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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 163

僕の先輩_13  妄想省mayoさん ※162からの続き

先輩は窓際のPCの側にある置き時計を指した..

「ぁ..あれもなんスか?」
「そっ..あっちの方がレア物..」
「へぇ~~」
「あれ尖ってるじゃない?」
「ぅん..」
「オ・ムソンが襲ってきたとき..目に刺してやればよかったね..」
「先輩~~」
「冗談キツイ?」
「ぅん..」
「@@」

ちょっとマジに置き時計を見た先輩の目は怖かった..

「ミンギ..」
「何スか?」
「交換しない?..僕のstelaと..ミンギのsole..」
「駄目っス..ラブちゃんとお揃いなんスから」
「さっき気に入らないとか色嫌いとか言ったじゃなぃの..」
「駄目っス..ヌナが僕の為に選んだ"完売品"なんスから..大事にしなくちゃ..」
「じゃさ..たまに取り替えっこしょ..」
「先輩..」
「何..」
「可愛いとこあるんスね..」
「@@..」

先輩の顔にひひ..っと僕が笑ったその時..
ソファに無造作に置いてある先輩のブルゾンから着信音が聞こえた
携帯を開いて会話をしていた先輩の横顔が..瞬時に変わった..
不機嫌を露わにした厳しい眦に僕はちょっと緊張した..
先輩は立ち上がって僕に背中を向けて会話を続けた..
おんなじゃみたい..
誰なんだろう..
僕は神経を集中させた..


程よい焦げ目   ぴかろん

テジュンの温もりを首筋に感じて、ようやく震えの止まったイナは、テジュンの頭を自分の頭で小突いて店に戻ろうと言った
少し涙ぐんでいたテジュンは、我に返ってああ…と返事をした
イナに手を引かれて表のドアから中に戻る
条件反射のように「いらっしゃいませ」の声が響くが、テジュンとイナの顔を見た店のホ○ト達は、ほんの少し気まずそうな顔をして、接客へと気持ちを戻す
ソクが一人でぽつんと待っているテーブル目指して、イナはテジュンと進んでいく

「見たかったのにな…」
「ん?」
「三つ子…」

テジュンは最初、何の事か解らずに、きょとんとした顔をしていたが、ソクのきょとんとした顔を見て気がついた

「…並べたかったの?」
「うん」
「それだけのためにヨンナムを誘ったの?」
「…まぁ…それが一番の理由…」
「お前~」
「それにさ…飲んだことないんじゃないの?てじゅとヨンナムさんって…」
「そんな事ないよ」
「じゃ、ソクとてじゅは?」
「…ない。あんなのと飲む必要ない」
「ふふふ」
「なんだよ…」

ソクを呼んできたのは俺じゃないからな、と言い置いて、テジュンをソクの横に座らせると、イナはまた奥に入って行った
ソクはテジュンの横から少し離れてそっぽを向き、どこへ行っていたのかと聞いた
ヨンナムが来ていた事を告げるテジュンに、ソクは、なぜここに呼ばなかったと責めた
テジュンは、イナが誘った事と、ヨンナムは仕事中で帰っていった事を手短に話した
ハグとキスの事は黙っていた…
こいつに言ったところで仕方がないと、テジュンは思った…

イナが厨房にテソンスペシャルを取りに行くと、その皿を持ったスヒョクに出くわした
目を丸くして眺めていると、俺、運びますとスヒョクはスタスタ歩いていく
イナはスヒョクに、それは俺がテソンに頼んだヤツだろ?俺が持ってくからお前はお前の客の相手をしろと言った

しかしスヒョクは知らん顔して店の中を歩いていく

「なぁって…スヒョク」
「俺が持って行きますから!」
「いいよ、貸せよ」
「いやです」
「なんでだよ!お前までこっち来なくていいよ!」
「俺、今空いてますから!」
「だからって…」
「ソクさんいるでしょ?!」

勢いのある短い言葉でスヒョクはイナに言うと、そのままテーブルに皿を持って行った
イナはスヒョクの後姿を見つめながら首をふるふると振った

遅れてテーブルに戻ると、スヒョクはソクの横に座っている
イナは負けずにテジュンの横にぴったりと座った

『勝ち負けの問題じゃねえよなぁ…お互いの相手、別人なんだし…』

自分の行動がおかしくて、イナはテジュンの背に隠れてくふふと笑った
テジュンはイナを振り返って『なに?』という顔をした

ああその顔が大好きだとイナは思った

テソンスペシャルのおつまみは、どれもが美しくて美味しい
RRHで新人歓迎会の時に出たピンチョスと、白身魚の薄造りが皿に乗っている
ピンチョスは、流石に種類は少なかったが、色とりどりのその串刺しは、テジュンの目を楽しませた
これがお前が逃げてたときに皆で食べたご馳走だとソクが言った
そうそう、お陰で俺はご馳走の味がわからなかったんだとイナが合いの手を入れる
スヒョクは少しムッとして、テジュンに串刺しを1本突き出した
テジュンはびっくりしてスヒョクを見つめる

「あーんしてくださいテジュンさん」

ははーん…ソクとイナのリズムのいいやりとりにヤキモチでも妬いたのかな?とテジュンは思った
口を開けてやるとスヒョクは少したじろいで、それから恥かしそうに串刺しをテジュンの口元に持って行った
テジュンがそれを咥えようとした時、スヒョクの手はソクに、ピンチョスはイナに押さえられ、それぞれのカップルがそれぞれの相手を確保していた
テジュンはそれがおかしくて、クスクスと笑い続けた

それから二組は、お互いに喧嘩腰のような会話を交わし、お互いの恋人自慢や相手のあら捜しなどもして楽しんだ
閉店間際になって突然スヒョクがテジュンに頭を下げた

「あの時はすみませんでした…」

唐突にそう言われ、一体何の話か見当もつかなかったのだが、スヒョクの話をよくよく聞いてみてようやく解った
祭の準備の時、確か祭の前日に…フラフラしていたイナにイラついたスヒョクが、イナを装ってテジュンを誘った…その事だった
そんな事、もういいのにと言うと、スヒョクは、でもきちんと謝りたかったんですと爽やかに笑った
ソクはスヒョクの顔を見つめている
愛しいという気持ちが溢れているとテジュンは思った
テジュンはソクとスヒョクに、よかったな…お前ら…と囁いた

