何?名も知らぬ女と並んで僕はホラー映画を一緒に見ていた。そして、何故か握り合っている手は汗に濡れていた。効果音が映画を盛り立てる度に、強く手を握っていたのは彼女ではなく、僕の方だった。映画はいかにもB級という出来で、今思い返せばさほどの怖さを感じさせる事は無いと思うけど、その時多少は酔っていた僕には程々怖かったのだろう。映画を見終わる頃には二人の手は汗ばんでいた。 「送って行くよ、どうせ俺も家に帰るし」 そう告げた僕に、彼女の意外な答えが返ってきた。 「帰りたくない」 「帰りたくないって言ったって・・・」 女の子にこんな風に言われちゃ男だったらその気になるはずだ。僕は彼女の肩を押すようにしながら、肩を並べてホテル街へと足を運んだ。さすがに土曜の夜だけあって、ホテル街では空いてる目印のランプが灯っているところが少なかったが、空いているところが無かった訳では無かった。 「ここにしよう」 僕は彼女の肩を抱えるように門をくぐろうとした。 「嫌」 彼女は一言言うと僕の手を強く掴んだ。 「じゃあ、やっぱり送るよ」 僕はそう言うと彼女と一緒に大通りへ向かった。 彼女とは、初めて会った訳じゃ無かった。知り合いの店のアルバイトのホステスなんだけど、その店で僕の目当ては他にいたんだ。じゃあ何で?って考えちゃうけど、それは僕にも良く判らない。 たまたまトイレに立った時、そこに僕の目当ての娘がいたんだ。僕は彼女とその場で抱き合いキスをした。その日は客が少ないというので店を早仕舞いする事になったんで、僕は目当ての娘を映画に誘ったんだ。だけどその娘は用事があるとかで、 「じゃあ、Aちゃん映画に連れて行ってもらいなよ」 という一言で僕は名も知らぬ子と一緒に映画を見る事になったんだ。 大通りに向かう途中で、 「やっぱりまだ帰りたくない」 と名も知らぬ子が言い始めた。 「送ってあげるから帰れば」 「嫌、帰らない」 彼女が、何を考えていたかは僕には判るはずも無かった。けれど、再び僕らは来た道を戻り始めた。 そして再び、空いているホテルを探してホテルの門をくぐろうとした。予想通りというか、 「やっぱり嫌」 と娘は言った。 「じゃあどうしたいの」 僕がちょっと強引気味に彼女の背を押すようにして門をくぐった後は、入るまでがまるで嘘のように歩き始めた。 部屋へ入ると、彼女は何も言わないのにお茶を入れ、そしてシャワーを浴びに立っていった。 シャワーを浴びた娘は浴衣に着替えていた。僕は彼女を引き寄せると抱きしめ押し倒してた。シャワーを浴びた体からはほのかな石鹸の香りがしていた。 一戦終えた後、僕は娘が入れてくれたお茶を飲んでいた。 「彼氏と一緒に暮らしているんだ」 「それならやっぱり帰ったほうが良かったんじゃ無かったのか」 「ううん、良いの。彼ってしつこいからたまにはね」 彼女は艶然と笑みを浮かべていた。そして僕は彼女らの普段の様子を聞いているうちに、またも娘を布団に引きずりこんだ。 翌朝、といってもすでに日は高く上って昼になっていた頃、僕と彼女は一緒にホテルを出てお茶を飲んでいた。彼女の口から出てくる話は、彼女の部屋で帰りを待っている彼氏の話ばかり。 僕は、次に会う約束もする事なくそのまま別れた。 |