カテゴリ:父の日記
私が大学4年の時、あるボランティア活動で高校1年生の男の子と知り合った。
当時、私が可愛がっていた女の子の幼馴染みで、ちょっとやんちゃな部分を持った、友人は多いだろうが、どちらかというと一匹オオカミ風の彼だった。 そんな彼と仲良くなった経緯は詳しく覚えていないが、彼の家に遊びに行ったこともあるし、私が大学を卒業して地元に戻る時には送別会に手作りのケーキをご馳走してくれた。 彼は小さい頃からお菓子を作るのが好きだった。 「売ってるケーキや本の通りに作ったケーキは甘すぎるだろ。だから、甘さ控えめのケーキを自分なりに作ってるんだ。」 確か、高校生の彼がそう話していたのを覚えている。 それからしばらくして、彼が東京の製菓学校へ入学したことを知る。 彼が東京にいる間、たった一度だけ電話で話したことがあるけれど、その後は疎遠になっていた。 それでも、東京や神戸で修行を積んだのち、広島でロールケーキの専門店を開いたと風の便りで伝わってきた。 Facebookとは、こういう時に役立つものだ。 仲間を通じて、彼と10年ぶりに連絡を取るようになった。 そして、昨年もちょうどこの時期、私は彼にロールケーキを送ってくれるようお願いした。 すでに飲み込みが悪くなっていた父も、彼のロールケーキは美味しく食べられると喜んでいたからだ。 あれは、1年前の11月3日。 朝、デイサービスへ行く準備をしていた父が転倒し、頭を強く打ってしまった。 念のため救急車を呼んだのだが、意識があったために病院から少し後に搬送してほしいとお願いされた。 それなら朝食もまだだから何か食べとこう、ということになった。 「ロールケーキが食べたい。」 いつも食べてるパンでも、ご飯と味噌汁でもなく、彼のロールケーキを食べると言うのだった。 そして、それがあっけなく逝ってしまった父のわが家で食べた最後の食事となった。 葬儀などの一切が終了し、少し落ち着いた頃、私はそのことを彼に伝えた。 正直、最後の食事が彼のケーキということが嬉しくもあった。 「最後に食べてもらえるのは、食べ物を作る仕事をしている人間からすると、名誉なことだねぇ。 なんだか違う喜びを感じました。 子供として立派に責任をはたしたね、picchuやん。」 じーんとした。 先日もまた、父の想い出の品として一周忌法要のお供えも兼ね、お世話になっている方々への贈り物として取り寄せた。 「あんな上品な生地は初めてです!」 贈ったものが、そうやって喜んでもらえることは贈り主である私も誇らしい。 早速彼に報告。 「おおー! ありがとう〜! プレゼントする人と、作ってる人が上品だからかな。(笑)」 確かに、上品な生地。 素朴で素直な味は、彼そのものがよく表れている。 喜ぶ彼にまだ伝えていないことだが、彼のロールケーキは一年前よりも一段と美味しくなったと私は思う。 毎年、父を偲びながら彼のロールケーキの進歩を楽しむ秋にしたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.11.09 20:43:00
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