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ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

BHC サイドストーリー 24

BHC学園 1 ぴかろん

ここはBHC学園
隣町にあるハリウッド学園と毎年『交換学生交流』というものをやっている
本日、2年L組に、そのハリウッド学園から『交換学生』を迎えることになった

「ここがBHC学園か。隣町にあるというのに全く知らなかった。どんな学園だろう。女の子は可愛いだろうか?交流が楽しみだな」

『交換学生』であるポール・ロジャースは期待に胸を膨らませ、BHC学園の門をくぐった

その頃ハリウッド学園では、BHC学園からやってきた『交換学生』のミン・ギョンビンとミン・ギョンジンの兄弟が、それぞれ別のクラスで自己紹介をしていた

「こんにちは。僕はBHC学園で生徒会の会長をしているミン・ギョンビンです。一年生ですが、訳あって二年生に在籍しています。よろしくお願いします」
ハンサムなミン・ギョンビンは、三日間を過ごすことになった2年R組の女子から熱い視線を浴びていた

「こんにちは。僕はBHC学園で生徒会の会長補佐をしているミン・ギョンジンです。昨年卒業するはずだったのですが、訳あって二年生に在籍しています。よろしくお願いします」
ハンサムなミン・ギョンジンは、三日間を過ごすことになった2年P組の女子から熱い視線を浴びていた

一方、BHC学園の昇降口に入ろうとしていたポール・ロジャースは、黒服にサングラス、耳にインカムをつけた精悍な男に呼び止められた
「こちらにどうぞ」
「はい?」
「こちらの『セキュリティーチェックゲート』をお通りください」
「はい? 『セキュリティーチェック』?」
「保安のため実施しております」
「…ここは…空港ですか?」
「違います。BHC学園です」
「僕は『交換学生』のポール・ロジャースですが、そのチェックは必要ですか?」
「申し訳ございません。外部からのお客様は皆様チェックにご協力いただいております」
「…。拒否したらどうなりますか?」
「え…」
「チェックを拒否したら僕はどうなるかと聞いてるんだ!」

ポール・ロジャースはサングラスの男にピシャリと聞いた。この、銃など氾濫していない治安のよい国の学校で、しかも毎年学生交流を行っている学園の学生に対して、こんなセキュリティーチェックが必要なのかとポール・ロジャースは思った
自分が何かしでかす人物かのように扱われるのは不本意だ。ポール・ロジャースは憤りを感じてサングラスの男を睨んだ。男は黙り込んだ

「僕の質問に答えてくれ。わからないのか?皆、おとなしくこのチェックを受けたというのか?!こんな無礼な歓迎は初めてだ!僕を誰だと思ってるんだ!」

サングラスの男はわずかに口元を引き締めた。その仕種がポール・ロジャースの闘争本能に火をつけた
ポール・ロジャースは学生討論大会ハリウッド学園代表として2年連続全国大会に出場し、優秀な成績を修めている。あらゆる討論に積極的に参加し、反対意見を唱えるものをことごとくねじ伏せた。時には高圧的に、時には宥める様に、彼は自在にその論調を変え、最終的には己の意見に賛同させる目的を果たした。その雄弁さで彼は一年の時からハリウッド学園の生徒会長を務めている

「僕は断固、チェックを拒否する」
「え…でも…」

おや、とポール・ロジャースは思った。威嚇ではなく困惑のへの字口か、と。それならば話は早い。ひとつ小さく咳払いし、大きく息を吸い込むと、サングラスの男をじっと見つめながらポール・ロジャースは口を開いた
およそ五分間、彼はそのチェックがいかに理不尽か、小理屈をこね回し、チェック拒否の主張を畳み掛けるように捲くし立てた

「君はこれでもまだ僕にチェックを受けろと言うのか」
「らって、らって、しないとおこらりるもん…」

震える唇に片手を添え、サングラスの男は涙声でらりるれった

「誰に?校長か?僕が直談判する。呼びたまえ」
「らって…らって…ぐしゅっ」
「泣くな!」
「これうけてくれないと、おれのしごと、なくなるもんっぐしゅっ」
「仕事?」
「こっ…このしごとしたら、授業料一部免除になるんらもんっ…えっえっ」
「君は勤労学生?」
「えっえっ」
「泣くな!こんな仕事をするより真剣に授業を受けるべきなんじゃないのか?!」
「らっておれ、勉強キライだも…えっえっえっ」
「とにかく、泣くな!泣かずに責任者を呼んでくれ」
「ぐしゅぐしゅ…まってて…」ちっ「あの…『セキュリティーチェックゲート』でしゅが…。はい。拒否するって。はい。ぐしゅっ。えっえっえっ…」ちっ「いま来るっちってましゅぐしゅ」

ポール・ロジャースは、横を向きインカムで誰かに連絡を取っているサングラスの男を観察した。ふるふると震える唇が魅力的だ。よく見るとノーズラインも美しい
顎から頬にかけての輪郭も無駄がない。少しばかりエラが張っているようだが問題はない。自分もエラが張っている
サングラスの奥の瞳はどうだろう。ポール・ロジャースはそっと彼に手を伸ばした

「ひっ…」
「君、何年生?」
「2年しぇいれす」
「そう。何組?」
「L組れす」
「そうなのか?奇遇だな、僕は三日間、2年L組で過ごすことになっている」

怯える男のサングラスを取ると涙に濡れた瞳が現れた。極上じゃないか…男にしておくのは勿体無い

「僕はポール・ロジャース。君、名前は?」
「き…きむ・いなでしゅ…」
「…ジミー…」
「はい?」
「君はジミーだ。よろしくジミー」
「あ…はい…あ…いえ、おれはきむ・いなでしゅ。よろしくでしゅ」

