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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 175

とまどい  オリーさん

スヒョンと別れて建物の中へ入った
後ろで静かに扉の閉まる音を聞いてもう一度振り返った
スヒョンの車はまだ同じ場所に留まっていた
朝もやに包まれたその車は存在自体が幻のようだった
僕は部屋に戻って、まだ空調もきいていないリビングのソファに体をうずめた
どうすればいいだろう
スヒョンは一晩考えてから僕の所へやってきた
昨夜電話がなく、朝に呼び出しがあったことがそれを物語っている
監督達と会ってから一晩考えた結果・・

ミンに飛びつかれて僕は嬉しさと戸惑いが入り混じった感情に襲われた
仕事が取れたかもしれない、それは確かに喜ばしい
でも、もう一つのあのリクエストは・・
あの監督は本気なのだろうか
ヒョンジュの役を僕にと言うあの監督の言葉・・
僕はスヒョンからの電話をひたすら待った

「僕だ、ミンチョル。すっかりやられたよ。監督お得意のきついジョークだ。
まったく映画監督って言うのは変わり者が多くて困るよ」
そんな電話を僕はずっと待っていた
だが僕の携帯はぴくりとも動かず時間だけが過ぎていった
ミンと遅い夕食を取り、シャワーを浴び、眠る時になっても携帯は鳴らなかった
こちらからかける勇気が出ず僕はそのまま眠りについた

そしてジンという名のスヒョンとヒョンジュの夢を見た
ヒョンジュの顔はわからない
二人はもやの中を手をつないで歩き、立ち止まってはまた歩き始める
大きな木の下で、スヒョンは立ち止まりヒョンジュを抱き寄せた
そのヒョンジュの顔を確かめたくて、声をかけようとした時
着信音が僕を夢から連れ戻したのだった

今朝のスヒョンの顔には、とまどいと同時にある決意が見て取れた
監督に会いに行った昨夜にはそれは見受けられなかった
スヒョンは僕に同じ船に乗ってほしいと言いに来た
何て事だ

僕とヒョンジュが重なった
そうも言った
僕が役者を・・
しかも言葉を持たないあのヒョンジュを・・
目を閉じても頭の中の混乱はおさまらない
それどころか、大きな渦となって激しくうねり始めた
何て事だ・・

しばらくしてから寝室へ戻った
そしてもう一度ミンが眠っているベッドはもぐりこんだ
「どこ行ってたの?」
ミンは僕に背を向けたまま眠そうな声を出した
「ちょっと外の空気を吸ってきた」
「眠れなかった?」
「いや、そうでもないけど」
「映画のこと、気になってる?」
「いや・・」
ミンは僕を振り返った
「大丈夫、すぐ本決まりの連絡が来るよ」
「・・・」
「音楽はミューズにぜひお願いしますって」
ミンは片手で僕を包んだ
「冷たくなっちゃって、風邪引くよ」
暖かい体を僕に押しつけた
「いつもの自信はどこいっちゃったの、絶対大丈夫だって」
「ああ・・」
僕はミンの暖かさに包まれて落ち着かない気持ちを抱えたまま、また眠りについた

一眠りして僕たちは起きた
「パンは昨日の残りを温めて、スープ作って。缶詰があるから。コーヒーは僕がやる」
ミンの機嫌はとてもよく、朝食の指示をしててきぱきと動いている
僕は言われたとおり缶詰を取り出しスープの準備をしパンを温めた
「今日はどうするの?」
「今日って?」
「やだな、仕事の予定だよ。ミューズに顔出さなくていいの?」
「そうか、そうだね。ミンはどうする?」
「僕は自宅療養でしょ」
「退屈しないか」
「やることはいくらでもあるよ。本読んだり、トレーニングしたりね」
「そうか」
「でも、2・3日したら店に出たいな」
「大丈夫か?」
「この格好、案外お客に受けるかも。それにみんなの顔も見たいし」
「ミンがいいなら出ればいい。ただし無理はだめだ」
「わかってる」
ミンはパンにかぶりつきながらにっこりと笑った

「いい話だよね」
コーヒーを飲みながらミンがまた話し出した
「何?」
「スヒョンさんの映画」
「あ、ああ。でもどうして、何で知ってる?」
「昨日留守の間に本読んだって言ったじゃない。聞いてなかった?」
「ああ・・・そうだったね」
ミンもあの本を読んだのか。
昨日そんな話を聞いた事も忘れていた
「涙が出た」
「ミン?」
「いい話だよね。ほんと胸にきた」
「そうだな。音楽も頑張らないと」
「そうだよ、頑張らないと。でもドンジュンさんよく許したよね」
「え、何?ドンジュン?」
「スヒョンさんがあの役やるの、よく許したよ」
「・・・どうして?」
「きわどいシーンがあるじゃない」
「・・・」
「そりゃ映画だけど、僕だったらかなり考えちゃうな」
「え、映画だから・・・所詮、作り事さ」
そう言いながらマグカップに伸ばした手元が狂った

カップがテーブルの上でそろりと傾き、コーヒーがこぼれ出た
「ああ!何やってるの」
ミンが立ち上がるのが見えた
コーヒーがテーブルの上に広がっていく様をスローモーションで見ていた
「もっと拭くもの持ってきてっ、はやく!」
ミンの大きな声に、僕は弾かれたように立ち上がりソファにかけてあったタオルをミンに投げた
片手で器用に広がったコーヒーの島をK例にぬぐうとミンが僕を振り返った
「もうっ!何ぼーっとしてるのっ」
「すまない。手元が狂った」
ミンは笑いながら僕をにらみつけている
「片手の僕より不器用ってどういうことよっ」
「不器用って・・ちょっと手元が狂っただけだよ」
僕は曖昧に笑みを浮かべた
頭の中ではある言葉がうずを巻いていた

きわどいシーン・・
ああ、そんなシーンが確かにあった
僕は頭の芯が冷えていくのを感じていた


テジュンの想い  足バンさん

初めて会った時の君の印象はどうだっただろうか…
ホテルに営業にくる他の旅行会社の社員と変わらなかったけれど
明るく弾むような瞳がとても綺麗だった

とにかく君は粘り強かった
よほどの企画でなければ無理だと伝えると
毎日のように練り直してやってきたでしょ

企画が通ったことを伝えた時の
輝くような嬉しそうな顔は今でもよく憶えている

打合せを兼ねて度々顔を合わせるうちに
僕はいつの間にか君の姿を追うようになっていた

パーティで初めてヨンナムに引き合わせた時の
君のおもしろがりようといったら…
僕たちがそっくりだと言って大喜びし
3人で写真を撮ると言って同僚にシャッターを切らせていた