イナは穏やかな顔でその光景を見つめていたが、場が和んだ瞬間に立ち上がって

「ソクさん、あの時はしゅみましぇんれした」

と頭をさげた
ソクとスヒョクは顔を見合わせている
それからスヒョクはソクを睨みつけ、何かしたんですか?いつですか?どういう事ですか?最近ですか?!なんなんですか!俺をなんだと思ってるんですかっ!と徐々に勢いをつけてソクを責めた
ソクは知らない知らない知らないと、両てのひらと首を必死で横に振っている
テジュンはポケッとしているイナを座らせ、何がしゅみましぇんなのかと聞いた

「え…まちゅりの時、ソクにめーわくかけたからしゃ…」
「…そんな事今頃…」
「らってスヒョクらっててじゅに謝った…」
「…まねっこしてややこしい事するなよ…。見ろよ…スヒョク君、涙目だぞ」
「なんらよ、てじゅのぶぁか!すひょくすひょくって!ぶぁかっ!」

涙目で訴えるイナは時々ヘマをするけど、可愛らしくて堪らない…テジュンは顔を綻ばせてイナの頭をぎゅうっと抱きしめた

ずーっとくっついていたいとテジュンは願い、イナの髪にくちづけをした


Before Sunrise れいんさん

なんだ、この女・・
これって、逆ナンパ?
僕の返事を聞く前に女はさっさと隣の席に腰掛けた

「ねえ、アンタ。さっきのアレ見てたんでしょ?・・あの後すぐに帰るのも癪に障るし
アッタマ来すぎてもっと飲みたい気分なの。付き合ってくれない?」

「僕は・・これを飲んだら帰ろうかと・・」
「まだいいじゃない。一人きりで寂しいってその顔に書いてあるわよ」
女は僕のグラスを指差して、バーテンダーに
「これと同じもの」と言った

「私、マリア。アンタ名前は?」
「え?僕は・・イ・ドンヒ」
「ふぅん・・ドンヒね。・・さっきの男とああなったの・・逆にラッキーだったかも」

彼女は自分のグラスのオリーブを僕のグラスにポトンと落とした
「ドンヒの食べちゃったから・・これ返す」

いきなり呼び捨てかよ・・
いったいなんなんだ、この女・・
サラサラの長い黒髪を耳にかけ、にっこり笑うマリアという名の女

「マリアって変な名前でしょ?」
「ハーフ?・・には見えないけど」
「純粋な韓国人のDNAよ。ママがフランスかぶれでさ、
本当はイザベルとかカトリーヌってつけたかったみたい。ほら、フランスの女優」

ああ、確かにいるね、そんな名前の大女優・・
あれ・・待てよ
この娘、誰かに似てるな・・誰だっけ・・
映画で観た事のあるあの若い女優・・

「何?」
「ん・・誰かに似てると思ってさ・・でも思い出せない」
「有名な人?」
「ああ・・ナントカな彼女って映画に出てた・・」

チョン・ジヒョン?」
「あっ!そうそう!その女優。よく言われる?」
「しょっちゅうね。でも私の方がイカシてると思うケド」


いつの間にか彼女のペースに乗せられていた
気づいたら、もう一杯マティーニをオーダーしていた

「ケンカしたの?恋人と・・」
「恋人って程でもないわ、あの男。知り合って三ヶ月くらいだし体の関係も二・三回だけ。
あいつ、二股かけてたみたい。失礼しちゃうわ。全然ショックじゃないけど・・あったまくるわ」

華奢な指でショットグラスを飲み干すマリア

「ちょっと事情があってね、パパに会ってと頼んだの。別に結婚を迫ったわけじゃないのよ
そしたらね、あいつ何て言ったと思う?『おまえとは遊びのつもりだった』ってぬかすの
最低でしょ?本命は他にいたらしいのよ。ホントむかつくったら・・」
マリアは余程腹に据えかねたのか、一気にまくしたてた

初対面の僕達は結構ウマがあったらしく、一時間ほど一緒に飲み、そして店を出た

家まで送ってと言われたら断るわけにもいかない
通りで拾ったタクシーに揃って乗り込み、彼女が指定した場所へと向かった
車の中で彼女は僕に腕を絡ませた

あんな最低男なんてこっちから願い下げ、だとか
今夜は楽しかった、だとか・・
相変わらず話し続けた


ここで止めて、と彼女が言った時、時計の針は夜中の一時をまわっていた
車を降りて見渡すと、そこには新築風のセレブなマンションが建ち並んでいた

「ここに住んでるの?」
「うん。パパのプレゼント。生意気な小娘が気ままに一人暮らししてるってわけ」

随分とお金持ちのお嬢さんなんだな・・
ま、僕には関係ない事だけど

じゃ、これで、と言いかけた時、マリアが腕を掴んだ
「部屋で、もう少し・・飲まない?」

こんな遅くに、一人暮らしの女性の部屋に・・?
昔、そういう事もあったけど、さすがに今はそんな気持ちになれない

「もう遅いから」
待たせているタクシーに乗り込むつもりが、彼女は一向に僕の腕を離さない
「お願い。もう少しだけ付き合って」

彼女の部屋は僕の想像以上だった
15階から見下ろす都会の夜景
だだっ広いリビング、漆喰風に塗られた白壁
L字型の赤いレザーソファ
ガラスブロックの仕切りの向こうにぼんやり映るキングサイズのベッド
一人で住むには広すぎて、どこか寂しい感じがした

「ウイスキーでいい?」

赤をポイントに配色してあるキッチンでカチャカチャとグラスの音が聞こえる

僕はソファに隅に置いてあった雑誌を手に取った
写真集・・ブルース・ウェーバー・・


彼女・・この写真家、好きなのかな・・
僕はパラパラとそれをめくりながら、聞いてみたかった事を口にした

「君のお父さんって随分お金持ちみたいだね」
「そうね。お金が有ることは確かね。パパってね先生って呼ばれてるの。
きつい香水つけてる女達・・パパがよく行く高級クラブのね。ちやほやされて鼻の下のばしてるわ」

