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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 295

こんなにお前が可愛かったなんて 2 ぴかろん

*****

トンプソンさんに挨拶して一気に40階まで上がる。今夜は箱の中も快適に思える
扉が開くと飛び込んでくるのは百万ドルの夜景…ってか
こないだ帰ってきた時はギョンジンがボロボロだった。その後かっこいいテジュンがやってきて俺を救い出して…
あの時は夜景見る余裕もなかったっけ…

フロアに着いてすぐにリビングへ向かうなんて、俺は居候なんだから遠慮しなくちゃという気持ちがどこかにある
もしもミンチョルとギョンビンが窓辺のカウンターでくつろいでいたら…。邪魔しちゃ悪いだろ?
けど今夜は少しばかりこの宝石のような景色を眺めていたい。幸いリビングに灯はついていない。きつねたちは部屋にいるのだろう
俺は暗いリビングを通り、静かに煌く窓辺に近づいた

テジュンと出会ってから今日まで、こんなに心が落ち着いた日があっただろうか
今、テジュンはここにいないけれど、俺の心の中にはしっかりとテジュンが根付いている

ふふ。うふふ

知らず知らずのうちに顔が綻ぶ。俺は『幸せ』に酔っているのだろう
たとえ一瞬で消え失せたとしても、俺は怖くない。『幸せ』を感じた事実は俺の中に残るのだから
いつだったかテジュンが同じような事を口走った。今頃になってその言葉が俺の体に浸透する
俺達は、瞬間瞬間を繋ぎ合わせて生きている。そうやって生きていることをありがたいと思う

あれ?やっぱ俺、ちょっと大人になったかな?ふふ。いやぁ、今だけかな?うふ。ふふふ

カチャン

「うわっ!」

いい気分に浸っていた俺の目の前に、暗闇からすっとグラスが差し出された
心臓が止まるかと思うほど驚いた
恐る恐るグラスの先に視線をやると、サラサラと流れ落ちるうっとおしい前髪が見えた

「ミンチョル」
「嬉しそうだな。一杯どうだ?」
「お前、忍び足はやめろよ!いつもはカツカツ靴音響かせるくせにっ!」
「すまない。フカフカの室内履きを履いているもので」
「声ぐらいかけろよ!オバケかと思った」
「失礼な!」

暗闇の中でミンチョルはプイと横を向いた。遅れて前髪がスゥイングした

「何してたんだ?お前」

拗ねたキツネに聞いてみた

「…ワインでも飲もうかと思って…」
「ギョンビンは?」
「部屋で仕事だ。パソコンと睨めっこしてる」
「…。目、吊り上がってる?」
「いや。それほどでもない」
「ギョンビンにワイン持ってってあげるの?」
「ああ」
「へぇ~、甲斐甲斐しい。明日雨かな」
「そうなのか?帰って来る時は満天の星空だったぞ」
「うん。でも雨だろうな」
「何故だ」
「…」
「何故だと聞いてるんだ」
「…。お前、撮影、一段落したか?」
「ああ」

それで落ち着いてるのか

「なんか、幸せそうだな」
「そうか?」
「うん」

目玉に硝子が嵌ってないし…

「ギョンビンは仕事で、お前は何してるんだ?」
「僕も仕事だ」
「ふぅん」
「今日はテジュンさんは一緒じゃないのか?」
「ああ。…会議だ」
「会議?こんな時間に?」
「ああ」
「テジュンさんも忙しそうだな。寂しくはないか?」
「大丈夫だよ」
「そうか。いい笑顔だ」
「ふ」
「ん?気のせいかな。お前、老けなかったか?」
「は?!」
「五歳に見えない」
「当たり前だ!俺は27…」
「老けた」
「…」
「一杯飲むか?」
「…。ギョンビンのために用意したんだろう?」
「一杯ならご馳走してやる」
「…」
「いらないのか?」
「…。いただく」
「お前」
「なんだよ!」
「本当に老けたな」
「なんでっ!」
「『いただく』なんて言葉、お前の口から聞くなんて…」
「くれるんなら早くくれ!」
「おお」
「なんだ!」
「イナらしい言葉遣いだ」
「お前なあ!」

コポコポコポ

ったく。映画の撮影が落ち着いたら途端に『天然無礼炸裂』かよ!
しかしまぁ、ワインを振舞ってくれるなんて、ほんとに明日は雨になるかもしれない…
渡されたワイングラスを掲げ、お互いの幸せになんて言いながら乾杯する。一応親友だからなぁ、俺達…

「ギョンビンとはどう?うまくいってる?」
「いつも通りだ」
「ならいい」
「いいのか?」
「いつも通りってのが一番幸せじゃないか?」
「そうか?」
「俺はそう悟った」
「…お前、やはり老けたな…」
「…。ところでお前さ、俺のパン食べたか?」
「パン?」
「テソンが店に持ってったはずだけど。今日の俺のパン、最高の出来だったんだぜ」
「…ああ…そう言えば開店前に厨房のおやつテーブルにパンが置いてあった」
「食べたのか?」
「食べた」
「そうか!どうだった?」
「たまらなく美味しかった」
「そおかぁぁ」
「やはりチェミさんのくりいむぱんは最高だ」
「え?」
「もうすぐパン屋が開店だそうだな」
「え?あ、そうらしいけど…いや、お前、俺のパン…」
「チェミさん作のパンしか残ってなかったぞ」
「え?」

きつねがまわりくどく語ったことを纏めると、チェミさんの作ったくりいむぱんと俺のこどもぱんがそれぞれ別のカゴに入っていたらしい
テソンがそのカゴをおやつテーブルに置いた途端ワラワラと人だかりができた。テソンはひとり1個ずつだぞ、イナさんのパンは人数分しか残ってないから…と叫んだのだが、ぽやっとしていたきつねが最後におやつテーブルに辿り着くと、チェミさんのパンが1個、ぽつねんとカゴに入っていたとか…
きつねは「ひとりいっこなのだからいっこでいいのだな」とぽやんと理解し、そのパンを食べたらしい
後から、テプンが「テジの分を貰った」と言っているのに気づいたが、きつねはチェミさんのくりいむぱんに満足したし、食べ過ぎるとまた辛いエクササイズをしなくてはならないかもしれないと思ったので、もっと食べたいという欲を抑えたということだ
まったく…なんでコイツは俺のパンを食わないのか!いつか俺のパンをコイツの口にねじ込んでやる!その時は指を喰いちぎられないように気をつけねば…

「もう一杯飲むか?」
「いいのか?ギョンビンの分、なくならないか?」
「大丈夫。もっといいのがある。これは思ったより味が雑だった」
「は?!」
「飲め。遠慮するな」
「…」

きつねは悪びれもせず、その『味が雑』なワインを俺のグラスに注いだ
まーったく!これはこれで美味しいぞ…贅沢ぎつねめ!

