スティーブ・ジョブズと禅と荘子 その3。スティーブ・ジョブズが亡くなりました。いい人生だったのではないかと思います。 -------(以下引用)--------------------------------- ジョブズ氏の革新に影響を与えた思想とは―― 日本の禅僧と長年の交流 2011.10.07 Fri posted at: 12:27 JST (CNN) 5日に死去した米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏が手掛けた製品は、パーソナルコンピューターの「マッキントッシュ」から多機能携帯端末「iPad」に至るまで、ミニマリスト的デザインとシンプルな操作性が特徴だった。 ジョブズ氏のこうした革新的なデザインには、禅の影響があるのではないかと指摘する声もある。 ジョブズ氏は若いころインドに旅して仏教に触れ、1970年代にカリフォルニア州の禅センターに通って、日本出身の禅僧、故・乙川弘文氏と交流を深めたといわれる。 乙川氏はジョブズ氏の結婚式を司り、86年にジョブズ氏がアップルのCEOを解任されて設立した「ネクスト」の宗教指導者にも任命されるなど、2人の交流は長年にわたって続いた。 ジョブズ氏がスタンフォード大学で2005年に行った有名な講演をはじめ、同氏の発言の中には禅の自力本願の思想が反映されている。講演でジョブズ氏はこう語った。「過去33年間、私は毎朝鏡の中の自分に向かって『もし今日が自分の人生最後の日だったら、今日やろうとしていることをやりたいと思うだろうか』と問い掛ける。そして答えが「ノー」の日が続いたら、何かを変えなければいけないと思う。自分はいつか死ぬと思い続けることは、私が知る限り、何かを失うかもしれないという思考のわなに陥るのを防ぐ最善の方法だ」。 ジョブズ氏と乙川氏との交流は、フォーブズから近く出版される劇画小説「The Zen of Steve Jobs(スティーブ・ジョブズの禅)」に描かれている。 ---------------------------------(引用終わり)----- 参照:.ジョブズ氏の革新に影響を与えた思想とは―― 日本の禅僧と長年の交流 http://www.cnn.co.jp/fringe/30004202.html ・・・一応、CNNが言い出したので、記録。 参照:当ブログ スティーブ・ジョブズと禅と荘子。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5010 当ブログ スティーブ・ジョブズと禅と荘子 その2。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5077 逆説的ではありますが、ジョブズが「テクノロジー」に対して批判的な意見を述べるときに、禅者としての彼を見ます。荘子のいう「機心」ですね。 参照:iPad2 CM 日本語版 http://www.youtube.com/watch?v=0DmzFoI-hms 参照:ハイゼンベルクの機心。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5099 「素朴」対「機心」。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5079 ジョブズが禅に触れるきっかけになったのは、やはり鈴木大拙のもたらした禅ブーム、そしてビートニク、ビートジェネレーションと言われる現象でしょう。 参照:A ZEN LIFE - D.T. Suzuki (Excerpt) http://www.youtube.com/watch?v=RVp9i4QIUUU ≪近ごろアメリカにビートニックの一人として、統領株の者に四十ばかりの男が出た。ギンズベルグという詩人である。自分も一遍会ったことがある。日本的に俳句式の英詩を作る。先月、かの『ライフ』誌を見ると、髭も髪も生え次第にして、無茶苦茶風采で、米国中を漂浪して歩く。カンサス州では大もてにせられておるとのこと。この人の理想はシナ唐代の詩人、寒山・拾得の風を慕い倣うことである。これら千年前の詩人生活を米国化し、近代化したものといってよい。破れ袈裟を風の吹くままにして、山奥に住んだという自由人・寒山・拾得を今に写したギンズベルグ氏は誠に近来の破天荒漢である。≫(鈴木大拙著『東洋的な見方』より) ・・・鈴木大拙が言う、「ギンズベルグ」というのはビート・ジェネレーションの火付け役、アレン・ギンズバーグです。 『Subterranean Homesick Blues』で、ディランの後ろにおる人ですよ。ギンズバーグはインドを放浪して、50年代に参禅し、京都と東京の急行の中で悟ったと証言しています。 