ふうん・・そうか・・
先生って・・どうやらお偉い代議士先生ってわけか・・

「余程大事にされてるんだね」
「大事ですって?冗談キツイわ。私はただの厄介者。この通りの不良娘だから世間体を気にして
家から遠ざけて・・こんなマンションに住まわせているってだけ」

琥珀色したグラスを手に彼女がリビングに戻ってきた
グラスをテーブルにトンと置く
赤いソファに腰を下ろし、窮屈な細身のブーツを脱いだ彼女は、それを片方ずつ放り投げた


Purple Dream  ぴかろん

えまーじぇんしー!えまーじぇんしー!

けたたましく叫び続ける僕の携帯電話を、朦朧とした頭で探した
それはベッドサイドの小さなキャビネットの上にあって、昨日の夜あんなにバタバタ洗濯したのに
僕は貴重品をここにキチンと置いていたのだとぼんやり思いながら電話に出た
ポールからだと解っていた
ここ数日は、ポールからの着信音を「エマージェンシー!」を叫ぶショーン・コネリーのバリトン・ヴォイスに設定してある

「…もしもし…」
『○▽◆※$%\◇…』
「…ハロォー?…ポールだろ?…」
『今超重要機密事項と超重要超極秘任務をKE908便に搭乗させた』
「…は?」
『は?じゃない!とにかく僕の任務は完了だ!いいな!』
「…は?ポール…報告先、間違えてないか?僕はそんな超重要機密事項には関連してないはずだが…」
『つべこべ言うな!腹が立つ! 英韓両国の友好に重要な役割を果たす機密事項を託したから!』
「…ポール…。イっちゃった?」
『こんなにハラハラする任務はお前とモロッコでかくれんぼして以来だっ!とにかくっ!
仁川でRRHって言えばOKな、コンシェルジェつきの最上階のペントハウスにお住まいのお二人は今我大英帝国の大空港を飛び立たれたって事だ
Can you understand?』
「…。え…。弟と…ミンチョルさんが…そっちを発ったの?」
『さっきからずっとそう言っている!』
「…もっと解りやすく言ってくれよ…。僕はもう仕事から離れてるからボケちゃって…」

僕は横目で紫のシーツに包まっているラブを見ながら言った

『お前はいつ何時でも色ボケしているから大丈夫だ!』
「…くふん…」
『否定しろっ!ったく…』
「…弟…怪我…大丈夫だったのか?」
『相当無理して帰ったぞ。僕も相当無理して死にそうになった!クビになったらどうしてくれる!』
「…は…」

ポールは弟の宿泊先から空港までのカーチェイス…時間とのチェイスらしいが…っぷりを、
なるほどお前の運転の荒っぽさがよく解るよと合いの手を入れてやりたいぐらいの勢いで一気に喋った

「クビだな…」
『…』
「大丈夫だ。クビになったら韓国に来い。いい就職先、紹介してやる。女にモテモテだぞ」
『ほんとか?!』
「…」
『おい!責任とってくれよな!お前とお前の弟とお前の弟の恋人のせいで僕は職と命を失いそうになったんだぞ!』
「何言ってる!お前んとこのせいで弟は酷い目に遭ったんじゃないか、ああ?」
『ふんっ!』
「…とにかく…無事だったんだな…ありがとう…」
『ああ。ところでお前の弟の恋人な…』

恋人とは伝えなかったのだが…感じ取ったのかな…やっぱり…

『かなりゴージャスだな、僕とタメを張る』
「げほっ…」
『あれはモテるだろう…』
「…ん…。お前の方がもてるだろ?」

女には…

『当たり前だ。だが凄い目だな。お前、クラクラしただろ…ま、お前の専門はオンナだから大丈夫だろうが…
しかし、お前が教授の性癖を心配していたわけがようやくわかったよ…』
「…げほっ…」
『弟は教授ともちゃんと和解してったから安心しろ。あんな恋人がいるんじゃ、教授に勝ち目はない』
「…んああ…」
「だれ?」

ラブが甘えた声を出した

『…なんだ…お勤め果たして寝てたのか?』
「…げほげほ…」
「ねぇギョンジン…誰だよぉ…」
『声の低いオンナだな…』
「…あーとにかく…ありがとう」
「ねぇ…ギョンジン…イギリスの友達?ねぇ。カッコイイ人なんでしょ?喋らせてよ」
「ちょっとラブ…ラ…」
「Hello,I’m Love….Yes,yes…His partner…Yes,I’m male…hum-hum…」
「こらっ!」
「驚いてる…男だって言ったら…」
「貸せって!もう…もしもし」
『兄弟揃ってそっちにいったのか…』
「…あのな…」
『…どんな子だ?』
「んー…可愛いし色っぽいし…儚くて意地悪でくふふんくふふんきひひん」
『もういい!韓国に行ったら会わせてもらう』
「だめだ!」
『なんで!』
「お前は危険すぎる!」
『…僕は男には興味ない…』
「かつて僕もそうだった!だから危険だ」
『…とにかく…ちょっと認識を新たにしたいから…切る』
「なに?」
『愛について考え直してみる…』
「…は?」
『ま、幸せにな。じゃ…』
「は?おい…ポール…ポールって」
「なんだって?」
「愛について考え直すそうだ…」

僕は電話をキャビネットの上に置き、もう一度シーツに潜り込んだ
ラブが僕の胸に絡みつき、すぐに寝息をたて始めた
弟がミンチョルさんと一緒に帰って来るらしい…
ミンチョルさん、忙しかったな…
でもよかった…

ラブの重みと温かさで、僕もまたうとうとし始めた

ふと気がつくと紫のシーツに包まった僕とミンチョルさん…
ん?!
ミンチョルさん?!
ひいいいっひいいいいいっ…
ななな…なんて紫が似合うんだっひいいっ…
いや、そうじゃなくて…どうして僕の胸に絡み付いて…

「お兄さん…ありがとう…お兄さんが許してくれたから僕、ミンを取り戻すことができました」
「そそそそっそれはっなによりでっ」
「ああ…お礼って言うと、僕にはこんなことしかできないけれど…お兄さん…」

ミンチョルさんは紫のシルクのパジャマ姿で僕の首筋に金色の尻尾…じゃない…メッシュの髪の毛を擦り付ける…
ひいいい…ああ…ひいいい…

「ちょっと!誰の事考えてるんだよっ!」

あれ?擦り付けられていたメッシュの髪が…ちょっとウェイビーになって…
紫のシルクのパジャマは剥ぎ取られ、ピンク色の素肌が露わなミンチョルさ…じゃなくて…ラブ?!ん?!

