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ジェイ!マヒシュマティ!
先週DVDと映画館で『バーフバリ』2部作を観賞いたしました。 というわけで、『バーフバリ』と神話について。 今回は一作目の『バーフバリ 伝説誕生』を中心に。 『バーフバリ』は、インドにあったという架空の国家・マヒシュマティ王国で繰り広げられる、親子三代を中心とした壮大な叙事詩的娯楽映画です。監督・脚本は、インド南部カルナータカ州出身の、S.S.ラージャマウリ。 参照:Wikipedia バーフバリ 伝説誕生 https://ja.wikipedia.org/wiki/バーフバリ_伝説誕生 S.S.ラージャマウリ監督本人がインタビューの中で答えていますが、『バーフバリ』は、『ラーマーヤナ』と並ぶインドの二大叙事詩『マハーバーラタ』の影響が大きな作品です。シヴァやカーリーやガネーシャ、ヤーヴァナといったヒンドゥーを代表する神々が登場するだけでなく、脚本やキャラクターの設定にも『マハーバーラタ』を想起させるものがよく見られます。たとえば、主人公のシブドゥが生まれて川に流されるとか、その後兄弟ともいうべき存在と争うなどは、大英雄アルジュナの宿敵・カルナの人生に近い。 参照:Wikipedia カルナ https://ja.wikipedia.org/wiki/カルナ Wikipedia マハーバーラタ https://ja.wikipedia.org/wiki/マハーバーラタ ❝──「マハーバーラタ」の影響についてお聞かせください。 監督:私はいつもインド神話の数々に魅かれてきましたし、私自身も私の作品も当然、その影響を大きく受けています。『バーフバリ』2部作の登場人物の多くは、「マハーバーラタ」の何人かの登場人物の性格や特徴を受け継いでいます。私のすべての作品だけでなく、実際問題、インド人のほとんどが神話の影響を受けています。❞ 『バーフバリ 王の凱旋』S.S.ラージャマウリ監督インタビュー http://www.moviecollection.jp/interview_new/detail.html?id=757&p=1 ・・・ただし、実際に作品を見てみると、『バーフバリ』は、同じ古代を題材にしたインド以外の物語(特に映像作品)からの影響もはっきりと見て取れます。 ❝──『バーフバリ』2部作を見ると、『十戒』、『ベン・ハー』、『クレオパトラ』、『グラディエーター』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『300 〈スリーハンドレッド〉』といったハリウッドの歴史超大作の数々が次々とを思い浮かびます。あなたはそれらの映画を意識し、それを超えようと意図しましたか? 監督:『バーフバリ』は古代の王族と彼らの闘いの物語です。そしてそれらのハリウッド映画もそうです。そのため、キャラクター設定や衣装、そしてそこで繰り広げられる感情などは、まったく違う国の違う物語にもかかわらず、どうしても似てしまいがちです。それは、こうした物語が普遍的で万国共通のテーマを持っていることに他ならないからだと思います。 私が『バーフバリ』を製作した理由のひとつは、この物語がそうした世界規準の物語だったからです。 (前掲『バーフバリ 王の凱旋』S.S.ラージャマウリ監督インタビュー』より)❞ たとえば、シヴドゥの出生や、アマレンドラ・バーフバリとバラーラデーヴァとの関係は、『十戒』におけるモーゼとラムセスの関係に符合しますし、 戦車戦や物語の展開は『ベン・ハー』の影響が強く、戦闘シーンや盾の使い方は『300』『ヘラクレス』などです。インドのように見えて実際にはギリシャやローマなど、他の地域を舞台にした映画のオマージュが多いです。 同じアジアの作品でいうと、盾を使った陣形や火刑による戦術には『Red cliff』の影響が見られます。王道と覇道との対立軸などは、『三国志演義』の劉備と曹操、『史記』の劉邦と項羽の図式と一致します。他にも、二人の主君に仕えながらその双方に対して忠節をを守り、元主君の妻をかばう最強の剣士・カッタッパのキャラクター設定なども『三国志演義』の関羽を思わせますし、母親思いのバーフバリの行動などとも相俟って忠孝の精神を鼓舞している作品とも言えます。デーヴァセーナが不自然な場所で薪を集めたりするのは「臥薪嘗胆」の故事に通じるところがありますし、バラーラデーヴァによる行為にも「死屍に鞭打つ」シーンがあったりと(それぞれ奇抜な方法で恨みを晴らそうとする行為)、古代インドよりも、むしろ古代中国の歴史にも通じるものもあります。 あと、ラージャマウリ監督は、その着想においてコミックやアニメの影響が強いです。奇抜な発想や、荒唐無稽とも見える構図などが、『バーフバリ』の神話的な世界の非現実性をより効果的に演出していますが、これは、漫画やアニメの表現を実写にそのまま取り入れているのも原因でしょう。監督がはっきりと「お気に入り」としている『ライオンキング』は脚本にもその影響が見られますし、ほかにも『ムーラン』、『美女と野獣』、『アラジン』などのディズニーアニメの構図も取り入れているフシがあります。後はドリームワークスの『プリンス・オブ・エジプト』。それと、これはあくまでも推測ですが、日本のアニメでは『ナウシカ』はあってもおかしくないと思います。 