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さて、昨日の続きでもあり
シリーズ最終回でもあります。 『一人前の版を作る!』:完結です。 今回は焼き付けから洗浄まで!では早速。 まず最初に。 以前にも触れましたが僕はこの仕事を始める際、一番最初に入門用器材として『T○ャツくん』のセットを購入しました。 そして始めたはいいものの、その説明書に書いてある通りにやってたつもりでもまともな版を作ることが出来ませんでした。 僕はこのセットでまともな版が作れなかった一番の問題は、セットにある純正の感光器にあったと思っています。 原因のひとつは、版に対する紫外線の照射時間が足りないこと。 その感光器はタイマーが内臓になっていて、ワンタッチで『スタート』のボタンを押すと光源がONになり、約2分で自動的にOFFになります。 僕はこの設定値では「照射時間が短過ぎる」と思っています。 ※当時僕は連続で2回照射していましたがそれでも多分不足。 でも3回連続で照射しようとすると、今度はスタートボタンを押しても動作が無効になってしまい、2回以上の連続照射が不可能なキットなんです。 もうひとつは、タイマーの時間内に焼き付けるには紫外線の照射量が足りないこと。 光源になる紫外線の蛍光灯は何本かありますが、実際はもっと多く照射しないと感光剤が感光しきれないため、あのキットでも15分位照射し続けないといけないと思います。 説明書では「出来ます」みたいな事が書いてありますが、それを信じて製版やプリントにチャレンジし、結局上手く出来ないため諦めていった方は多いんじゃないでしょうか。 「自宅で簡単、誰でも手軽に♪」を謳ってらっしゃるなら、その謳い文句をちゃんと実践されたらいかがでしょうか?メーカーさん。 ちなみに僕は人に『T○ャツくん』って実際のところどうなんですか?って聞かれたときは、「誰にでも出来るらしいが、少なくとも俺には出来んかった。感光器余ってるけど要る?」って言ってます。 みなさん「じゃあ要りません」って返してきます。(笑) それともやはり僕の使い方がマズかったんですかね? 僕はちゃんと説明書の通りにやったつもりなんですが・・・? まあそのお陰か、各道具のひとつひとつを真剣に研究し始め「どうやったら、どこをどう改良すれば出来るようになるのか」を突き詰める機会に恵まれました。 とても奥が深く、知らなかった職人の世界に触れることが出来ました。これもまた感謝です。 「あの時簡単に出来なくて良かった。ラッキー♪」と今では思います。 そこで、「感光器を変えたらどうなるだろう」と思った僕はこれまた中古で感光器を購入しました。 売りに出されていた訳ですから、当然しばらく使用されていない物で、本体と蓋になる部分とが分離されていて、そのうち蓋になる部分には枠に固まってパキパキになった黄色っぽい生ゴムのシートが張り付けてありました。 初めてみた当初は何のためのものかさっぱり分かりませんでしたが、版がなるべく本体と密着し、浮かないように押さえつけるためのゴムマットだったことが分かりました。 が、既に使わなくなって数年が過ぎていたんでしょうか・・・ところどころがパキパキになったその生ゴムのマットを取り替えようにもそのサイズ(約100cmx120cm)のゴムマットなんてどこのホームセンターにも売ってなく、係りの方に聞いたところ「長さはロールなのでどうにでもなりますが幅の最長は90cmですね」と言われ、当時背中の力が一気に抜け、10分程度缶コーヒー片手に途方にくれたのを憶えています。 しかし、結局のところ使えなければただの巨大なガラクタに変わりはありません。 購入に使ったお金はただの『経費の垂れ流し』以外の何者でもありません。 「なんとか使える状態にしないと」と必死で考えました。 でもそのとき思いついたんです! 「あ、俺自分の職業忘れとったわ!」と以前からオリジナル生産のときに仕入れさせてもらっていた生地問屋さんに走り、使えるモンを仕入れてきました。 