山田維史の遊卵画廊

2007/02/07(水)13:58

リンネ分類学(附・中井英夫本)

 近代科学としての博物学・植物学の泰斗カール・リンネが生まれたのは今からちょうど300年前。生誕国スウェーデンでそれを記念するさまざまな催事がはじまったと新聞が伝えている。  カール・リンネ(Carl von Linne、ラテン語表記でCarolus Linnaeusとも。1707.5.23-1778.1.10)の名は、私にとっても植物採集に夢中だった子供時代から親しかった。ラテン語の学名が記載されている植物図鑑を開くと、リンネが命名した植物がたくさんあることに気がつく。  たとえばクローバーとしておなじみのシロツメクサの学名は、「Trifolium repens LINNAEUS」(トリフォリウム・レペンス・リンナエウス)という。これが国際的に認知されたクローバーの正式名称である。最後にLINNAEUSとあるのが、命名者の名前で、この場合はカール・リンネを指している。リンネが命名した植物に限り、この命名者表記を「L.」と略記することが国際的に認められている。それはいわば尊称なのである。  最初の「Trifolium」は、属名を表わしている。二番目の「repens」は、種の小名である。  リンネの功績というのは、この学名の「二命名法」なのである。正しくは、二命名法を考案したのはリンネより約200年前のボーアン兄弟なのであるが、リンネはそれを踏襲しつつ一層体系的にし、「学名を属名と種小名との2語のラテン語表記とする」近代的分類学の基礎をつくったのだった。この2語につづけて命名者(発見者)の名前を記す。その3語で植物の正式名称(学名)は成り立っている。  それに対して、「シロツメクサ」は「和名」である。日本における植物学上の正式名称である。植物学上のと断ったのは、場合によっては地方名があったり古代中国等から入ってきたいわゆる漢名や韓名があるからで、それらを「俗名」といっている。  シロツメクサを例にとったので、他にもいくつかリンネが命名した植物をあげてみよう。  ガマの穂でおなじみのガマ(ガマ科)は、「Typha latitolia LINNAEUS」  夏の野に小さな青い花を咲かせるツユクサ(ツユクサ科)は、「Commelina communis LINNAEUS」  ヒレアザミも、ニワヤナギも、スベリヒユも、カール・リンネが命名している。  ところでたとえばマメ科のタヌキマメの学名を見ると、次のように記されている。  「Crotalaria sessiliflora LINNAEUS form. eriantha MAKINO」  最初の3語は分る。それ以下は何を意味するのだろう。じつは同じ植物なのだが外観が異なっていることを示している。「form.」は英語のformに通じる語。最後の「MAKINO」は発見者、すなわち我が牧野富太郎博士を表わす。  ついでだから和名「ナワシロイチゴ」の学名を見ると、「Rubus parvifolius LINNAEUS var. triphyllus NAKAI」とある。  これもリンネの命名であるが、その変種をナカイが発見していることが分る。「var.」はラテン語のvarius(変種)の略語。ナカイは中井猛之進のこと。小説家、故中井英夫氏の父である。中井英夫の作品には薔薇をはじめとして、植物の影がいたるところに揺曵(ようえい)している。たしかカール・リンネの名前が登場する作品もあったと記憶する。お育ちになった環境を知ってはじめて納得できるのである。  私の手沢の植物図鑑をそばに置いて、リンネの分類法について述べてみた。私は植物図鑑を数冊所持しているが、そのうちの3册は小学1年生のときから使っている。本というものは大したものだとつくずく思う。上述のラテン語の学名は、その小学生時代の図鑑から引いた。もっとも完璧を期しているはずの『牧野新日本植物圖鑑』(北隆館刊、第27版、限定番号58923)には、不思議なことに、変種のダブル・ネームが表記されていないのである。牧野博士ご自身の発見命名した植物にしてそうなのだ。この理由について私は不明である。54年間使用してきた小さな本が記述を補完しているのである。  そうそう、植物を例にとったけれど、この二命名法は植物に限ったことではなく、人間をふくめた生物全般に適用されることを申しそえる。また、リンネの時代より科学的に進化したところは訂正されたり、先述の変種の発見のように一層厳密に細分化されて発展していることも申しそえねばならない。  リンネとは関係がないが、お名前をあげたので事のついで、私の蔵書から中井英夫氏の御署名本の書影をご覧にいれましょう。      

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