耳（ミミ）とチャッピの布団

「リベルタンゴ（Libertango）」ってアストル・ピアソラ作曲のタンゴの名曲、私の大好物です。
でもこの曲はピアソラが、独裁政治で自分の反対派を強制収容所送りにした、フアン・ペロンが大統領に再選されるようなアルゼンチンの世情に嫌気さして、イタリアで演奏活動していたときの作品なんですね。
ピアソラはモダンタンゴの奇才です。
もともとアルゼンチンでイタリア移民３世の子として生まれましたが、４歳のときにはニューヨークに一家が移住してしまいました。
そのころはタンゴにもあまり興味がなかった。

ところが、アルゼンチンに再度移住後、ラジオで先鋭タンゴ「エルビーノ・バルダーロ楽団」に感動して初めてタンゴの魅力にとりつかれます。
そして当時最先端だったトロイロ楽団に参加し、バンドネオン奏者として徐々に頭角を表すようになるのです。
ちなみにバンドネオンは、外見こそアコーディオンに似ていますが、アコーディオンが蛇腹の押し引きを左手だけで行うのに対して、バンドネオンは左右の両手で蛇腹の押し引きを行います。
そのため楽器のサイズのわりに大音量を出すことが可能で、鋭い明快なスタッカートなど音のメリハリもつけやすい楽器です。
ピアソラはこれまでのクラシックなタンゴに飽きたらず、タンゴを元にクラシックやジャズの要素を融合させた独自の演奏形態を産み出しました。
「リベルタンゴ」はテリー・ギリアムが監督し、ブラッド・ピットのすさまじい演技で有名な１９９５年のＳＦ映画「１２モンキーズ」でテーマ曲として使われて以来、日本でも有名になりましたね。
ピアソラは映画のサウンドトラックとして作った曲も多いですが、特に１９７６年に制作された「サンチャゴに雨が降る」は有名です。
この映画はサルバドール・アジェンデ大統領当選から、アメリカ政府の支援の下に、ピノチェト将軍の指揮する軍部が武力で覆したチリ・クーデター、そして各地の市街戦を描いた問題作です。
「リベルタンゴ」はピアソラ自身はもとより、さまざまなミュージッシャンによって演奏されてます。
私の大好きなジャズ・ヴァイオリニスト、寺井尚子さんも演奏会でたびたび演奏してるし、有名なチェロ奏者ヨーヨー・マがチェロで弾いた録音はサントリーローヤルのＣＭに採用されました。
リベルタンゴ（Libertango）という単語は、「自由（libertad）」と「タンゴ（tango）」を合わせたピアソラの造語です。
そんな数多くの演奏のなかで、私としては完璧と云う演奏を見つけました。
クロアチア出身のチェロ奏者ステファン・ハウザーと、ラトビア出身のロシア系クラシック・アコーディオン奏者クセーニャ・シドロワによる演奏です。

ステファン・ハウザーは「２チェロズ・スリック・アンド・ハウザー」と云う男性のチェロ・デュオで有名ですね。
２０１８年には日本武道館公演も開催してます。
アマチュアのときマイケル・ジャクソンの「スムーズ・クリミナル」演奏動画をＳＮＳに投稿したのが爆発的な再生回数を記録してプロになった経歴があります。
そんなステファン・ハウザーとクセーニャ・シドロワの「リベルタンゴ」がピッタシ私の琴線に触れてしまいました。
これは感動ものの演奏です。
お聞きいただけますか？

Hauser & Ksenija Sidorova - Libertango
ネ！なかなかにいいでしょう。
って、押し売りはイケマセンわなぁ（笑）

アストル・ピアソラは、１９９０年パリの自宅で脳溢血で倒れて闘病生活に入ります。
その後、大統領専用機でアルゼンチンに帰国。
１９９２年ブエノスアイレスの病院で死去しました。
享年７１歳。

ピアソラの生涯を綴った「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」と云うドキュメンタリー映画があります。
ただ、この作品はピアソラの息子、ダニエル・ピアソラの提案により創られたので、映画の視点も自然ダニエル寄りのものになっていて、ピアソラをよく知らないと退屈な映画になってしまいます。

「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」予告編