「俺の事しか想っちゃヤダ…」

ラブは僕の胸にしがみつく…あああ…らぶぅぅ…

「お兄さん、今は僕の事だけを考えて…。キスしましょうお兄さん」
「けえええっ…」

ああ…
いけない…
いけないよミンチョルさん…
そんな色っぽく半開きにした唇をっ僕にっ僕にあああむむむむ

僕はミンチョルさんと濃厚なキスをしている…
僕はっ僕の指はっミンチョルさんの紫のパジャマのボタンを外しはじめっ
あうう眩しくてその素肌が見えないのはなぜだっ!こんなチャンスは二度とないってのにっ!
あれっラブは何処へ?
ん?んん?
今僕がいた紫ベッドにミンチョルさんと僕が絡み合っている…
それを僕は少し離れて見ている
ん?んん?

「いい眺めだね…素敵…」

らららラブっ!ラブが僕の隣にいるっ!え?僕とミンチョルさんの絡みを見てるのになぜそんな穏やか?!

「ミン…ミン…」
「ああ…」

ああ?!
あれは『僕そっくりの弟』…
なんだこれっなんなんだこれっ!
夢だ!夢なんだ!きいっ…
夢だけどなんて夢だよっきいっ!

どすっ

「ぐえ…」

僕は甘いんだか苦いんだかわからない悪夢のような素敵な夢から、突然の腹部の痛みによって現実に引き戻された
いたたた…
ラブの脚が僕の下っ腹を直撃している…
危ない…
もう少し下に入ってたら…あと三日は…不能だぞ…ラブ…
それに…こいつ…重いんだよな…うん…

「…ばか…」

ラブが寝言を言った
僕はニヤついてラブの顔を眺めた
お前が意外と重いってこと、僕しか知らないんだよな…
そう思ってからハッとした…

あのクソジジイも…知ってるんだった…ぐぞう…

悔しくなったので、ラブをぎゅううっと抱きしめて眠っているラブの唇に濃厚なちゅうをした

「…ん…んん…テジュ…」

なにいいいっ?!
ちゅばっという音を立てて僕は唇を離し、『テジュ』などというイナが言いそうなへんな三文字を吐いた僕のヴィーナスの唇を涙目で睨み付けてやった

「アンタだってミンチョルさんの名前…呟いてたもんっ!」

ぱちっと目を開けた悪魔なヴィーナスは、僕を睨み返して言い放った

「あは…あはは…それはお前が…」
「俺のせいにするの?!」
「お前だって昨日、いろいろと僕のせいにしたじゃない…それに…」
「なによ!」
「こんな紫尽くめにするからつい…夢に…」

最も紫の似合うあの人が出てきたんじゃないかっ…

「どすけべじじい!ふんっ!ミンチョルさんがアンタなんか相手にするわけないじゃんっ!」
「そ…そんなの…解んないだろっ!ふんっ!それにお前って酷い!寝言のふりしてあのクソジジイの名前呟くなんてっ!」
「ふんっ!」
「へんっ!」

僕達はお互いに背を向けて拗ねた
暫くするとラブの背中が僕の背中にくっついた…
僕は向きを変えてまた、ラブを背中から包み込んだ
左肩の入れ墨に唇で触れる
背骨に鼻をくっつけてくふふんと笑う
ヴィーナスの微妙な反応を確めながら僕は安堵する…

弟がミンチョルさんと一緒に帰って来る…
よかった…
ほんとによかった…

それにしてもラブに紫色は…あまり似合わないなぁ…

「ねぇ…今度はサーモンピンクにしてよ…」
「なにが!」
「シーツ…」
「は?」
「そのほうがお前…綺麗…」
「…ふ…」

ラブを包み込んで、ミンチョルさんの色に包まって、僕達はもう一眠りした
でも僕は規則正しい生活が好きなので、7時には起きて、ラブに嫌がられた…


発熱  オリーさん

目が覚めてその異変に気がついた
ミンの手がとても熱い
気がつくと触れている腕すべて熱かった
ミンはまだ眠ったままだ
そっと額に触ってみた
とても熱かった
僕はアテンダントを呼んで冷たいおしぼりをもらった

「ミン・・」
ぼんやりとミンが目を開いた
「熱がある」
「ん・・」
「大丈夫か?」
「「冷たくて気持ちいい」
おしぼりを額にあててやるとそう言ってまた眠った

ミネラルウォーターを頼んだ
アテンダントが心配そうに聞いた
「気分がお悪いですか?」
「ちょっと熱があるようです」
「もう少しで着きますが」
「着いてから医者に連れて行きます」
「お薬をお持ちしますか?」
「いえ、おしぼりをあと何本かください」
アテンダントはうなづいて戻っていった

「水を飲んでごらん」
「ん」
ミンは目を開けて冷たい水を半分だけ飲んだ
「あと少しで着く。着いたら病院に行こう」
「いやだ」
「すごい熱だ。何かあったらどうする」
「大丈夫。薬ならもらってある」
「診てもらった方がいい」
「いやだ。家に帰りたい」
「ミン」
「家へ帰りたい・・」
ミンはそういうと僕の肩にもたれかかった
僕はおしぼりでミンの額を冷やし続けた