時間を捻出して会うようになり
たまの休日にはヨンナムを誘って遊びに出掛けた
仁川の店には何度行っただろう
カムジャタンを食いながら
僕もヨンナムも君もいつも笑いころげていた

お互いひとと接する仕事だから
ふたりでいられる時は静かなところを選んだ
海や川や…ボロの愛車であてもなくドライブをすることも多かった

次第に君の存在がなくてはならないものになった
時間があれば電話をいれた
かなりのアピールをした憶えがある
街の雑踏の中で好きだと大声で叫んで
真っ赤な顔をした君に思いきり叱られたこともあった

君が何かのプロジェクトで重大なミスをして
消え入りそうな声で電話をしてきた雪の夜
僕は真夜中に君の出張先まで車を飛ばした
そしてその日僕たちは初めての夜を過ごした

幸せだった
このひとと生きていきたいと初めて思ったんだ

ヨンナムに告げると
頑張れよと嬉しそうに笑ってくれた

僕は全く気づいていなかったんだ
ある日ヨンナムがあの君との写真を
大事そうに仕舞っていることを知るまでは

彼のことが引っかかって僕の気持ちは落ち着かなくなった
3人で出掛けることも少なくなり
彼も誘おうと無邪気に言う君と喧嘩になったこともある

ヨンナムにそんな喧嘩の仲裁をされて
正直言って苛々したこともある

君を手放すことなど考えられなかった
しかしヨンナムの気持ちに知らぬふりをすることもできない

どこか何かが噛み合なくなってきた頃
僕の仕事の忙しさはひどいものになり
君との時間を作るどころか
自分のことを考える余裕もなくなった
少し距離をおこうと言ったのは…自分が整理する時間も欲しかったんだ

君はきっとヨンナムに寂しさを伝えたのだろう
あいつは君の気持ちを何とかしてやろうと思うあまり僕を責めた

 自分勝手もいい加減にしろ!
 そうやって周りを振り回して
 おまえの本当の気持ちはどこにあるんだ!

 じゃあ…おまえは?…おまえの気持ちはどこにあるんだ

ヨンナムの表情が凍りついた
僕が気がついているとはこれっぽっちも思わなかったんだよ
今思えば…
僕たちふたりはバカが付くほどの鈍感野郎だったんだな

そしておせっかいなあいつは
僕がなぜ迷っているのか…
決してあなたのせいではないんだと…
君に伝えたんでしょ?

たまに会うことのできた君の中に
ヨンナムへのわずかながらの想いを感じ始めたのはその頃だ

具体的な言葉を聞いたわけでも
何かがあったわけでもない
でも僕は感じた
何かの拍子にあいつの話になると
君の瞳が穏やかな暖かい色を帯びるんだ

焦りはなかった
でもそこに触れるのが恐くて
僕はますます仕事に打ち込んだ
忘れてしまいたくて…考えたくなくて…
同僚が身体を心配するほど仕事をした

そしてある日
君は何かを決意したように僕を訪ねてきた
あなたのためについていく覚悟があると
仕事をやめてあなたを支えて生きていきたいと

僕はとてもその言葉を受け入れることはできなかった

君の夢を捨てさせて
ヨンナムの想いに背を向けて
君自身が気づかぬヨンナムへの想いに知らぬふりをするなど

 わかったわ…ありがとう…

君は静かに受け止め微笑みを残して帰っていった

ヨンナムがまた慰めるのだろうか
それならそれでもいいと…半ば自棄になっていたような気もする
もう戻れないと思った

今日
ヨンナムの口から聞いて初めて知ったことがある
君はヨンナムの前では泣いていたんだね
決して涙を見せない強いひとだと思っていたのは
僕だけだったんだ

事故の知らせを受けた朝
僕はすぐにデスクのパスポートを取り出し
そしてそれをまた仕舞い込んだ
混乱した頭で山のような書類を処理し続けた
震えて…涙で目が霞んで…何度も署名の失敗をした

ヨンナムが死人のような顔で飛び込んできて
僕の首を締め上げてもどうにもできなかったんだ

あの時僕は何を言ったのか憶えていない
でもヨンナムが叫び続けた言葉は忘れない

 頼むから側にいてやれ!

やっとのことでふたりで行くことになったけれど
あいつは来なかった
来ないかもしれないと心のどこかで思っていたような気もする
僕はひとりで自分が撒いた火の粉を受けなくちゃいけないと
そんなことを考えながら飛行機に乗った

ベッドの君は少し痩せたようなに見えた
細い手は力なく冷たかった

 来てくれたの…ヨンナム…

何があっても驚かない覚悟をして行ったけれど
さすがにその言葉は想像していなかったんだ…
身体中が痺れて頭がからっぽになった

 ああ…来たよ…

絞り出すように言って…その手を強く握った

しばらくして少しずつ血圧が低下して…
看護士たちにそこから追い出されて…
僕は医師たちが行き交う落ち着かない廊下に夜明けまで座っていた

臨終を告げられて
僕は君のその白い横顔を少し離れて見ていた

もうヨンナムとして側に立つなどできそうになかった
でもテジュンとして君の側に立つこともしたくなかった

君が最後に感じたのはヨンナム
それだけでいいと思ったんだ

眠るような君を見ながら…僕は何を考えていたと思う?