しばし見詰め合う二人。そこへパタパタと誰かが走ってくる

「どうしたんだイナ…。!。何をしている!」
「あってじゅ」
「また浮気か!」
「ちっちがうもんっ」
「嘘をつけ!ちょっと目を離すとこれだ!」
「貴方が責任者の先生ですか?僕はハリウッド学園から来た交換学生のポール・ロジャースです。交換学生に対して『セキュリティーチェック』などとは、前代未聞の事柄です!一体この学園はどうなっているのですか!」
「誰が先生だ!僕は二年M組の学生だ。ちなみに生徒会渉外担当をやっている」
「生徒?渉外担当?!」
「ハン・テジュンだ。ところでポール・ロジャース君、一つ確かめたいことがある。キム・イナと何かしたか?」
「まずは僕の質問に答えるべきだろう?」
「は?質問?」
「交換学生に対する『セキュリティーチェック』についてだ。必要性があるのか!」
「あるからやっている」
「は?!この治安の良い国で?それに我がハリウッド学園は品行方正で有名だぞ」
「品行方正か…。表向きはね」
「なに?!」
「まあそう怒るな、ポール・ロジャース君とやら。この『セキュリティーチェック』は我がBHC学園の学生も毎日受けているのだよ」
「なんだって?ここは危険な学園なのか?」
「いや、安全だ。このキム・イナや僕を見ればわかってもらえるだろうが、我が学園の学生達は非常に魅力的で人気者ばかりなんだ。それで外部の学生や主婦、その他大勢の人々が我々の素顔を知りたがっていてね。学生の知らないうちにカバンに盗聴器やカメラを仕掛けられたりする。我々は安心して生活できない。そこで取り入れられたのがこの『セキュリティーチェックシステム』なんだよポール・ロジャース君」
「ふむ。ジミーが魅力的なのはわかる。で?君も人気者?ふぅん…君、本当に生徒なの?失礼だが、僕には君が先生としか思えないし、魅力的だとは思えない」
「てじゅはかっくいいんだ!ほんとに生徒だしっ!ばかにしゅるなっ」

涙目で叫ぶキム・イナに目をやり、微笑むポール・ロジャース

「君はとても可愛いよ、ジミー」
「おれは、きむ・いなだ」
「はいはい。ところでそっちの鼻のデカいおじさま顔の君」
「ハン・テジュンだ、一度で覚えろ、無能だな、ポール・ロジャース君。イナにくらべりゃ老け顔かもしれんが、僕はミルキー・ボーイと呼ばれている」
「ほぉ。この学園には物好きな女子もいるものだな」
「ポール・ロジャース君、調査不足だぞ。我が学園は男子校だ」
「え…」
「そんな基本的な情報も知らずによく交換学生などと言えたものだな!昨年の交換学生だったジョシュ君はハンサムで性格も良く、皆とすぐ仲良くなり、たった三日間いただけで『町内会主催週間いい男ランキングベスト3』に入れた実力者だったが、君は…さて、どうかな、ふふん」
「てじゅ…かっくいい…」
「ああジミー、君はこの男に騙されているのだ。よし。三日間で僕が本当の美とかっこよさを教えてあげよう」
「はっはっはっ。負けん気だけは強いようだな、ポール・ロジャース君。とにかく、我が学園に入るためには、この『セキュリティーチェック』を受けてもらわなくては困るんだよはっはっはっ」
「ジミー」
「きむ・いなでしゅ」
「君も困るのかい?」
「とっても困りましゅ」
「そう。君が困るというのなら…仕方ない、受けるよ」

ポール・ロジャースは、カバンをベルトコンベアの上に乗せた。キム・イナは口に手を当てながらその機械を始動させた
チコーンチコーンチコーン。X線検査装置が反応する。キム・イナは、しちゅれいします、と断ってポール・ロジャースのカバンを開けた

「おかしな物は入ってないはずだよ。携帯電話とシェーバーぐらいだ」

ポール・ロジャースは落ち着いて言った。中を確認したキム・イナは、携帯電話とシェーバーを抜き取り、再びカバンを装置にかけた
警報は鳴らなかった

「ね。言ったとおりだろ?」
「あい。ではそのままこちらへどうじょ」

キム・イナは金属探知ゲートにポール・ロジャースを誘導した
側にいるハン・テジュンは、まじまじとポール・ロジャースを見つめながら、なにやらキム・イナに耳打ちしている。キム・イナはくすぐったそうに身をよじった
チコーンチコーン。金属探知ゲートが反応した。ポール・ロジャースは、ベルトを外した。チコーンチコーン。ポール・ロジャースはネックレスと時計を外した。チコーンチコーン

「なんだこの装置は!僕に裸になれというのか!」
「できれば」
「拒否する!」
「では仕方ない。イナ、あれを…」
「あい」

キム・イナはハンディタイプの金属探知機でポール・ロジャースのボディチェックを始めた。ポール・ロジャースの鼻をキム・イナのツンツンした髪と香りがくすぐる

「いい香りだね。香水、何をつけてるの?」
「え?おれはなにも…」
「僕の香りが移ったんだね、イナ」

ハン・テジュンが優しげな微笑を浮かべ、キム・イナに言った

キム・イナは恥ずかしそうに俯いた。ポール・ロジャースは訝しく思ったが追求はしなかった

「ハンディでは反応しましぇん。申し訳ございましぇんがもう一度ゲートをお通りくらしゃい」
「いいよ、君のためなら」

バチンとウインクをしてポール・ロジャースはゲートに立った。チコーンチコーン

「なぜだ!馬鹿にしているのか!」
「靴を脱いでくれるか、ポール・ロジャース君」
「ちいっ!ったく面倒な…」
「おねがいしましゅ」
「…わかったよジミー…」

ポール・ロジャースは靴を脱ぎ、ゲートに立った。チコーンチコーン

「なぜだっ!」
「それは僕の方が聞きたい」
「僕は潔白だ。武器も盗聴器もカメラも持っていない!何をどうしろというのだ」
「あの…ぴあすじゃないでしゅか?」

キム・イナがポール・ロジャースを上目で見上げ、口元に手をやりながら呟いた。可愛い…。ポール・ロジャースの顔が綻んだ

「緩んだ顔はやめたまえポール・ロジャース君。確かにピアスが原因かもしれないね。まぁいいだろう、入館を許可する」
「どうじょ」
「ありがとうジミー」
「きむ・いなでしゅ」