参照:Wikipedia Allen Ginsberg http://en.wikipedia.org/wiki/Allen_Ginsberg 最近「ボブ・ディランは禅マスターではないか?(Bob Dylan, a Zen Master?)」という本も出ましたが、あの当時、どれほどの日本人がディランの歌詞の中に東洋的な要素を見出していたかは不明です。 参照:Bob Dylan - Subterranean Homesick Blues http://www.metacafe.com/watch/sy-187835137/bob_dylan_subterranean_homesick_blues_official_music_video/ 参照:"The Times They A-Changin" - Bob Dylan http://www.youtube.com/watch?v=9vou4qUu5YY ・・・こういうのとか、諸行無常の盛者必衰やないですか? ただ、ディランの場合には仏教としての禅が強く、荘子からの引用はあまり見られません。同時代のアーティストで歌詞の中に中国の古典からの引用が多いのは、ビートルズ、特にジョン・レノンの場合には老荘→禅ルートが見られます。ジョブズはビートルマニアでもあるので、さらに老荘っぽくなってしまうわけです。 参照:無何有の郷と"Nowhereman”。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5059 ユングが1930年代に、禅や老荘思想を見出したことも大きな下地になっていますが、爆発的な流行となったのは1960年代以降でしょう。 参照:ユングと鈴木大拙。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5095 ・・・難しく考える必要はなくて、 >自分が死と隣り合わせにあることを忘れずに思うこと。これは私がこれまで人生を左右する重大な選択を迫られた時には常に、決断を下す最も大きな手掛かりとなってくれました。何故なら、ありとあらゆる物事はほとんど全て…外部からの期待の全て、己のプライドの全て、屈辱や挫折に対する恐怖の全て…こういったものは我々が死んだ瞬間に全て、きれいサッパリ消え去っていく以外ないものだからです。そして後に残されるのは本当に大事なことだけ。自分もいつかは死ぬ。そのことを思い起こせば自分が何か失ってしまうんじゃないかという思考の落とし穴は回避できるし、これは私の知る限り最善の防御策です。 >君たちはもう素っ裸なんです。自分の心の赴くまま生きてならない理由など、何一つない。 ジョブズの言葉と、 >あなたは勝つ方法ばかり知りたがって、負け方を学ぼうとしません。でも負け方を知り、死に方を知ったとき、初めて怖いものがなくなる。 だから明日になったら、あなたは勝とうなどという野心を捨てて、どうして死ぬかを考えるのです。 参照:水になるんです。 http://www.youtube.com/watch?v=aTFd4GDKr5I ブルース・リーの言葉がなぜ一致するのか。それは、原典が同じだからでしょう。勝ち負けの方法や確率を考えて思い悩むことなく、どんな人間にも、100パーセントの確率でやってくる死を見つめるということの重要性を説くのは、禅か老荘のどちらかです。 『スター・ウォーズ』のマスター・ヨーダの登場シーンなんて、"Stay hungry, Stay foolish."そのものです。 参照:Luke meets Yoda http://www.youtube.com/watch?v=BtfejKs_mI4 ジョージ・ルーカスと東洋思想。 http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5097 『知其愚者、非大愚也。知其惑者、非大惑也。大惑者、終身不解。大愚者、終身不靈。』(『荘子』天地 第十二) →己の愚かさを知るのならそれは大愚とはならない。己の惑いを知るのならそれは大惑とはならない。大惑とは死ぬまで迷い続けることであり、大愚とは死ぬまで知恵を得られないことだ。 『荘子』の大愚というのは、良寛の号でもあります。良寛は『荘子』を一生手放さなかった人ですよ。 参照:Wikipedia 良寛 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%89%AF%E5%AF%9B 参照:アップル(Apple)CM クレイジーな人たちがいる http://www.youtube.com/watch?v=jIStLfVfwNg "Stay hungry, Stay foolish."というのは、そういう意味でしょ。 今日はこの辺で。 |