになった。万事順調。
あまりため込まないうちに洗濯してね。XXX」
これでどうだ・・
焦らしてから、ちょっと歩み寄る・・今日教授に教わった手口
送る寸前、思い直してもう一つXを足した

その後、ドンジュンさんにもメールした
『ほんとにロンドンまで出てこれる?あさってなら僕も時間が空くと思います。連絡してください』
返事が来るといいけど

この日僕は、彼が洗濯物に埋もれて憮然としている夢を見た
だからため込むなって言ったでしょ
そう言ったらよけい憮然とした・・


替え歌 「蒼いきちゅね」 ロージーさん

あとどれくらい 切なくなれば
あなたの声が 聴けるのですか

なにげない言葉を 瞳合わせて ただ静かに
交わせるだけでいい 他にはなんにもいらない

碧いきちゅね ずっと待ってる 独りきりで震えながら
淋しすぎて 死んでしまうよ 早く暖めて欲しい

あとどれくらい いい子でいたら
恋しい胸に 辿り着けるの  
洗いたてのシャツの匂いに 抱きしめられたなら
涙も哀しみも すべてが流れて消えるよ

碧いきちゅね 啼いているの  あなたにだけ聴こえるように
たとえ遠く離れていても 僕のこと おもいだしてね

碧いきちゅね 翔んでゆきたい 風になって彼方の空
せめて夢で抱きしめてね 今夜は Ah…

碧いきちゅね 泣いているの 淋しすぎて毀れそうだよ
たとえ遠く離れていても 僕のこと おもいだしてね

(酒井法子『蒼いうさぎ』) 


妖怪の戯れ  ぴかろん

開店する前の簡単なミーティングが終わる時、スヒョンがきつねに何か囁いた
きつねは一瞬凍りついたような表情になった
その後ろでスヒョンが笑いを堪えて襟元を直してやっている
きつねはムッとした顔で俺の方を睨んだ

「チーフ…どうも…お世話をおかけしましたっ!」

きつねの重低音が響いた

ちっ…天使め…
余計な事を…


お客様が入る…
結構ウケる…
この目で泣けというリクエストも多い
それなりの芸と技を披露してなんとか営業を乗り切る

合間に裏で目を冷やす…裏の戸口を見つめているとテジュンが今にも水を抱えて入ってきそうな気がする

ギイイッ

ああ…音響までついたリアルな想像だ…

「失礼しまぁす…」
「…てじゅ!」

思わず叫んでしまった…
にっこり笑うその顔は、テジュンだ…

「てじゅ…てじゅ…」

俺はふらふらとテジュンに吸い寄せられ、その胸に飛び込んだ
夢に違いない…
でもテジュンの腕が俺を抱きしめている…
ほんもののテジュン?

…違うと…解っていた…

テジュンの幻影から離れて『ごめんなさい』と言った

「気が済んだ?」
「…すみません…解ってるのに…ごめんなさい…」
「…役得だな…」
「…ヨンナムさん…」
「慣れてね…。あいつはあんなヤツだから…貴方が気持ちを切り替えないと…続かないよ」
「…」
「やめるなら今のうちだよ」
「ヨンナムさん…」
「なんなら…僕と…どう?」

ヨンナムさんの瞳が違う色に見えた
浮かべた微笑がいつものヨンナムさんと違う…

「そんなつもりないよ…ヨンナムさん…」
「…」

まだじっと見つめている
どういうつもり?
同じ顔で同じ声…多分テジュンなんかより…ずっと…

「貴方の方が…優しい?」
「…そう言われるよ…」
「恋人を待たせたり、秘密を持ったりしない?」
「しないな…」
「浮気も…しない?」
「しない…。どう?」
「…」
「今の間なら…試せるよ」
「…」

妖しい光を放つその目を見つめた
俺は…ヨンナムさんに近づいた…
唇を近づけた
ヨンナムさんは逃げなかった…
もう一度ヨンナムさんの目を見つめた
妖しく光ったままだ…

「なんにも感じねぇ…」
「…」
「…ときめきもしねぇ…」
「…」
「アンタ、危険じゃねぇからかな…」
「…」
「…」

至近距離で見合っていた…

「ぶふっ…」

とうとうヨンナムさんが吹き出した

「ハハ…だめだっ…とっても真似できないよ」
「…」
「テジュンには、なれないなぁやっぱり」
「…無理だよ…、ヨンナムさんはヨンナムさんだもん…」
「間違えて抱きついたくせに、よく言うなぁ」
「…わざとだもん…ごめん…」
「言ってやろ、帰ってきたら…」
「…」
「僕も…悪いけどイナさんには何も感じないな…」
「だろうな…」
「不思議だね、同じ顔してるのにな…」
「ヨンナムさんって…色気がないんじゃないか?」
「…」

ムッとした顔をして水を持ち上げ、厨房に消えていくヨンナムさん…
暫くして空のボトルを持ってきて、俺の頭にゴツっと当てた

「人生のうちのたった五日間、待てるだろ?」
「…待てるけど…寂しいんだもん…」
「んなこと言ってたらテジュンの相手は」
「出来るもん!テジュンの相手は俺にしか出来ねぇもんっ!」
「はいはい…イナさんの相手もあいつにしか出来ないんでしょ?」
「…」
「…よかったらウチに来る?どうせ泣くならテジュンの部屋で泣けば?」
「そんな事したら死んじゃうよ、寂しすぎて…」
「寂しくなったらソクさんと僕でサンドイッチしてあげるけど?」
「…意味ないよ…」
「ハハハ…そうだね…。頑張ってね」
「…」
「バイバイ」
「あ…バイバイ…」
「フフっ…テジュンが惚れるの…解る気がするよ…僕もちょっとフラっとしそうになったな」
「嘘ばっかし!」
「ふふ。じゃあね」