僕が約束の時間に2時間も遅れた日
君はぷりぷりと怒りながら歩いていて
水たまりにはまってスラックスを台無しにしたでしょ
僕がお詫びにワンピースを買ってあげたでしょ

あのワンピースを思い出していた
あのうすいベージュのワンピース…

怒ったふりをしながら嬉しそうに裾をひらひらさせていた
なぜかあの時の君を思い出していたんだ


あれから僕は君への感謝とともに生きてきた
君と出会ったから今の僕がいる

君への感謝は忘れない
今…愛しているひとのためにも


La mia casa_28   妄想省mayoさん

「ね..ちぇみはさ..」
「ん..何だ..」
「いつから知ってるの?..闇夜のこと..」
「ふっ..お前も気になるのか..」
「ぅん.."も"..って..テスも聞いた?」
「ん..昨日の晩な..聞いてきた..で..話した..お前達示し合わせたのか?」
「違うよ..偶然だよ..」

「そっか..俺が祭の前に闇夜を見たのはじじぃと行った闇夜の父親の教会葬の時..一度だけだ..
 共に仕事をしたことはないが..仕事ぶりはじじいから聞いてたし..昔のいくつかの調書も読んでいたんだな..」
「そう..闇夜に祭で会ったときすぐ解った?」
「ぃゃ..葬儀の時と容貌が大分違った..だから最初は解らんかったな」
「どう違ったの..」
「昔は髪はお前より短かくて..黒のスーツ..随分華奢な男だな..と思った..ま..今でもそうか.」
「ぷっ..」
「祭の時に俺をコマしやがる闇夜をすぐ調べ..オルシンに繋がっていることが解った..で..書生の申に確認した..」
「そぅ..」
「今思えば..昔ちらりと見た闇夜はまだ..薄皮一枚で覆われたままの見せかけの静寧..だったのかもしれんな」
「少し変われたのは..旅のせいかな..」
「そうかもしれん..じじぃはな..」
「ぅん..」
「両親が逝って一人になった闇夜を手元に置いて自分の右腕に育てようとした..
 闇夜はその話も援助も断って有り金持って旅に出たってわけだ..」
「そんないきさつだったんだ..」
「ん..闇夜は旅の間..見事なほど連絡もよこさなかったらしい..たった一度病気になった時を除いてな..」
「ぁ..真冬のドイツで病気になったのは聞いた..知り合いに助けてもらった..って..それって..」

「ぷっ..それは..じじいだ..めったに飛行機に乗らないじじぃが入院先まですっ飛んでいった..
 病院のベットの闇夜に拳固一発..ブーブー文句垂れて..治療費の分だけ金を置いてさっさと帰って来たそうだ」
「どっちもどっちだ..」
「ん..だがな..帰りの飛行機でな.."生きておった..ぉ~~んぉ~~ん..ひ~~ん..ひ~~ん"
 じじぃは鼻水垂らして泣きっぱだったそうだ..これは同行した側近が実はですね..っとこそこそ教えてくれた..」
「何か..いいな..その話..」
「ふっ..テスは泣き笑いで聞いていた..」
「ぷふふ..」

「闇夜の調査が父親のそれと似ている..じじいは見抜いてたんだな..あいつならできるだろうと..」
「じゃ..仕事をするようになったのは旅から帰ってから?」
「ん..そうみたいだ..お前もな..多分..父親に似ている部分はあるかもしれん..いい意味でな..」
「....」
「お前にそんな父親の面を自分の目で確かめ..感じて欲しいと闇夜は思ってる筈だ..俺とテスも同じだ..
 悪いところばかり見ようとするなょ..いいところも認めるように務めろ..」
「ぅん...」
「ん..」

俺はベンチの背に伸ばしていた手でテソンの肩を軽く叩いた

「ちぇみ..今日はパンの注文ある?」
「ん..テスの贔屓が午後に取りに来る..」
「ね..パン屋いつ開店にするのさ..」
「ん?..2,3日後には"離れ"の工事が終わる..そしたらすぐだ..」
「そ..わかった..工事が終わったら職人さん達と宴会しなくちゃね..」
「くっ...そうだな..」
「何作ろうかなぁ..」

テソンは宴会のメニューをあれこれ考え始めた..

テソンは..."離れ"の本当の目的を知らない..

~~~~~
闇夜は釜山から戻りcasaに戻る途中..漢南大橋の袂でちょいと遠慮がちに俺に言った

『....別棟..改装したいと思うんだ..ケド..』
『ぉ?..空いたままほったらかしにしている例の中庭のか?..』
『ぅん..そぅ..』
『急にどうした..俺は別に構わないが..改装して何に使う..』
『ぅん..あの....さ..』

闇夜は別棟の3部屋に区切っていた壁を取り除きトランクルームとゲストルームに間取り変更
一旦外に出ることなくゲストルームに行けるよう..俺たちの部屋側の廊下を延長したい..と説明し..
そして..改装はテソンの父親がcasaに訪問した時の事を見越してのことであり..

『何時になるか解らない..訪問が叶わないかもしれない..無駄かもしれない..
 でも..もし..来れるようになった時..息子の家に泊まれないのは寂しい..出来ることはしておきたい...』と付け加えた..

ちょいと遠慮がちに言ったのは改装はタダではないからだ..
だが闇夜の提案に俺が反対できる道理がない..

俺は俯き加減の闇夜に『わかった..』と言葉を返した..
顔を上げた闇夜に俺は頭を差し出した..
闇夜はクスリと笑い..俺の頭を軽ぅ~く..す~りす~りまぁるく撫でた..俺は地蔵だ..

『"財経部..金庫番"の許可を取らんといかんな..話しておく..』
『ぅん..ごめん..』
『ん..』

”金庫番”とは俺のタレ目のカミさんだ..
闇夜も俺もテソンもcasaとベーカリーに必要な経費はテスに預けている..

『僕が駄目って言うわけ無いじゃん...近いうちどぉーーんとマージンも入るでしょ?ちぇみぃ..』
『ん..多分追加の調査も来る筈..』
『じゃぁ..ぃぃじゃんか..足りなかったらまた調査で稼いでよね..開店前でもパンとケーキの注文こなしてよ..』
『は..はひ..^^;..了解です..』

明けて次の日テスが闇夜にOKを出し..
店の工事の最終チェックをしていたおやっさんが見積もりをし..すぐ別棟の工事を始めた...
その後のオルシンじじいのマージンにイロが付いていたが..
少々不足した分は3人の持ち出しで今のところ何とか間に合わせていた
追加の今の調査が終わり..再度じじいのマージンが入ればかなり余裕が出る
~~~~~
「開店したらお前達にも忙しい思いをさせるかもしれんな..」
「ふっ..ぃぃょ..僕も闇夜もそんなこと思ってない..そもそも..ベーカリーの言い出しっぺは闇夜じゃん..」
「ぷっ..まぁな..」
「でもさ..”営業不定期..ご気分次第♪”のベーカリーなんで聞いたこと無いよ..」
「ぃぃんだ#..追い立てられるのはシロ#..」
「ぷっ..我儘..ね..はるみ..」

