306319 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

piled timber

初めての…

 酒を飲み始めたのは何時の頃だったろう。確かに公の席では幼年の頃から口にする機会はあったものの、それが自分の財布から金を出して好んで酒を口にする頃に、思えば僕は初めての女を知った。

 その日はバイト先の給料日で、
「ちょっと飲んでいこうか」
 と言うヤマサキの誘いに僕は躊躇う事無く同意していた。一軒二軒何軒一緒に回ったろう、呂律が怪しくなってきた頃、ヤマサキの
「女を買いに行かないか」
の一声に、僕はオンナを知らない事を恥ずかしく感じ、女を買う、女を知るという事で動悸が高まる事を感じつつ、それを悟られまいと、平然を装って
「ああ良いぜ」
 と答えていた。

 ヤマサキと僕は、品定めをするように街を徘徊し始めた.今でこそ色んな風俗が腐るほど街にあふれてはいるものの、当時は明け方の街の風俗と言えるものを探したら、キャッチかたちんぼしかなかったのである。
 幾人かのキャッチをやり過ごした後、ヤマサキは意を決したように、
「ここに行こう」
 ととあるキャッチと歩き出した。僕は廻りをキョロキョロしていたので彼らに遅れまいと小走りに彼らの続いた。

 幾つかの小道を右に左にたどり着いた先は、区役所裏のビルの一室だった。確か表には焼き肉ともカラオケとも看板が出ていたような気がした。狭い階段を登った先には薄暗い廊下があり、そして狭く暗い個室へと僕とヤマサキは別々に入れられた。
 僕の頭の中では、童貞を失うという事への多少の畏怖があったのだろう。薄暗い廊下を歩かされ連れ込まれたような部屋の中でこれから起こるであろう事に思いを馳せると、始めて知るという行為のみが頭の中をただぐるぐると駆け巡っていた。

 程無くしてドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「入るね」
 ドアを開けて入ってきた女は、若くも綺麗でも無くごく普通のくたびれた様な女だった。けれどその時の僕の心境といえばこれから起こるであろう事ばかり考えていて相手がどんな女であるかを考えている余地など何処にも無かった。
「ズボンとパンツを脱いで」
 女は事務的に言った。僕が言われるままにゴソゴソと脱ぐと、
「上脱ごうか?、しゃぶろうか?」
 と言われはしたが、それがどんな事なのか、どんな意味を示しているのか当時の僕にはわからずに、
「いや、良いです」
 と答えていた。
「そう、じゃあ始めるね」
 女は紙オシボリで僕の股間を丁寧に拭くと、今度は手を使ってしごき始めた。女性にしごかれたのは始めてである。僕の興奮は頂点に達しようとしていた。
 女は僕がある程度の硬度に達すると、おもむろにコンドームを取り出し、僕に装着して、
「来て」
 と手招きをした。僕は言われるままに腰を進めると女の中に入っていった。
 あの感触は何と言ったら良いのだろう。まず最初に感じたのは女の肉体の温かさだった。挿入してその後女の体の中を暖かいと感じる事は無かったけれど、一番最初のその時だけは何故か女の内部の温かさを、僕は僕自身の体の一部で確かに感じとっていたのである。それは不思議な感動を僕にもたらしていた。
 腰を振ったような記憶はあるもののいったかどうかは記憶には残っていない。

 外に出て、ヤマサキが出てくるのを一人で僕は待っていた。先ほどの僕の体の一部が感じたあの温かさが、僕が童貞を捨てたという事を思い出させていた。
「ぼったくりだよ」
 開口一番ヤマサキは吐き捨てるように言った。彼は女の言うままに女を裸にししゃぶらせそして払った料金は、僕のおよそ四倍にもなる金額だった。
 「裸になってナンボ、胸を触ってナンボ、しゃぶってナンボ。ったくふざけやがって」
 バイト料の大半を絞り取られて彼はふてくされていた。

 今ならば、間違ってもそういったキャッチに捕まる事も無いだろうけど、若かりし時代にはそういった事もあった。
 今でこそ、女と体を繋ぐ事に快楽を求める事が多くなったが、初めての時に感じたあの温かさは忘れる事が出来ないのだろう。


© Rakuten Group, Inc.
X