爽やかな笑顔を残してヨンナムさんは帰っていった…

しまったな…どうせ泣くなら…テジュンの部屋でって…そんな手もあったのにな…


「ん?お前何サボってるんだ」

意地悪ソクだ!ふんっ…

「ははは。そんな目だと笑ってんのか怒ってんのか解んないな、どれどれ…どんだけ泣いたの?」
「うるしゃい!おめぇなんかスヒョクといちゃついてろ!」
「…イナ…」
「ふんっだいっきらいだっ」
「ちょっと…おいで」
「なんだよ!」

どきっとした…
ヨンナムさんには何も感じなかったのに…ソクには少しだけ甘えたくなってしまう…

「こんなになるまで泣くな。寂しかったらヨンナムさんちに来いよ…。な?」
「…」

あんなに意地悪言ったくせに…
やっぱ…優しい…

「言っとくけど、キスはしないぞ」
「お前なんかにしてほしくねぇよ!」
「…なんだ…ハグぐらいしてやろうと思ってたのに…いらないか…」
「…スヒョクが…怒るだろ…」
「一瞬だったらわかんないよ、ホラ」

ソクが俺を引き寄せる
本当に一瞬だけ…抱きしめてくれた…

「絶対に言うなよ…」
「…ん…」

ソクは俺の顔を覗き込んで、暫くの間、瞳を見つめていた

「…その目がなぁ…気を殺ぐなあ…助かるけど…」
「へ?」
「その気にもならないって事…よかったよかった…」

ソクはぽんぽんと俺の肩を叩いて、トイレに行った


♪~
その直後に携帯が鳴る…すぐに出る

「もしもしっ」
『浮気してないか?』
「へっ?!」
『ソクと何かしなかった?』
「しっしてねぇよっ」
『じゃ…まさかヨンナムと…何かした?』
「はっ?ななな何にもっしてねぇよっ!何言ってるんだよっ!」
『むぅっ?怪しい…』
「…てじゅ…」
『フフ…泣いたのか?鼻声だぞ』
「…風邪ひいただけだ…」
『…ウソつくな…。寂しいんだろ?』
「大丈夫。今日は…ラブんちはその…ギョンジンがサンバカーニバルでリオデジャネイロらしいから…その…」
『ちゅ』
「…」
『僕は…寂しいよ、イナ』
「…てじゅ…」
『ごめんな…イナ』
「…てじゅ…大丈夫だ…俺は強くなったから…大丈夫だ…」
『…ちゅっ…。今お前の右手にキスしたから…後でキスしときなよ、間接キッスだ。いかなくちゃ…じゃな…』
「…てじゅ…」
『ん?』
「…てじゅだけがしゅきらかららっぐしゅっ…」
『僕もイナらけがしゅきらかららっちゅっ』
「うしょつきめ!らぶのことらってしゅきなくしぇにっ」
『イナだけが…欲しいんだよ…愛してる』
「あいちてゆら…」
『…え?…』
「あいちてゆ…」
『はっきり聞こえない』
「あいちてゆっちったんらっぶぁかっええっええっ」
『何語?』
「ぶぁかっ!てじゅのぶぁかっ!だっきらいらっ!」
『きらいなの?』
「しゅきらっ」
『くふふふ』
「あいしてる…」
『…恥ずかしがり屋さんなんだから…もう…』
「…待ってるね…」
『ちゃんと待っててね』
「ん…」
『じゃ…ちゅ』
「…ちゆ…」

電話を切った後にソクが鼻歌を歌いながらトイレから出てきた

「手、洗った?」
「当たり前でしょ?!」
「…一つ…お願いがある…」
「…ん?何?」
「ここに…キスしてくんないか…」

俺は右手の甲を差し出した

「…。身代わり?」
「ん…身代わり」
「ほんっとヤなヤツ!テジュンもお前もほんっと腹が立つ!」

文句を言いながら、ソクは俺の手の甲にキスしてくれた…

「…さんきゅ…」
「内緒だぞ!」
「ん…」

へへらへら~
へらへらして店の方に向かっていったら、怖い顔したキツネがいた

「イナ…なぜトイレで襟からネクタイがはみ出ている事を教えてくれなかった!もうお前なんか親友じゃない!」
「いいじゃん天使に直して貰えたじゃんへへらへへっ」
「…何を浮かれてる…」
「いひひん…」
「テジュンさんから電話か!」
「いひ…」
「…声だけで満足か…」
「…」
「ふん、ぶぁか!」
「…」

満足なわけないだろ…イヤなカンジ!