ポール・ロジャースはキム・イナの肩を抱き寄せた

「ポール・ロジャース君、校長室に案内する。イナから離れたまえ。イナ。ここはもういい。授業に戻りなさい」
「あい」

キム・イナはサングラスとインカムを外すと、嬉しそうに駆け出した

「廊下は走らない!後でおしおきだ」
「え。しょんな…」
「文句があるのか?」
「…優しくしてくれる?」

ポール・ロジャースの横にいたハン・テジュンは、素早くキム・イナの前に行き、彼を抱きしめ唇を塞いだ
なに?アリか?そういう事がアリなのか、この学園は!
ポール・ロジャースは目を丸くして二人の光景を見つめ、そして思った
なるほど男子校…共学とはまた違った楽しみがあって然りだ…

「お待たせしたねポール・ロジャース君、行こうか」

ハン・テジュンはすっきりとした顔でポール・ロジャースを伴って校長室に向かった

一方ハリウッド学園では、ミン兄弟がそれぞれのクラスで多くの女子に囲まれていた

「ねぇねぇ、恋人はいるの?」
「いるよ」
「そうよね~貴方、かっこいいもの。どんな人?」
「ゴージャスで我侭で強引で可愛くて魅力的だよ」
「ねぇねぇ。どうして一年生なのに二年に在籍しているの?」
「恋人がそうしろって言うから」
「まぁ!権力もあるのね、どこかの財閥のお嬢様なの?」
「ううん。血統書はついてると思うけど」
「血統書?」
「うふふ。まあいいじゃない。三日間、仲良くしてください。よろしくお願いします」

ミン・ギョンビンは周りの学生たちに頭を下げた


「ねぇねぇ、恋人はいるの?」
「いるよ」
「そうよね~貴方、かっこいいもの。どんな人?」
「ゴージャスで我侭で儚げだけど強弱があって天邪鬼で可愛くてセクシーで女王様のように気高く高慢で感受性が豊かであはん…魅力的だよ」
「少しわからないわ。強弱があるってどういうこと?」
「強気な時と弱々しい時があるんだよ」
「ねぇねぇ。どうして卒業しないで二年生に在籍しているの?」
「それは…家庭の事情さ」
「まぁ!複雑そうね」
「弟のために…ね」
「あなたの弟さんならきっと素敵でしょうね」
「隣のクラスに来てるよ」
「そうなの?貴方とどっちが素敵かしら」
「弟さ。弟は天真爛漫で太陽のような男だよ。スポーツも勉強もできて皆から慕われているんだ。でも…」
「でも…なあに?」
「女性に関しては…」
「なになに?なんなの?手が早いとか?!」
「…そのうちわかるよ…」
「あら、弟さんのことになるとふさぎ込んじゃうの?どうして?天真爛漫で誰からも好かれる弟さんなんでしょ?」
「そう。でも…問題があってね…。僕は弟を監視してるんだよ。これは秘密ね。弟のことはこれ以上聞かないで」
「気になるわ、とっても…」
「そう?」
「影のあるオトコって素敵…」
「ありがとう。三日間、仲良くしてください。よろしくお願いします」

ミン・ギョンジンは周りの学生たちに頭を下げた


「今日から三日間、交換学生としてハリウッド学園から本校に来られたポール・ロジャース君だ。みんな、仲良くするように」
「ポール・ロジャースです。よろしくお願いします」

挨拶をしてクラスメイトの顔を確認したポールは驚いた。皆が同じ顔なのだ。生徒だけでなく先生も…

「ポール君、わからないことがあったら室長のイ・ミンチョル君に聞きたまえ。ミンチョル君、よろしく頼むよ」
「はい、イヌ先生。ポール・ロジャース君、よろしく。室長のイ・ミンチョルだ」

先生はイヌ、室長はイ・ミンチョル。そして他のクラスメイトたちは…
ああ大変だ。見分けがつくだろうか?
戸惑いながらもポール・ロジャースは平静を装い、イ・ミンチョルに挨拶した

「よろしく。君、瞳が美しいね」

右手を差し出しながらポール・ロジャースは相手を褒めた。しかし相手はムッとした顔になり腰に手をあてた
何か気に障ることを言っただろうか?

「ミンチョル君。威張らない」
「威張ってなどいません、先生」
「そう?胸が反り返ってるし唇がへの字だよ」
「僕たちは皆、胸を張って生きています」

イ・ミンチョルの様子を見て、イヌはポール・ロジャースに小声で囁いた

「…すまない、ポール君、ミンチョル君は負けず嫌いなんだよ。小難しい奴に見えるかもしれないが心はピュアだ。うまくやってくれないか…」
「どうして先生が生徒に遠慮するんですか?僕、何かいけない事を言いましたか?彼の瞳を褒めただけです」
「君は何も悪くない。多分彼は百も承知の事を言われたからムッとしたんだと思う」
「そんな理由で?なんて傲慢なんだ」
「ポール君、ここで彼にたてつくと小一時間は屁理屈が続く。彼は元御曹司でね、プライドが高いんだ。それに彼を制御する人間が今いない」
「制御する人間?」
「ああ。彼のパートナーなんだが君と交換でハリウッド学園に行っているんでね。それもあってちょっとしたことでナーバスになるんだよ、すまない」
「わかりました。うまくやりますよ」