アテンダントの用意してくれた車椅子に乗らないと言い張るミンを抱えて僕は飛行機から降りた
それでも親切なアテンダントは僕らの荷物を運んで入国審査までつきあってくれた
税関もなぜかフリーパスに近い状態で僕らを通してくれた
「これってもしかしてミンのおかげ?」
「ん、たぶん・・」
ミンは僕にもたれかかったままかろうじて歩いている
エアラインの地上スタッフが車を取ってくる間、ロビーでミンを見ていてくれた
「医務室で休んでいかれた方が」
「ありがとう。でも帰って医者に診せます」
車まで送ってくれたスタッフに礼を言うと
僕はふらふらしているミンをローバーに乗せた

「ねえ、家に帰りたい」
車を出したとたんまたミンが言った
「わかったから」
「ほんとに?」
「ああ」
「病院は嫌だ」
「子供みたいだな」
「薬なら・・」
「持ってるんだろ、わかったから」
「絶対家に帰ってね」
ミンは朦朧としながら家に帰ると繰り返した
「わかったよ。帰ろう」
そう言って手を握りしめるとミンは安心したようにうなづいた
ちらっとLBGHのことが頭をかすめたが、結局ミンの言うとおりRRHに帰った

RRHの正面に車を停めた
トンプソンさんが驚いて出てきた
「どうなさいました」
「今帰りました。ちょっとミンが熱があって」
「車は駐車場に回しておきます。お荷物は私がすぐお持ちしますので」
「助かります」
僕はまたミンを抱えてエレベーターに乗った

部屋に着くと、イナもお兄さんもいなかった
店の時間だったな、と思いついた
ミンをベッドに寝かした
ミンは目を閉じたままうれしそうに笑った
「帰ってきたんだね」
「着替えてから横になった方がいい」
「ん」
「薬はどこ?」
「トランクの中」
「今トンプソンさんが持ってきてくれるから、着替えて」
着替えを手伝っているとエレベーターが開く音がした

トンプソンさんが荷物を持って上がってきてくれた
「お加減は?」
「熱が高くて。フライトの途中からなんですが」
「往診してくれる医者を知っていますが」
「頼めますか」
「かしこまりました」
いつものように必要最低限の会話で必要最大限の事を察した彼はロビーに戻って行った

部屋に戻るとベッドの上でミンが横になっていた
「今トンプソンさんが医者を呼んでくれる」
「ん」
「水を飲む?」
「いらない」
「じゃあ氷を持ってくるから」
「ん」

冷蔵庫から氷を出そうと手を伸ばした途端携帯が鳴った
「無事帰ったか」
「スヒョン」
「大丈夫か」
「すまない、連絡しなくて」
「いいんだ。とんぼ帰りで疲れたろう」
「今家に着いた。ただミンが熱を出してて」
「ギョンビンも一緒に帰ってこれたのか」
「ああ。急に予定がかわって一緒に帰ってきた」
「で、熱?医者に診せたのか」
「これから往診してもらう」
「そうか。お前も気をつけろよ」
「僕は大丈夫だ。で店なんだが、明日も休んでいいかな」
「2・3日ゆっくりしろ。給料割り増しでさっぴいとくから」
「ありがとう」
「ギョンビンの事はドンジュンが随分心配してた」
「ああ」
「無事に帰ってこれたならあいつも安心だろう。僕もだ」
「うん・・」
空港まで来てくれたスヒョンの姿を思い出した
一瞬の沈黙の後、スヒョンはさりげなく話題を変えた
「で、例の件は一応話は通しておいたからな」
「例の件?」
「映画の件だよ」
「会ってくれるって?」
「元ヴィクトリーの敏腕プロデューサーに興味があるらしいぞ」
「よかった」
「競争相手は一杯いるらしい。お前の腕次第だな」
「わかった」
「その様子じゃ、本はまだ読んでないんだろ」
「まだだ、すまない」
「休みがてら目を通しておけ。なかなかいい本だ」
「そうか?」
「誰が主役だと思ってる」
「そうだったな」
「近々監督たちと引き合わせるから、はったりかます準備しておけ」
「はったり?」
「得意だろ」
「はったりかますにはそれ相応の実力がないと効果はないんだよ」
「へえ、でお前は効果のあるはったりがかませるって?」
「まかせてくれ」
「ふふ、調子が出てきたな。じゃギョンビンのことお大事に。
そうだ、ドンジュンでも応援に行かせようか」
「いや、大丈夫だ。何かあったら連絡させてもらう」
「わかった」
「スヒョン、その・・色々ありがとう」
「いいから落ち着いたら連絡よこせ」

電話を切ってから思い出した
スヒョンから預かった映画の台本のことを
飛行機の中で目を通せればと一応持っていったのだが、結局開かずじまいだった

そんなことを思い出しながら、僕は氷の準備をした
部屋に戻ってミンのそばに腰掛けた
「氷を持ってきた。なめてみる?」
「ん」
氷が大きすぎたので小さく噛み砕いて、かけらをミンの唇に落とした
ミンは焦点のずれた視線を僕に向け美味しいと言った
同じ事を何度も繰り返した
そのうちミンがクスクス笑い出した
「どうした?」
「ここの天井ゆがんでるよ。ぐわーんって」
「ミン、それは熱のせいだ」
「そうかな」
「そうだって」
「だって誰かさんの顔はちゃんとしてるよ」
「でもそのうち僕の顔もピカソの絵みたいになるかな」
「いいなあ、それ・・すごくいいなあ」
「ばかっ」
「ねえ、ずっとそばにいてね」
「ああ」
「ずっとだよ」
「ずっとそばにいる」
僕はミンの熱い手を握りしめた
ミンは安心したようにまた目を閉じた
すぐに少し不規則な寝息が聞こえた
僕は子供のようなミンの寝顔をじっと見つめた

