ロベール・カサドジュ/小紫
「今日のクラシック音楽」 ロベール・カサドジュ私が中学2年生の時に、小遣いで買った2枚目のLPがベートーベンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」でした。ピアノがロベール・カサドジュ、指揮がディミトリ・ミトロプーロスでオーケストラがニューヨークフィルで、モノラル録音25cm盤で1,000円でした。 そのLPで存分に「皇帝」を毎日、毎日聴いていました。 買って初めて聴いた曲でもありましたが、第1楽章の冒頭のピアノのカデンツアにすっかりはまってしまい、初めて聴き終わったあとも3度も連続して聴いていた思い出があります。勿論、その当時は演奏などについての長短などわかるはずもなく、曲の美しさ、偉大さに酔って聴いていました。華麗なピアノのカデンツアから始まり、掛け合いのようにピアノとオーケストラの音楽が流れていくさまは、まるでピアノ付き交響曲といった趣で、あたりを払うかのような威風堂々とした、雄渾なピアノ協奏曲、そんな印象でした。年月が流れて、あれは確か1967年だと思いますが、このカサドシュが読売日本交響楽団と共演して、この「皇帝」を新宿厚生年金会館で演奏しました。 指揮は最後の来日となったハンガリーの名指揮者イシュトバン・ケルテスでした。客席に座って冒頭のカデンツアが演奏された時に、「あ、あの音!」と思いました。 あのLPのままのピアノの音が流れ出したのです。 目頭が熱くなりました。ピアノは福よかに、豊穣に響き渡り、しかもフランス人らしい色彩感あふれる音でした。 その演奏会の時にはこのLPはもう聴くに耐えないほどの傷が出来ていて、ただレコード棚に置いてあるだけでした。その録音盤がCDに復刻されてリリースされた時は、飛びつくように買い求めて今でも聴いています。1955年の録音ですからお世辞にもいい録音とは言えませんが、「さり気なく」そして洗練されたピアノの音色に聴き惚れています。勿論カザドシュよりも、もっといいピアニストの素晴らしい演奏があります。 今ではルービンシュタイン/バレンボイム指揮、バックハウス/イッセルシュテット指揮、シュナーベル/フルトヴェングラー指揮、アラウ/コリン・ディビス指揮、キーシン/レヴァイン指揮など数え上げたら10枚以上あるでしょう。それらの中でもやはりカサドジュの演奏には特別な想いがあります。1972年の今日(9月19日)、そのロベール・カザドシュ(1899-1972)が亡くなっています。今日は、あの少年の頃に戻り、青年時代に接した彼の生演奏を思いだしながら、この「皇帝」を聴こうと思います。(このCDはHMVではフランチェスカッティのヴァイオリンでVn協奏曲とのカップリングで輸入盤で入手可能なようです)。最近ではやはりLP時代から聴いていましたジョージ・セル指揮クリーブランド管弦楽団との共演による「モーツアルト ピアノ協奏曲集」(3枚組CD)をよく聴いています。第21番~24番、第26番~第27番を収めた3枚組です。ここでもカサドジュのピアノは、福よかで、華麗で、色彩的なんですが、それらは「さり気なく」という表現がぴったりの演奏です。しかもとても清々しく、知的にさえ響いてくるモーツアルトの協奏曲演奏では稀にみる名演奏とでも形容できる、聴き手はいつしかモーツアルトの至高のピアノ音楽の世界に遊んでいるような感を覚える演奏です。価格も3枚組で2,940円という廉価なので、これからモーツアルトのピアノ協奏曲を聴きたい人にはいつも薦めているディスクです。(SONYクラシックス SICC482~4 1959~62年録音)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「今日の音楽カレンダー」1972年 没 ロベール・カサドジュ(ピアニスト)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「今日の一花」 小紫撮影地 大阪府和泉市 2008年9月18日