耳(ミミ)とチャッピの布団

2021/08/27(金)05:37

SGI(シリコングラフィックス)

1900年代後半のアメリカで、唯一のスーパーコンピュータメーカー「クレイ・リサーチ」と云うのがありました。 ここのコンピュータは、当時の大型コンピュータと比べても、極端に高価だったため、ごくごく少数しか売れなかったコンピュータですが、もはや伝説とも云える製品でした。 そのため、クレイのコンピュータを導入することは極めて名誉なことと云う風潮があったのですね。 それはコンピュータ先進国としてのアメリカの象徴でもあったのです。 しかし商売ですから、いくら性能がずば抜けてても売れなければお話になりません。 結局、クレイ・リサーチは「SGI」と云う業務用コンピュータのメーカーに買収されてしまいました。 1996年のことです。 クレイ・リサーチを買収したSGI(シリコングラフィックス)と云うメーカーそのものが、一筋縄でいかないとてつもないコンピュータの製造メーカーだったのです。 業務用コンピュータと云っても"グラフィックス(画像の処理・出力)"に特化したサーバーやワークステーション(荒っぽく云えばPCの高性能版)を得意とするメーカーでした。 みなさんは3D CGソフトの「Maya」をご存知ですか? 映画制作や工業デザインに使われるプロ用ソフトで、特にワイヤーフレームでは、精細なモデリングが可能なため、このソフトを使って作られた映画は数限りなくあります。 このソフト、現在はWindows でもMac でも作動しますが、本来はSGIのワークステーション用に作られたソフトなんですね。 ソフトの半端ない価格もそうですが、用途が用途だけに、使えるワークステーションも限られた高性能のしか動作しなかったのです。 このMayaの販売初期にはWindows やMac ではとても太刀打ちできませんでした。 それくらいSGIの製品は(当時としては)群を抜いて高性能だったのです。 しかし、下の画像のように筐体もハンパない大きさです。 とにかくSGIの製品はコンピュータグラフィックスに特化した製品のみを造ってた特異な企業だったのですね。 特に映画産業におけるCG制作現場では、このマシンがないとお話しになりませんでした。 SGIで使われてるOSはWindows でなければ、Mac のOS Xでもない独自のものでしたし、使ってるCPUもWindows マシンの何倍も高性能なものでした。 そのうちSGIはサーバーと見まごうばかりの大きな製品と平行して、比較的小型のワークステーションも投入してきました。 と、云っても、普通のWindows PCと比べたら、かなりの大きさですが、それでもデスク上に置けるマシンが登場してきたのですね。 これには、ダウンサイジングの波が大きく影響してます。 しかし筐体は小さくなっても、私ら貧乏人には別世界の価格の製品ばかりで、指をくわえて眺めるしかない。 それでも個人で購入してる人もいましたね。 驚くことに1999年、SGIはそれまでの宗旨を変えてWindows NTベースのワークステーションも販売します。 おそらく、この時期あたりからダウンサイジングがもっと進んで、今までのシステムでは見向きもしない人が増えてきたのでしょうね。 もっと驚くことは2009年に発売された「Octane III」です。 このマシン、実はデスクサイドに置ける「スーパーコンピュータ」なんです。 そのため電源も一般家庭で使われてる100Vで稼働できます。 もっと驚くのは、「320」「540」もそうでしたが、このスーパーコンピュータも、Windows PCと同じインテルのCPU(の高性能版)を使ってることです。 しかし、インテルへのハードウェア移行で、画像処理分野における優位性が失われます。 こうしてSGIは科学技術計算用の大型計算機を中心としたビジネスに移行していくのです。 だんだん形勢がオカシクなってきたSGI。 ついに2009年、倒産。 2016年になってHP(ヒューレット・パッカード)が買い取ってしまいました。 SGIが衰退した理由はひとえに「ダウンサイジング」にあります。 昔だったらお話しにならない性能のPCが、だんだんに実力をつけてきて、もはやSGIでしかできなかった仕事を難なくこなすようになったからですね。 だったら値段が天と地ほど違うSGIを使う必然性はないワケです。 ちょうどメインフレームと云う部屋いっぱいの超大型コンピュータから、ミニコンと呼ばれた比較的小型のコンピュータが台頭して、平行してPCを並列接続してスパコン並の性能にする「クラスタ」技術ができたと思ったら、それも不要になり、PC1台で全部まかなえるようになった経緯と同じです。 現在のSGI(HP)は、サーバーに特化して製品作りをしていますが、収入の多くは、ハリウッドの特殊効果スタジオからのものではなく、アメリカ政府、軍、エネルギー関連、科学技術計算分野などからの方が多いです。

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