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年に3回刊行される『SPECTATOR』(スペクテイター)という、知る人ぞ知る雑誌がある。発行は有限会社エディトリアル・デパートメント(長野県長野市)、発売は幻冬社(東京)。そのNo.39が発行元より届いた。
本号は「パンクマガジン『Jam』の神話」と銘打たれている。1979年に、いわゆる自販機雑誌として出版界・読書人に、一方で驚嘆絶賛され、一方で顰蹙と批難された『Jam』を特集している。そして、じつはその『Jam』の創刊号に、私はブラックユーモア風な漫画を2ページにわたって描いていた。それが送られてきた『SPECTATOR』に再掲載されているのである。
過日、『SPECTATOR』の編集者赤田氏が電話をしてきて、再掲載の許可をもらえまいかと言った。
38年前の若描きであるので、私はいささかならず躊躇した。のみならず、私はその漫画を、当時、我家に直接訪ねて来て依頼した『Jam』の編集者美沢氏の勧めで、ペンネームで発表していた。私がペンネームで発表した唯一の作品だった。私は、赤田氏がそのペンネームから私・山田維史にたどりついたことに驚いたのだ。訊けば、私のこのホームページにその作品が掲載されていることを知ったのだという。そして、「なぜ、ペンネームにしたのですか? しかもMISAWAというペンネームは、編集者の美沢さんを連想しますが?」と言った。
私はあらためて38年前の経緯を思い出していたが、これといって確かな理由は思い出せなかった。
美沢真之助氏(故人)は、当時まだ日大芸術学部の学生だった。しかし異才と称すべき博識で、私は年下の彼を何の疑念もなく信頼し、勧められるままにMISAWAというペンネームにした。美沢氏は数度我家に足を運び、我家の夕食を一緒にしたこともあった。
『Jam』への執筆を依頼される以前から、氏との面識はあった。田中泯さんの踊りのプロジェクトに関連して、そのプロジェクトのスーパーバイザーだった松岡正剛氏の工作舎か、あるいは踊りの現場で出会い、言葉をかわしていたのだろう。
私は松岡氏の依頼で『身体気象図譜』にエッセイを書いていたので、美沢氏はむろんその文章を読んでいただろう。また、イラストレーターとして『奇想天外』や、荒俣宏氏のやっていた『幻想と怪奇』にも執筆していたので、私を知っていたのだと思う。
そうそう、思い出した。同じ頃、田中泯さんがどこか地方で踊るために車を走らせていると、田舎道でひとりの老婆とすれちがった。「山田さんの絵のお婆さんだ!」と、スタッフと盛り上がったという。それは『宝島』誌に描いたイラストレーションだった。美沢氏はスタッフとしてその車に同乗していた可能性がある。
私は、美沢氏の執筆依頼が『Jam』創刊号だというので、餞(はなむけ)のつもりで執筆を快諾したのだった。
1コマ1ページ大の2ページ分の漫画は美沢氏と相談のうえで、見開き掲載ではなく表裏ページになるようにしてもらった。冗談が表裏ページである2コマによって成立するという設計である。
同じポーズの裸女の第1ページ目の「MMM」「KKK」は「呻き声」ではあるが、次ページの爆発音としての「PUN」と組合わさると「PUNK」(ちんぴら)になる。また「PUN」という英語には「だじゃれ」という意味がある。昔の男の子たちは雨蛙の尻に麦わらを突っ込んで息を吹き込んだものだが、もちろんその悪ふざけがベースになっている漫画だ。
そして、自販機雑誌がどんな雑誌であるかなどは、じつは私には何程の問題でもなかった。というのも、当時、私は『奇想天外』の編集者から紹介されて、SM雑誌の早川氏の依頼で、2度だけだったがその口絵を描いてもいたからだ。あるいはまた、このたびの『SPECTATOR』で言及されている『冗談王』誌も読んでいた。第1ページから最終ページまで冗談に徹した日本出版界初めての雑誌は、高杉弾氏の編集だったが、高杉氏は美沢氏とともに『Jam』を編集していた。
思い出せば、いろいろなことが裏表に関わっていた。赤田氏は、「ホームページにあの絵を掲載したのはなぜですか?」と問うた。「今の私の年齢になって、すべての作品が自分の人生を作って来ているのだと思い、それを並べてみようと考えました」------そんなような意味合いの話しをした。そして、赤田氏の『SPECTATOR』についての真摯な言葉に、再掲載を許可したのだった(www.spectatorweb.com)。
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Last updated
May 30, 2017 01:47:24 PM
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