ポール・ロジャースは心のメモに『イ・ミンチョル…要注意』と書き込んだ

「ミンチョル君、握手はしてもらえないのかな?」

ポール・ロジャースは微笑んでもう一度手を差し出した。イ・ミンチョルは左眉毛をピクリと動かし、ポール・ロジャースの右手をがしりと握った

「さてと、ポール君の席はあそこだ。口に手をあてている涙目の…あの子の隣だ。キム・イナ君、立ちたまえ」
「あい」
「イナ、返事は『はい』だ。テジュンさんに報告するぞ!」
「ミンチョル君、イナ君のことはいいから席に戻りたまえ。ポール君はイナ君の隣に…」
「やあ、ジミーじゃないか。嬉しいよ、君の隣で」
「…」
「ん?どうしたんだい?」
「やーだ、イナさんったらまた違うオトコにちょっかい出したのぉ?テジュンに言ってやろっとぉ」
「うるしゃい、だまれラブ」

ポール・ロジャースは『ラブ』と呼ばれた男を見た。ラブは妖艶に微笑み、ポール・ロジャースにウィンクした
なんということだ。同じ顔だらけだがタイプは全く違うらしい。キム・イナは幼稚園児のようだしラブは色っぽい。イ・ミンチョルという奴は前髪がうるさいキザ男でイヌ先生は…

「この線は地平線だ」

イヌは黒板に一本の線を引く。黒板の端まで来たとき、生徒の方を振り向いた。途端に周りから『ふわぁ~』という声が上がった。ポール・ロジャースは自分もまたその声を上げていることに気づいた
イヌ先生は、渋い…
近くでガタガタと机を震わせている生徒がいた。その周りの生徒より少し背中が大きく思える
イヌは懐に手を突っ込むと眼鏡を取り出してかけようとした

「せんせいっ!」ガタガタン
「ウシク」
「いやだって言ったじゃない!だめだってえ」
「しかし、眼鏡をかけないと字が…」
「いやだいやだいやだああ」
「ウシク、座りなさい」
「眼鏡外して」
「何を言ってるんだ」
「外してよう」
「外しません!」
「外してくんなきゃ突進するよ!」
「外してほしいならドーナツは禁止です」
「え」
「ドーナツだけじゃない、キムパプも禁止にします!いいんですか?」
「…やだ…」

ポール・ロジャースはキム・イナにどういうことかと尋ねた。キム・イナは口に手をあてて一生懸命事情を説明したが、ポール・ロジャースには理解できなかった

「イナさんに聞くのはやめたほうがいいな」
「どうしてだい?ラブ君」
「だぁって、ごさいじだもん」
「ごさいじ?」
「そ。幼稚だもん。わかんないコトは俺に聞いたほうがいいよ、表も裏も教えてあ・げ・る」
「表も裏も?」
「らぶ!ぎょんじんに言いつけるじょ」
「はん!どーぞご自由に」
「ぶー。れったい言いちゅけてやるぅ」
「イナさんのバカ」

ラブとキム・イナは喧嘩を始めた。イヌとウシクはなんだかわからない理由で口論しているし、イ・ミンチョルは窓によりかかって携帯電話を握り締めている
なんというクラスに配属されてしまったのだろう…ポール・ロジャースはこの三日間、どう過ごすべきか思案した


こちらはミン兄弟のいるハリウッド学園。二人とも相変わらず女生徒に囲まれている

「BHC学園の方が勉強進んでるのね。私、数学のここんところわかんないの。教えてくださる?」
「どれどれ?ああこれはこうなってああなってこうだろ?これにこの公式を当てはめて解くんだ。わかる?」
「ああ、そうなの?わかったわ、ありがとう」
「ねぇ、私には英語を教えてくださる?」
「ここはこの構文でこうでああだからこうなる」
「うわぁすごぉい」
「私は化学を」「私は物理を」「ねえ、歴史には詳しい?」「古文は?」
「これはあれであれはこうでこうなってああなったのはあの年だからこれこれでこういう意味だよ」
「「「「すごぉぉい、素敵ぃぃ」」」」
「僕たちも質問していいかな?」
「どうぞ。わかることなら答えるよ」
「君、お笑いは好き?」
「大好きだよ」

ミン・ギョンビンは男子生徒にさわやかな笑顔を向けた


「BHC学園の方が勉強進んでるのね。私、数学のここんところわかんないの。教えてくださる?」
「どれどれ?ああこれはこうなってああなってこうだろ?これにこの公式を当てはめて解くんだ。わかる?」

ミン・ギョンジンは質問した女生徒の耳元に、囁くように説明した

「はぁ…、そうなの…わかったわ…ありがとう」
「どういたしまして」

微笑み、彼女の瞳を見つめるミン・ギョンジン。彼女は眩暈を起こしミン・ギョンジンの方に倒れこもうとした。しかし周りに群がる女生徒たちがそれを阻止した

「ねぇ、私には英語を教えてくださる?」
「もちろん。ここに座って」

ミン・ギョンジンは自分の太腿を叩いた。彼女はふらふらとそこに座ろうとしたが、周りの女生徒たちがそれを阻止した

「みんなに説明してちょうだい」「不公平よ!」
「そう?ならこのままで…。ここはこの構文でこうでああだからこうなる」
「うわぁすごぉい」
「…もっとすごいんだけどな…○○○では…」
「「「「きゃ~」」」」

最前列にいた女生徒数名が黄色い悲鳴を上げてミン・ギョンジンの方に倒れこもうとした。しかし次の列に群がる女生徒たちがそれを阻止した

「私は化学を」「私は物理を」「ねえ、歴史には詳しい?」「古文は?」
「これはあれであれはこうでこうなってああなったのはあの年だからこれこれでこういう意味だよ」
「「「「すごぉぉい、素敵ぃぃ。いっぺんに答えちゃったぁ~」」」」
「一度に数人に応えるのって…たまにはいいよね…刺激的で…」
「「「「きゃああああ」」」」