「それじゃ僕は部屋で仕事の続きをする。おやすみ」
「ああ」
「あ…イナ。お兄さんはラブのところだろうか?」
「あいつも会議に行った。テジュンと一緒に」
「…。なぜお兄さんがテジュンさんの仕事に?」
「テジュンの仕事じゃないんだ」
「?」
「俺にもあんまりよくわかんないんだけど、テジュンやギョンジンのテクが必要になるかもしれないからって…」
「テジュンさんやお兄さんのテクだって?」
「ああ。ドンヒとソクも呼ばれてた」
「誰に?」
「誰っていうと…テス?」
「テス君に?!」
「テスっていうか…ジョンダルかなぁ」
「ジョンダル?」
「テスの子分。今日店に来てたろ?海坊主」
「ああ…」
「そのジョンダルが困っててさ、あらゆる手段を講じたいとかって」
「…。僕は行かなくてよかったろうか」
「は?!」
「テジュンさんやお兄さんが呼ばれているのに…。僕のテクは必要ないのだろうか」
「…。お前、鍵を開けるテク、持ってるのか?」
「鍵?」
「そう。かてなちおの鍵」
「かてなちお?」
「そう。それを開けるための手段を講じたいって」
「なんだ。キスじゃないのか」
「…」

天然が炸裂している。俺はミンチョルをじっと見つめた。ミンチョルは俺の瞳をじぃぃっと見つめ返した
俺は目に力を入れて吸い込まれそうになるのを堪えた

「なぜ睨む」
「お前が睨むから」
「僕は睨んでいない」
「俺にそんな目するな」
「そんな目?」

ミンチョルはきょとんとした。こういう時のミンチョルは『幸せ』なのだと考えていいだろう。よかった、揺れなくて…
コイツと来たらポーカーフェイスで一途に人を想うヤツだからなぁ…。しかも天然だから自分の心がどこにあるか自覚するまで時間がかかりすぎるし…

「どうして黙り込む」
「あ…いや、お前、今日、可愛いな」
「なんだ唐突に」

ミンチョルはまたプイと横を向いた。照れたな。ますます可愛いぞ

「しっかし、今日の俺のパンは最高だったのに。残念だったなぁミンチョル」
「パン屋が開店したら、お前のパンを真っ先にいただくよ」
「ああ」
「じゃ、そろそろ部屋に帰る」
「あ!ミンチョル」
「なんだ」
「ワイン、さんきゅ」
「ああ」

左眉をピクリとして、ミンチョルは自分の部屋のドアの消えた
俺はグラスを持って、廊下の端っこの俺の部屋を目指した
部屋のドアを開けかけてから、俺は大切なことに気づき、ミンチョルの部屋の前まで戻った
戻ったものの、ギョンビンとミンチョルの時間を邪魔するような気がして、俺はノックするのを躊躇った
だがしかし…どうしても!
迷った挙句、俺はミンチョルに電話をかけた

『なんだ』
「あの…あのさ…」
『どうしたんだ』
「ちっと廊下に出てこれる?」
『…おかしな奴だな…』☆

あう。久々にブチっと電話を切られた。懐かしいな、この感覚。程なくミンチョルが部屋から出てきた

「なんなんだ。ノックすればいいだろう」
「お邪魔かなと思って…」
「何が」
「…あはは…いやぁ…」
「何の用だ」
「あの…ミソチョル、いる?」
「いる」
「あの…、今夜一晩、ミソチョル、貸してくンない?」
「なんだって?!ミソチョルをテジュンさんの身代わりにする気か?!」
「いや、ミソチョルはミソチョルだ。テジュンの代わりになんてならない」
「…どうしてミソチョルを?」
「いや、久しぶりにミソチョルと話がしたくて…」
「話?ミソチョルと?…何故素直に寂しいと言わない」
「寂しいってわけじゃないんだ」
「正直じゃないヤツにミソチョルは貸せない」
「…わかったよ。寂しいんだよ!」
「…そうか。寂しいのか…ちょっと待ってろ」

ミンチョルは部屋に戻ってミソチョルを大事そうに抱えてきた

「一晩だけだぞ」
「いいのか?!」
「大切に扱ってくれ」
「わかってる」
「汚すんじゃないぞ」
「ああ」

ミンチョルはミソチョルを俺にそっと手渡した

「さんきゅ~。嬉しい。ミソチョル、久しぶりだな」
『いなしゃん…』
「言っておくがよだれなんかつけるんじゃないぞ。キスもするな」
「はいはい」
「ミソチョル。一晩だけだから我慢するんだぞ」

ミンチョルはミソチョルの頭を撫でながら話しかけた。…ほんとに今夜のミンチョルは、なんだか可愛らしい…

「じゃあおやすみ」
「おやすみ、ミンチョル。ギョンビンと仲良くな」
「ミンは仕事だ」
「はいはい。サンキューミンチョル」
「おやすみ」

きつねは俺とミソチョルが俺の部屋に入るまでじっと見送っていた

「なあミソチョル。ミンチョルはえらくお前のことを心配してるみたいだなぁ」
『久しぶりにお外へ来ましたから』
「ずーっとあの部屋で閉じこもってたのか?」
『あい。みなしゃんお忙しそうでしたのれ』
「そっか。なんか飲むか?」
『イナしゃんのお手々にあるワインくらしゃい』
「これ?これ、味が雑らしいぞ」
『ミンチョルしゃんがそう言ったのれしゅか?』
「うん」
『まーったく!贅沢なきちゅねでしゅ』
「ぷ。お前もそう思う?」

