「助けて」と言えなかった母親…赤ちゃん3人遺棄事件、
弁護人が語る"見えない生きづらさ"
出産した赤ちゃん3人の遺体を
自宅の押し入れに遺棄したなどとして
死体遺棄と殺人の罪に問われた母親に、今年2月、
懲役6年の判決が言い渡された。
1人目は死産後の死体遺棄、
2人目は困窮の末の殺人と死体遺棄、
3人目は自然死後の死体遺棄
という事件だった。
裁判では、
女性がホストに騙されて経済的に困窮していたことや、
事件後にADHD(注意欠如・多動症)
と診断されていたことが明らかになった。
「孤立し、追い詰められた末に起きた事件だった」。
法廷でそう訴えた女性の国選弁護人、
田中拓弁護士に弁護活動の経緯を聞いた。
(弁護士ドットコムニュース)
●発達障害の特性に周囲は気づかず
──今回、3人の子の遺体を遺棄した女性の弁護を担当されました。
彼女には発達障害の特性がありましたが、
家族にも周囲にも気づいてもらえず、
兄弟と比べて幼い頃から
「お金にだらしない」「片付けができない」
と親から評価されず、
自分だけが認められないと感じて育ってきたようでした。
また、特性とそこに由来する自己肯定感の低さから、
問題解決能力が極めて低く、
次々と男性に騙され、
唆(そそのか)されて風俗業を転々とし、
引っ越しても住民票を移さず、
コロナ禍においても
国民一律に支給された給付金の存在も知らないなど、
その場しのぎで生活しているような状況でした。
交際相手を装うホストは、彼女を騙し、
より過酷な環境で働かせ、
彼女は交際相手を喜ばせるつもりだったところが、
実際には搾取され続けていたのです。
●女性視点の必要性を感じて女性弁護士に相談
──どのように弁護活動に取り組まれたのでしょうか。
接見時、彼女は明るくよく話し、
十分コミュニケーションが取れたので、
当初は発達障害を見抜けませんでした。
しかし、女性の視点の必要性を感じ、
女性弁護士に相談したところ、
起こっている出来事の表をなぞるのではなく、
生い立ちから事件まで女性としての歩みを
丁寧に聞き取らねばならないと助言を受けました。
妊娠・出産の大変さを経験した女性からすれば、
彼女のとった行動は、
あまりにもあり得ないものだったからです。
そこで、改めてじっくりと話を聞き、
違和感が積み重なっているところへ、協力医が現れ、
精神科医師にも相談して
聞き取りや検査を実施してもらった結果、
ADHDと診断されました。
同時に社会福祉士と連携し、更生支援計画を策定しました。
これには、日弁連の
「罪に問われた障がい者等の刑事弁護等の費用に関する制度」
を活用し、
福祉的支援の立案に必要な費用を補助してもらいました。
この制度は、もともと弁護人が手弁当で足していた費用を、
弁護士会の基金で援助するものです。
本来は、このような費用は
国選制度として支出されるべきだと思います。
●責任能力に影響しない障害を軽視した裁判所
──判決は懲役6年で確定しました。
犯行に至った背景には
「発達障害」「水商売の男性による風俗業界で働く
女性に対する経済的・精神的・性的な搾取」
「コロナ禍」という三つの要因が重なっています。
コロナ禍が要因というのは、
赤ちゃん3人の中で死産等ではなく、
殺人と認定された子の事件は、
コロナ禍で対人接客業が成り立たなくなった
令和2年4月に発生しているからです。
障害特性については裁判でも訴えましたが、
裁判所は
「責任能力に影響しないレベルの障害特性」
をあまりに軽視し、
残る二つの要因には目を向けませんでした。
あくまで経緯にすぎず、
動機そのものではないというのでしょう。
こうした事情が
量刑を判断するうえで重視されないのは妥当なのか、
大きな疑問が残ります。
ただ、彼女自身は、
刑事手続きを通して自分の生きづらさやその原因に気づき、
支援を受けての再出発を想像し、
将来への希望を見出せたと感じています。
彼女は必ず生き直せると信じています。
●「助けて」を言えない人がいる現実
──社会や周囲に求めたいことはありますか?
刑事弁護をしていると、障害特性や環境の劣悪さ、
虐待や搾取に遭った被害体験などの生きづらさ
が要因であると感じることが多いです。
それが自己責任の名のもとに、
悪質な事件の犯人として罰を受ける。
「なぜ弱い人がさらに追い込まれるのか」
と思うことがよくあります。
今回の彼女のような風俗で働く人についても、
「本人が好きでやっている」
という認識の方もいるかもしれません。
しかし、実際には発達障害や精神障害
といった生きづらさを抱える人が、
周囲の食い物にされている
という側面があるかもしれない
という目線が必要だと感じます。
今回の女性は、困っていると気づきにくい、
気づいてもSOSを出せない、相談できないという方でした。
「助けて」と言えない人がいる。
その現実を社会に知ってほしいと思います。
この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。
[弁護士ドットコムニュース]
女性は裁判で懲役6年の実刑判決を言い渡され、その後確定した(弁護士ドットコムニュース撮影)
なんとも大変な人生ですね。
親や家族とすっかり疎遠となってしまったこと、
果たして親の責任は?
と残念に感じます。☄