んみゃんみゃ#(>▽<)//

「ちっ..そういえば..テソン..車の件はどうなったんだ..」
「ぅん#..OKとった..ちぇみとテスのおかげ..」
「ぷっ..そっか..」

『新車ぁ?.今ので充分じゃないか#..大体にして車ってもんは消耗品だ..ぶっ壊れるまで乗るもんだい#..』
『今の車は嫌なんだ...』
『ふぉ?..いちいち拘る必要ない#..あたしがいいと言ってるんだ#..』
『mayoぉぉ..(;_;)..』

闇夜はテソンに車購入を何とか諦めさせようと..
『ふ~~ん..じゃぁ..MASERATI_sportsGTならいいや...Ferrari-612_Scagliettiもいいな..』と宣い...
挙げ句に『ぃゃぃゃ...やっぱあれだ..BENTLEY_Continental-Tだ#..ひひ..』
っと..到底買える筈のない車を次々を並べたて..むちゃくちゃなことを言っていた...ったく..

『もういいゃ...』っと..さすがのテソンが諦めかけた..

『mayoシ~~テソンさんは一緒にいろんなとこに行きたいんだよ?..解ってあげなよぉ..』と懇々とテスに説教され..
『いい加減にしろっ#..』っと俺に★☆メールで散々責められ..反省した闇夜はやっと折れたとな..

「で..車種は決まったのか?」
「ぅん..alfaにした..」
「ぷっ..やっぱりな..お前達らしい..モデルは何だ..」
「それでまた揉めたんだぁ..」

テソンはなんと..当初"Spider"にしたかったらしい..あたた..ぉぃぉぃ..
『ぬわぬぅ..イメージに合わない..あたしゃ乗らんよ#..』っと闇夜は強固に反対したらしい...まぁ..そうだろうな..
結局モデルはテソンが折れ..ワゴンになった..が..ボディーカラーでまた揉めてるとな..

「僕はヌヴォラブルーにしたいんだ..」
「ぉ..alfaのヌヴォラブルーはいい色だぞ..」
「そうだよね#..ちぇみもそう思うよねっ#..はるみもそう思うでしょ?」
「ん..」「みゃ^o^..」

ヌヴォラブルーはスカイブルー+スチールブルーといった色合いで..それにパール加工と玉虫加工を施してある
光を受けると細かなパール加工がボディラインに沿って波打つ..陽が傾く夕闇は橙とブルーグレーがうねり.
夜は街のネオンの光彩と混ざり..玉虫加工が際だつ..月の光では本来の色がパールで艶を帯びる..実に表情豊かな色だ

「なのに闇夜はさ?.『Linea Rossaがいい#』..って言うんだ..」
「ん~~...それもあいつらしい選択だな..ごもっともだ..」
「ちぇみ..どっちの味方よ..」
「ぁひ..^^;;..」
「ぁ~ぁ..ヌヴォラブルーだけは譲りたくないなぁ..」

テソンはアヒルの口で小さくため息を吐いた
ゃれゃれ..casaにヌヴォラブルーのalfaが来るまでまだまだ前途多難である..

...こりゃ..また俺とテスの出番かもしれんな..

ぴったん☆..スリスリ〃をするとテソンはくすりと笑った..
タレ目のカミさんが起きてきた..撫でつけたはずの髪がまた鳥の巣になっていた..


triangle れいんさん

ドンヒはゆっくりと通路を進んだ
視線の先には店内の片隅に座っているマリアの姿があった
ドンヒがぎこちない歩き方になったのは
かたわらのホンピョがしっかりと腕に巻きついていたからだ
それは、人見知りな子供が、見知らぬ人を警戒する時にも似ている

そんなホンピョを意識しながら、ドンヒはマリアに笑いかけた
マリアは固い表情で、巻きつかれたその腕に視線を注いでいた

ドンヒは何と声をかけたものかと考えていた
やぁ、久しぶり・・なんて変だよな・・今朝別れたばかりだ・・
いらしゃいませ・・?なんだかよそよそしい感じがする
よく来たね・・だと待ってたみたいで、マズイ・・かな・・
左腕にぶら下がってる奴のせいで考えがうまくまとまらない

ドンヒは席の手前で足を止めた
ドンヒの左腕に注がれていた視線が駄々っ子な男へと移されていく
徐々に見上げていくその視線は、さりげなくその男を値踏みしているようにも見える
ホンピョはしがみつく腕に力を込め、もう片方の手はポケットにねじ込んでいた
ドンヒは気まずい空気が漂う前に慌てて口を開いた

「やあ、どう?調子は・・」

二人の視線は一斉にドンヒに注がれた
間の抜けた言葉を非難された様にも思えて
ドンヒはコホンとひとつ咳払いした

ドンヒはホンピョの巻きつく腕をやんわりと引き離し、席に着くよう促した
ホンピョは座っても尚、ドンヒにぴたりと身体を寄せていた

「どうしてここがわかったの?」
ドンヒはなるたけ自然に振舞おうと努力した
「財布から名刺を一枚頂いちゃった」
彼女はそういう事には悪知恵が働く

「学生の身でこういった場所に来るのはあまり感心しないな」
「だってドンヒに用があったんだもん」
「用って・・?」
「私の部屋にネクタイ忘れていったでしょ?だから・・」

彼女は可愛くラッピングしてある小さな包みを差し出した
どうやらその中に忘れ物のネクタイが入っているらしい

「いつでもよかったのに・・」
「だってまたドンヒに会いたくなったんだもん」
ホンピョの肩がピクリと揺れた

ついさっきまで一緒にいたじゃないか
ドンヒはうっかり口に出しそうになった言葉を呑み込んだ

「コホン・・ところで・・まだ紹介してなかったね。ホンピョ、こちらの女性はマリア。マリア、こいつはホンピョ」
「よろしく・・」「どーも・・」
「「・・・」」
顎を軽く突き出して挨拶の様なものを済ませたホンピョは、すぐにフイと横を向いた