お兄さんに電話した。
お兄さんは二人で帰ってきたことを知っていた
例の諜報機関のお友達から連絡があったのだろうか
「もう大変な騒ぎだったらしいですねえ」
「はあ」
僕はわけがわからなかったのでただ相槌を打った
そしてミンが熱を出していることを告げた
お兄さんは神妙になって店が終わってから帰りますと言った
「病院には行ったんですか?ああ、帰ってきたばかりか」
「ミンが嫌がってて。どうしても帰りたいって」
「ふ・・ん、あいつめ。我儘モードに入ったな」
「今往診を頼んでます。どうしてもという時は連れて行きます」
「店が終わったら僕も帰りますから」
お兄さんもやはり心配そうだった
でも我儘モードって・・

トンプソンさんから連絡が入った
「医者と連絡が取れました。すぐ来るそうです」
「ありがとうございます、いつもすみません」
「こちらに見えましたらご案内いたしますので」
彼はまた端的に仕事をすませた

僕は冷たいおしぼりを作って寝室へ戻った
ミンの顔を拭いてやった
その僕の手をふいにミンが掴んだ
「どうした?気分でも悪い?」
「ううん・・気持ちいい」
「そうか」
「ねえ、となりで寝てて」
「これから往診がある」
「来るまで」
「・・・」
「ねえ」
僕はちょっと考えてからミンのとなりに滑り込んだ
「お兄さんに電話した。我儘モードって何?」
「ふふ、気にしないで」
「そう言えばミンは末っ子だったな」
「いいでしょ。こんなに世話してもらったのって初めてだもん」
ミンはそう言って僕の肩に顔を埋めた
「何だかすごく気分いい・・」
肩先からミンの高い体温が伝わってきた
ばか・・初めてってことはないだろ
僕はそう言うとミンの頭をそっと抱いた

「ねえ、ずっとそばにいてよ・・」
熱のせいかどうか、ミンは何度も同じことを繰り返した


忙しい一日の終わりはやはり忙しい(イナ)  ぴかろん

店からRRHに帰った
トンプソンさんに挨拶してエレベーターに乗り込んだ
ここまでずっと手を繋いできた
扉が閉まるとテジュンは俺を抱きしめた
俺は今日一日ものすごく歩き回った
俺は今日一日ものすごく神経を遣った
俺は今日一日ものすごく頑張った
だから俺はテジュンの胸によりかかって、40階に着くまで、一瞬眠ってしまった

抱きすくめた野良猫は、随分立派な野良猫に成長したと思った
今日一日イナを見ていて、本当に僕がこいつを抱きかかえていていいのだろうかと不安になった
僕は彼を潰さないだろうか…
僕は彼を壊さないだろうか…
僕の腕の中で静かにしているイナを見ると
あろう事かこんな所で眠っている!
僕は彼を起こさないようにもう一度抱きしめた

エレベーターの扉が開いて、俺はテジュンに引っ張られた
あ…たらいまと間の抜けた挨拶を、俺はその空間に発した
暗い空間と窓の外の煌きが、俺から現実味を奪う
エレベーターの扉が閉まるとテジュンは俺を引き寄せてキスをした
すぐに唇を離してテジュンは囁く

宇宙の真っ只中にいるみたいだね…

窓の外の夜景が星ってわけ?
ふぅん…そういえばそうかも…
俺は窓際に歩いて行った
テジュンは俺のすぐあとに続き、窓際まで来ると、また俺にキスをした
俺は目を開けたまま、テジュンの顔と夜景を見ていた
テジュンも同じように俺と夜景を見ながらキスしていた
テジュンの唇が俺の首筋に降りてきたので、俺はテジュンを押し戻した

「ここで…ダメ?」
「あったりめぇだろっ!ここは公共の場所だっ!ほんとはキスもダメなんだぞっ!」

俺は部屋の電気をつけに壁の方に向かった
電気のスイッチに伸ばした手を、テジュンが走ってきて押さえた

「ダメ?」
「だめ!」
「ダメだよ…」
「だめって言ってるだろ?!」
「ダーメ…」
「だから…ん…」

壁に押し付けられて唇と自由を奪われ、素早くボタンを外されてしまった…
慌てて抗おうとしたが、テジュンの長い指は既に俺の体を這い回っていた
抵抗できない
気持ちよくて身を委ねてしまった
テジュンはまた俺の首筋に唇を落とし、かわりに長い指が俺の唇の相手をした
疲れていた俺は、訳が解らなくなった

イナの息遣いが荒くなってきた
シャツを羽織らせたまま背中や腹や胸に指と唇と舌を這わせた
ところどころ強く吸ったり噛んだりして、イナの小さな叫び声を楽しんだ
もう一度イナの唇に戻って味わいながら僕はイナのベルトを外した
ストンとスラックスを床に落とし、僕はイナの唇からまっすぐに臍まで舌を滑らせた
イナは壁につけた頭を反らせた
そっと下着を下ろしながらその中心を含む
イナは驚いて反らせた頭を下げ、僕を見ている
僕と目が合ったイナは僕の頭を自分から離そうともがいている
僕は知っている
イナの腕がやがて僕の頭を抱きしめる事を
強く弱く僕の唇と舌がイナを包み込む
イナはやはり僕の頭を抱きしめ、声にならない声をあげている
その声がすすり泣きに変わり、また僕の頭を引き剥がそうともがく
力なく僕の髪を引っ張る
僕は止めない
イナの腰を抱きかかえて止めない
イナの背が仰け反り、僕の頭を抱きしめて震える
耐えながら果て、がたがたと力が抜ける
ゆっくりと壁伝いに滑り落ちてきたイナを抱きとめ、唇を寄せた

「やら…」

朦朧としているのにしっかり拒否する

「どうして?」
「や…」

あっ…こいつ…このままキスするのが…

「気持ち悪いんだろ!…お前のだぞ」
「…」

こども…

「シャワーに行く?」
「…」
「ん?イナ?…そんなに気持ちよかったの?」
「…ここじゃだめらっていったのに…」
「いいじゃない…」
「やら…ぐしゅ…やらったのに…」
「気持ち良さそうにしてたぞぉ」
「へんなこというな…ぐしゅ…」

