2006/05/18(木)19:40
リハビリ最終日。
今日がリハビリ最終日だった。リハビリは総計24日間、自宅軟禁生活約4ヶ月。
あしたは労災(INAIL)の審査がある。リハビリ終了の証明書まで発行されたし、確実に明日の審査で労災期間は打ちきられるだろう。
とうとう終わった。。。
わたしは朝、いつものように病院行きのバス停に向かった。この平和な平日の遅い朝の光景をひとつひとつ心に刻みながら、感慨深く歩く。
隣の家のシェパードは、いつもわたしがそばを通るたびに「ワン!」と軽く吠えて尻尾を振りながら柵のそばまで寄って来ていたのだが、最近は暑いのか、ぐったり地面でFの字になって、こっちをチラリと見るだけで立ち上がろうともしない。(寂しい。。)
バス停にはいつもの金髪のおばさんが待っている。
毎日遭うってのに今まで「ブォンジョルノ。」としか挨拶を交わしたことがない。というのも、彼女はちょっとこわそげなキャリアウーマン系の女性なので、わたしは気後れしてそれ以上、関係が進まなかったのだ。
しかし、ここ数日見なかったな。
今日もそうやって挨拶を交わした後、彼女はいつものように舗道にしゃがみこんでタバコを吸い、わたしは動かさなければすぐに固まってしまう足をプールの準備体操のように曲げたり伸ばしたり、ぶらぶらしたりしてバスを待った。
やがて自転車で近所のおばさんがわたしたちの前を通った。おばさんは金髪のおばさんに向かって「あんた、この通りの45番地よね?」
金髪のおばさん「そうよ?」
自転車のおばさんの後ろからは高級そうなクルマがノロノロとついて来ており、その運転席の窓が開いて、ざ~ます系おばさまが顔を出した。「ということは、あなたが美容師?」
金髪のおばさん「はあ!? ああ、うちは45番地のB。Aと新しく出来たCがあるからたぶんCでしょ。」
ざ~ます系おばさまは金髪のおばさんに「ありがとう。」と言って去る。
金髪のおばさんはクルマを見送ってからわたしのほうに振り向き「うちの隣で美容院やってるなんて知らなかったよ。」と笑った。
OOOOOOHHHHHHHHHH,YESSSSSSSSS!!!!
これがきっとはじめてで最後の彼女との会話だろう。これも心に刻み付けておこう。
バスが来た。この日の運ちゃんは密かに想いつづけた、バスの運ちゃんの中でも一番仲のいい運ちゃんだったので、最後にプレゼントを用意しておいたのだ。この運ちゃんが最終日の運ちゃんだってことがうれしい。
しかし、この運ちゃんは金髪のおばさんを見るなり、「ここ数日、どうしてたの!?」と散弾のように喋り始めるではないか?(ちなみに運転中の運転手とのお喋りは禁じられている。汗)
あああ~、この調子じゃ、プレゼントが渡せない。。。
わたしは一生懸命、無理やり会話に押し入る。偶然にも金髪のおばさんの娘が秋から大学で日本語を習う、というので、その話題で少し盛りあがった。(いいぞ、よし!!) すると、他の乗客もどんどん押し入ってきて、バスの中は遠足のような大騒ぎになってしまったのである。汗
とうとう病院前に着いてしまった。もうここしかチャンスがない!顔を真っ赤にして「あのこれっ、プレゼント!!」とでっぷりとした彼のお腹に埋め込む様にプレゼントの箱を突きつけた。
運ちゃん「何これ?」
わたし「「減肥茶」っていう中国茶。ダイエットに効果があるから、毎夕食後に飲んで!」と吐き捨てるように言って慌ててバスを降りた。
バスに残った乗客は「ひゅ~ひゅ~!」と言って窓から親指を立てる。
運ちゃん、きっとドキドキしたに違いない。金髪のおばさんは「明日のバスの中では娘に日本語の個人レッスンお願いしてみようかしら?」なんて、考えてるかもしれない。
。。でも、明日からわたしはもうバスには乗ることがない。
リハビリ室に入ると、いつもは遅れてくるわたしのリハビリ師が珍しく先に来ていた。
最近わたしは機械の振り子運動は卒業して、「なんちゃらランナー」という機械のベルトの上をひた歩くハムスターとなっている。
彼女はわたしが歩くそばでウルウルと「寂しいわ。」と繰り返している。
「なんちゃらランナー」が終わると、ベッドの上で彼女がわたしの足をぎゅ~っと伸ばしたり、曲げたりするのだが、かなり痛い。
彼女はわたしの足を容赦なく曲げながら、憂鬱そうに「来週からね、あなたの後、他の私立のクリニックで脊髄の手術に失敗した女性を担当するの。まだ50歳を過ぎたばかりで若いのに、記憶がなくなっちゃって、わたしがやることのコピーは出来るけど、自分の意思で何かが出来ない人なの。
あなたのような、日に日に治っていくことがわかる患者を担当するのはうれしいんだけど、彼女のようにいつ治るかわからない患者を担当するのは精神的に辛いわ。でも、大半がそういうひとばかりなんだけど。。。」
そうなのか、リハビリにもいろいろあるのだね。。。。そんな話を聞いて、わたしまで憂鬱になった。
リハビリが終わった。
わたしのリハビリ師はわたしをぎゅ~っと抱きしめて「また病院に来る事があったら、絶対寄ってね!」と言う。わたしもなんだか胸が詰まってウルウルなりながら「うん!」とうなずいた。
他のリハビリ師たちも口々に「またいつでもおいで~!!」と手を振った。
しかしもう当分病院のお世話にはなりたくないんだけど。。。
平日に遊びになんて行けない。次に行くのはまた「何か」があったときだ。汗
病院を出ると、空がどんよりして小雨がぱらぱら降り出してきた。
ああ、今日が最後だから、バスの中から気になっていたパン屋さんでパンも買ってみたかったし、この間は時間がなくて流し見だけした画廊もゆっくり廻りたかったけど。。。
。。。雨だからいいや。(←結局はぐ~たら)
帰りのバスに乗った。珍しく知らない運ちゃんだった。
そんな運ちゃんを見て、ちょっとおセンチに終わりを感じたわたしなのだった。