「ホンピョ、マリアは大学生なんだ。大学には可愛い女友達がたくさんいるよな?な?マリア」
「あんまり行ってないから親しい子っていないの」
「あ・・そうだったね・・マ、マリア、こいつは僕と同期なんだ。あんまりホ○トってガラじゃないかな」
「・・そうね、一般的なイメージとちょっと違う気もするわね・・貴方もドンヒと同じ寮に住んでるの?」
「・・ああ、一緒に暮らしてる」
ぼそりとホンピョが言った

「え・・?」
「そ、そうなんだ。いわゆるルームメイトってやつだ。なぁ、ホンピョ」
ドンヒはホンピョの肩を二・三度軽く叩いた
「ルームメイトね。その方が何かとお互いに助け合えるってわけね」
マリアが、なるほど、といった風に頷いた

ホンピョは不機嫌そうに胸ポケットから煙草を取り出し、乱暴にテーブルの上に投げ出した
ライターがカチャリと音をたて、煙草が箱から数本とびだした

ホンピョはそれをじっと睨みつけただけで、煙草を吸おうとはしなかった
マリアは転がる煙草を華奢な指で摘み、箱の中に納め、ドンヒの方に向き直した

「ねぇ、ドンヒ、ここって普通のホ○とクラブとなんだか感じが違うね」
「え?そう?」
「似たような顔のホ○トばかりいる様な気がするわ。、それにホラ・・あの人達はぴったりと寄り添ってる・・
向こうの席の人はもう一人の膝の上に乗ってるし・・ニコニコ笑ってそれを見てる客ばかりっていうのも興味深いわ」
「それがここの魅力なんだよ」
「ふぅん・・」

一通り周りを見渡した後、マリアは仏頂面のホンピョを見た
手持ち無沙汰なのか、落ち着かない様子でライターを弄んでいる
マリアはおよそホ○トらしくない個性的なホンピョに興味を示した

「ホンピョ君・・職場も家も一緒だなんて、よほどドンヒと気が合うのね」
「・・なんとなく・・ずっと一緒にいるってだけだ」

「ケンカなんてしないの?」
「ケンカ?・・はん、そんなのしょっちゅうだ。こいつ細かい事ばっか言うから。」
「ケンカした後の仲直りって男同士だとどんな風なの?どちらかが謝るの?」
「別に・・謝ったりしない・・いつの間にか・・寝る時にはケンカした事忘れてる」

「寝る時?」
「俺ら一緒に寝てっから」
「え・・」
「あっ・・そのっ・・ホンピョの奴、極度の冷え性で寝付きも悪くてさ・・あっはっはっ・・」

ドンヒはぎろりと睨むホンピョの視線を横面に感じた
ホンピョはいまいましそうにカチッとライターの火をつけた
高々と燃え上がる赤い炎が、ゆらゆらとホンピョの横顔を照らしていた

ドンヒは背中に嫌な汗をかくような居心地の悪い時間を過ごした
マリアとドンヒが他愛もない話をし、マリアとドンヒが時折ホンピョに話しかける
ホンピョがぼそりとそれに答える
その答えが時にドンヒをはらはらさせる
この時間のほとんどはその繰り返し・・

ドンヒの顔に疲労が見え始めてきた頃
「私・・そろそろ帰ろうかな。忘れ物も届けられたし、ドンヒの仕事ぶりも見られたし・・」

空になったグラスをトンとテーブルに置き、マリアが言った
「そう・・明日も大学に行くのなら早めに帰って休んだ方がいい。」
「あら、愛想でも少しくらい引き止めてくれたらいいのに」
「え?・・あ・・」
「商売っ気ないんだから・・まぁ、いいけど」
「学生の本分は勉学・・だろ?」
「またそんなおじさんみたいな事言って」
マリアは悪戯っぽく笑った

ドンヒはホンピョに「すぐ戻る」と声をかけ、マリア続いて立ち上がった

店の外に出ると、辺りはすっかり暗くなり、灰色の雲の切れ間から月が見え隠れしていた
店の中では気づかなかったが外気はかなり冷え込んでいた
ドンヒはマリアにふわりとコートをかけた


myself  ぴかろん

またテジュンに揺り起こされた

「早く着替えて。日の出見に行くんだからっ」

テジュンは張り切っている
俺は目を擦って支度をした
日の出日の出って…なんなんだよ…

バサリとジャケットを被せられ、腕を引っ張られてフロントへと出る
夜明け前の早い時間だというのに大勢の人がいた

「みんな日の出を見に行くんだよ。晴れてよかった!絶好の日の出日和だ」

日の出日和…

「聞いたことねぇな…そんな言葉あっおいって痛い!」

ぐいっと腕を引っ張られ、俺はつんのめった

「急いで!切符買わなきゃいけないんだから」
「…切符?」
「正しくは入場券か…とにかく急げ!」

日の出を見るのに切符がいるのか?
大勢の人々と共に海岸沿いの道路を早足で歩く
空はまだ暗くて、何時だかもさっぱり解らない
テジュンは俺の腕をしっかり捉まえて、時々迷子になるなよなんて言いながら、どんどんスピードを速めていく
まるでマラソンでもしてるような気分だ

暫く歩いたところに駅舎が見えてきた
「正東津駅」とある…
駅舎の向こうから潮騒が聞こえる
薄暗くてよく解らないがそこに海があるらしい

並んで入場券を買い、駅の構内に入り、そのまま浜に出る

「世界一海に近い駅なんだぜ」
「…ふぅぅん…」

大丈夫なのか?満潮とかで駅、沈まないのか?