「きちゅねのぶぁかっ!」
「イナの不親切!」
「意地っ張り!」
「意地悪!」
「「ふんっ!」」

せっかく気分よくなったのに…きつねのせいで…また涙だ…
わかってるけど…あいつも寂しいんだってさ…
知ってるよ、顔が見えないのに声を聞くのが嫌いなことぐらい…

贅沢なヤツ…
欲張りなヤツ…
俺と…おんなじ…ぶぁかなヤツ…

あ…しょうだ…
あいつらって寂しいんら…
ふふ ふふふ…

いい事思いついた…

ギョンジンもラブんちでサンバがどーのこーの言ってるし
てことはあいつも…一人で寂しいわけだし…
やっぱ親友ってこんな時も気が合うもんなんだなぁ…

よし、驚かしてやる!
とちゅぜん訪問しゅるのらっ!
あいつの好きなもん買ってって、二人で夜通し飲み明かして
んでっんでっ
あいつに寂しいって言わせて泣かせてやるっ!ひひひん

ふふん…あいつの目も明日の朝にはこの俺みたいな妖怪状態だ…

怖いな…妖怪キツネ男…
ひんひんひひひん

俺はこっちを怖ろしい目で睨んでいるキツネににっこり笑ってウインクした(つもり)のだった…


恋愛中毒  れいんさん

朝、目が覚めるとすぐ傍にスハの寝顔
昨夜の余韻とスハの甘い寝息のせいで、僕はもう少しまどろんでいたくなる

僕はスハと迎える朝がこの上なく好きだ
僕は頬杖をついたまま、飽きもせずスハの寝顔を見つめていた
それは幾度も繰り返してきた朝だというのに

僕はスハを起こさない様、そっと頬にキスを落としベッドからするりと抜け出した
何も身につけないままにバスルームに入る

コックを捻り熱いシャワーのしぶきを顔に受ける
ジャスミンsoapの泡で全身をくまなく包む
そしてほとばしるシャワーの雫で全身を洗い流す

バスルームの扉に影がうつりスハの声がした
「テジンさん、おはようございます。着替え、ここに置いておきます」

ドアを開けるとバスローブを手にスハが立っていた
全裸の姿の僕を見てどぎまぎしながらスハが俯く
昨夜あんなに愛し合ったのに
まだ僕の全てを見るのが恥ずかしいの?

僕は濡れた手でスハの腕を掴み引き寄せた
「スハも一緒に浴びよう。目が覚める」
「え・・」
着ていたローブをストンと落としてスハをバスルームに引き入れる

「あ・・テジンさん・・僕・・」
シャワーの音でスハの言葉はかき消された
スハの身体もジャスミンの泡で丁寧に包みこみ、そして抱きしめた
僕の胸とスハの胸が隙間なく合わさる
フワフワの泡で覆われたまま抱き合うのは、たまらなく心地よい
スハの臀部を幾度も撫で、シャワーの下で熱い口づけを交わす
すっかり綺麗に洗い流されても、僕達はその口づけをやめなかった

僕達は少し遅めの朝食を摂る
焼きたてのロールパンとベーグル
じゃがいもたっぷりのポタージュスープにはカリカリのクルトンとパセリを散らして
仕上げに生クリームをほんの少し
生野菜のサラダにはローストした玉葱がベースの手製のドレッシング
搾りたてのネーブルジュースと濃い目のブレンドコーヒー
僕達の簡単な朝食

ベーグルに手を伸ばし今日の予定などを話しているとスハの携帯が鳴った
「もしもし・・?」
「あ・・はい・・いえ、大丈夫です」
スハがそっと席を離れた

「・・え?今日?でも・・ええ・・はい・・わかりました」

どうやら何か急な予定でも入ったらしい
僕は聞いてないふりをして手元の新聞に目を通した

「あの・・テジンさん。昨日の先輩が、その・・午後から少し時間ないかって」
「そう」
「他の先輩も集まるらしくて、僕にも出て来いって・・」
「塾は明日だっけ?」
「はい」
「予定がないなら行ってきたらいい」
「いいんですか?」
「・・?」
「だって、昨日のテジンさん・・少し不機嫌そうだったから・・」
「そんな事ない。・・積もる話もあるだろ?楽しんでこいよ」
「はい。お店には遅れない様に行きますから」
「うん・・」

僕はまた新聞に視線を戻した
今までの僕は嫉妬の感情など露わにした事はない
感情を隠すのには慣れっこだったから
でも、昨夜の僕は少々大人げなかった様だ
スハといると未知の自分を発見する
それっていいのか悪いのか・・
僕の口元がふっと緩んだ

さっきの電話はエジュさんからのものだった
「今日の午後は何か予定ある?」
「よかったらショッピングに付き合ってもらえない?」

予定があると言えば済む事なのに、エジュさんの誘いをなぜか断る事ができなかった
テジンさんの事で彼女に辛い思いをさせてる様な気がして
僕のせいの様な気がして

そして僕はまた彼に嘘をついた
嘘に嘘を重ねてしまって・・
こんな事なら初めからエジュさんと会うって言えばよかった
いや、今からでも遅くはない
「実は昨日・・」って、彼に話してみよう
僕はちらりとテジンさんを見た

間が悪い事にちょうどその時彼の携帯が鳴った

「・・ああ・・え?・・そう、うん。わかった。・・いや、行くよ。じゃ・・」
彼の顔が一瞬曇った

「テジンさん・・どうかしました?」
「スハ・・僕も出かける用事ができた」
「え?」
「ウンスの所に。・・子供が熱を出したらしい」
「あ・・」
「ウンスは心配ないと言ってるけど。ただ僕に薬のアレルギーがなかったか聞きたかったからだと。
でも・・あの子はまだ小さいし・・心配だから・・」