参照:Carmen Twillie, Lebo M. - The Lion King - Circle Of Life https://www.youtube.com/watch?v=GibiNy4d4gc Mulan - The Avalanche - Flemish HD https://youtu.be/jyq-9eX1eA4?t=1m10sしかし、そういったインド内外からの夥しい数のオマージュを差し引いても、『バーフバリ 伝説誕生』には、なお不思議な魅力が残ります。たとえば、もう一度赤ん坊が川に流されるシーン。前述のように、『マハーバーラタ』のカルナや、『旧約聖書』のモーゼは、産まれて間もなく川に流され、川下で拾われて養われます。他にも、ギリシャ神話のペルセウス、日本における桃太郎の物語も同じ部類に属するでしょう。最近でいうと、去年発売の『ドラゴンクエストⅪ』の主人公もそうでしたし、今年観た大陸のアニメ『西遊記』(原題は『大聖帰来』)でも赤ん坊が川に流されて、見ず知らずの人物に育てられます。「川に流される赤子」というのは、世界中の神話や伝説に登場する、英雄の出生の共通のモチーフです。『バーフバリ』には、『マハーバーラタ』のみならず、こういった世界中の神話に通じるモチーフのを意図的に配置した形跡があります。 他にも、ストーリーの骨組みついては、昨年完結した『アルスラーン戦記』で、インドをモデルにしたシンドゥラ国の王子様二人が王位めぐって骨肉の争いを繰り広げ、父王が審判を下すという、非常によく似たお話があります。そもそも『アルスラーン戦記』も『バーフバリ』と同じように、貴種流離譚に分類される普遍的なモチーフを共有しています。 参照:Wikipedia 貴種流離譚 https://ja.wikipedia.org/wiki/貴種流離譚 こういった世界中の神話を通して、英雄の神話にみられる共通項ついての研究を、アメリカの比較神話学者ジョゼフ・キャンベルは1949年に『千の顔を持つ英雄(The Hero with a Thousand Faces) 』という書物にまとめました。アメリカの学者さんですが、東洋思想に造詣の深い人物ですし、当然、ヒンドゥーの神話の引用も多いので、『バーフバリ』の世界観とも馴染みやすいです。 この『千の顔を持つ英雄(The Hero with a Thousand Faces) 』(1949)において、ジョセフ・キャンベルは' hero's journey(英雄の旅)'という、世界の英雄の神話に共通してみられるパターンを説明しています。箇条書きにすると以下の通りです。 Ⅰ.出立(Departure) 1 冒険への召命(The call to adventure) 2 召命拒否(Refusal of the call) 3 自然を超越した力の助け(Supernatural aid) 4 最初の境界を超える(Crossing the threshold) 5 クジラの腹の中(Belly of the whale) Ⅱ. イニシエーション(Initiation) 6 試練の道(The road of trials) 7 女神との遭遇(The meeting with the goddess) 8 誘惑する女(Woman as temptress) 9 父親との一体化(Atonement with the father) 10 神格化(Apotheosis) 11 究極の恵み(The ultimate boon) Ⅲ.帰還(Return) 12 帰還の拒絶(Refusal of the return) 13 魔術による逃走(The magic flight) 14 外からの救出(Rescue from without) 15 帰還の境界越え(The crossing of the return threshold) 16 二つの世界の導師(Master of two worlds) 17 生きる自由(Freedom to live) 上記「英雄の旅」のうちの「Ⅱ.イニシエーション」の部分は、『バーフバリ 伝説誕生』の展開のまんまです。 参照:『バーフバリ伝説誕生』ダイジェスト映像 https://www.youtube.com/watch?v=5MCIeIj6jeM このパターンは『スター・ウォーズ・シリーズ』への影響が有名ですが、他にも『ライオンキング』、『マトリックス』、『指輪物語』の映画版や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でも活用されています。S.S.ラージャマウリ監督のいう「普遍的で万国共通のテーマ」というのは、まさにこの「英雄の旅」にみられる共通性であり、その王道のど真ん中を踏みしめるバーフバリの歩みであるともいえるでしょう。 参照:What makes a hero? - Matthew Winkler https://www.youtube.com/watch?v=Hhk4N9A0oCA The Hero's Journey and the Monomyth: Crash Course World Mythology #25 https://www.youtube.com/watch?v=XevCvCLdKCU ちなみに、神話ではないですが、幼馴染と共に明治維新を成し遂げたにもかかわらず、その後逆賊として扱われる西郷隆盛も、アマレンドラ・バーフバリの生涯によく似ていまして、彼もまた神話的な英雄であると言えるかも知れません。 後で推敲します。 今日はこの辺で。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.05.04 10:25:18
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