「ほら…だんだん空が明るくなってきたろ?」
「…うん…」

海がはっきりと見えてくる
浜辺や駅のホームにはたくさんの人がいて、今か今かと太陽が昇ってくる瞬間を待ちわびている
日の出時刻にあわせたように列車が到着し、人がまた増える
テジュンが背中から俺を包み込み、ひときわ明るくなった空を指差す
ゆっくりと太陽が顔を覗かせる
真っ赤な色をした大きな太陽が、その炎で海の一部を焼いているようにも見える

俺は唾を呑み込んでその壮大な夜明けに包まれた

昨日の夜、掻き消そうともがいていた事や
俺は一体なんなのかと体の中を走り回って突き当たっていた物が
全て焼き尽くされてしまうような
そんな気がした

俺は…俺だ…

当たり前の事で解っていた事だ
改めてそれに気付かされた

「綺麗だろ…一緒に見たかったんだ、イナ…」

ああ…綺麗だ
素晴らしい日の出だ…

言葉もなくそこに長い事突っ立っていた

日が昇りきってから、テジュンは近くにある世界一の砂時計へと案内してくれた
さっきの浜はドラマの舞台になった場所らしい
俺は半島の観光地なんて全然知らない…俺の国なのに…

「この砂時計ね…上に溜まってる砂は『未来』で、下に落ちた砂は『今』を現してるんだって…」
「ふぅん…」

未来が流れ込んできて今になり、今が積み重なって過去になる

「過去は…ないんだ…」
「え?」
「この時計に過去はないんだ…」
「んっと…『レールが時間の流れを現してる』って書いてあるけどな」
「…ガイドブックの受け売りかよ」
「んだぁって…」
「過去は…どこ行くんだろうな…」
「…ここ…」

テジュンはトントンと胸を叩いた
俺はテジュンの胸を人差し指でツンツンと突いて言った

「ここが一杯になっちゃったら?」
「…ならないんだ。ここはブラックホールみたいに無限なんだ…」
「…忘れ去っちゃうってわけ?」
「積み重なって溶け合って…吸い込まれていくんだと思う…自分に…」

自分…
おれ…

頭の中でその言葉を繰り返しながらホテルに戻った
ラウンジで軽い食事をとり、部屋へ帰る

「東海あたりをドライブしながら帰ろう」
「東海って…ウシクのお義父さんちがあるとこだ…」
「そうなの?すんげぇ綺麗だぜ」

ベランダから海を見ていた俺を包み込むように抱きしめるテジュン

「…。ヨンナムさんに電話…しなくていいの?」
「…んーなんでヨンナムのこと気にするの?」
「…だって…ショック受けてたんだろ…」
「…ぅん…そだな…」

テジュンは携帯電話を取り出してヨンナムさんに電話を入れた

「僕だ…。大丈夫?…うん…。うん…。そか…。いや、明日は仕事があるから…夜は戻るよ…うん。よかった…。…。え…なんで…。…。必要ないだろ!」

テジュンはムッとした顔でフリップを閉じた

「どうしたの?」
「いや…別に…」
「ヨンナムさん大丈夫だった?」
「すっきりしたって」
「そう…よかった…」
「あいつの事なんか気にしなくていい!」

テジュンは怒ったような顔をして俺を抱きしめた

「なんでこの部屋か聞きたい?!」

少しきつい口調でテジュンが言った

「え?」
「ここで初めて彼女を抱いた」
「…」
「一緒に日の出を見ようと思った」
「…」
「見れなかったんだ…」

どう反応していいか解らずに戸惑った

『根っからのスケベだよ、アイツ』

笑える言葉なのに胸が疼く
そんな言葉がなぜ浮ぶのか…

「あ…朝まで愛し合ってて…それで寝坊したんですか?…」

ふざけてるように聞こえたろうか…

「そんなんじゃなくて…雨降ってたんだ…」
「…」
「土砂降り…」
「…そ…」

唾を呑み込んでもう一度口を開く

「そんな…大事な思い出の部屋に俺を?」
「お前を連れてきたかった」
「…なんで?」
「いつか、心から愛する人に巡り会えたら…もう一度この部屋に泊まりたいと思ってたんだ…」

何もかもを知りたいと思っていた
でも何もかもを知る必要なんてないんだと解った
テジュン…
断片を知れば、全てを知りたくなる
そんな事まで知りたくなかった
聞かなくてもいい話だ…
それはテジュンと彼女との大切な思い出で
過去のことだ…
俺にとっては…余分な話だよテジュン…

『積み重なって溶け合って…吸い込まれていくんだと思う…自分に…』

もっと沢山の思い出が彼女との間にあるのだろう…
テジュンにも…
ヨンナムさんにも…
俺はもう、その切ない思い出に晒されるのはごめんだと思った

「ごめんイナ…僕、お前に甘えてばかりだ…」
「…」
「お願い…そんな顔しないで…」
「…え…」
「どうしても…お前に話しておきたかった。僕の愛した人の事を…」
「…」
「…抱きしめて…」

乞われるままにテジュンを抱きしめた
テジュンが震えだした
しばらく泣いてから、テジュンはシャワーを浴びてくると言って俺から離れた

バスルームに背中が消えた後、俺は電話を取り出して番号を繰った

『いとこ…』

テジュンのいとこ…
通話ボタンを押してワンコールで切った
かけなくていい
かける必要はない…
もう…関係ない…
俺はその登録を抹消した

パタンとフリップを閉じた途端電話が震えた
今消したばかりの番号が画面を踊る
俺は電話に出た

『イナ?』
「…ヨ…ンナムさん…」
『電話くれた?今』
「…あ…」
『…テジュンと一緒にいるんだろ?』
「…うん…」
『よかったね』
「…う…ん…。あの…ヨンナムさん…大丈夫?」
『有難う…やっと前向けそうだよ。話はテジュンから聞いたろ?』
「うん」

昨日…聞いちゃったよ…

『そういうことだ…』
「よかった…んだよね」
『…そうだね…そうだ…。彼女は…もういないんだな…』
「…」
『でも…お前の言うようにさ、僕の心の中でキラキラ輝いてる…。ありがとうね、イナ』
「…ヨンナムさん…」
『…。さっきね、イナにちょっと代わってって言ったら、アイツ怒って切っちゃった』
「え…」
『ちょっとぐらい喋らせてくれてもいいじゃんかねぇ』
「…なにか…用?」
『…。あの…あのね…僕のうちにいる小鳥…。名なしの小鳥だったの知ってる?』
「うん…」
『名前決めたよ』
「なんて名前?」

彼女の名前かな…
さっきまでガチガチだった周りの空気が、ヨンナムさんの声を聞いて和らいだ

『あのね、名前は』
「『イナ』」
「は…え?!」
「朝早くからどこに電話だ?お前もシャワー浴びておけよ、着替えは僕が持ってるから…、チェックアウトまで時間あんまりないぞ」
「あ…うん…」

