山田維史の遊卵画廊

2024/06/22(土)09:42

名優ドナルド・サザーランド氏を追悼

訃報(147)

 カナダ出身でハリウッドで活躍された俳優ドナルド・サザーランド氏が亡くなられた。享年88。  その独特の風貌は画面を一変させる力があった、と私は思っている。私がサザーランド氏を知ったのは『マッシュ(原題;M★A★S★H)』(1970年、監督ロバート・アルトマン)が最初だった。当時私は内的に苦悩してほとんど自暴自棄になっていた。イラストレイターとして自立できるかどうか全く分からずにいた。じつは映画『M★A★S★H』に惹き付けられたのは、まずそのポスター・デザインだった。裸の脚を大きく開いて後ろ向きに立つ女の上半身がいわゆるピース・サインのVの字の指に変わっていて、その指に米軍の戦闘用ヘルメットが被せられていた。要するに女の開いた裸の脚と指のVサインが結合して、全体でXの形になっているのである。そして、映画を観た後になって分かったのだが、原題の三つの星は、主人公である3人の軍医を象徴していた。その一人が、もちろんドナルド・サザーランド氏であった。  このポスターに私が惹きつけらたのは、そのデザインの大胆さであったが、映画のストーリーとともにそのブラック・コメディとしての作風、軍隊内でのセックス・スキャンダル等々すべてが象徴的にイメージ化されていたことだった。ごった煮を論理的に統一するイメージ・・・それこそが私が追求したいと思いながら技術的ないとぐちが掴めないで悩んでいたことだった。いや、このポスターと映画そのものに惹きつけられたのは、告白してしまえば、・・・いや、やめておこう。  『M★A★S★H』は、朝鮮戦争(1950年開戦)における米軍の軍隊内が舞台のストーリーだ。1950年、私は5歳。北海道羽幌町に住んでいたときで、じつは私は米軍の落下傘部隊と言っていた部隊のパラシュート降下訓練を見ていた。たぶん、訓練だったのだと思う。北海道の広大な林野を利用しての・・・。あのときから74年後の現在でも、ぼんやりながら影像が目に浮かぶ。私が空を見上げていた場所は、裁判所の近くの深い井戸のような水路のあたりだったように思う。私はその井戸の底から小さな透明なエビが這い上がってくるのを見るのがおもしろかったのだ。たくさんのパラシュートが降ってきた。おとな達も見ていた。迷彩色の軍服の兵士がぶら下がっているのが豆粒のように見えた。  『普通の人々』(1980年、監督ロバート・レッドフォード)。この映画の原題から私は、「普通の人々」を英語で「ordinary people」と言うことを知った。知ってしまえば、特別どうということもない「普通の言葉」であるが、すくなくとも私自身は日常的に「普通の人々」などと言ったことがない。もし言っていたとしたなら、たぶん、「普通の人々」って何だ?、「普通でない人々」って存在するのか? と大いに考えたことだろう。この映画で「ordinary people」という表現を覚えて後、随分長い年月が経ってから、私はただ一度この言葉を使ったことがある。ある国の大使とお話ししていたときだった。詳しくは述べないが、このとき私はたしかに「ordinary people」と言った。  なんだかドナルド・サザーランド氏から離れてしまった。いいわけがましいが、上述の件をふくめて、私は、ドナルド・サザーランド氏の存在感によって幅広い役柄で出演された映画からいろいろなことを印象付けられていることに、いまさらながら気づくのである。  名優ドナルド・サザーランド氏を追悼いたします。

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