2006/07/24(月)18:13
ね。。ねずみ?? 後編
日曜朝5時。
またもやおっとがへべれけで帰ってきた。
眠かったものの、閉じ込められて慌てふためくねずみがカサカサとずっと出していた騒音のおかげで結局寝つけなかったわたしは、物入れの向こうにあるトイレに行こうとするおっとを押しとどめて「まずはねずみ退治をして。」とほうきを渡す。
なぜほうきか、というと「トムとジェリー」でお手伝いさんがねずみ退治に使うのはほうきだったので、なんとなく、だ。
おっとはおそるおそる物入れの電気をつけ、そうっと扉を開けた。
そこにはねずみの姿は発見できなかったが、床や洗濯機の裏、上にはころころとした米粒のような黒い糞が撒き散らされていて、このねずみがいかにおびえて糞尿を漏らしながら逃げ惑っていたかは容易に想像できた。
おっと「うえ~、汚い!」
そ、そう?わたしは小学生の時に飼っていたハムスターのかご掃除をなんとなく思い出す。
おっとは洗濯機の裏を見て、わたしと同じように靴べらで下をかきまわし、靴箱を1段ずつ開けてのぞく。
おっと「いないよ、もう。どこかの隙間から逃げたんだ。」
それは絶対ない。物入れに隙間なんてない。完全な密閉空間だし、ついさっきまで音がしていたのだ。
わたし「きっとまだ洗濯機の中にいるんだと思う。そうだ!洗濯機を廻すよ。たぶん驚いて出てくるよ!」
わたしは洗濯機のドラムの中にはねずみがいないことを確かめて洗濯物を放りこんでスイッチを入れた。
洗濯機は廻り始めたが、ねずみは出てこない。きっとわたしたちの気配に怯えて出て来れないのだ。
わたしたちはトイレの窓を開け放ち、物入れの部屋に通じるドアは閉めて、トイレに通じるドアは開けたままで一方通行の環境を作って外に出かけることにした。こうしておけば、トイレの窓から逃げ出すだろう。
1時間ほどして帰宅し、そっと物入れのドアを開ける。洗濯機は止まっていた。もうきっとねずみは逃げただろう。
わたしは安心してトイレに入った。
と。
便器の裏側の隅にこちらに背を向けて、小さく丸まって震えているねずみを発見したのだ。
トイレの窓は高いし、つるつるタイルの壁だから登れなかったか。。。
わたしはよくよく観察した。
薄茶色のそれは長いしっぽすらなけりゃ、まさに昔飼ってたハムスターだ。丸まった姿がいかにも愛らしい。
か、可愛い。。。
胸がきゅんと鳴った。
イヤイヤダメだ。追い出さないと!!
わたしはこっそりおっとの元に行き、「まだいるよ!追い出して。」とささやく。
おっとはまず、ねずみが玄関に直行できるよう、部屋に通じる道に靴を隙間なく並べ立ててバリケードをつくった。玄関のドアを全開にする。
そしてトイレに行き「追い出すぞ~!」という掛け声と共にねずみがこっちに向かって走り出すのが見えた!
やっぱり可愛い!!
しかしドアの裏に隠れて見ていたにもかかわらず、ねずみはわたしの気配に気がついて、まっすぐ走るのをやめ、小走りに左折してまたもや洗濯機の下に逃げ込んでしまった。失敗である。
3日酔い朝帰りのおっと「。。。もうぼくはイヤだ。寝る。」とほうきを放棄してさっさと寝室に引きこもってしまった。怒
わたしはいつねずみが逃げ出してもいいように玄関を開けたままにしておき、洗濯機の上のふたをこじ開け、懐中電灯で照らした。(ちなみにイタリアの一般的な洗濯機は上からではなく、側面から洗濯物を入れるようになっている。この場合は機械部を見るためのふた)
いたいた。ねずみはドラムの側面で黒い小さな目をくりくりさせながらじっとしている。
うう~、なでたいな。
なんて思ってる場合じゃない。
わたしは靴べらで上からそっと突付いた。
そのときのねずみの驚き様といったら!
パニックに陥り、電気配線のコードを伝ってわたしのほうに向かってよじ登ってきたのだ。
かもーんっ!!
両手を広げて抱きしめる態勢まで取ったというのに、またもや途中で我に返ったねずみはドラムの下に逃げ込んでしまった。
いよいよわたしは興奮してきて、靴べらで洗濯機をガンガン叩いていると同じ並びのカルラが玄関の向こうから「何やってるの、洗濯機の故障?」と聞いてきた。
恥ずかしくなって、「いやあ、その。。実はねずみが出ちゃって。。。」ともじもじと言うと
カルラ「ゲ~!汚い!!今日お父さん(農家)がお昼を食べに家に戻ってきたらねずみ退治の毒薬を分けてもらうよ。」
わたし「え、あ。。ありがとう。」
殺すの?あんなに可愛いのに。。。
わたしは時計を見た。朝10時。昼まで2時間ある。
わたしはそんなにしょっちゅう洗わないソファーカバーなどをはずして洗物をつくり、もう一度、洗濯機を廻すことにした。
もちろん毒薬を使う前に再度ねずみに逃亡のチャンスを与える為だ。
今度はトイレ側のドアを閉め、玄関から部屋に通じるバリケードをさらに高くして、また玄関を開けた。
これで外までの道へ、一方通行である。
スイッチを入れてわたしはおっとがいびきをかいて寝ている寝室に引きこもった。そして静かに静かに洗濯機が止まるのを待った。
洗濯機が止まった。
わたしはどきどきしながら洗濯物を取り出すのではなく、上のふたを開けて中を懐中電灯で照らす。
もうねずみはいなかった。
用心の為、靴箱も一段一段丁寧に見て、部屋の中も特に薄暗い死角などを気をつけて見てみる。
もうどこを見てもねずみはいなかった。
きっと作戦が成功して玄関か、もしくは侵入してきた穴から外に出ていったんだろう。
ホッとしたような、ちょっと寂しいような思いを抱きながら、洗濯物を取り出して外に干していると、カルラが小さなビニール袋をぶらさげてやってきた。
カルラ「はい、毒薬。猛毒だから素手では絶対触っちゃダメよ。洗濯機の裏とか、またねずみが出そうなところに置いておくといいわ。すぐには食べないとは思うけど、食べたらすぐ死ぬから。」とビニール越しに小さな青い袋を指す。カルラは優しい女性なのだが、こういうことを飄々と出来てしまうところがやっぱりたくましい農家の娘なのだな、と思う。
取り合えずいただいておくことにした。
試しに玄関の扉の裏に置いて見たが、いかにも毒薬らしい吐き気を催す化学的な臭いには参ってしまった。こんなもの、ねずみが自ら進んで食べるのだろうか?
2袋いただいたので、1袋はその臭いに耐えかねて2階の外に出した。
ねずみくんたちが、これを食べないことを祈ろう。←だったら置くなよって?