俺は慌てて電話を切り、そそくさと着信履歴を抹消した
それから俺はバスルームに入った

小鳥の名前…なんだったんだろう…
テジュンが俺を呼ぶ声に重なってはっきりと聞き取れなかった


ホテルを出てから東海に向かい、海岸に下りて海を見た
美しい景色だがやはり海風は肌寒い
それでもチェジュドの強風よりはずっとましだ…
俺は俺が建てたあの無謀な白い家を思い出し、苦笑した
テジュンにその事を教えてやろうとしたのだが、テジュンは苦虫を噛み潰したような顔をしている
俺はため息をついて足元の砂と靴で遊んだ

その後はどこへも寄らずにソウルに帰ってきた
片道4時間ちょっとってとこか…
テジュンはまた俺の頭を自分の太腿に乗せた

「好きだな…お前」
「…」
「テジュン?」
「僕から離れないで」
「…テジュン…」

どうしたのさ、何か不安?
そう聞こうとしてやめた
朝日を見て焼き尽くしたはずのものがまた滲み出てくる
どうしてこうも簡単に
不必要な感情は煮えたぎるのだろう
要らないものを取っ払うことの難しさを
俺は確かに知っていた
だけどそれを取っ払う方法も
俺は確かに知っていた
知っていたはずなのに…

軽い昼飯を取り、RRHまで送ってもらった
寄っていくかと言うと、泣きそうな顔で俺に抱きついた

「どうしたの?」
「離れたくない!」
「…テジュン…」
「明日からまた仕事だ…行きたくない!」
「…何言ってるのさ。ほら、上に行こう。時間まで一緒にいようよ。そんで店まで送ってくれる?」
「…うん…」
「なんだよぉいきなり子供みたいになるなよテジュン…」

俺は笑ってテジュンの頭を撫でた
テジュンの香りが鼻をくすぐる

40階に着いてリビングに出た
ミンチョルたちの部屋をノックして、今帰ったと告げる
お帰りと言う声だけがした

「お取り込み中らしい」
「じゃあ僕達も『お取り込み』しよう!」
「ばか!」

部屋に入った途端、甘えっこのテジュンが俺をベッドに押し倒した
そして俺の太腿に縋り付いて枕やってぇと言い出した

東海の海岸で見せていた渋い顔はどこ行ったの?

「イナ…」
「ん?」
「楽しんでくれた?」
「…。あ…ああ…」
「イヤだった?」
「…そんな事…ないよ…。…。朝日が…キレイで…。それにあの砂時計…」
「うん…凄かったね…」
「うん…なんか…ガツンときたな…あれ…」
「イナ」
「ん?」

俺の顔を見上げて、テジュンはそっと呟いた

お前も…凄かった…

ぺちんとテジュンのおでこを叩いた

楽しかった…
素敵だった…
だって俺のための旅行だもの…

テジュンに向けて微笑んだ俺の、口の端が少し震えた
ばれないように俺は…テジュンの唇に唇を重ねた…


※ご参考

正東津日の出ツアー 

日の出VTR 上段右から二番目

1月6日「正東津の日の出」



呼び出し  オリーさん

今日は久しぶりのオフ
昨夜遅くまでの会議を終え、難航していた配役も何とか決まった
たまった洗濯物をやっつけて、午後からは買出しに行ってこよう
少なくなった食料と服も新しいものがいくつか欲しい
どっちを先にしようかしら
シャワーを浴びながら貴重なオフのスケジュールを考えた
さっぱりとした気分になってシャワールームを出たところで
携帯に着信があったことに気づく
嫌な予感・・・
相手はやっぱり・・
とりあえず返信
「ユンです。何かありました?」
「やあやあ、捕まってよかった。で君何してる?」
「何って、今シャワーを浴びてこれから大事なデートですけど」
「悪いけどデート断ってよ。相手のいないデートなんだろ」
「失礼な!相手はちゃんといますよ。でもどうして?」
「ヒョンジュを口説きに行くんだよ、一緒に来ない?」
「今から?」
「早い方がいいだろ。すぐそっちへ回るよ」
「でも・・」
「カメラは今日はいらない。あ、でも君が撮りたければ持っておいで。じゃ後で」
またやられた
この手で何度オフを潰したことだろう
でもまあいいか、ヒョンジュ捕獲
これは一緒に行く価値はあるわ
気を取り直してドライヤーを手に取った

監督から僕の携帯へ連絡があったのは昼近くだった
「シンです、昨夜はどうも」
「あ、お世話になりました」
「早速なんだけど、例の件でちょっと会いたいんですよ」
「は・・あ」
「今ね、君のマンションのショッピングセンターの方にいるの。
1階のオープンカフェ、わかるでしょ。ちょっと出てきてもらえない?」
「オウ・ボン・パンですか?」
「そこそこ。普段着でいいからすぐ来てよ。あまり時間ないんだ。待ってるから」
そう言うと監督は一方的に電話を切った
僕はマフラーとジャケットを手に取ると、ミンにちょっと出てくると言ってエレベーターへ向かった

マンションの下で監督の車を待った
見慣れたワゴンが目の前で留まり、いつものように助手席に滑り込む
「悪いね、休みのとこ」
「心のこもってない台詞だわ。もうちょっとそれらしく言ってください」
「ふふ、でも君も興味あるだろ、彼氏」
「ふふ、それはもう。あのツーショット撮っちゃいましたからね」
「だろ、やっぱり頼りになるのは君だよ」
「褒めるんだったら、休日出勤割増でお願いしますよ」
「おっと、それは映画の成否にかかってるんだなあ」
「また、そうやってのらりくらりとごまかす」
「だから行くんじゃないか。僕らの映画のためにね」
「その台詞も聞き飽きたわ」
監督は答えず、ただにっと笑った

エレベーターを待つ僕の耳元で後ろからミンが囁いた
「いってらっしゃい」
僕は振り返って言った
「仕事の打ち合わせだ」
ミンは首をかしげて微笑む
僕も微笑んでミンの額にキスして、またエレベーターの方へ向き直る
ミンがもう一度言う
「いってらっしゃい」
「すぐ戻る」
高速エレベーターの扉が開くと同時に乗り込んで、そう言い残した
ミンの不満そうな顔が閉まる扉ですぐ見えなくなった
僕はちょっと考えてエレベーターのあるボタンを押した
扉が開くと、思ったとおりミンはまだそこにいた
片手で延長ボタンを押ながら片手でミンの首を捉えた
フロアとエレベーターの境目で思い切り深いキスをした
ミンの喘ぎ声がエレベーターの中にかすかに響いた
唇を離すと僕は閉まるボタンを押して言った
「器用だろ」
ミンの照れた顔がすぐ扉の向こうに見えなくなった