部屋に入ってから俺はデスクで埃を被っている二匹のクマとミソチョルを対面させた

『エグチ。まだここにいるでしゅか?』
『だって持って帰ってくんないんだもん、正統派』
『そういえば、怒涛のレポートとやらがまだでしゅね』
『怒涛編はふーたんの担当だ』
『そうなんれしゅか?』
『こっちは「不発編」だ』
『不発?』
『そうだ。正統派、不発のまま、去る、だ』
『…。なるほろ。しょれはとにかくふーたんの報告を待たねばなりましぇんね』

デスクの上の三匹を見ていると何やら会話をしているように思える。ミソチョルは不思議だ

「ほら。飲めよ、酒」
『あう。ありがとごじゃいましゅ』
「あのな、今日な、テジュンがとっても可愛かったんだぜ」

俺はミソチョル相手にテジュンがどんなにかっこよくて、それからどんなに可愛らしかったかを長々と語った
デスクからベッドに移動し、寝転びながらも話を続けた。ミソチョルに呆れられた
ミソチョルが返事をしなくなり、俺もいい加減眠くなってきたので、ヤツをダッコして目を閉じた
テジュン、今頃何してるんだろう…。そこで俺の記憶は途絶えている

*****

俺達は、幼稚園のこどものように繋いだ手をブラブラさせて歩いた。急にスヒョクが、ねぇねぇと俺に声をかけた

「ラブってBHCのメンバー何人とキスした?」
「へっ?」
「もちろんギョンジンさんだろ?さっきしたから俺だろ?それから?」
「えーっと…あとは…イヌセンセ」
「えーっ!ウシクさんのガード堅いのに?」
「えへへ。ダンスの振り付けするときちょっと」
「…。…ど…どうだった?イヌセンセ」
「どうって…軽くチュッとしただけだし…」
「そうなの?!ベロベロ~っとか、やっちゃわなかったの?」
「あのねぇスヒョク。お前、俺のこと誤解してない?」
「全然」

スッキリ答えるスヒョクがにくたらしい

「ねね、他は?誰とした?」
「…えっと…あとは…ドンジュンさんとスヒョンさん」
「えええっ?すげー。天どんカップル二人ともやっつけちゃったんだ!さっすが~」
「んと…それは酔った勢いで…」
「ねねね。じゃ、ミンチョルさんは?!」
「それは無理だよ」
「なんでさ」
「できねぇよっ!怖くて」

なにがどう怖いのかと言われるとなんと答えていいかわからないが、とにかくミンチョルさんとキスするなんて…怖ろしくてできない…

「そうかぁ怖いのかぁ…。他には?」
「してない…と思う…」
「意外と少ないね」
「うん。イナさんのがすごいんじゃない?」
「イナさんのキスの相手ね。…ソクさん、ギョンジンさん、俺…」
「え?スヒョク、イナさんとキスしたの?」
「うん。俺からした…」
「えええっ(@_@;)」
「イナさんが廊下でダウンしてる時につい」
「す…スヒョク…(@_@;)」
「あとは誰だろ…。あ!ウシクさん」
「ええっ?ウシクさんも?(@_@;)」
「ウシクさん、口についたシュガーを舐められたらしいよ」
「ごさいじ…(@_@;)」
「スヒョンさんともしてるよね、イナさん」
「多分してると思…。…そういえば俺もイナさんしてるわ、何回も…」
「何回もぉ?きゃはっ。ラブ、イナさんといい勝負じゃん」
「…言われてみれば…」
「…なぁ、イナさんさぁ、ミンチョルさんとキスしたことあるかなぁ」
「(@_@;)」
「ないかなぁ」
「ないと思うけろ…(@_@;)」
「親友だからなぁ」
「あの二人のキスシーンって想像できないよ、スヒョク(@_@;)」
「…そうだね…。やっぱ怖いよね(^^;;)」
「うん(@_@;)」

部屋に着くまで、俺達はBHCのメンバーとの空想キス話をした。ソヌさんとのキスは命がけだろうとか、ホンピョやテプンさんとキスしたら噛みつかれそうだとか…
二人とも、一番キスしてみたいのはテジンさんだったのが可笑しい。目立たないけど色っぽいんだよね、テジンさんって

ドアを開け、スヒョクを招き入れる。リビングに案内するとスヒョクは口をあんぐりあけて固まった

「好きな椅子に座って」
「な…にこの広い部屋。なんでこんないっぱい椅子があるの?」
「俺、椅子集めてンの。あっそうだ、スヒョク、どのパジャマがいい?こっちで選んで」

スヒョクを俺のべッドルームに案内すると、奴はまた口を開けて固まった
俺はチェストの引き出しを開けて可愛い柄のパジャマを取り出した

「これなんかどう?イチゴ柄」
「な…に…このベッド…なんてデカい…」
「俺、寝相悪いからさぁ」
「…こここ…このべっどでおまえぎょんじんさんと…」
「これは眠るためのベッドなの!変なコト禁止なの!」
「そうなの?ふぅん…」
「ねぇ、それよりどれにする?スイカ柄も可愛いよ、スヒョク」
「…派手なのばっかじゃん。もっとシンプルなのない?…あ、このフツーのパジャマがいい!」

スヒョクが手に取ったのはトラッドなメンズパジャマだった。俺の趣味じゃないパジャマ…。あいつが自分で持ってきたもの

「これは…ごめん、俺のじゃないから…」
「へ?」
「…あのバカのだから…勝手には貸せない…」

許可なしに貸せない、というより、他の人に着せたくないってのが本音かもしれない…
薄いブルーのオーソドックスなパジャマを持ったスヒョクは、ニヤッと笑って、ラブってわかりやすいと言った
急に顔がほてり、動悸が激しくなってきた。俺はドキドキそわそわしながらチェストの中にあるパジャマをベッドに積み上げた

「ね、これ全部ラブの?」
「ううん、お客様のためのパジャマ」
「おきゃくさま?(@_@;)…まさかラブ、この部屋でなにかよからぬコトを?!」
「あのねぇスヒョク。お前、俺をどういう人間だと思ってるのよ!よからぬコトってなによ!」
「…こ…このパジャマ着たお客様があの椅子に座ってお前のサービスを受ける…とか…」
「…。サービスってどういうサービスさ…」
「そ…それはいろいろ…」
「あのね、みんなが泊まりにきたらって設定で買い集めてるの!」
「へ?みんな?」
「BHCメンバーとか知り合いとか、その人専用のパジャマ。街で見かけてピピっときたら買うの」
「…ここに泊ったことあるのって誰よ?」
「イナさんとぉギンちゃんとぉテジュンとぉピーちゃんとぉお前とぉ…あと…。…。…」
「ギョンジンさん?」

