3271729 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

人生朝露

人生朝露

瞑想と煉丹、瞑想と練金。

荘子です。
荘子です。

参照:『黄金の華の秘密』と『夜船閑話』。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005146/
前回の続き。

リヒャルト・ヴィルヘルム( Richard Wilhelm 1873~1930)。
『黄金の華の秘密』の翻訳者のリヒャルト・ヴィルヘルム(Richard Wilhelm 1873~1930)という人は、1899年から、「統合福音派海外伝道教会」という組織から当時ドイツの租借地になっていた青島(チンタオ)に派遣された宣教師です。三国干渉、義和団事件、日露戦争、辛亥革命、第一次世界大戦(日本による青島占領)等々、激動の時代の中国で精力的に翻訳活動を行いまして、ドイツのディーデリヒス社という出版社から、1910年の『論語』を皮切りに『中庸』『老子』『荘子』『列子』『易経』『書経』『孟子』『墨子』『韓非子』『呂子春秋』『孔子家語』等々の書物が刊行されています。

フランツ・カフカ(Franz Kafka 1883~1924)。
フランツ・カフカは、10巻を予定されていたヴィルヘルムの全集のうち、5巻を所有していました。

参照:カフカと荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5106/

『黄金の華の秘密』(ユング・ヴィルヘルム共著)
≪本書は、金丹教の教義について最も良い説明を与えてくれる。その教義は、呂厳(呂洞賓すなわち呂という洞窟の賓客)に帰されている。この書のなかでは、彼は開祖の呂、すなわち「呂祖師」と呼ばれている。彼は西暦755年に生れ、八世紀の終わりから九世紀のはじめにかけて生きた。彼の言葉には、後代にいろいろな注釈がつけ加えられたが、それは同じような伝承にもとづいている。
 呂は、その秘教的(エソテリック)な秘密の教義をどこから手に入れたのであろうか。彼自身はその起源を関尹喜、関尹子(関所、つまり函谷関いた尹喜という名の師)に帰している。伝説によると老子は彼のために道徳経を書き下したとわれている。実際、本書の体系の中には、道徳経の中に秘密の形で隠されている神秘的な教義に由来する多くの考えが見いだされる。たとえば本書に見える「谷の中の神々」は、老子の言う「谷神」と同じものである。しかし道教は、漢代〔前三世紀~後三世紀〕に至って、次第に浅薄な魔術にまで堕落していった。宮廷に仕える方士たちが、錬金術〔錬丹〕によって金丹つまり黄金の仙薬(賢者の石)を得ようとしたからである。この術は、卑金属から金をつくり出し、人間を肉体的に不死にするものと信じられていた。呂厳の運動はこれに対して改革をとなえたのである。彼の教えでは、錬金術的な用語は、心理的過程を象徴する言葉になった。この点で彼は、老子の本来の考え方にふたたび近づいている。ただし老子は全くの自由な思想家だったので、彼の後継者である荘子はしばしば、ヨーガ修行、自然的〔信仰〕治療者、練丹術士のあらゆる奇術をあざけっている---そのくせ彼自身は瞑想の訓練を行い、それによって〔神秘的〕合一の直感を得、それを、後になって知的に発展させた理論体系の基本にしているのである。呂厳には確乎たる信仰、宗教的な傾向があり、しれが仏教の刺激を受けた生まれたものであって、あらゆる外的事物は幻影であるという確信を彼に与えている。ただし、その考え方は明らかに仏教とは区別される。彼はあらゆる努力によって、現象の経過の中に静止している極を求める。そこでは達人に対して永遠の生命が与えられるのであるが、このような考え方はあらゆる実体的自我をも否定する仏教の考え方とは全く違っている。(以上『黄金の華の秘密』ヴィルヘルムの解説 湯浅泰雄・定方昭夫訳より)≫

・・・「老・荘・列」に加えて『易経』も翻訳した後なので、ヴィルヘルムの解説は、当時の西洋人の道教についての理解の水準とは別次元です。

Zhuangzi
『靜然可以補病、眥?可以休老、寧可以止遽。雖然、若是、勞者之務也、非佚者之所未嘗過而問焉。』(『荘子』外物 第二十六)
→安静にしていれば、病を癒す効果がある。目の周りを按摩するのは老化を阻む効果がある。ゆったりと呼吸を整えるのは、緊張を和らげる効果がある。しかし、そういったものは安定した精神を保ち得ない者のすることで、ある境地に立ち得た者には何ら興味を引かない行いとなる。

