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テーマ:洋楽(3283)
カテゴリ:60年代洋楽
スクリーン一杯に写し出される緑の木々。鳥や動物の鳴き声だけが聞こえる静寂の中に突然響く「ボン」という低い爆発音。硝煙が立ち込め、美しい緑は黄色い災に包まれていく。 それを写すカメラはゆっくりと引いていく。災に包まれたその光景はベトコン村だった。 ヘリコプターの音に重なってジム・モリソンの虚無的な歌声が流れる これで終わりだ。 美しい友よ。 これで終わりだ。 ただ一人の友よ。 これで終わりだ… これはフランシス・コッポラ監督の「地獄の黙示録」(1979年公開)のオープニングシーンである。 流れていた曲はドアーズの代表曲のひとつ「The End」。ドアーズの1967年の1st「The Doors」(写真)の最後におかれている曲で、11分を超す大作だ。 「父を殺して母を犯す」というテーマを持つ事で有名なこの曲はよくエディプス神話と絡めて語られるが、幻覚的な歌詞はドラッグも大いに関係あるのだろう。 大人になったら「ベトナム」が待っているというのが当時のアメリカのひとつの現実であり、そういう意味では「自分の死を予言する歌」と考えられない事もない。 シタールを模したというギターと呪術的なリズムはジム・モリソンの歌う「終末と絶望」を引き立たせ、11分という長さをまったく感じさせない密度の濃さだ。 特にクライマックスでの「父さん…俺はあんたを殺したい…母さん…俺はあんたを…」という部分での絶頂は上手いとか下手とかいうのを超越したもので、「カリスマ」という神に選ばれた人間のみが持ち得る魔力だ。 フランシス・コッポラとジム・モリソンがUCLAの学生時代に同級生だった事はよく知られているが、「戦争」というものを通して人間の業と狂気を描いたコッポラとジム・モリソンの狂気はピタリと一致し、「地獄の黙示録」はこの曲の持つ恐怖と美しさをいっそう引き立たせる事に成功している。 「地獄の黙示録」は難解とよく言われる(後に出た「特別版」でだいぶ分かりやすくはなった)が、映像的には印象に残るものが多く、最も有名な、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れるベトコン村襲撃シーンは、CGを使ってないホンモノならではの迫力、ヘリの爆音とワーグナーの高揚感を煽るメロディーにスピード感のあるカメラワークと編集が上手く結びついたもので、不謹慎ながらなかなかに興奮してしまう。 戦争大好きなアメリカならではの映画だなあ、と妙に納得したものです(笑 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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