次の列から最前列に移った女生徒数名が黄色い悲鳴を上げてミン・ギョンジンの方に倒れこもうとした。しかしそのまた次の列に群がる男子徒たちがそれを阻止した

「君、女の子達の気をひこうとしてるようだけど」
「そんなつもりはないよ」
「なら僕たちもの質問していいかな?」
「どうぞ。わかることなら答えるよ」
「君、お笑いは好き?」
「大好きだよ。よく即興ライブをやる」
「え?ライブをやるって…見に行くんじゃなくて?」
「そう。とってもウケる」
「ぜひ見せてくれよ」
「今はパートナーがいないから無理だけど、今度BHC学園に見に来てくれたまえ。歓迎するよ」
「君はツッコミ担当?ボケ担当?」
「…。そうだな…。僕はツッコミ担当なんだけど周りの人はボケっぷりがいいと褒めてくれる」
「ツッコミ担当なのにボケなの?ノリツッコミってこと?」
「のりつっこみ…。乗り…つっこみ…。…。…。そう!そうだよ。ノリツッコミ。いい言葉だ」
「…君って女ったらしっぽい奴かと思ってたけど、面白い男だな、ミン・ギョンジン」
「僕は一途な男さ」

ミン・ギョンジンは男子生徒にさわやかな笑顔を向けた


BHC学園での一日目が終了し、宿泊先であるBHC寮に向かったポール・ロジャース
寮は学園から歩いて十分ほどの場所にあり、通学する学生たちは、町の人々に愛想をふりまきながら歩く
ハン・テジュンが言っていた『町内会主催週間いい男ランキングベスト3』のための活動らしい
ポール・ロジャースも前年度交換学生のジョシュ君に負けぬよう、皆にならって愛想をふりまいた
寮に到着後、部屋に案内される。元来二人用の部屋だが、交換学生は一人で使用できる
古びてはいるが手入れの行き届いた室内に、ポール・ロジャースは満足した
夕食、入浴を終えたポール・ロジャースは、寮の食堂で寮生たちと交流を試みた
全寮制のなので学園の全員が揃っている。先生達の宿舎も棟続きらしい。イヌの姿が見える
他のクラスの生徒たちも食堂に集っており、ポール・ロジャースは彼らについてキム・イナやラブに質問した

「ジミー。あそこにいるのは昇降口にやって来たナントカって奴だよね?」
「ハン・テジュンらよ。しょれと、おれの名前は『きむ・いな』らよ。覚えといてね」
「ああそのハンだ。生徒会のなんかをやってるっていう…」
「生徒会の渉外担当らよ。てじゅはお客しゃんの応対が上手なんら」
「上手なのは客あしらいだけじゃないよ」
「ん?どういうことだいラブ君」
「ん~、キスとかぁ、○○○とかぁ~うふっ」
「らぶっ!」
「ホントのことじゃんか!」
「二人とも喧嘩しないで。彼のキスだの○○○だのが上手かどうかは置いといて、そのハンと同じ顔してる人がいたんだけど…」
「ああ。2年M組はみんなテジュンと同じ顔だよ。何人かいるけど。あのクラスで覚えておくべき人はぁ、テジュンとユン・ソクさん。二人とも渋くてキスが上手」
「ヨンナムしゃんもら。ヨンナムしゃんは優しくて親切で明るくて頑張り屋しゃんで…」
「あ~。テジュンに言ってやろ~、イナさんったらヨンナムさんのこと、でれでれ喋ってたって」
「ちがうもん!お前がヨンナムしゃんを紹介しないから…」
「とにかくハンと同じ顔もウヨウヨいるってことだね?じゃあ各学年に何クラスあるの?」
「学年によって違うんだ。1年は人数不足で1クラスもできなくて、それで一年生なんだけど二年生に在籍してるコが何人かいるよ。二年生はL組とM組ね。三年生はN組とW組」
「…クラス名がバラバラだね。普通A、B、C組とか1、2、3組とかにならないかい?」
「『いにしゃる』らから」
「は?どういうことだいジミー」
「あのね。L組はLBHのLでM組はミルキーボーイのM。N組はぬいぐるみのNでW組は脇役のWなの」
「???」

キム・イナのわけのわからない説明に首を捻ったポール・ロジャースの前を、わっはっはっはという声とともに、中年から初老にさしかかった年頃の男達が通り過ぎていった

「あんなにたくさん先生がいらっしゃるの? あのでっぷりした方が校長先生かい?ハン・テジュンに連れられて校長室に伺ったがご不在だったんだ。挨拶してこなきゃ」
「ちがう。校長じゃない」
「じゃ、あのパンチパーマっぽい人?」
「ちがう」
「あれは三年W組の人達だよ。でっぷりさんがスンドン先輩でパンチさんがトファン先輩、派手なシャツ着てるのがマイケル先輩で耳が尖ってるのがチョング先輩だよ、ぴーちゃん」
「ぴーちゃん?」
「そ。ポールのPでぴーちゃん」

おばかっぽいその呼び名に抗議しようとしたポール・ロジャースは、ラブの方に顔を向けて固まった。目の前にラブの唇があったからだ

「な…ななな」
「俺のことはラブちゃんって呼んでね、ぴーちゃん」
「…は…はい…」
「うふん、ぴーちゃん可愛い」ちゅっ

ラブはポール・ロジャースの頬に、軽くキスをした

「ギョンジンに言いちゅけてやるじょ!」
「どーぞ」

ポール・ロジャースは乱れる呼吸を整え、平静を装ってキム・イナに尋ねた

「ギョンジンって?」
「こいちゅのこいびとら」
「恋人?女の子?」
「ちがう」
「…男?」
「そうら」
「…えっとジミー」
「キム・イナでしゅ」
「あのハンって人は君の何?」
「え…。えっとぉ…。しょのぉ…」
「保護者だよぴーちゃん、保・護・者」
「ちがう!こいびとら!」
「テジュンの恋人は俺だも~ん」
「ちがう!」
「喧嘩しないでってば。とにかく。生徒の中には年配の方もいらっしゃるってわけだね?」
「そうら。いろんなところで脇を固めて活躍してるじょ」
「脇を固めて?」
「つまり『脇役』ってコトだよぴーちゃん」