また顔がほてって動悸が激しくなる

「ラブ。真っ赤だよ。可~愛~い」
「だだだから、どどどれにする?!ほとんど新品だよ」
「泊った人達、パジャマ使ったんじゃないの?」
「イナさんはジャージで寝た」
「ミンギ君は?」
「ギンちゃんのはまだ買ってないし、あの子はTシャツとGパンで寝てたし」
「パジャマ、無駄じゃん」
「ピーちゃんは使ったもん。それ以外は新品」
「ポールさんのはどのパジャマ?」
「これ」
「…。なにこれ。原始時代の服?」
「セクシーだったよ」
「ふぅん。で、ギョンジンさんが来るとこれ着るんだ」
「…そう言えば、着たの見た事ないなぁ…」
「え?なんで?」
「なんでって…なんでかなぁ」
「ラブのパジャマはどれ?」
「俺の?あるけど着ない。普段はハダカだし」
「え?」
「一人んときはハダカだし」
「…。ギョンジンさんがいるときは?」
「ハダ…。げほ…。ぱ○つ…」
「ぱ○ついっちょう?」
「と、Tシャツ…」

どきどきどき。あああ…顔が熱い!異常に熱い!あいつがいる時って俺、どんなかっこうしてたっけ?

「つまりハダカ?」
「だからっ!ぱ○つとTシャツ着てるよ!それよりどれがいいか決めてよ」

俺は焦って叫んだ。ギョンジンがいるときはえーっと…たしか…大抵…えーっと…

「ねえ、このパジャマ…マトリョーシカ柄?…まさかこれってソヌさん?」
「ピンポーン。じゃ、このトンボ柄、誰のかわかる?」
「トンボ…ジホさん?」
「当たり!よくわかったね」
「…とんぼってのらり~くらり~って飛んでない?ジホさんに似てるよね。…あ!これはチョンマンのだろ?」
「モンキー&バナナ柄。いいでしょ?」
「ぴったりだ!(>▽<)スイカは誰?」
「ホンピョ。種とばすのうまそうだから」
「ふはは。なるほど。この派手な縦縞は…」
「ドンヒ」
「ああ…」

スヒョクは次々とパジャマをひろげ、誰のものかを当てていった。楽しそうな様子が可愛かった。俺の動悸も次第に治まってきた

「そういえばスヒョンさんちにドンジュンさん用のパジャマ、あったんだ。ベティさん柄の…」
「ベティさん?」
「そ。あれは無いよ。だってさぁ、ドンジュンさんがスヒョンさんちに泊まるっていうことはぁ~、アレじゃん?」
「…。あれ?」
「だから…アレだよ、ナニの。だろ?だったらさぁ~必要ないじゃんよ、ベティちゃんなんて!」
「…」
「あー、貰ってくればよかった!いい生地使ってたんだよな~」
「こんなにいっぱいあるのに、まだ欲しいの?」
「…だってさぁ…」

頭に浮かぶのはドンジュンさんのカチンコチンの顔。スヒョンさんの黒い髪。金髪美女のゴージャスないでたち。俺の従兄の…

「しかしこんなによく集めたなぁ」

彷徨った思考が連れ戻される。俺が考えても仕方ないことだ
だけど…あいつ、悪い奴じゃない…だから…

…ねねね、このスウィーツ&ケーキ柄はウシクさんだね?…扇子柄は?え?イヌ先生?ふむ。なんとなくわかる

スヒョクの言葉にしがみつく俺

…グローブとバットの柄はテプンさんか…じゃ、ボクシング柄はジュンホさんだよね?
…これ可愛い~ワンコのあしあと柄、これはじゅの君だろ?あ。フグ柄。ドンジュンさん用のパジャマ、もうあるんじゃん、ベティさん要らないじゃん!
…チンギスハン柄。こんなのどこで買ったのよ。わかってるって、ギョンビンのだろ?
…あはっ!コンパスと三角定規柄だ!これはソグだな?…花火柄はシチュンさん?似合いそう!
…金魚柄は?え?スハ先生?ふむふむ、なるほど。見てると癒される…ペーズリーはテジンさん?きゃは~ピッタシ!なんとなぁくヤ~らし~(^m^)
…ハート柄は?ええっ?テソンさん?!ラブラブだから?(>▽<)でもテソンさんってここに泊まりそうもないよね(>▽<)
…チューリップ柄はイナさんだね、ぶりっこだよな、似合いそう
…ぐわーっ!この紫シルクは絶対ミンチョルさんだろ?うわっ!なにこれ、地模様がキツネだ!よくこんなの見つけたね
…ひ、ひえっ!これ何よ!オーガンジーにエンジェルの透かし模様って。透けてるし。背中にバサバサ羽根みたいなのついてるし。すげぇ。
スヒョンさん用だよね?よく売ってたな、こんなスゲーの。え?特注?そんなにまでして、ラブ…

「でもこれ、スヒョンさん、きっと着ないと思うよ、ラブ」

うん…俺もそう思う…

「で、俺のはこのスニーカー柄かな?」
「違う。それはジョンドゥの」
「え?じゃ、俺のってこのハデハデプリント?」
「これは俺のパジャマだよ。お気に入りのプッチ柄。でも着たことないなぁ…」

そう。何故だかこのお気に入りプッチ柄パジャマ(mayoヌナ作)、出番がないんだよな。なんでかなぁ…

「え?え?じゃ、俺ってこの最初の…」
「そう。イチゴ柄だよ。可愛いでしょ?」
「…イナさんのよりブリッコ柄だ」
「着てみなよ。似合うよ」
「…それより俺、これが着てみたい!」
「…え…スヒョク…そ…それは…」

スヒョクはオーガンジーにエンジェルの透かし模様をあしらった白い透けパジャマ(羽根つき)に袖を通した
勇気あるな…俺でさえ試着したことないのに…(^^;;)