・・・ヴィルヘルムが記している「荘子がヨーガを嘲って」いるというのは、こういうところです。

Zhuangzi
『語大功、立大名、禮君臣、正上下、為治而已矣、此朝廷之士、尊主強國之人、致功并兼者之所好也。就藪澤、處閑曠、釣魚閑處、無為而已矣、此江海之士、避世之人、間暇者之所好也。吹呴呼吸、吐故納新、熊經鳥申、為壽而已矣、此道引之士、養形之人、彭祖壽考者之所好也。』(『荘子』刻意 第十五)
→功を語り、名を立て、君臣の礼を説いて天下を治めることに専心する。これは、朝廷に仕え、主君を尊び、強国にしようと志す人、他国を併呑して天下を治めようとする人の好むところである。片田舎の雄大な沢で、のんびりと釣りを楽しむことに専心する。これは、江海の人、世捨て人、仕事もない暇な人の好むところである。冷たい空気を吸って古い空気を吐き出し、熊が木にぶらさがるような、鳥が飛び立つような伸びをして運動に専心する。これは、導引の人、養生をする人、彭祖のように長生きをしたい人の好むところである。

最後に「道引(導引)」という言葉があります。

馬王堆の「導引図」。

馬王堆の「導引図」復元版。
荘子の時代から2世紀ほど経った漢代初期、紀元前2世紀ごろに建築された馬王堆(まおうたい)という墳墓があります。最近そのお墓から貴重な「導引」の図が出土しました。いわゆる呼吸法と身体技法を基調としたヨーガの図です。『荘子』にも記録のある、長寿と健康のための、優に2000年を超える歴史をもつ技法です。

参照:Wikipedia 馬王堆漢墓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%AC%E7%8E%8B%E5%A0%86%E6%BC%A2%E5%A2%93

参照:荘子のいるらしき場所 その2。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/005122/

丹。
現代の日本語では金丹教の「丹」という漢字には、仁丹とか万金丹とかいう「薬」を示す用法と、丹田という場合の「気のめぐる場所」の用法があります。しかし、もっと古い使われ方は『魏志倭人伝』にもすでに使用されている「辰砂」。平たく言えば天然の水銀化合物としての「丹」です。いわゆる煉丹術における「丹」です。

参照:Wikipedia 辰砂
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%B0%E7%A0%82

Wikiipedia 煉丹術
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8C%AC%E4%B8%B9%E8%A1%93

辰砂は、古くから染料としての使われています。錬金術などでは、金と混ざってアマルガム(合金)を作り出せるという性質から重要視されるものですが、中国の煉丹の場合には、金と同じように「空気中では錆びない」という性質も重要です。これは、湿度の高さや、青銅器文明が長かったせいもあるんでしょうが、水銀が「防錆剤」や「防腐剤」として利用されてきた金属であるがゆえに、水銀を服用することで「身体の劣化を防ぐ」と連想しやすいわけです。現代の日本でも「活性酸素から身を守って若さを維持する」とかいう志向がありますね。前掲の馬王堆で眠っていた紀元前の遺体にも、体内に大量の水銀が注入されていまして、それだけに腐らないし弾力があるわけです。漢の時代の『抱朴子』あたりから、鉱物や金属を合成して「仙丹」をつくり出し、永遠の命を獲得しようとする流れが見られます。源流である『老子』や『荘子』にはあまり関係ありませんが、これも道教です。

参照:
https://www.youtube.com/watch?v=84acg24lss8

『夜船閑話』 白隠禅師法語全集4  芳澤勝弘著
前回やった白隠禅師の『夜船閑話』で白幽という仙人が「前賢曰く、丹は丹田なり、液は肺液なり、肺液を以て丹田に還す、是の故に金液還丹といふ。」と言っています。この「金液」というのが金が水銀に混ざった状態(アマルガム)を指します。

『太乙金華宗旨』。
『黄金の華の秘密(太乙金華宗旨)』の一つの特徴は、「瞑想の書物」であると同時に「錬金術の要素」があるというところで、いわば人体を大きな「炉」ととらえているところに特徴があります。

C・G・ユング(1875~1961)。
≪始まりにおいては、すべてのものはまだ一つであるが、この始まりはまた究極の目標としてもあらわれるものである。始めそれは、海の底、つまり無意識の暗黒の中に横たわっている。〔瞑想によって感得される〕見えざる身体の内部においては、意識と生命(あるいは本性と生命すなわち「性」Singと「命」Ming)とはまだ一体であって〔二物相融合して一を為す〕、両者は「精錬炉のなかの火花のように、分かちがたく混じり合っている。」〔融々郁々たること、炉中の火種に似たり。〕「みえざる身体の中には君主の火がある〔それ竅の中に君火あり。〕あらゆる賢者は、その仕事を見えざる身体で始めた」〔凡て聖は、此に由って起こる。〕火との類似が注意をひく。私はヨーロッパ人が描いたマンダラ図形のシリーズを知っているが、そこでは、さやにつつまれた植物のようなものが水中に浮かんでおり、深みから火が胚芽をつらぬいてそれを成長させ、胚葉から伸び出た大きな黄金の華を咲き出させている。
 このような象徴的表現は、精錬と精製という一種の錬金術的過程と関係している。暗黒が光を生み、「水の領域の鉛」〔水郷の鉛〕から貴重な黄金が育ち、無意識の力は生命の過程および成長の過程という形をとって、意識にまでのぼるのである。(前記『黄金の華の秘密』ユングの解説より)≫

今日はこの辺で。


© Rakuten Group, Inc.