テジンさん・・そんな顔で僕を見ないで
僕にすまないなんて思わないで
こういう事は、僕達の間にはこれからもあるのだから
それは解っていた事なのだから
僕だって、きっと同じ事をします
心配で駆けつける・・そんなあなたが好きなんですから・・

「それは大変です。すぐに行ってあげて下さい」
「・・ありがとう。スハ」
「何言ってるんですか。さあ、早く支度して」
「ああ。・・後で店で会おう」
「無理はしないで」
「とにかく・・様子を見てくる・・電話するよ」
「はい」

そして彼は慌しく出かけて行った
僕は一人そこにいた
秘密を打ち明けるどころか、また嘘を重ねた
本当は、僕を置いて行かないでと叫びそうになる自分がいた


寂しさなんかふっとばせ!  ぴかろん

閉店後、俺はそそくさと帰り支度をし、誰よりも早く店を出た
アイツの好きなものと俺の着替えとを買うためだ

深夜まで開いているスーパーで、俺の下着と寝巻き代わりのTシャツや靴下を買った
明日の仕事用の服は…俺にはサイズがでかいだろうけど、キツネのを借りればいいだろう…
貸してくれるかどうか解んないけどな…
アイツの好きなもの…といっても、こういうスーパーで売ってる物って…どうせ口には合わないだろう…
とりあえず、くりいむぱんとちょこれーとぱん、ポテトチップスにチョコレート、健康のために茎わかめ…これは俺が好きだからだけど…
そんなものをカゴに入れ、レジを済ませた

どうせ…冷蔵庫に、なんだか訳のわからない美味しそうなものが詰まってるはずだ…
ギョンビンはマメだから、ちゃんと揃えてってあるだろう、キツネのエサ…

酒は…あるんだろうけど…俺も一応あのマイケルの許で「ワインの選び方」なんぞ教えて貰ったからさ…適当に選んでみた
お菓子だけじゃなぁ…あんまりかなと思ってさ…

買い物をしていたのでキツネのマンションに11時近くに着いた
もう帰ってるかな?それともギョンビンがいなくてしゃびしいから、店に残って天使とお話でもしてるかなぁ…

俺はコンシェルジェのトンプソンさんに挨拶をした

「こんばんは」
「…。キム・イナ様…ですね?」
「見分け、つくの?」
「…。御目をどうされました?」
「あ…ちっと…その…」
「お大事になさいませ。今日は、ミンチョル様にご用事でございますか?」
「…急に遊びに来ちゃったんですけど、アイツ、帰ってますか?」
「それが…まだ…。このところお仕事がお忙しい様で…」
「…そか…早すぎたか…」
「…。お約束でございますか?」
「お約束してないんです…。サプライズ…」
「…。解りました。どうぞお通りくださいませ」
「え?!いいんですか?主のいない家に通しちゃって…」
「ミンチョル様とミン様より、お留守の間でもお通ししてよい方のリストを頂いておりますので」
「…俺は合格?」

そういうとトンプソンさんはにっこりと笑った

「BHCのメンバーでもダメなヤツっているの?」
「…ご容赦ください、お答え致しかねます…」
「…解った。すみません…。じゃ、俺、アイツの部屋に行ってもいいんですね?」
「はい、そのように仰せつかっておりますので…」
「後で怒られない?」
「ご心配いりません」

トンプソンさんと俺は、微笑み合って会釈した
ミンチョルのいない部屋に入るなんて、ちょっとドキドキだ…
高速のエレベーターの中で少しワクワクしていた

最上階に着くとそこがもう部屋ってのが…凄いよな…
電気のスイッチは…この辺だったっけ…

俺は壁を探る
探っても探ってもスイッチらしきものがない
何分かかかってようやく見つけられた
食べ物をダイニングテーブルに置いて、俺はもう一度電気を消した

物にぶつからないように窓辺に行く

うわぁ…すげぇ…
こんな宝石箱を毎日眺めてるのか?贅沢狐は!くそっ…

煌めく人工の光は、美しすぎて怖い
ここに数多の人々が息づいている
俺もその中の一人だ
ちっぽけな一人だ

こんな夜景を一人で見てるのって…寂しいだろうな…あいつ…

窓に凭れ掛ろうとしてはっとした

『窓を汚したな!』

きっと指摘するから凭れるのはやめよう…

俺は暫く人工の宝石箱を眺め、それからまた電気をつけた
何してるんだろうなぁ電話してやろっと…

20回コールしたが出ない
…トンプソンさんが言ってたな、仕事が忙しそうだって…
副業のほうか?
ちっ…
みんなすげぇよな…ふんっ…

そう言えば俺、ベガスでこんな夜景、よく見てたじゃん…
あの頃はただ美しいと思ってただけだったのにな…
今は一人で見たくない…寂しさが増すだけだ

とりあえず、遊ぼう
ここはいっぱい遊ぶものがあるぞ!
まずはTシャツに着替えてぇ…ジムだ!

