紀-5僕は何度となく、彼女が再び東京に戻り、一緒に暮らそうと言う手紙を書き送っていた。しかし、彼女からの返答は近況報告に留まっていた。そんなやり取りが続いくかに思えていた。to aki お元気ですか、こうして手紙を書くなんて何年ぶりかな。 今ね、ベッドに入ったとこ、少し書きづらいけど、読めるよね。 外は、ひどい雨。もう土砂降りに近い感じ。 隣リの部屋では父上と母上がボソボソと話をしている。 ちらりと横を向けば、セキセイインコのオスギちゃんが パラパラとこぼしながらエサを食べてる最中といった 私のまわりの景色です。どうですか想像つきますか・・・・・・?。 東京駅で困らせてごめんね。泣いたりしてごめんね。 私は女だから、泣いたっていいけど、あなたは男だもんね。 そんな事何も考えられなかったの、あの時。 でも、扉が閉まる時、つらそうにゆがんだあなたの顔は 今まで一度も見たこ事ない顔だった。今でも覚えている。 私ね、あの時言えなかった。たくさんの事言いたくて手紙 書こうと思ったの。嘘じゃないからね。本当だからね。 まず初めは、今から思えば良くも悪くも、23年の私の 人生の中で、あなたが一番最高のパートナーだった事。 だって、ほんの数か月しか一緒に居なかったのに、誰よりも 深い、長いつきあいしてたように思うし、東京に住んでいた中で あれが私の青春だって胸張って言えるもの。 ただ長くつき合っても、それだけでは何もないと思うし。 私をオンナにしてくれたのも、(といってもまだ未発達だけど) あなただと思っている。つらい思いも、悲しい思いも、 いろんな思いもしたし。だけどね、あなたとの日々がなければ 今の私はあり得ないんヨ。子供にだって優しくなれたし ちっとは精神的にも大人になれたしね。 だから、あなたにはありがとって言いたかったの。 でも涙でつまって言葉が出てこなくて、結局泣くしか 出来なくて・・・・。私、あなたに逢えてよかった。 あなたと愛し合えてよかった。死にたくなる程の恋ができて 嬉しかった。東京駅の、別れ間際にくれたキス、 死ぬまで忘れないから。最高のシーンだったと思う。 誰が何と言おうと。 だからさ、ちゃんとした言葉で お互いに、やっぱりもう言おうよ、サヨナラって・・・・・。 今度会う時はさ、私とミカさんと、竜とマイちゃんとで どっか食事に行こうね。だって竜と約束したんだもん。 お兄ちゃん、好きなもン食べさせてくれるヨとか言って。 私、個人的に竜一かわいいんだ。おたくもそーだろ? だからこの約束を絶対に守りたいんだわ。 おっと12時を廻っちまったので、この続きはまた明日。 とりあえず今日のところはおやすみなさい。 88.9.5(月)AM12:12 いきなり横書きで許してちょ。今日は両親も寝てるし、オスギもほとんど寝ています。 早く女つくれよ。でないと私やー何だか肩の荷が降りんわいっ。(自惚れかなあ・・?) 私もまだ片思いだけど、いつか必ずあのコと燃えるよーな恋愛をしちゃるからな。 そーそー関係ないけど。小林麻美の去年の三月に買った「GLAY」(GLEYだったかナ) すっげーいいから聞いてね。特にside-Aの三曲目の「移りゆく心」って曲が私は 最高にいいと思う。もしも聞いた事があるなら、もう一度聞いてみて欲しい一曲です。 んーコオロギがうっせーな。ま、これも秋の証だべ。いや田舎の証だな。 やい北。てめーオレよりいいオンナ探せよ。絶対だからな。それからなー そのオンナには、あんな死にたくなるよーな思いさせんなよ。解ってんだろーな。 そのかわり、私はてめーの事なんか、コロっと忘れてしまうくらいの関係を 頑張ってあのコと一歩ずつ築いていくからな。ざまーみろってんだ。 ごめん。こんなに憎たらしい事書こうと思ったんじゃないのにね。最後の最後まで 素直になれないね、私って。でもその女の人には幸せをあげて欲しいから。 もちろんあなたにも幸せになってもらいたいから・・・・・。本当だよ。だってあなたが 初めて本気で憎んだ人であり、本気で愛した人なんだもん。じゃ残りもなくなって きたし・・・・。 お酒飲み過ぎないでね。身体に充分気を付けてね。私は大丈夫だから・・・・! おやすみなさーい。 88.9.6AM1:01 from nori 僕は、見た手紙の意味を掴みかねて、読み返す事にした。しかし、何度読んでも、これが別れの手紙であることに疑いは無かった。胸が締めつけられる様な思いの中で、心の何処かでこうなると思っていた、そんな思いがかすめていた。 思えば、彼女とは恋愛感情を持ってセックスをした分けでは無く、言ってみれば行きずりの様な関係から始まっって、僕には性欲処理の対象でしか無かったはずだった。それが何時しか彼女を大事に思うようになったのには、遠距離というものが重要な要素になっていたかも知れないし、ドラマチックとも思え 展開があったからかも知れない。 一連の中には書きはしなかったが、彼女の故郷をみたいと夜中中バイクで走り彼女の田舎へ行ってみたり、彼女に会いたくて京都まで出かけた事も何度かあった。 しかし、全ては終わった。 |