監督が子供のような声を上げた
「来たよ。やっぱり普段着だ。やったやったっ」
「普段着の彼が見たかった?」
「そうだよ。だからわざわざここまで来て急いでるって呼び出したの」
「今日は予定ないですもんね。おかしいと思いました」

「昨日はバリバリのスーツだったろ。くだけた姿もチェックしておかないとねえ」
「この狸が・・」
「ん何?」
「いえ見事な奇襲作戦です」
「狸にしては上出来だろ」
「聞こえてたんですか」
「年のわりに耳はいいんだ」
「はっ」
「若くて気の強い恋人がいるそうだ」
「え?」
「ジホ君の情報だ。RRHの最上階で二人で住んでるそうだ」
「RRHの最上階?実は超リッチなぼんぼんですか」
「そうでもないらしい」
「でも何者って感じですねえ」
「スヒョン君の恋人はがむしゃらで純情だってさ」
「何だか意外だわ。二人とも趣味がいいと思ってたのに」
「いや、二人ともなかなかカッコいいらしいよ」
「カッコいい?」
「彼らの相手は彼さ」
監督はまたにっと笑った

そりゃまた、何と言うか・・
「そんな事より、ほら見てごらん」
監督のしゃくった顎の先に、だいぶカフェに近づいた彼が見えた
昨日とはうってかわってラフなスタイル
生成りのタートルに、色落ちしたグレーのコーデュロイのパンツ
ブルーとチャコールグレーの混ざったマフラーを無造作に巻きつけ
手に持っているジャケットは羽織る時間がなかった・・
ちょっと緊張気味に歩を進める姿は、それだけでもかなり目立つ
どんな瞬間を切り取ってもセクシーそのもの
思わず笑みが漏れた
監督を振り返ると、同じようににやにやしていた
カフェの前庭にいる私達に気づいた彼は、そのまま真直ぐこちらへ歩いてきた
ようこそ、ヒョンジュ
私は心の中で呟いた

監督は無邪気に、おいでおいでと手を振った
彼はとうとう私達のテーブルにやってきた
「お待たせしました」
「悪いね、突然呼び出して」
「いえ」
「こちらはユン女史。カメラ担当で、僕の右腕」
「昨日スヒョンと話してましたね?」
「覚えていてくださったのね、ありがとう」
私は思い切り愛想のいい笑みを浮かべた
「イ・ミンチョルです」
「存じ上げてますわ。元ヴィクトリーの敏腕プロデューサー」
彼は照れたように笑った
そのショットもナイス
案外正直者かも

「遠慮しないでかけてくれたまえ」
監督は例によってポーカーフェイス
ヒョンジュは静かに私と監督の前の椅子を引いて腰をおろした
監督は大きな声でウェイターを呼んだ
「おおい、この彼にコーヒーっ」
「監督、大きな声出さないで。オヤジ丸出し」
「親父がオヤジでいけない?」
監督のへたな突っ込みを無視して彼に聞いた
「ミンチョルさんはコーヒーでよろしかったのかしら」
「お願いします」
「ほら、いいんじゃないか。彼にコーヒーね」
監督はさらに大声を出した
最悪っ
ウェイターは軽く頭を下げて離れていった

「あれからスヒョン君に問い詰められて往生したよ」
「はあ」
「何で君がヒョンジュなんだってね」
「僕も正直とまどっています」
「じゃ早速だけど、これ見て」
監督がパソコンの画面を彼に向ける
昨日スヒョンさんに見せた物と同じ動画
「カメラテストの3人の候補者だよ」
彼は顎に指を当てて食い入るように画面を見つめた
はい、それもセクシー

パソコンの画面にスヒョンと若者がソファに腰掛けているシーンが映った
一人目は端正な顔立ちの若者
モデル上がりか、モデルか、
とにかく人目を引く美しさがある
二人目は若いけれど明らかに演技経験のある役者
しぐさがちょっと大きいのは舞台出身だろうか
動きがスムーズな分、初々しさに欠けるか

三人目はモデルにせよ俳優にせよ明らかに新人
出された指示に、いちいちマネージャーを振り返る
ちょっと線が細い分、繊細な印象が強く出ている
が次の瞬間、僕は驚いて監督の方を見つめた
画面には僕が映っている
昨日のプレゼンの様子だ
「撮ってたんですか?」
「まだあるよ、見てて」
監督は軽くウィンクした
プレゼンの様子を撮られていたなんて全然わからなかった
落ち着いたつもりでもやはり緊張していたのだろう
それとも相手が上手だったのか
言ったとおり動画はさらに続き、僕のアップからスヒョンのアップへと切り替わった
どこか遠くを見つめている視線
何を見ているのやら、やけににやけてる
チーフ、客に使ったらどうだ、そういう視線は
僕は心の中で突っ込んだ

次に僕とスヒョンのツーショットだ
「こんなとこまで・・」
「これが撮りたくて、君に待ってもらってたんだよ」
スヒョンと僕はただ座っている
スヒョンが僕の頬を触り、しばらくして僕が笑う
あのばからしい冗談を言った時だ
動画はそこで止まった

「どう?」
「どうって・・」
「本を読んだと言ったね。だったら誰がヒョンジュのイメージだと思う」
「そうですね、外見だけなら1番。たぶんモデルですね、彼」
「一番?」
「でもスヒョンとのツーショットで選ぶなら3番でしょう。バランスがいい」
「君は?」
「僕?」
「君とスヒョン君のツーショットはどう?」
「どうって、別に・・」
「君がスヒョン君に笑いかけた場面があっただろ」
「ああ、スヒョンが冗談を言った時です」
「その笑顔だよ」
「その笑顔って?ただ笑っただけですけど」
「・・・」
思わず監督と目が合った
ただ笑っただけ?
あの笑顔が?








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