ラブがポール・ロジャースの肩に首っ玉を乗っけた。ポール・ロジャースはその状況に少し慣れてきた

『男子校、さもありなんだ。ラブ君もジミーも可愛らしい。三日間で僕は新しい扉を開くことになるかもしれない…』

ごくりと唾を飲み込み、ポール・ロジャースはラブに微笑んだ。と、その時、何かがポール・ロジャースの目の前を横切った

「いなしゃんこんにちは。今日はテジュンしゃんと一緒じゃないれしゅね。浮気れしゅか?」
「ちがう!ミソチョル先輩のぶぁか!」
「ほんなことゆーて目新しい奴を見つけるとすぐフラフラしよるくせに」
「ぢがう!ボス先輩のぶぁか!」
「担当として情けないでしゅ」
「そーだよ。何回僕のご主人様を泣かせたら気が済むの?」
「ごさたん先輩のぶぁか!エグチ先輩のぶぁか!」
「らぶたん、チャンスだよ、テジュンさん盗っちゃいなよぉ」
「あいたん先輩、盗らなくても向こうから来るよ」
「いや~ん、らぶたんったらぁ、女王さまぁ」
「あのぉ、らぶ様、あんまりあちこちにコナかけないでくだしゃいね。ああ見えても僕のご主人しゃま、ナイーブなんれしゅよ。それはもう、らぶ様に首ったけでどんなご奉仕もいとわないヒトなんでしゅから~」
「ふーたん先輩、アイツには内緒だよ。もし告げ口したら逆さづりにして窓辺に干すよ」
「いや~ん、らぶたんったら、ふーたんをてるてる坊主にしちゃうのぉ?きゃはっ」
「ちょ…ちょっと待ってくれないか」

あまりのことにポール・ロジャースは口を挟んだ。かわいらしいぬいぐるみが動いている。そして喋っている。それだけでも頭がおかしくなりそうなのに、話の内容が『かわいいぬいぐるみ』とはかけ離れているような気がする。しかも『先輩』とはどういうことか…
キム・イナは『ぶぁが、ぶぁが』と涙目で言い続けているし、わけがわからない

「混乱しちゃったの?ぴーちゃんったら。このコ達は三年N組…つまりぬいぐるみ組の先輩達だよ」
「ぬ…ぬいぐるみで先輩?先輩なのにタメ口きいてもいいの?どーゆー学園なんだ…ああ…ふぅっ…」

額に手をあててふらつくポール・ロジャース

「らぶたん、気付け薬あげたらぁ?くふっ」
「あいたん先輩、大丈夫かな?」
「だめでしゅぅ、僕のご主人しゃまが寝込みましゅぅ」
「あはっ♪ふーたんのご主人様ってぇ、らぶたんのこーゆートコがたまんないんでしょ?ねっらぶたん」
「そーだよ、ふーたん先輩。あなた、まだアイツの事、よくわかってないね。奴隷担当失格だな」
「ええん、しょんなぁん…」
「ラブ君、眩暈がするんだが…」
「あ、気付け薬あげるね。はい」

ちゅううううっ

カシャ

ラブはポール・ロジャースに濃厚なキスをした。キム・イナは写真を取り、素早く誰かにメールした

「ああっイナさんったらギョンジンに写メ送ったでしょ!」
「ふん」
「ラブ君、いやラブちゃん…。気付け薬、もう一錠くれるかい?」
「うふん。いいよ、ぴーちゃん…」

ちゅううううっ

ポール・ロジャースはBHC学園に順応した

カシャ

キム・イナは再び誰かにメールした。ラブは何も言わなかった。順応したポール・ロジャースは、ラブを熱っぽく見つめて言った

「ねぇラブちゃん。僕と付き合ってくれる?」
「俺、恋人いるしぃ」
「でも、今、ここにはいないでしょ?」
「え?」
「今、この場にそいつはいないでしょ?だからいいじゃない」
「やだっ。ぴーちゃんったらそーゆーヒトだったの?ストイックな奴かと思ってたのに」
「そういう奴はキライ?」
「ううん、だぁい好きぃ~。嬉しいっ。じゃ、三日間恋人になるね」
「ラブちゃん」「ぴーちゃん」

ちゅううううっ

ポール・ロジャースはラブとキスしながら、傍にいるキム・イナを見つめ、それから辺りを見渡した
…あの子と、あの子と…それからあの子もいいな…。三日間で何人オチるだろう…ハリウッド学園の『あんじぇりいな』に知られないようにしなくちゃな…ふふん
ラブの携帯電話が振動した。ラブはちらりと着信ナンバーを確かめると、携帯をテーブルに放り出してキスを続けた
画面に『バカ』の文字が躍っている。キム・イナはその携帯を拾い上げ、もちもち、ギョンジン?イナでしゅ、ラブはゴリラとキスしてるでしゅと告げ口した
その後、キム・イナとラブの喧嘩が、L組とN組とハン・テジュンを巻き込む騒動となった
教師たちはその様子を見てこう言った

「二度とない青春、悔いを残すんじゃないぞ」

そうだな、三日間、悔いを残さず楽しもう、ポール・ロジャースはBHC学園がすっかり気に入った


「そうだね。明日の授業が楽しみだよ。え?ハリウッド学園独自の授業なの?『演技』の授業?…うわぁ…僕、演技は苦手だな。え?リードしてくれる?ホント?助かるぅ。
この学園の女子はみんな親切だね。可愛い子が多いし…。あはは、ダメだよ。恋人が怒るから…。でも友達ならいいよ。うん。僕も君達のこと、もっとよく知りたいな。じゃ、おやすみ」