ウェイトトレイニングしてランニングして、ストレッチして、鏡の前で蹴りの練習までした
結構汗かいたなぁ…それに、目の腫れもかなり治まってきたかな?
汗かいたし、風呂はいろっと…

俺はジャグジーのあるバスルームを覗き込んだ
だだっぴろい…
また夜景が見える…
こんなとこでひとりでジャグジーに浸かっててもなぁ…

バスルームのドアを閉めて、俺は前に泊まらせてもらった部屋についているバスルームを使わせてもらった
遠慮の気持ちもある…
勝手にあんなでっかいジャグジーに入れない
使い方もイマイチ解らないしな…

シャワーを浴びた後、そこに備え付けてあるバスローブを借りた
そう言えば買ってきたTシャツ、汗だくになったなぁ…
確か洗濯機があったはずだ、Tシャツと靴下とぱ○つと、今使ったバスタオルなんかも洗っちゃおう…
ついでにキツネの洗濯物も洗ってやろうかな…ひひひ

ランドリー室に行くと、大型のドラム式洗濯機があった

ん?中になんか入ってる…

中の物を出してみる
黒いぱ○つとチェック柄のパジャマと、靴下とそれから枕カバーが一つ…
こんな少ない洗濯物をこんなでかい洗濯機で?!

まあいい…洗おう…
俺は洗濯物を放り込んだ
そして、多分これを洗うつもりなんだろうな…という物が詰まっているカゴから、洗濯物らしいものを取り出して洗濯機に入れた
よし…
で…

どうやって動かすの?!
わかんねぇ…

電話しよう…

…。…。…。

しつこく30回コールした…
でない…

何時よ…
もう0時半ですよっ!
いつまで仕事してるんだよ!
出ろよ!電話ぐらいよぉ!

仕方ないな、ギョンジンに電話してみよう…でも…カーニバルの最中かもしれない…

そう思いながらも電話する俺はきっと、とてつもなく寂しかったんだろう…

『…ん…は…はい…あっああっ…』
「…」
『だめっラブっあっあ…』
「…お邪魔いたしました…」
『あっイ…イナ…なに?あはんっあんっ』
「…ごめんなさい…」
『ああっああ…』

ブチッ☆

出るなよ!最中なら!
しょうがねぇなぁ…キツネが帰ってきてから洗おう…
それにしてもえらく溜め込んであるなぁ、まだミンが発ってから二日?だっけ?
なんでこんなにシャツが溜まってるんだ?

まあいいや…違うことしよう…


Stonehenge   オリーさん

教室に入ると、すでに何人か学生が前の席を陣取っていた
僕は目立たないように後ろの隅に席を取った
開始時間には席は八割がた埋まり、時間通りに教授が入ってきた
ざわついていた教室内が静かになった
教授はちらと僕の方に目を向けると、わずかに微笑んだ
何人かの学生がそれに気づき、僕を振り返った
僕はその視線を避け下を向いた

講義が終わると学生の何人かが質問のため教授のそばに近づいた
教授は丁寧にその相手をした
質問が終わって学生が引き上げると教授は僕を目で呼んだ
僕は目で物を言う人に縁があるようだ

「講義はどうだったかな」
「前半は難しかったけど後半はわかりやすかったです」
「君が困った顔してたから、少しわかりやすく説明したんだよ」
僕は赤面した
教授はそんな僕を見て笑いながら言った
「さあ、行こう」
「どこかへ出かけるのですか」
「ストーンヘンジに行ったことは?」
「ありません」
「見せてやるよ」
教授は僕の肩に手をかけた

教授のBMW Z4はイギリスの田舎道を滑るように走っていく
僕はストーンヘンジを見ようという教授の真意がわからないまま助手席にいた
「ドライブは嫌いかな」
教授は僕に聞いた
「そういうわけでは」
「君の顔には仕事って大きく書いてあるぞ」
「先生にいいお返事をいただけたらと」
「またその話か」
「すみません」
「ドライブが終わるまでには考えておこう。なるべくいい方向で」
「本当ですか」
「それと・・」
「それと?」
「先生と呼ぶのはやめて欲しい」
「じゃあ何てお呼びすれば」
「エリックでいい」
「はあ」
「君のことはミン君でいいかな」
教授は僕を覗き込むように振り返った
「ギョンビンと呼んでください」
僕を苗字で呼べる人は一人です
「わかった」
教授は白い歯を見せて笑った
「エリック、いくら道がまっすぐでもわき見運転は危険です」
「オーケイ、その調子だ」

気分を切り替えた途端、ドライブは快適になった
途中パブによりサンドイッチで遅めの昼食を取った
今度は僕が払った
食事が済むとまたドライブを続けた
流れていく風景はどれも緑の美しいスロープの連続
時折点のように放牧された牛が見えるので風景が違うのだとわかる

目的地の前に教授はあちこち寄り道した
ストーンヘンジの回りには他にもたくさんの巨石群がある
それらは平原の中に点在しているが、
静かに過去からのメッセージを携えているようだ
小高い丘の上から、緑色のスロープに映える白い馬も見せてもらった
石灰岩の土壌を削って作ったホワイトホースはいくつか種類があるらしい
スコッチのホワイトホースはここからきているという
この地方には、かやぶき屋根を残す家並みがあり
中世にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えた
「きれいな場所がたくさん残っていますね」
「こんな小噺を知っているかい」
そう言ってエリックは教えてくれた
あるアメリカ人が、イギリスに来てその芝生の美しさに驚嘆した
どうしたらこんな芝生が育つのですか、とそのアメリカ人は聞いた
聞かれたイギリス人はこともなげに答えた
朝晩毎日水をあげなさい。100年もすればきれいな芝が育つでしょう
僕は思わずため息をついた
そんな風に時を過ごせれば、小さな事に囚われず生きていけるのかもしれない
教授はそんな僕をまた可笑しそうに覗き込むのだった