「…。どう?」
「(^^;;)あ…いや…」
「鏡どこ?」
「(^^;;)見るの?」
「どこよ!」
「あ…こっち…」

俺はスヒョクを鏡の前に連れて行った

「すげ」
「白いのに派手だろ?」
「天使模様なのにヤらしい」
「…だろ…」
「アッ!そうだ!」

ゴワゴワゴソゴソバタバタとスヒョクは鏡の前から移動する。自分の服のポケットから携帯を取り出しなにやら操作している

「撮って!」

真剣な顔で携帯を俺に差し出す。どうやら写真を撮れということらしい

「もう二度と着る事はないだろうから記念に」
「…わかった…」

カシャ
緊張気味のスヒョク天使の写真を緊張して撮った

「後で俺の携帯にも送ってよね、その写真」
「わかった。それにしても…すげぇなこれ。眠れやしないよ絶対に。…イチゴに着替えよっと…」
「そうしてくれる?その方が落ち着く(^^;;)」

ゴソゴソゴワゴワとオーガンジーのパジャマを脱いだスヒョクは、可愛いパジャマを着た

「イチゴ柄がフツーに見える…」
「似合うよスヒョク。俺もパジャマ着ようかなぁ」

プッチ柄のパジャマを手に取った俺にスヒョクはあいつのオーソドックスパジャマを差し出した

「ラブ、これ着なよ」
「え…俺そんなの似合わないもん…」
「いいから。これ、着なよ。お前がこういうフツーのパジャマ着るのって俺がさっきの天使パジャマ着るぐらいすげぇコトだぜ」
「え…そうかなぁ…」

「お前が着ないなら俺が着ちゃうぞ」
「だだだだめ!」
「じゃ、着てみなよ。案外似合うと思うけどな」
「そう?…じゃ…着ようかな…」

どきどきどき
ただパジャマを着るだけなのに俺は舞い上がってしまって、スヒョクの前でぱん○まで脱ぐところだった
どきどきどき…あいつのパジャマ…どきどきどき

「やっぱり似合うじゃん、ラブ」
「…そそそ…そそうかかかな?」

スヒョクがクスッと笑って、ラブはほんとにわかりやすい奴だなぁと言った
そそそ…そそうかかかな?ななな…なにがわかりやすいのかな?どきどきどき

「ああああ…そそそうだすすすスヒョクさぁ、おおお風呂入る?」
「明日の朝でいい」
「そそ?じじゃあおさおさお酒飲む?」
「うん」
「じじゃあおお俺じじ準備するね」
「じじい準備?くふふ。あははは」

どぎまぎどぎまぎ
俺、変だ
動きはぎくしゃくしてるし気持ちは落ち着かないし

「ねねねスヒョク。おれこれぬいでいい?」
「は?」
「うううごきへんになるしきもちへんだしその」
「だ~め。くふふ。ラブったらギョンジンさんのパジャマだからって意識してンだろ」
「ちちちちが…」
「でもそれ、新品なんじゃないの?」
「へ?」
「ギョンジンさん、それ、着たことないんじゃなかったっけ?」

スヒョクが意地悪い笑みを浮かべる
そそそういえば…そうだ
あいつ、これを持ってきたけど、一度も着たことないんだった…

「そだ。新品だ…そだったそだった…はふ…」

俺のドキドキ感は急激に萎み、へろへろになってキッチンに向かった

*****

ラブはギクシャクから一転してふにゃふにゃになり、キッチンへ身を引きずっていった
可愛いなぁラブって。思ってたより純情?ギョンジンさんのパジャマ着るだけなのにあんなに意識しちゃって
彼が袖を通してないってわかった途端アレだもんなぁ…。こんなに可愛い奴なのに、どうして普段は、はすっぱなふりするんだろう
案外恥ずかしがりやなのかもね

俺はラブの『眠るためのベッド』に積み上げられた色とりどりのパジャマをチェストに片付けた

「スッヒョクぅ~何飲むぅ?焼酎?それとも焼酎?」

へろへろから回復したとみられるラブがキッチンから叫んでいる

「焼酎飽きた。違うのにしてよ」
「じゃ、ジンにしよ♪」
「ジン?」

キッチンに向かうとニコニコ顔のラブがきれいなブルーの瓶をかざしていた

「このジン美味しいンだよ。水割りでもイケるよ」

可愛い顔で勧めるので、俺はそれでいいよと言い、二人のパジャマパーティーの準備を手伝った
お菓子や冷蔵庫の中のチーズやなにやらを皿に出し、グラスを並べてミネラルウォーターを用意する
ジンをミネラルで割って乾杯する
口に含むとジン特有の甘さと爽やかさが広がる

「ん?飲みやすいね」
「でしょ?ハーブが入ってるんだって。ほら、ボトル見てよ。色だけじゃなくてデザインも可愛いんだ」
「ほんとだ~」

空瓶をズラリと並べてかざっておいてもいいぐらい綺麗なボトル
サイドにはハーブのイラストが描かれている

「スヒョクみたいだね。綺麗で可愛くて爽やかでさ」
「え…俺?…やだな、俺、そんな綺麗でも爽やかでも可愛くもないよ…」
「なぁに言ってんだよ。スヒョクは可愛いの!」
「可愛いのはお前でしょ?さっきのぎくしゃく、すっげぇ可愛かったぞ」
「俺が可愛いのはぁ、わかってる」
「…あ。そ」

二人同時にムッとした顔になり、それから同時に吹き出した
その後ラブは時計のコレクションを見せてくれた。高級時計がイッパイある。しかもフツーに、引き出しのいっぱいついた箪笥みたいなものにしまってある。
このマンション、セキュリティ大丈夫なのかと、俺は庶民的なことを口走ってしまった。ラブは笑って、大丈夫、盗られたら盗られたときのことさ、なんて平然としてる。そういえばラブは『御曹司』だったんだ。まったく、御曹司はこれだから…

「ねぇスヒョクぅ、そのイチゴ柄パジャマの写真も撮らない?」
「お、いいね。じゃ、ラブもそのギョンジンさんパジャマ、撮ろう」
「おおお…おれはいい…」
「ぷっ。照れちゃって、可愛いなぁもう」
「かわいいのはぁ、わかってる」