ミン・ギョンビンは寮の客室Aに群がる女生徒達と就寝前の談笑を終え、皆に手を振って部屋に入った

「ふぅ…。女の子達に取り囲まれるなんてなんだか懐かしい感覚。きつねが知ったら…ふふふ…拗ねるだろうなふふふふ。明日は皆と写真を撮って送ってやろうっとふふふふ。…あ…メールが来てる」

ミン・ギョンビンはメールを開いた

「…こ…これは…」

顔面蒼白になったミン・ギョンビンは、兄のいる客室Bに急いだ


「そうだね。明日の授業が楽しみだよ。え?ハリウッド学園独自の授業なの? 『演技』の授業?どんな?ラブ・シーンなんかあるの?ほんと?…うわぁ…僕、演技は苦手だな、つい本気でやっちゃうから…え?リードしてくれる?…くふん、いいね、それって新鮮。…ホント?助かるぅ。僕から仕掛けるとホラ、止められちゃうから…え?うん…過激だってストップかかるんだ~
うん、君達から強引にって風にしてくれたら…その後は任せて。天国に連れてってあげる。うふふ。そうだよ、ホントはもう少し進んだ場面の方が本領発揮できるんだけど…なんちゃってうふふ
え?冗談か本気かわかんない?くふん、やだな、冗談だよぉ。でもそんな僕を本気にさせるヒトが出てきたりして?あは。ウソウソ。弟には内緒だよ
この学園の女の子はみんな親切だね。みんな可愛いし…。あはは、残念だけど、それはダメだよ。恋人が激怒するから…。とっても怖いんだ。だけど…好き…
あ、でも友達ならいいよ、キ○友達とかそれ以上友達とか…。え?冗談好きって?うんまあ、そうだね、時々本気だけど。なんちってあはは
うん。僕も君達のこと、もっともぉっと、いろんなところ、よく知りたいな。じゃ、おやすみ」

ミン・ギョンジンは寮の客室Bに群がる女生徒達と就寝前の談笑を終え、皆の唇に素早く濃厚なキスをして部屋に入った

「ふぅ…。女の子達に取り囲まれるなんてなんだか懐かしい感覚。女王様が知ったら…ああん…お仕置きされちゃうぅ…あはん。明日はラブシーンの写真を撮って『真面目に授業を受けてます』って先手打って送ろうっと…でもきっと…お仕置きされちゃうぅ…あはん。…あ…メールが来てる」

ミン・ギョンジンはメールを開いた

「…こ…これは…」

顔面蒼白になったミン・ギョンジンは、弟のいる客室Aに向かおうとした

バッタンコー☆「にいさんっ!」
「あっ、ギョンビィン、会いたかったよぉ」

ミン・ギョンジンは両腕を大きく広げ、唇を尖らせて弟に突進した。ミン・ギョンビンはとっさにスリッパを手に持ち、兄の頭を思いっきり叩いた

「いったぁぁぁい、ひっどぉぉいぐすんぐすん…」
「兄さん、これ!これ見てよ!」
「なに?メール?僕もお前にメール見せに行こうと思ってたんだ。どれどれ」

二人はお互いの携帯電話を交換し、メールを開いた

「「こっ…これは…」」

ミン・ギョンビンはミン・ギョンジン宛に来たというメールを読み愕然とした

『君は何をしているの?まさか女の子達とどうにかなってるんじゃないだろうね…信じてる、信じてるけど、君はとてもかっくいいから…
僕、とても心配れす。授業も上の空れす。交換学生の金髪ゴリラが僕の瞳をうちゅくしいと言いました。嬉しかったけどそいつを睨んでやりました。僕を口説こうなんて百年早いでそ?ぐすん…。とっても寂しいです。早く帰ってきてくらさい。お兄さん』

なぜ兄のところにきつねからメールが?本当に兄に宛てたメールなのか?…いつの間に僕のきつねは兄と…
ああ…思い出す、兄は僕のものを奪う癖があった…。まさかきつねまで奪っていたとは…あああ…

ミン・ギョンビンは両手で顔を覆い、その場にくずおれた


ミン・ギョンジンはミン・ギョンビン宛に来たというメールを見て愕然とした

『うわきのしょうこはつかんだじょ』

写真が添付されている。文面はキム・イナが書いたものだ。すぐわかる。それはいい。問題はこの写真だ
どうして僕の『ゴージャスでキュートでビューティホーでヴィーナスでアマーンなアフロディーテ』が『金髪ゴリラ』と濃厚な接吻をしている写真が、
どうして『(僕の、プリティでキュートでチャイルドライクな)イナ』から『(僕の、スクウェアでフェイスフルでハンサムでキュートでアトラクティヴな)弟』に送られてきたんだ?
まさか、あり得ないが僕の女王様は弟とデキていた?絶対まさか、絶対ナイ、ないないない、それはナイ

けどでもしかし、もしも、万が一そうだとしたら…


きゃっはぁぁぁん…あうあうあう。それって…じゅるる…ちょっと見てみたぁい、くふっ、じゅるる…。あっ、よだれが…
いけない。弟に引っ叩かれる…げほげほ…

そう。あり得ない。だって弟は『厳格王』。女王様と戦いこそすれ『従う』なんてできっこない!
『絶対服従』は僕の特技(女王様に対してのみ!)だもの、ふふん
女王様は僕のご奉仕に、とっても満足されているはずよ、くふん
弟ってば強情っぱりだから、女王様の女王な発言にカチンとくるはず
そしたら弟は女王様にネチネチと意地の悪いコトを言ったりしたりするのよ(僕に対してそうだもの、あはん…)
女王様はそんなヤツはキライ。僕のように従順なドレイがお好きだものっ、きゃいん♪

あ…だけど…待てよ…
女王様が『厳格王』にコロッと服従するという可能性は無きにしも非ずかもっ(@_@;;)
だってだってだって!あのコったら天邪鬼だしっ、『えす』だけど『えむ』なところもあるしっ
いつだったか、僕のご奉仕が暑苦しいとか飽きたとか言って僕をイジめたことがあったわ(それがまたたまらなかったんだけど…)



