天売島で善知鳥(ウトウ)の壮絶な生態を見る
北海道の西北海岸沖に焼尻島(やぎしりとう)と並んで浮かぶ天売島(てうりとう)は、世界で唯一「ウトウ」という鳥の生態を大迫力で人間が間近に見れる島です。ちょうど今頃の時期、海岸べり高所の傾斜地に長さ2m前後の穴を掘り、その中で雛を大事に育てている最中です。これがウトウ(善知鳥)で、私が以前天売島に渡ったときに写しました。天売島に住む人間は400人ほどですが、5月から7月にかけてはウトウが繁殖のために訪れるために、ウトウだけで50万羽、そのほかのウミネコなどを加えると鳥だけで100万羽近くになるとも言われています。薄暮の時間に彼らの繁殖地域の空を覆う鳥の大群は、昔のヒッチコックのサスペンス映画「鳥」そのもので、恐ろしささえ覚えます。ウトウの親鳥は日中、海面上を羽ばたき、小魚を見つけてはクチバシで挟み採り、その数は多くなると10~20匹も口にくわえて、夕暮れになると自分の子供のいる穴に戻ってきます。下の写真のこの親鳥はくわえている魚は少ないですが、自分の子供がいる巣を探しています。風雨が激しい夜だったため、レンズが曇っています。それにしても、数十万羽いるウトウの中で、自分の巣を見つける本能の凄さに脱帽です。ところが大自然の厳しさは、ウトウに簡単にひな鳥へ餌を与えることを許しません。大勢のウミネコが、海から魚をくわえて戻ってくるウトウの親鳥を待ち構えています。下の写真の薄暮の山肌に白く写っているのがウミネコ達です。海側を見つめてジッとウトウが帰ってくるのを待受けています。要するに他人が海で採ってきた魚を掠(かす)め取ろうとうことです。ここでは完全に悪役!そのために一刻も早く、自分の巣の中に逃げ込むのが親鳥の使命ですが、以下の写真は小魚をくわえて逃げるウトウの親鳥とそれに襲いかかるウミネコです。なお、この写真は私が撮ったものではなく、天売島のパンフからです。実は、島の路上で血を流してあえなく果てたウトウの写真も撮りましたが、凄惨なためここでは掲載を見送ります。そんな危険を冒しながらも子供を必死に育てる、親子の情愛が深い鳥なのです。ウトウを優しく抱くのは私。人間に対する危害動物感覚がありません。天売島は留萌の北、羽幌からフェリーか高速船で渡るしか方法のない離島ですが、自然生態を大迫力で見れる、北海道でもっとも感動した場所でした。なお、フェリーは大型ではないので、海が荒れると欠航になることがありますから、スケジュール上はその点を含んでおく必要があると思います。私が行った時も前線の影響で午後から海が荒れ、最終便は欠航になっていました。その前の便は、宿の窓から眺めていても、波間にフェリーがまるで木の葉のように大きく揺れていました。乗っていた人は生きた心地がしなかったでしょう。翌日の帰路の便を心配しましたが、幸いに前線は通過したので、通常の運行に戻っていました。民宿は何軒かありますが、ウトウが海から戻ってくる時間は午後7時過ぎの薄暮からですので、宿の車を出して連れて行ってもらわなければ、その場所にはたどり着けません。途中はマムシの出る地域もあるので、徒歩は止めた方が良いでしょう。宿泊の予約を取る際に、事前にその点を確認しましょう。街灯もない真っ暗な場所ですから、懐中電灯を貸してくれます。なお、民宿の食事はこの時期ですから、採れたてウニをはじめとして、料金対比で感動のレベルだと思います。なお、同じフェリーや高速船が途中に泊まる焼尻島も出来れば寄ってみたいものです。こちらの島は起伏が天売島ほどないので、宿の自転車を借りてサイクリングを楽しめます。季節によって、野生の花などが綺麗です。私が渡った時は、たまたま何年かに一度の毛虫の大発生のときで、小さな林のような所を通過すると、上からポタポタを毛虫が落ちてきて往生しました。これも大自然の生態ですから、人間が止めることはできません。さて、北海道本島側の羽幌には近代的な宿泊施設もありますので、そこで前泊か後泊するとゆったりと島を楽しめるかもしれません。最後に余談ですが、今の青森市がその名前になる以前は、「善知鳥村」と呼ばれていました。人間が多くなる前は、同様に生態活動を行なっていたのでしょう。青森市の善知鳥神社によると、「善知鳥」の字の意味は以下の通りです。【善】徳の究極、すなわち神の意志に叶うこと 【知】神を祀ることによって、神より与えられるもの【鳥】予知能力をもち、天空の神々と地上の世界を結ぶ神の使わしめ「古代人は、ウトウ鳥が天空の神々より与えられた神意を地上の世界に使わし、人々を善へ導く聖なるものと考え神使の象徴として善知鳥の字を充てた。」 ということです。