ラブと俺は、やっぱり緊張しながらお互いのパジャマ姿を撮り合った
撮る方も撮られる方も不安そうな顔で写ってて可笑しかった
それから二人の頬を密着させ、顔の横でピースサインを作ったポーズでもう一枚撮った。俺達のパジャマ写真は、全部俺の携帯に収められた

「誰かに送ってやりたいなぁ…」

ラブが呟く
ギョンジンさんに送れば?と言うと、お前こそソクさんに送れば?と返された
送りたいけど送りたくないと答えると、奇遇だなぁ俺もだよとラブが言った
どうしてなのか、二人ともわけは聞かなかった
そこまで突っ込むにはまだ酒が足らないのかも…

「あ…あの人はどう?テジンさん」
「うぉ…。いいねぇ。俺達が一番キスしてみたい人!(>▽<)」
「でもスハ先生が怒るかな、なんでこんなものを僕のテジンさんに送ってくるんですか!百字以内で答えなさい!って」
「正直に答えたらもっと怒るよな(^^;;)」
「…やめる?」
「うん…」
「じゃドンジュンさんは?天使パジャマ、ウケるんじゃない?」

俺の言葉にラブは急に真面目な顔になって、ドンジュンさんはだめ…今日はだめ…と呟いた
そう言えば、今日の絢爛豪華なカップル客に、ドンジュンさんは随分気を遣ってたもんな…
そこにスヒョンさんが入ってって、ドンジュンさん、ますます硬くなってたみたいだし…

「イナさんに送ろうか?」
「え~。イナさん?」
「今日のイナさん、大人だし…」

もしかしたらイナさんからソクさんやギョンジンさんに伝わるかもしれない…
そうしてほしいようなしてほしくないような…

「「…」」
「やめよう」「送ろう」
「「え?」」
「送るの?」「やめるの?」
「「え?」」
「「…」」

「ま、いいや。飲もう」
「…そうだね。飲もう」

俺達は写真を送るのをやめてまた飲んだ。ギョンジンさんやソクさんに見せたいなら直接見せればいいんだもの…けど…
もやもやした気持ちが甦ってきて、俺は黙り込んだ

*****

「さっき道でキスした時、なんで泣いたの?」

写真を送る、送らないではしゃいだ後、急に黙り込んだスヒョクに尋ねてみた

「え?」
「俺のせいじゃなくて自分がイヤだって、お前そう言わなかった?」
「…」
「今日のスヒョク、ソクさんにツンケンしてたよね?」
「お前だってギョンジンさんに冷たかった」
「うん。俺、あいつの顔見たくなかった。だから…スヒョク見てたら自分見てるみたいな気分だった」
「え?」
「何かあったの?ソクさんと」
「…」
「俺はね…俺は…」

ゴクリと唾を呑み込んで、俺は言葉を続けた

―なあんにもないんだ、最近。触れ合えないんだ、あいつと…
―どういう意味?触れ合えないって?
―身も心も触れ合ってない
―え?
―触れようとしてもあいつ…今、心が忙しい
―心が?
―心配事が多くてぐちゃぐちゃになってて。はぁ。そんな時ってさぁ、なんとか力になりたいって思わない?
―え…ああ…
―俺がいけないのかな…受け止める準備、できてないのかな。あいつ他所にいっちゃうんだ、俺に縋ってくれないんだ…
―イナさんとこに行っちゃうってこと?
―そ。仕方ないのかな、イナさんは特別だから…
―そっか、ギョンジンさんもそうなんだ
―ソクさんもイナさんが特別なんだったね?
―うん…

スヒョクはゆっくり話をしてくれた。ソクさんの辛い過去のこと、二人で乗越えようとしていること、ずっとソクさんの傍にいたいこと、ソクさんを支えてあげたいこと…

「焦っちゃだめなんだ。辛いのはソクさんなんだから。俺はソクさんに寄添いながら一歩一歩進めばいいんだ。全部わかってる。でもさ…我慢できなくなる時がある、衝動的に。今日だって俺…。どうして抑えられなくなるんだろう。もっとゆったりとあの人を包み込みたいのに…」

そうだよね。もっとゆったりと包み込みたいのに…
でもさ

「しょうがないよスヒョク、俺達、オスで若いんだもん。抑えられないことだってあるよ」

何度か自分に呟いた言葉。あいつの心配事も、俺に対してどんなに気後れしてるかも全部わかってるのに、俺は我慢できなくなる時がある

「俺達ってどうしてジジイ達を心配事に専念させてやれないんだろう。どうしてほんの少しでいいから俺の方を向いてって思っちゃうんだろう。俺、ここんとこ毎日考えてる。いつも『しょうがないかぁ、俺、若いんだもん』って頭切り替えるけど、やっぱり寂しい」
「ラブもそんな風に思ってたの?ギョンジンさん、お前に夢中に見えるけど。心配事ってなんなのさ」
「あいつは俺の恋人である前に『おにいちゃん』だからさ…。負けちゃうんだよね、血をわけたヒトにはさ」
「ギョンビン?」
「弟大好きじゃん?あいつ」
「そう言えば、ギョンジンさんが祭に来た時ってギョンビン奪回するためにギラギラしてたもんなぁ」
「…。俺、そん時のあいつ、知らないんだよね~」
「そうなの?めちゃくちゃ刺々しかったよ」
「…。ソクさんも同じような雰囲気だったじゃん」
「…。まぁ…そうだけどぉ」
「で、イナさんが嵌まっちゃったんだよな」
「またイナさんの話?もういいよ、ごさいじは!」
「あはは、そうだね」
「それにしても…。血…か…。ソクさんもそうだもんな。息子さんの事、やっぱりどうしても頭から離れないんだと思う。そりゃそうだよね…。かなわないよね…俺なんか」
「思い出にはかなわないね。あのね、ギョンジンにも息子がいるんだ。その子のことも気になってるんだ、あいつ…。でもあいつの場合、なんとかすれば会えるからね。ソクさんは…」
「うん…心の中でしか会えないから…」