ああ…涙が次々に溢れ出してきた…
僕はこの…変にカタいところのある野良猫を抱きかかえて、部屋のシャワーに連れて行った
体を洗ってやってもツンツンしてるし、キスしようと唇を近づけてもフンと横を向く

「なんだよ…そんなに怒らなくてもいいじゃんかぁ…ずっと我慢してたのに…」
「は…みがけ…」
「は?」
「きたない…はみがきしろ…」
「き…きたないって…」
「しょんなくちときしゅしたくない!」
「…」

僕は心の中で、お前のだぞっ!お前のものなんだぞっくそっ!と叫んだ
おとといから僕用の歯ブラシが置いてあるので、それを使ってイナの目の前で念入りに歯を磨いてやった
お前も磨けよ!と言ってやると、俺はいいのとほざく…
なんなんだっ!この野郎…
口を漱いでキスを迫るとまた顔を背ける
なんでそんなに怒るのさ…そんなに嫌なら仕掛けた時に殴るなり蹴るなりすりゃあいいだろ!ときつい口調で言ってやると
いっちゅもじぶんかってら…と涙目でちゅぶやいた…いや呟いた

「だってお前から来ないんだもん…僕から仕掛けるしかないだろ?」
「…ぶぁか…」
「…イナ…。イヤなの?僕とするの…イヤ?嫌い?」
「…きらいじゃない…」
「じゃ…機嫌直してよ…ね…」
「ここにかえってきたら、まじゅ、ミソチョルにあいさちゅして…しょれから…しょれからって…ぐしゅっ…」
「…ごめん…」

そういう儀式があったのか…そういう…子供の儀式が…

神妙に頷いてから急に可笑しくなって吹き出すと、イナがムッとした顔で立ち上がり、バスルームを出て行った
慌てて僕も外に出て、イナを追った
イナはバスローブを羽織って部屋から出て行こうとしている

「ちょ…ちょっと待って…」

パタンとドアを閉めてリビングに行ってしまった…
僕は大急ぎでバスローブを羽織ってリビングに行った
イナは電気を点けてソファにいるミソチョル君を抱きしめていた
子供の儀式を僕は壁に凭れて見ていた

「…ただいまミソチョル…」
『お~か~え~い~』
「…睨むなよ…」
『なにしてたでしゅか…あしょこで…』
「…み…見てたの?」
『くらくってよくみえましぇんれしたなぁ~』
「んと…く…くしゅぐりっこ…」
『いなしゃんのなきごえみたいのがきこえましたなぁ~』
「んと…くしゅぐったくて…」
『あっうっおおっていうちいしゃなこえが、きこえましたなぁ~』
「き…気のせいだ…」
『ちゅばちゅばいうおとも…』
「気のせいだって!」
『ふぅぅん…。なかよししたんでしゅな?』
「まっ…まだこれからだっ!」
『これ…から?』
「あ…いや…あうっ…」
『ぢゃあぢゃあ…こんやもぼくは…ここれひとりれ…ねるんれしゅかぁぁぐぇぇぇぎぇぇぇ…』
「何言ってる!ちゃちゃちゃんと俺がだっこしてねんねさせてやるからっ!」

何言ってる?!今夜は僕とベッドで踊り明かすんだぞっイナっ!

『ほんとれしゅかぁ?…れも…てじゅんしゃんが…ぷりぷりおこりましぇんかぁ?』
「…なんとかする…」

なんとか?なんとかって?!

『ぼくはべちゅに…ぐいーんってのみててもへいきれしゅうぐぐ…』
「しっ!変なこと口走るなっ!」
『うぐうぐ…ミンとミンチョルしゃんなんかぼくがみててもへいきれしゅよう…』
「俺は平気じゃねぇよっ!」

くふん…わかった…
じゃあ…こうしよう…

「やあミソチョル君、悪かったねぇ君の大切な親友を独り占めしちゃってぇ…」
『あっ…どしゅけべてじゅんしゃん…』
「…。あは…あはははは…。僕はギョンジンなんかと比べると、ごく普通の男だよあは…あはははは…。ところで…三人で一緒にねんねしようミソチョル君」
「『え゛っ?!』」
「なんだよ、イナもミソチョル君も…そんな不思議そうな顔しなくてもいいよぉふふっふふふっ」
「てじゅ…いやらしいこと考えてないか?」
「僕は常に清廉潔白だ」
「…」
『うしょつきれしゅ…』

ミソチョル君の呟きに、イナがコクコク頷いている…
くそったれ!
僕は営業で培ったスマイルを崩さないように、ミソチョル君を抱きしめた子供のイナを、イナの部屋に誘った
そしてそれから…
イナはミソチョル君を必死で目隠ししたり誤魔化したりしながら遊んでいるふりをして僕をくふふん…
ミソチョル君と普通を装いながら会話し、僕は僕でそれを眺めながらイナをくふふくふふ…きひひん…
ミソチョル君は二日分べらべらと喋り続け、イナは息の抜けた相槌を打ち、時々ミソチョル君に、なんかいろっぽいれしゅとか言われながら必死で僕とミソチョル君の相手をしていたくふふふ…
ミソチョル君が眠ってから…眠ったと思う…いや…もしかしたら狸寝入りだったかも…だってミソチョル君、狐にしては腹が出すぎだし…イナはこんな目に遭うのはイヤらとブツブツ文句を言い、得意の涙目でプンと拗ねた
ミソチョル君が眠ったので(いや…狸寝入りか…)僕は心置きなくイナに何度もトライした
疲れ果てて眠る時、ミソチョル君が寝言で『おちゅかれしゃん…』と言った
…こまっしゃくれたぬいぐるみだぜ…


そら  足バンさん

煙は真っすぐ立ちのぼり
ゆっくりと空気にまぎれ消えていく
そこに還る場所があるかのように…


BHCに寄ったあと用事を済ませて家に帰った
ソクさんたちは今日も帰らないと聞いていたので
もしホンピョ君たちが来たら食べられるようなものを用意し
ブルーと小鳥に餌をやってから家を出る

ぶらぶらと歩いて、かなり離れた場所のいつもは行かない屋台に顔を出す

今夜は何となく誰とも顔を合わせたくなかった
知ったやつらと偶然会うこともできれば避けたかった

今日は僕らしくない一日だった
いや、僕らしい一日だったのかもしれない

ー寂しくない?