あちこち寄り道したおかげでストーンヘンジに着く頃には夕方近くになっていた
「ほら、あれだよ」
教授が指差す方向に僕は思わず身を乗り出した
最初、点のように見えたその遺跡はしばらくするとその全貌をあらわした
教授は駐車場に車を停めた
もうすでに暗くなりかけているせいか、僕ら以外の人影はまばらだった
意外にも遺跡を見るには入り口で入場料を払い博物館のような手順が必要だった
管理されている様子がこの遺跡には不釣合いの感じがした
「本当かどうか知らないけど」
エリックがそんな僕に話しかけた
「以前は遺跡の周りにロープなんか張ってなかった。近づいて石に触ることもできた」
「そうですか」
「どこかのアホ学生があそこでバーベキューをやったらしい。それから立ち入り禁止になった」
エリックは遺跡の真ん中あたりを指差した
「ほんとに?」
「そのアホ学生はたぶん・・」
「まさか?」
「噂だよ。諸所の事情で管理する時期にはきていたんだろう」
ちょっと言い訳するようにエリックが付け足した

約4000年前に建造されたと推測されるストーンヘンジは
太陽の神を祀るために作ったという説があるが、本当の目的は謎のままだ
起点となるヒールストーンから短いアベニューがあり、
そこからサークル状の溝に囲まれる形で中に巨石群が立っている
夏至と冬至の時には太陽が中心の石の直線上から出るという
石はブルーストーンという青みがかった灰色の石と
サンセットストーンという大きな石の2種類あるそうだ

写真で見たときはとても神聖で荘厳なイメージがあったけれど、間近で見ると印象が違った
この地に根づいて、太古から現在までのすべてを受け止めている、そんな土着の匂いがした
作り始めてから完成するまでに何世紀も要したというこの遺跡には
僕の想像をはるかに超えた知恵と勇気そして創造力が詰まっているのだろう

僕は大きく深呼吸してみた
「気に入ったようだね」
エリックは僕の肩に手をかけた
「何と言うか、とても包容力のある遺跡ですね」
僕はそう言いながら振り返った
その瞬間、エリックが振り返った僕の唇に唇を重ねた

僕は思わず彼の胸に手を当て押し返し、重ねられた唇を離した
「何するんですか」
エリックはそれには答えず、僕をまた強く引き寄せ耳元で囁いた
「あの店で手を重ねあった時からこうしたかった」
僕は彼の胸に置いた手に力をこめた
「僕はそんなつもりはありません」
「ギョンビン、君は僕を拒めない」
「やめてください」
「もう君はOKしたんだ。僕をエリックと呼んだだろう?
それに仕事の事でもいい返事をしたいと思っている」
その言葉で僕の思考は止まり、力が抜けた

エリックがもう一度僕を強く抱きしめ、その唇が僕を求めた
夕暮れが押し迫る遺跡の前で、僕の頭の中は真っ白になった


寂しさなんかふっとばせ! 2 ぴかろん

さてと…どうしよう…
あ、カラオケ!

俺は一人でカラオケを熱唱した…
ふと見ると小さく名前が書いてある本があった
ドンジュンとかテジンとかテプンとか…
ん?
なんで俺の名前はないんだろう…
なんだろうこれ…替え歌?
ふーん…
あっ!てじゅの名前があるっ!歌おう!

『夢ホテル』

歌い始めて暗い気持ちになった…
らって…これってアレじゃん!ラブと逃げたときの歌じゃんかっ!きいっ!
フェイドアウト…

気を取り直してラブの歌にしてみた

『ラブの夢は夜ひらく』『愛の奴隷』(サバの女王)

これって…やっぱしてじゅと逃げた時の…
わーん!楽しくないっ


俺は歌うのをやめた…
哀しくなっただけじゃん…

カラオケルームを出て、ふらふらと彷徨う
もう一度電話をしてみる

今度は40回コールした
出ない…

ふらふらとギョンジンの部屋を覗く
ちっと入ってみる
ベッドに腰掛ける
ギョンジンの香りがする…
ベッドに寝っ転がる
ここで寝ようかな…
知ってる野郎の香りに包まれてて寂しくない…かなぁ…

俺は起き上がった
馬鹿馬鹿しい…
ふと枕を見ると枕カバーがなかった

さっき洗濯機に残ってた洗濯物は、ギョンジンのだったんだな…
黒いぱ○つね…ふーん…

つまらないので買ってきた安物ワインとポテトチップスで一杯やることにした

もう2時近いぞ…
はああん…
もう一回電話しよう!

50回コール…
でねぇよ!ぶぁかっ!何やってんだよっ!親友の俺様が来てやってるってのによっ!

仕方ないのでメールした

『イナでしゅ…しゃびしいでしゅ…お前はいったいどこにいるのでしゅか?
しぇっかく親友同士でしゃびししゃを分かち合う会を開こうと、お前んちに来たのに、お前はいちゅまでたっても帰ってきましぇん…。
あうあう。はやく帰ってきてくだしゃいよう~しゃびしいよう~。親友のきちゅねへ イナより』

ふんっ!ぶぁか!

ワインと袋菓子と、比較的安そうなコップ(高いの使って怒られたらやだからな…)を持ってリビングのソファに座る
目の前にビデオテープがある
なんだこれ?
見てもいいのかな?
えろびでおだったりして!くははっ…てそんなもん、一人でみてもなぁ…ん?