「身内に注ぐ愛って見返りを求めないじゃん?」
「見返り…」
「うん。無意識だし」
「…染み付いちゃってるのかな…」
「同じ血が流れてるんだもん…負けちゃうよね」
「…そっか…初めっから勝負になってないんだ…」
「俺達の立場って、不安定じゃん…。なんでもいいから確かなものが欲しいって思っちゃうじゃん…」
「…うん…」
「そういう、なんていうか、そういう自分の気持ちが俺、たまらなくイヤになる」
「…うん…」
「あいつの一番でいたいって欲がすっごくイヤ」
「…ん…」
「けどさ、しょうがないよね、俺達只の人間なんだもん、カミサマじゃないんだもん…。そんな風に思っちゃってもしかたないんだよ」
「ラブは…そういう感情、うまく流せてる?」
「流せないからお前とここで飲んでるんじゃんか」
「…そっか…。イナさんは流せるようになったのかな…」
「きっと多分、『今日のところは』だろうけど…」

結局のところ、俺達二人はどうしたって『特別な人』である『イナさんのようになりたい』と思ってしまうのだ

「ごさいじのくせに…」
「ほんと…ごさいじのくせにね…」

二人同時にため息をつく。顔を見合わせて笑う。俺達はそっくりな表情をしているに違いない
自分の欲望と戦いながら、大切な人を守りたいと思いながら、どうしようもなくなって大切な人を詰って、とことん自分がイヤになって…
それでもそんな自分がやっぱり可愛いと思う。やっぱりあいつが好きなんだと思う

*****

ラブとたくさん話をした。祭ン時にこんだけ話してりゃ、俺達今頃ラブラブカップルになってたかもよ、なんてラブが色っぽい目つきで囁く
目を合わせてまた吹き出す。アハハハ、そろそろ寝るか、歯磨きしてこよぉっと、と奴は立ち上がった

「スヒョクも歯磨きしなさいね。おいでよ。こっち」
「ん。さっきトイレ行った時に見た。奥のアヤシゲな部屋も覗いたし」
「え…」
「あは。ウソだよラブ、睨まないでよ。洗面所確認しただけ。場所わかってるからここ片付けてから行く」
「…べつに…覗いてもいいよ。なんにもないから…」

ブツブツ呟きながらくるりと背を向けてラブはリビングから出て行った
グラスや皿を流しに運び、テーブルをきれいに拭く
ふと自分の携帯に目が止まる
俺はフリップを開け、さっき写したパジャマ写真を見た

*****

歯を磨いていたら口を硬く結んだスヒョクがおどおどしながら洗面所に入ってきた。黙って歯ブラシを差し出すと、歯磨き粉を絞り出してガシュガシュと豪快に歯を磨いている
この数分間に何かあったな?
うがいをしてすぐさまスヒョクに問い質す

「ソクさんからメールでもきたの?」

目を見開いたスヒョクはブルンブルン頭を横に振り回している

「なんかあったんだろ?様子、変だよお前」
「ぅえつに…」

歯ブラシを咥えたまま、スヒョクは返事をした。電話かなんかしようとしたのかな?それとも…

「あーっ。まさかお前あの写真ソクさんに送った?」

スヒョクはブルンブルンとさっきの数倍速く頭を振り回した

「…じゃ何さ」

答えないまま口を漱ぐスヒョク。怪しいなぁ、何したんだろ。まぁいいけどぉ…

「タオル、ここにあるの使ってね」

俺はそう言い残してリビングに戻った。テーブルに置いてあるスヒョクの携帯。メールの送信履歴を調べてやろうかなんて思ったけど、それはルール違反だからやめておこう…
と思っていたら、バタバタハアハアしながらスヒョクがリビングに飛び込んで来た

ガシュッ☆

歯磨きするのと同じ音で携帯電話を掴み取ったスヒョクは、俺をギラギラした目で見た

「見てないよ」

何も聞かれてないのにこんな風に答えるのは変だよな。でもスヒョクはあきらかにホッとした顔をしていた
アヤシイ…。まぁ…いいけどぉ…

「ネンネしよ♪おいでよスヒョク」

俺は挙動不審なスヒョクを明るくベッドルームに案内した

「…俺…リビングのソファでいいよ…」
「スヒョク、もしかして俺がお前を襲うとか思ってる?」

コクン
携帯を胸の前で握り締めたスヒョクは、マジな顔で頷く
だからぁぁぁぁ!

「俺はぁ、襲いかかるよりぃ、襲われるほうがスキなの!ほら、寝るよ」

そう言ってやるとスヒョクは少し安心したのか、トコトコと俺の後をついてきた
カワイイ(^m^)
俺はスルリとベッドに潜り込み、上掛けをさらっと捲ってスヒョクを色っぽく手招きした
一瞬竦んだスヒョクだったけど、はふ、とため息をついたあと、俺のいる反対側のベッドの端っこに転がった
ノリが悪いな。っていうかぁ、絶対なんかしたんだ!俺が歯磨きしてた間に!
まぁいいけどさぁ…

スヒョクに上掛けを掛けてやり、暫くその背中を見つめていた
なんだか異常に緊張してるみたい
携帯なんか抱きしめちゃって、電話かかってくるの、待ってるのかなぁ…
ちょっぴり悪戯心が湧いてきて、俺はスヒョクに近づき、そぉっと背中から抱きしめてみた
イヤなら暴れるだろうし、イイならじっとしてるだろう
スヒョクはじっとしていた。じっと、俺の腕の中で固まってた

突如、スヒョクの携帯が鳴り、奴は俺の腕を跳ね除けて飛び起きた
素早くフリップを開け、メールの確認をしている

「…なに?これ…」
「ん?どしたの?」
「これ、なんて書いてあるんだろう…」

スヒョクが差し出した携帯を取り、画面を見てみると


『ねむくれたいいいいいいいいいいいいいいいいい』

「…なぁにこれ?!」
「わかんない…」
「あ、写真がくっついてるよ。ボケてるけど。ほら」
「え?!…あ…ミソチョル君」
「…ミソチョルとイナさん?…イナさん、半眼だよ…コワイよアハハハ」
「…ミソチョル…」

スヒョクは、おかしな顔のイナさんを見ても笑わなかった

「『ねむくたい』…眠いって打とうとしたのかな?『い』で一瞬寝ちゃって『いいいい』。くはは」
「…マンションに帰ったんだ…イナさん…」
「ん?」
「…なんでもない…寝る」

マンション?

