蝉の声うだる様な暑さの中、蝉の声が煩い程に聞こえてくる。そして、この季節になると、もう名前も忘れてしまった娘とのセックスを思い出してしまう。 その娘は、がりがりに痩せていて、浅黒い肌を持つちょっと頭の軽い子だった。なんの拍子でそうなったのかは、今でも思い出すことが出来ないけれど、特に口説いていたとかそういう記憶は無い。しかし、今でも彼女を抱いた記憶だけは鮮明に残っている。 今では取り壊されて無くなってしまった家の離れを借りて住んでいたのだけれど、その部屋は、ただ眠りに帰るだけの部屋でしかなかった為、電話もエアコンも入れてはいなかった。収入が少ないから入れなかったと言うのではなく、収入の全てを遊びに使っていたから部屋には金をかけたく無かっただけだった。家賃の安さが取り柄だけの線路際の汚い、小屋に見える様な部屋だった。そんな部屋だから当然の様に風呂なんぞ付いている訳もなく、部屋に鍵をかけるなんて事は二三日家を空ける以外はかけた事なんて無かった。 毎日毎日、朝まで酒を飲み、そして夏の暑さも感じない程寝ては、夕方仕事に出かけるそんな毎日を繰り返していた。不思議なほど二日酔いなどという事も無く、夏ばてなんていうのにも無縁の生活だったが、不摂生さでいうと今では考えられない位だろうか。 たぶん始発の電車で新宿からその娘を連れて帰ったのだろう。駅からの坂道をその娘の腰に手を回して降りていった記憶がある。鍵のかかっていない部屋に娘を連れ込み、部屋に驚く娘の唇をこれから行うであろう行為の手順の様に貪っていた。「いや、シャワーを浴びてからじゃ無いと」と体をよじる娘を押さえつけながら、「この部屋にそんなものは無いよ」と言いながら僕はのしかかっていった。彼女の体は当然の様に、汗の匂いに包まれていた。いや、それは僕と娘の汗の匂いが混ざり合っていたのかも知れない。 薄明かりの中で始めたセックスは日の光が眩しく感じるようになっても終わってはいなかった。二人の体は汗にまみれ、霧吹きを全身に施したように濡れていた。動きと共にネチャッともヌチャッともつかぬ音が響いていた。昨晩の酒が残っていたせいだろうか、私は果てる事無く動き続けていた。「ヒリヒリしてきちゃった、止めない?」そう問いかける娘に、時計を見ながら僕は「じゃあ、止めようか」と答えた。「でもまだ終わって無いんでしょ」済まなそう に呟く娘に「いや、こんな日もあるよ」そう答えた。 窓から差し込む日の光に二人の体は輝いていた。そして娘から離れた瞬間彼女の体は、僕を受け入れていた事を語るかのように開いていた。そして、少し赤く腫れていた。 横になるとも娘はすぐに寝息を立て始めていた。窓を見上げれば通勤電車が信号待ちの為だろう、満員の状態で止まっていた。そして、窓の外からは煩い蝉の声が響いていた。後にも先にもその娘を抱いたのはたった一度の事だった。 「エアコンの無い部屋でなんかセックス出来ないよな」 と山ちゃんが言っていた。確かに汗で粘つく感触は気持ちが良いとは言えないと思う。けどたまには良いんじゃないかなと思ってはいるのだが、その後一度も経験は無い。 |