ガーデンデザイナーのブログ

2007/01/11(木)22:32

いい木鋏の選びかた

愛鋏 植木鋏(53)

現場に携わっていたのが10年、設計やら営業の年数のほうが15年、いつの間にか陸に上がった年数のほうが多くなってしまった。現場に出ていた頃は、庭つくりの比率より手入れの比率のほうが圧倒的に多く、常に庭造りに餓えていたのを思い出します。私には兄がおり、雨休みによく鎌倉の庭を見にいっていました。植木屋さんも2代続くとおのずと管理の比率が高くなる。 茅ヶ崎は、防砂林のための松が多く、各屋敷には必ず数十本の松が残っていた。それも高度成長期後、住宅開発で今ではめっきり少なくなっている。地松の手入れは以前本手入れをしているところが多かったが現在では、伐り透かしや野透かしが多く、ひどいところでは枝数を極限まで減らしているお宅も多い。手間仕事は人工(人件費)が掛かるので手間賃が上がれば物理的に量を減らすしかない。 この辺で植木屋さんの代が変わることもある。また、代替わりの理由には、施主の代替わりや相続にも関係し、管理費削減によってお得意先を失う。永年のお付き合いしたお客様や手入れをしてたお宅に別れることは寂しいことだった。最近は、植木屋さん自身がお年寄りなのでチェンジすることもあると聞いている。 管理が多くとも「庭師」の自意識は高く、刈り込み植木屋にだけはなりたくないという意識があり、手入れにもおのずと枝形成や枝密度、葉密度の極限に努めていた。また、使う道具への関心も高くなり、各地方の鋏に興味を覚えるようになる。現在のように流通がよくない時期の鋏には各地の特色が出ている。 昔、先輩に「いい鋏の選びかた」を伝授していただいたか゛どうも胡散臭い。「鋏は、自分の手の大きさと同じぐらいが良い。というのである。しかし、当時は、圧倒的に大久保型の鋏が多く、どれも同じぐらいだったので当てにはならなかった。では、何が「良い鋏」なのか。 1、先ず、鋏のスタイルから考えると梃の原理で働く両刃は、作用点つまり握り手(蕨手という)が長いほうが力を入れずに良く切れる。 2、次に、蕨手にしっくり収まるもの。といっても手が鋏に慣れるもの。 3、刃は、当然、裏隙になっていること、これは、どうしても長時間使っていると葉裏に伐りかすが付いて切れが悪くなる。裏隙が付いていればカスも取り易い。 4、できれば家内工業的な器械打ちでも手打ちでも工業品よりも火打ちが甘くなる分、若干鋼が甘いこと、これは刃が硬ければ良いというものでなく、切れかたは鋼が硬いものより もシットリと切れるからだ。また、硬いとかけ易いものだ。 5、心棒は、使っていくうちに減ってくるものだ。裁ちばさみと違ってガタツキが生じてくる。昔このガタツキを直そうと思って叩いたら併せが悪くなり泣いた経験もある。鋏は、早くて2年程度で使えなくなる。もう一つ、心棒の座金は、ゴツイ方が良い。使っていくうちにこの座金もおのずと減って行くからだ。 6、アワセリ、何処の部分かというと刃先先端部分最初からピタッとしているほうが気持ちいいかもしれないが永くつかっていると研ぎ出しや心棒の減りで丁度良くなるので「せり」は多いほうが良い。 7、刃先の長さ、大きさ、これは通常どの様な手入れをするのかによって異なる。伐り透かしが多いのであればチョイ、ゴツ目。モミジやツバキの枯れ枝も切ると云うより叩き落とすから丁度よい。速さを競う時はそんなところ、昔、兄が岡恒を使って嘆き声を上げて刃の折れた岡恒をみている。 実は、この最後の7番目がいい鋏の選びかたのコツでもある。前段、植木屋が二代続くと当然管理部門が多くなる。地域によって粗い手入れの地域もあれば、極丁寧な手入れもあるのでここで鋏の選びかたが違ってくる。前者、粗い手入れには1、で書いたように力点が遠く、チョットごつ目の鋏が適している。後者の極丁寧な手入れには岡恒ような鋏で十分。この様に使用頻度によってまちまちなので一概にどれが良いとは云えないが1~6までが基本とすればおのずと答えが出てくる。ただし、1から6までを兼ね備えた鋏はあまり市場には出てこない。 手入れの余談 暮れの日の短い時の手入れの場合。昔、先代は、もう引退して久しいが、鋏はつねにバンドか麻紐、職人は釘袋に鋏を差していた。そのためよく落ち枝とまぎれるか、ソテツの肥やしになるかで鋏が無くなる。次の年、掃除をして「何年か前亡くなった鋏」が出てくる事もある。どちらにしても帰る頃に騒ぎ出す。あれから20年この暮れになると思い出す。 写真の鋏は、今まで使っていた京の木鋏です。上の1~7まで十分満たしてくれた鋏です。ただし、この鋏を打つ人も高齢でどんどん少なくなるということです。鋏を見ればどんな手入れをしているか大方、想像が付くというものです。ともあれ鋏のことでこんなに長くなるとは・・・鋏の話は半日はするよ。ま、ここまで読む人はいないだろうけど。

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