そっか、ミソチョルがいるもんな。ヨンナムさんちじゃないんだ
イナさん一人で撮ったのかな、あの写真。ってことはテジュンもいないのか。いたら『眠れるわけがない』もんな、くひひ
でもなんでこんな謎のメールがイナさんから…

そこまで考えてえてようやくスヒョクの挙動不審の理由がわかった

「お前、イナさんにパジャマ写真送った?」

答えないスヒョク

「…『ねむくたい』…。…。まさか『むくれてる』って意味も含まれてる?!」

笑わないスヒョク
さっきと同じように俺に背を向け丸くなって寝転がっている
時折ピクリと動く背中。小さく聞こえる引きつった息
もう一度スヒョクを背中から抱きしめる

「どしたのさ。なんで泣くんだよ…」

答えを聞かなくてもわかってた
イナさんに写真を送れば、イナさんからソクさんに伝わるんじゃないかって―イナさんからギョンジンに伝わるんじゃないかって―そういう期待があったんだ
残念ながらイナさんは一人でマンションにいて、しかもメールさえまともに打てない状況で…(なのに写真はちゃんと撮ってる!俺達に対抗してるのか?)
そんなイナさんが、ソクさんやギョンジンにあの写真を転送なんてできるわけないもん
期待を裏切られてがっかりしたのと、イナさんに期待した自分の厭らしさと、そんな気持ちが入り混じってスヒョクは泣いてるんだと思う

「お前の気持ち、わかるよ。俺も同じだから」
「ちがうもん…ラブはちがう…俺…俺…」

俺の腕を振り解いて顔を覆いながら泣いているスヒョクは、やっぱり俺の鏡
スヒョクを仰向けにさせ、手首を掴んでゆっくり腕を開かせる
堅く閉じた瞳から、涙が溢れている

「わかるってば。俺も同じこと思ったもん…イナさん、あいつに写真送ってくンないかなぁって…」
「ちがうもん…ラブは…」
「違わないって言ってるだろ?」

俺は力を込めてスヒョクの腕を押さえつけた
ひっくひっくとしゃくり上げながら薄く目を開け、スヒョクは俺を見た

「眠っちゃってさ。ごさいじめ。がっかり。…がっかりする自分にもがっかり…。結局ごさいじを頼ってる…だろ?」
「う…ひっく…」
「おんなじだよ。俺たち」
「…ラブ…」
「泣いてもいいけどさぁ…。泣きすぎると明日『へちゃむくれ』になるぞ」

コツンとスヒョクの額に俺の額をくっつけた。必然的に鼻先もくっつく。ちょっと密着しすぎかな?
鏡の中の自分に触れてみたい気分になって、俺は唇を泳がせる。スヒョクの唇がほんの少し触れたとき、再び奴の携帯が鳴った

*****

「だから俺はダイヤルロック専門だっちってるじゃないか!無理だよ!暫くやってないし」
「あいう…ホンピョさん、貴方だけが頼りなんですぅあいう~」
「ジョンダルさん、こいつを頼りにするなんて、無茶ですよ」
「なんだよドンヒ!じゃあお前が開ければいいだろ?!コンピューターだかなんだか知らないけど、その知識とやらをあーだこーだして…」
「ホンピョ、そういう時は『駆使して』って言うんだ」
「…ふんっ!ドンヒはいちいちうるさい!ジョンダル、俺には無理。だってよぉ、ダイヤル式の専門家がやっても開かなかったんだろ?」
「そうですジョンダルさん。専門家がやっても無理なものをホンピョのようなチンピラがやって開くわけがない」
「てめぇにチンピラ呼ばわりされる筋合いはねぇよ!」
「しょうがないじゃん、お前、どこからどう見てもチンピラだもん」
「なんだと?!そりゃ最近トン…トン…」
「トンプソンさん」
「そう!そのトンさんの『紳士講座』受けてねぇからちっとアレだけどよぉ、昔よりは随分マシになったって言われたんだかンな!」


ヨンナムの家に着いてから…いや、車の中でもだけど…ドンヒ君とホンピョ君はずっと言い争いを続けている。ヨンナムに聞いたら店にいた時からずっとだそうだ。にしても『トン…トン…』だけで『トンプソンさん』だとわかるなんて…。喧嘩するほど仲がいい、というのはあながち嘘ではないのだな…と僕はぼんやり思った
しかし、なぜ僕やギョンジンまでもがここに連れてこられなければならないのだろう。言い争う二人をぼんやり見ていたら、ふとヨンナムの視線を感じた
ヨンナムは、イジワルそうな顔をして僕を見つめている。なんだ?と首を傾げると、可愛い子ぶるな、馬鹿野郎!と何故だか罵声を浴びせられた

『うん。今日、可愛いんだ』

イナの声を思い出す。ああ、イナにくっついていたかったのに…

じわりと涙が滲んできて、僕はヨンナムを睨み返した。するとヨンナムは僕の倍の眼力で僕を睨み、ザマーミロ、ぶりっ子め!と吐き捨てるように言った
ぐす。どうして僕がヨンナムにそんな酷い事を言われなくてはならないのか…。ぐす。普段の僕ならきっちり言い返すのに、イナが傍にいないという寂しさが大きくて言い返せない。俯いた途端、手の甲に涙がポトリと落ちた


「マシになったって誰に言われたんだ?」
「ソヌっち」
「ええっ?!ソヌさんがそんな事を?」
「ああ、ソヌっちのお墨付きだ!」
「あいう…喧嘩しないでくださいぁぃう~。あのあの、開けていただきたい鍵っていうのはその、お店でもお話したように基本的にダイヤルロックなんですが、何分古くなってましてその、『ココ!』ってトコを探り出しても開かないってんでそのぉ」

言い争いと話し合いが続いている。僕なんか必要ないじゃないか…。今からRRHに行こうかな…、イナは何してるんだろう…

「おいこらブリっ子。メソメソしてないで知恵を出せよ。ジョンダル君、つまり、専門家がポイント合わせて正解が出てるはずなのに開かないってことだよな?おいこらブリっ子。原因として何が考えられるか言えよ」

ヨンナムはいつになくキリキリしている

※リレー296に続く




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