『感動します…一人寂しい時に、是非見てください…ギョンジン』

ギョンジン?

俺はテープをデッキに入れてその画面を見つめた
だって暇だったからさ…
映画だ…普通の…

面白いんだろうかなぁ…

ワインのコップを取ろうとしたときに、ふっと懐かしい顔が目に入った…
一人掛けのソファに鎮座しているきつねのぬいぐるみだ

「おおおおお!お前…ミソチョルっ!懐かしいなぁ、ずっとここにいたのか?寂しかったろ?よっしゃ、来い来い!」

俺は嬉しくなってミソチョルを膝に乗せた

「お前も食うか?茎わかめ…体にいいぞ。お前も飼い主に似て腹が出てるなハハハハ」

ぽんぽんその頭を叩いてやった
ミンチョルに似てるけど、こいつのが可愛い…
ぎゅ…
ぎゅぎゅううう…

『…え…えいが…』

ん?なんか聞こえたような気がする…
映画?
ああ映画始まってい…る…

頭の中が真っ白になる…
画面の中にいるのはテジュンそっくりの役者だ…
なんで…
なんでなんでなんでこんなものが…

画面に釘付けになった俺
涙が溢れる…
巻き戻してもう一度最初から見る
ミソチョルを抱きしめて見る

渋い…カッコイイ…切ない…哀しい…堪らない…
なんでそんなに耐え忍んでるんだ!…
ぐすぐすぐす…えっえっえっ…

ずーっと泣きっぱなしの2時間だった…

テジュンはこんなに渋くない
テジュンはこんなに強くない
テジュンはこんなにかっこよくない
テジュンはこんなに優しくない
テジュンはこんなに忍耐強くない
でも
テジュンは…俺を抱きしめてくれる…
テジュンは俺を…愛してくれる…

テジュン…会いたいよ…寂しいよ…
なんでこんなもんが置いてあるんだよ…テジュン…

映画が終わってから、俺はミソチョル相手にワインを飲みながらまた泣いた
ミソチョルも泣いているような気がした…


ともだち…  ぴかろん

「イナしゃん?」
「…ん?」
「こんなとこでねるとかじぇひきましゅ」
「いーんだよ、風邪ひこうが目が腫れようがどーでも!」
「しょんなこといわないれくらしゃい…。ぼくイナしゃんがきてくれてうれしいれしゅ。いっちゅもひとりぽっちれしゅ」
「なぁんで…。キツネと釣り目とエロ怪人がいるじゃねえか…あ、キツネってお前じゃなくてお前の飼い主のほうな…あの意地っ張りの…」
「…れもこのごろぼくのこと、わしゅれてるんれしゅえっえっ…」
「…そか…お前もしゃびしかったんだな?」
「ひゃいっしゃびしかったれしゅ…ぱーちーのときにはたくしゃんおともらちができたのにっ…えっえっ…きてくれてもぼくとしゃべってくれないし…」
「おともらち?お前の友達って誰よ」
「ほんびょしゃんとじゅんほしゃん」
「…。子供の心を持ってるヤツか…」
「ミンチョルしゃんともちっとだけおはなしできましゅけど、いちゅもミンとなかよししてりゅので、おじゃましたくありましぇん…」
「…そうだよな…友達でも…仲良くしてるとこにお邪魔したくねぇよな…やっぱし…。あ…俺さ、さっき友達のとこに電話しちまってさ…邪魔しちゃった…」
「…なかよししてたのれしゅか?」
「んー、仲良しっていうか…物凄く親密そうだったなぁ…」
「しんみちゅ…きっとしょれはミンチョルさんとミンみたいなものれしゅね?」
「…。お前…」
「あっ…ないしょれしゅよっおふたりがなかよししてるとミンチョルしゃんがしあわしぇしょうれ、ぼくはうれしいのれしゅ。れも…」
「れもなんだ?」
「きのうはミンチョルしゃん、はーふーはーふーってためいきばかりちゅいてて…」
「しゃびしいって言ってたか?」
「いわないれしゅ…きっとミンチョルしゃんのじしょには『しゃびしい』ってことばがのってないんれしゅ」
「載ってるさ。塗りつぶしてんだよ、無意識にあのぶぁかは…」
「しょぉれしゅか?」
「しょおだよ…しゃびしそうだったろ?昨日」
「しゅっごく…。ぼく、なみだがでました…」
「…。お前が代わりに泣いてやってんのかぁ…。どうだ?一杯飲むか?」
「れもぼくはこどもれしゅからっ」
「ぬいぐるみに子供も大人もねぇだろ?付き合ってよ…な?」
「しょうれしゅか?じゃ…ちょっとらけ…」
「グラス持って来てやる。まってろ」
「あっ…イナしゃん、しょれじゃああいってこういってあしょこにあるくろーじぇっとのなかに、これこれこんなはこがありましゅんで、しょのなかからぼくのこっぷを…」
「お前のコップがあるのか?…お前、大事にされてるんだな…羨ましいなぁ…」
「えへへ、ミンのちゅぎれしゅけろ…」
「んな事ねぇよ!ミンは人間だからな、いつどうなるかわかんねぇけど、お前はぬいぐるみだから絶対ミンチョルの事裏切らないだろ?」
「あい…しょうれしゅけど、ミンがいちゅどうなるかわかんないって…」
「…てじゅらって…らぶと…ぐしゅっ…ああいけねぇ…もう済んだ事だ…。でも…もしかしたらミンだってさ…ミンチョル以外の誰かと…」
「しょんなこといわないれくらしゃいっ!えっええっええっ」
「ごめん!すまねぇミソチョル。ごめんごめん…よしよし…お前はミンの事も信じてるんだよな…」
「あい…」
「俺ってヤなヤツだな…ぬいぐるみ泣かせちまって…。待ってろよ、コップ持ってくるから」
「あい…」

