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テーマ:猫のいる生活(135591)
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きのうのラグビーワールドカップ決勝戦、イングランド対南アフリカ戦。
まさかまさかのイングランドの戦いぶり。 って云うか南アフリカの圧力がすさまじかった。 しかし、終わってみれば素晴らしい試合でしたね。 さて映画史における最も偉大で影響力のある映画製作者スタンリー・キューブリック監督が彼自身唯一の「伝記的」な様式を持つ映画として1975年に発表した「バリーリンドン」。 バリー・リンドンは、サッカレーの原作をもとに18世紀を生きた、ある男の栄光と没落を描いたものですが、キューブリックが意図したのは、その「物語性」よりも18世紀そのものをいかに忠実に再現するかでした。 とても長い映画です。 上映時間は185分! 主演は「ある愛の詩」で有名なライアン・オニール。 娘のテータム・オニールが史上最年少でアカデミー助演女優賞を受賞した「ペーパー・ムーン」の2年後にこの映画に出演してます。 この映画のすさまじさは、衣裳から光線まで、葉のそよぎ、川のさざなみまで支配してしまったことです。 完全なるニセモノ、人工風景を作りだしてしまったのです。 この作品も他の映像美系映画と同じく、静止画で切り取ると絵画がたくさん出来そうなのですが、明らかに他と違う点があります。 たいていの場合、絵画になりそうな映像美作品というのは、人工的に照明で光を作りまくったり、画面の色調を無理やりいじくったり、輪郭をぼやかしてロマンチックにしたりして、絵画っぽい雰囲気を出すものが多いですね。 人工風景と云いながら、野外では太陽の光のみ、屋内ではろうそくの光のみと、自然光のみで撮ったと云います。 だから映像美系作品特有の浮世離れした絵ではなく、人間の目で見るのと同じような色彩でそのまま映像化されているのです。 アイルランドとイングランドで撮影された風景にはコンスタブルなど18世紀風景画が参考にされ、まさに泰西名画的なシーンの数々が作り出されています。 白眉は、ろうそくの光に映し出される白塗りの顔と"つけぼくろ"。 つけぼくろは18世紀のヨーロッパでは極めて普通に使われてて、おしろいの白さをコントラストとして際立たせるとかシミを隠すとか実用的なところから始まりました。 しかし、流行するにしたがってつけぼくろを付けてる場所によって、例えば下唇の下につけたら「慎みの意味」を表わすなどメッセージ性がでてきたのですね。 その つけぼくろのシーンとマリサ・ベレンスンが子供たちとベッドに横たわるシーンをろうそくの光のみで撮影したのです。 普通、映画でろうそくの炎のみで撮影なんてできません。 とても光量が足りない。 それでキューブリックは最も明るいとされるカール・ツァイス製「プラナー50mmF0.7」を手に入れます。 このレンズはツァイスがNASAのために開発したものです。 アポロ計画の飛行士が持たされたハッセルブラッド・カメラのために作られたものです。 マウントのみならずシャッター、絞り、バックフォーカスなど構造のあらゆる点で映画用とは相容れないものでした。 キューブリックはレンズマウントの口径が一番近かったミッチェルBNCカメラをワーナー・ブラザースのカメラ部から調達しました。 それでもなを、そのままでは使えません。 レンズの改造が必要な箇所はレンズマウントの加工にとどまらず、フォーカス機構もそのままでは使えずカメラ本体の絞りも改造が必要でした。 また広角レンズの撮影を好むキューブリックには50mm レンズの画角は狭く、バージニア州に本社を置くコルモーゲンの70mm フィルム映写機用アダプターをワイドコンバーターとして流用。 焦点距離を36.5mm 相当にしています。 レンズ絞りを開放にするとピントが外れ易くなり、正確なピントあわせが難しくなるのですが、それに加えてミッチェルBNCカメラはレンズに入った映像がファインダーで見られるレフレックスではなかったためピントあわせがとても難しい。 被写体までの距離を正確に追うため、被写体を真横からテレビカメラで写し、ピントを合わせるオペレーターのフォーカス・プラーが映像をモニターで監視しながらフォーカス操作を行ってます。 さらに視差を最小限にとどめるため、テクニカラー・カメラのファインダーも流用。 このような改造とテストに3ヶ月の期間が費やされました。 それが185分全編に渡って完成度が高い、抒情的なセンチメンタリズムを排した冷徹な写実派絵画とも云える映像が連綿と続く原動力になったのです。 キューブリックは当初、ナポレオン・ボナパルトの映画化を目論んでいたのですが予算の都合で断念し、代わって製作されたのが本作です。 結局、映画化の叶わなかったナポレオン時代の戦争に関する研究が広く活かされる事になったのですが、撮影当時は北アイルランド紛争の激しい時で、スタッフ、キャストの移動にも細心の注意をはらう必要がありました。 この映画の戦闘場面では、陣形を維持したまま行進して敵陣へ接近し、敵陣から50m ほどになった地点で停止、号令に従ってマスケット銃を敵陣に向け一斉射撃。 敵が混乱して陣形が乱れ始めたら、号令に従って銃剣を装着し、突撃する「戦列歩兵」と云う戦法が使われています。 戦列歩兵は、17~19世紀の欧州の野戦軍で主流になった歩兵の運用形態で、徴兵された一般人を、少数の専門家による比較的短い期間の訓練によって大量に戦力として養成できる利点から、広く採用された運用方式でした。 ストーリーはアイルランドの百姓のせがれだったレドモンド・バリー(ライアン・オニール)が、イングランドの上流階級へとのし上がり、そして没落してゆくまでの半生を描いた、18世紀のある人物の半生を見るようなものてす。 ヒロイン役のマリサ・ベレンスンは「ヴォーグ」や「タイム」の表紙を飾ったモデルから女優さんになった人です。 マリサの妹、ベリーは女優で写真家でもありましたが、アメリカ同時多発テロ事件のとき、ワールドトレードセンター・ツインタワー北棟に突入し爆発炎上したアメリカン航空11便に乗っていて死亡しました。 とにかくこの映画はストーリーよりも、その映像美につきます。 ときには、ただ漠然と映像美に浸る、そんな観かたもいいかも。 しかし、とにかく185分は長かった(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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