あれが本気の本音だったとしたら…(@_@;;)
したらしたらしたら!僕の知らないところで弟と女王様は…
いやああああ(@_@;;)
あああ、イヤだけど…少しイヤじゃない(@▽@;;)
あああああ、でもやっぱり、いやああああ(@■@;;)

ミン・ギョンジンは、両手で顔を覆い、その場にくずおれた


「「どういうこと?!は?!こっちが聞きたい。僕に黙って彼に何かしたの?!は?!僕は何もしてない。じゃなんで?!…ああ、そうか…すまない兄さん(弟よ)、僕はなんて罪作りなんだろう、居るだけで彼を魅了してしまっていたなんて…ああ…それというのも僕ら兄弟がそっくりだから…あああ…」」

ミン兄弟はお互いをユニゾンで罵り、嘆き、泣き伏した

「…って、どう考えてもおかしい。彼が兄さん『なんか』を好きになるはずないもの!」
「そうだよ、ラブがお前のような未熟な技巧を好むはずがない!」
「何言ってるのさ、僕の彼が誰だかわかってるの?!日夜彼に鍛えられ…ゲホっ…それは置いといて…とにかく、ラブ君は本当は純な子だから、兄さんのようなスケベジジイは嫌われて当然なんだよ!はん」
(なんだって?!…やはりラブと弟は、こっそり付き合っていたのか?)「お前こそ、ミンチョルさんのようなヒトの要求にキチンと応えられるはずがない!彼もやっとわかったようだ、僕のテクがどれほど凄いか…。すまないな、ギョンビン、お前の恋人達はお前に愛想をつかして僕の元にやってくる…これは逃れられない運命なんだな…」
「…くっ…」(ああ…過去が蘇る。まさか本当に僕のきつねまでもが兄にこっそり飼いならされていたというのか?!)

睨みあうミン兄弟

ピロロロリン♪

ミン・ギョンジンの携帯にまたメールが届いた。イ・ミンチョルからだ。ミン・ギョンビンは、騒ぐ兄を制してそのメールを開いた

『目の前がぼやけて気がちゅいたら送信ボタンを押してしまいました。途中で送っちゃった。ごめんね。さっきの続きを書きましゅ。
…お兄さんによろしくね。早く帰ってきてね。しゃびしくてたまりましぇん、ギョンビンへ。ミンチョルより』

ふ…ふふふ…ふはははは「どうだ!これを見ろ、兄さん!彼は僕を愛している、愛しているんだはははは!それに比べて兄さんの恋人はどうだい?金髪ゴリラとこんな濃厚な…。可哀想に…。僕に知らせて兄さんを戒めて欲しかったんだろうね…。少しは反省すれば?いや、懺悔すれば?!」
「…なら聞くが、何故僕の携帯にミンチョルさんからメールが来たんだ? 愛しているならお前のアドレスと僕のアドレスとを間違えるなんて考えられないことじゃないか!」
「…。彼は僕が傍に居なくて寂しいんだ。きっとあの美しい瞳にガラスが入ってる…。だから携帯の文字が見えにくくて間違えたのさ」
「ふ。相変わらず理屈っぽい男だ。ミンチョルさんは無意識に僕を意識しているんだ」
「は。相変わらず自意識過剰な男だ。だが確かに彼はそういう傾向にある、『天使』に対しては無意識に意識しているふしが…でもとにかく、彼は兄さんなど意識するものか!彼は美しいモノが好きなんだ!」
「おや、お前とそっくりな僕は美しくないのかい?」
「見た目を言ってるんじゃない。中身だ。兄さん、貴方はアホーでスケベだ!」
「兄に向かってなんということを!」
「僕だって兄さんを貶めたくないさ。でも仕方ない。歴然たる事実なんだから」
「ひどいっ!」

ピロロロリン♪

ミン・ギョンビンの携帯にも、またメールが届いた。キム・イナからだ。ミン・ギョンジンは、弟の非難を浴び、メソメソしながらそのメールを開いた

『ごめんぎょんびん。ぎょんじんにおくるちゅもりらったのにまちがえた。らぶはうわきものでぶぁかでし!』

またも同じような写真が添付されていた

「さっきと違う場所だ…。それにさっきより密着度が高い(@_@;;)…」
「って事はめったやたらそこかしこでこのゴリラとキスしまくってるみたいだね、ラブ君」
「…う…うううっ…らぶぅぅぅ」

ミン・ギョンジンはミン・ギョンビンから自分の携帯を奪い取り、ラブに電話した

出ない、出ない、出ろっ、ああでもキスしてたら出ないか、いや、そうじゃない、僕からの電話には出るだろう普通、ぎゃうわうぎゃうわう、出てよぉ出てよぉああん、だぁりぃいん…、あっ出たっ!

「もしもし?!」
『もちもち、ギョンジン?イナでしゅ、ラブはゴリラとキスしてるでしゅ』
『何してんのさ、勝手に人の電話に出ないでよ』
『ラブちゃん、誰からなの?』
『ちょっとしたドレイだよ』
『ドレイなんてひどいじょ、ギョンジンはこいちゅのこいびとだじょ』
『切ってよ早く』
「イナ!ラブと代わってよ」
『あい。代われって』
『代わらなくていい!気分悪い』
『ギョンジンがかわいそうだじょ』
『ああ…ふらつく…ぴーちゃぁん、気付け薬ぃ』

ちゅうううう

「らぶぅぅぅぅ、いやぁぁぁぁ」

泣き喚き身悶えする兄を客室Bに残し、ミン・ギョンビンは廊下に出た

「兄さん、喚きながらも幸せそうだな…ふふん。きつねにメールしなくちゃ」


こうして両校の交換学生の初日は終わった







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