「お前…すげぇな…食器そろってるじゃねぇか!ほら、皿も持ってきたぞ。ほい、チョコ好きか?ポテトチップス食えるか?」
「あい~しゅきれしゅ~。れも…たべしゃしぇてもらわにゃいと…」
「わかった。食わせてやるし飲ませてやるから俺んとこに来いよ」
「あいっ」
「ほい」チビチビ
「からくちれしゅね」
「…お前…いけるクチじゃねぇか、よっしゃ、飲め!」こくこく
「んまいっしゅ…」
「茎わかめは?」
「…わいんにはちーじゅのほうが…」
「チーズかよぉ…買ってこなかったぞぉ…」
「れいじょうこにありましゅ、いっしょにいきましょう」

がさごそ…

「しょれれしゅ!ミンとミンチョルさんがたべてておいししょうれしたっ」
「…読めない…どういうチーズなんだろう…」
「たしか…かまんべーるちーじゅれしゅ」
「ふーん…。食っていいのか?」
「…。かまわないれしゅよ!」
「…。お前なんか怒ってない?」
「ちっとおこってましゅ…ぼくをほったらかしにしたばちゅれしゅ!ちっとぐらいたべてもいいれしゅ!」
「そだな。俺もほったらかされてるしな!食おう食おう…えっと…ナイフは…」
「ナイフはしょこ、しゃらはしょれ…」
「…この皿高くないか?使って怒られないか?」
「へーきれしゅ!イナしゃん、こっぷじゃなくてあのばからのわいんぐらしゅちゅかえばいいれしゅ!」
「えええっ…そんなもん…割ったら弁償しろって言われるもん…」
「しょんなの!へんっちえばいいれしゅうぃっく」
「…ちょっと待て…お前…酔ってるか?」
「よってましぇんよっ!しゃ、はやくばからのぐらしゅれかんぱいれしゅ!ちーじゅもっはやくっ」
「…いいのかなぁ…」
「ぼくがゆるしましゅからいいのれしゅっぅいっく…」

ぱくぱくもぐもぐごくごく…

「なぁんれひっく…ばからちゅかわないしゅかっうぃっく」
「割ったらヤだもん…ねちねち言われそうでさ…」
「ねちねちいったらまえがみをごむでくくってやれぱいいれしゅ!」
「…おいおい…お前、ミンチョルのこと好きなんだろ?」
「しゅきれしゅよ」
「…でもちっといじめたくなる?」
「しょうれしゅっ!わかってましゅなぁイナしゃんうぃっく…ちーじゅくらしゃいっ」
「ん…。お前よく食うな」
「じゅーっとたべしゃしぇてもらってないっしゅからっ」
「茎わかめは?」
「しょれはちっと…」
「嫌いか?だから腹がでてるんだぞ」
「…らって…」
「あーわかったわかった…ぬいぐるみは好きなもん食っていい!ほら、飲め」
「イナしゃんもぐいぐいどーじょ」

「あーはははっそうらよなぁっあのキツネったらほーんとぽやんとしててよぉ」
「しょうれしゅ!いばるんれしゅよ、しゃびしがりのくしぇにっ」
「なぁ!いばりんぼだよなぁ」
「…れも…ぼくはミンチョルしゃんにしあわしぇになってほしいれしゅっえっえっ…」
「なんだぁ?お前泣き上戸かぁ?」
「イナしゃんほろれはありましぇんっ」
「俺、別に泣き上戸じゃないぞ」
「れもいっちゅも『なみらめ』れしゅ!」
「う…」
「ふぁぁ…ちっと眠くなってきましたら…」
「そうだなぁ…俺も…ビデオで泣いて、お前と飲んで、ますます目が腫れあがったような気がする…」
「ねましゅか?」
「そだなぁ…どこで寝る?」
「しゃっきぼくのしょっきとりにいったへやに、ぼくのべっどがありましゅ、しょこはどうれしゅ?」
「あああの子供用ベッドか?びっくりしたぞ!ミンチョルとミンに子供ができたのかと思ったぞ」
「あれ、ぼくのれしゅ」
「…お前…愛されてるなぁ…」
「…あい~」
「んじゃそこで寝よう…って…俺、眠れるか?」
「…ちっとムリれしゅかねぇ…」
「いいや…ここで寝よう!な?」
「かじぇひきましぇんか?」
「ギョンジンの部屋から毛布借りてくる」
「しょうれしゅねっへへへっ」

がさごそどたん

「おやすみ…ミソチョル…」
「おやしゅみなしゃい…イナしゃん…ありがとうれしゅ」
「こっちこそありがと…ちゅ」
「あっ(*^^*)」
「お前がいてくれてよかった…さんきゅな…友達だな…おれたち…」
「あ~い~」


夢だったのか現実だったのかわからないけど…俺はミソチョルを胸に抱いて、ギョンジンの毛布を被ってソファで眠ったのだった…











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