イナさん…イナのひとことがどこかに羽根虫のように飛び回っている
うるさくて取り払いたいのに姿が見えない

テジュンの馬鹿野郎に一生懸命ついて行こうとするイナ
愛されていることを知りつつ自分の腕の中に囲うのをためらうテジュンの馬鹿野郎
お互いに踏み込みすぎるのを怖がるイナとテジュンの馬鹿野郎

あんなに近くにいるのに
手を伸ばせばすぐ応えてくれるひとがいるのに

寂しい?この僕のどこが寂しいって?

毎朝季節の潤った空気を吸い込んで
樹々に水を与え
おいしくご飯をいただいて
たくさんの友人に恵まれ
柔らかく微笑めば周りのひとが応えてくれる

そんな僕のどこが寂しいって?

僕はその夜ひっそりと静まり返った屋台で遅くまで飲んだ
屋台の親父にもう閉じたいと言われるまで
誰にも遠慮することのない”自由”を満喫して飲んだ

次の日の朝はいつもより早く起きて仕入れに向かい
支店長との野暮用で午前中を大方潰して戻った

ホンピョ君たちが寄った形跡があったが
すっかりすれ違いになっているようだった

ひとり昼メシを食い終わって外の掃除をしていると
ソクさんが戻って一度部屋に入り暫くして庭に出てきた

2日ほど会っていないだけなのに彼の笑顔が微妙に違う
ずぶ濡れだったあの日の瞳の曇りはどこにもないように見えた
僕が何も言わずに微笑むと彼はちょっと照れたように笑った

何か言いたそうなので黙って待っていると
庭で火をおこして物を燃やしてもいいかとやっとのことで言った
裏の小さな焼却炉でどうぞと言うと明かに困ったような顔をする

僕はソクさんが持っている丁寧に封印された小さな紙の袋に目をおとした

「大掃除のあとってわけじゃないみたいですね」
「あの…どこか…」
「はい?」
「いえ…いいです…」
「…」
「今日どうしてもってわけじゃ…」
「…」
「…」
「ちょっとだけお時間ありますか?」
「え?」
「よかったら僕に付き合いませんか?」
「は…あの…」
「まぁついてきて下さい」

僕はソクさんをトラックに乗せて20分ほど走らせ
だだっ広い敷地の真ん中に立っている壁が崩れかけたビルの前に停まる

車の中でずっと押し黙ったままだったソクさんは
何度も何かを言いかけそうになりながら
僕の後についてビルの古い階段を登った

ふたつの足音が階段のひびわれた壁に侘しくこだまする
この壁が最後に暖かな人々の声を聞いたのはいつのことだろう

屋上に辿り着くとほとんど風のない冷たい空気の中に空が迫る
ぐるっと見渡せる街はどことなく乾いて見えた

僕はジャンパーのポケットに手を突っ込んで
陽を背にして端にある冷たいコンクリートの塊に腰をおろした

「近いうちに取り壊されるビルです」
「あの…」
「どうぞ、どこでも好きなところで…煙いと文句言う人もいませんよ」

ソクさんはずいぶん長い間向こうを向いて立っていたが
ゆっくりと隅まで歩いていくと
持っていた紙袋を放置された瓦礫の影に置きライターで注意深く火を点けた

見る間に袋に火が伝わり
燃えあがった部分が深呼吸をするように口を開く
中に小さな布のようなものが見えたが
しかしそれも瞬く間にくしゅくしゅと縮まり姿を変えた

立ちのぼる煙の帯の陽炎は
生き物のように空に登っていった


ソクさんと僕は並んで座り、ぼんやりと煙草をふかす
ソクさんの目は寂しそうではあるが落ち着いた潤いにも恵まれていた
その向こうに…
スヒョク君の存在が優しくよこたわる

「今日はスヒョク君は?」
「あとで…会います…ひとりでやっておいでって…」
「そうですか」
「ヨンナムさん…あの…」
「はい?」
「何も…聞かないんですか?」
「聞いてほしいですか?」
「いえ…そういうわけじゃないですが…」

僕は遠くの建物を見渡し、空を見上げ、
遥か上空を飛んでいく飛行機の小さな点に煙草の煙をかける

「いいでしょ?ここ…取り壊されたら何も残らない」
「…」
「辛い別れを言うのはこんな場所がいいんです…美しい場所にする必要はない」
「…」
「大事なものは空にでも仕舞っておけばいいんです」

ソクさんの口からは何の質問も出ない
何の答えも用意していない僕にはとても助かる

「お元気になったようでよかった」
「少しずつ晴れてきたような気がします」
「そうですか」
「僕はヨンナムさんのように静かに穏やかに生きていきたいな」

何も言わない僕の横顔を
ずいぶん長い時間見つめられているのを感じた
そして思いがけない言葉が聞こえた

「でも…穏やかに見えるひとの心の中がその通りだとは限りませんね」
「え?」
「炎って赤い印象だけど…温度が高くなると青くなるでしょ」
「え…はい」
「そのまま温度が上がり続けると終いには見えなくなるでしょ」
「…」
「目に見えないからって燃えていないとは限らない」

戸惑ってソクさんを見つめると彼は僕の目を覗き込んでふふと笑った
その笑顔につられて僕もちょっと微笑んでみた

「さ、スヒョクが待ってるから行かなくちゃ」
「送りしましょう」
「助かります」
「たまにはうちにも帰ってきて下さいよ」
「今日は帰りますよ」
「じゃ夕飯は何にしましょう」
「あの先日のあれおいしかったですよ…ええと…」

僕たちはそこに昼休みの休憩にでも来たように屋上を後にした

階段を下り始めて振り返ったソクさんの視線の先には
小さな黒い別れの名残が見えた

でもソクさんの瞳に哀しそうな影はない

僕もあんな穏やかな目をしていられたのだろうか…











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