それが何かと言うと・・・【ストレッチ素材の厚手フェイクレザー】です。 洋服の生地の場合、大体が110cm幅になっていたのを急に思い出し、後はゴムの材質に近い物を頭の中で描いたところ「コレしかない!」と」思いました。 実際作業場に行って取り付けたところドンピシャ! 枠に対しての張り具合も、押さえつけの強さも申し分ない感じでした。 嬉しかったです。 このときもまた『天から突然何かが降って来た』を体験しました。 ※そして当時関係ないと思っていたんですが、今はそのフェイクレザーの色を『真っ白』にしています。気のせいかどうかはハッキリしないのですが、どうやら黒の生地を使用していた時より版に細かい描写が出来ているような気がします。 そうやって僕の使っている器材達は、ほぼ必ずと言ってイイほど僕が使いやすいように、もしくは代用品によってカスタムされています。 長くなりましたが、以上を踏まえた上で工程に入ります。 1.原画を感光器の光源の上に絵柄のプリント面を上にしてセットします。 ※原画の紙質も普通紙、高質紙、OHPフィルム、PPC用紙、厚手両面印刷紙と色々試しました。 そして市販のPC接続のプリンタから出力して作成する原画なら、最終的に「厚手光沢紙が一番良い」という結論に行き着きました。 その上に版の裏面を原画に密着させるようにし、版の表面からは【光源】【原画】【版】を密着させるためにスポンジ状の密着用マット(僕の場合は5cm幅の発砲スチロールを版の大きさ人に合わせてカットした物を使用)をセット。 ※市販のスポンジでは『工業用のスポンジゴム』みたいな少し固めの物がオススメです。 ※この5cmという厚みの理由は、版の枠の厚みが約3cmくらいあるので、それより厚みのある物の方が上からのプレス(圧力)が掛けやすいからです。 更にその上から感光器の蓋(先ほど出てきた枠部分にフェイクレザーを張り付けたもの)をして光が機械の外に漏れないように配慮。さらに重石になるようなものを置いて、全体が一体になるように密着させます。 2.紫外線照射時間を15分に設定し焼き付けます。 塗布しておいた感光乳剤は紫外線に感光して変色し、メッシュ生地に定着しますが、唯一原画の黒インクの部分だけが紫外線を吸収、遮断するため、焼き付けられず定着しません。 ※このため、原画のインクはプリンタで出力する場合『黒限定』にします。 これが完全な黒で無い場合、やはりわずかでも紫外線は原画を通過してしまい、中途半端に絵柄が焼き付けられた、洗浄の際かなり苦労する版が出来上がります。 そして洗浄後もメッシュの目に微量な感光乳剤が残留し、プリントの際にインクの目詰まりを多発します。 <b>3.焼き付けが終わった後5~10分程度、版の熱がある程度冷めるまで感光器の中でそのまま放置します。 ※熱があるまま洗い始めると、かなりデリケートに洗わないといけなくなり、ほんのわずかな力加減のミスでも版を台無しにしかねません。 少し熱が引いた状態にしておくと感光乳剤も軽く定着した感じになり、本来なら洗浄時に洗い流されなくていい部分の欠け落ちを防ぐことが出来ます。 しかしココで30分以上放置してしまったらこれまた感光乳剤も定着し過ぎ、洗浄後も微量にメッシュの目に在留するので、目詰まりの原因を作ってしまいます。 4.版を感光器から取り出し、版の表面から冷水で洗い流します。 ※教本には「ブラシで洗い流す」と書いてあるところが大半ですが、僕は圧倒的に『素手で洗う』ことをオススメします。細部の表現を出すためブラシで洗うときも『指先とのコンビで』洗うとかなりの微調整ができます。 ※まず表から洗う際に少し油膜のような感触があると思います。(この感触は逆にブラシで洗っていては判りません)この油膜を完全に洗い流しきってしまわないのが最大のコツです。 洗い流し過ぎると版に穴を開けてしまったり、耐久性の無い版に仕上がってしまう可能性が高くなります。 5.洗いあがったらもう一度版を自然乾燥させます。 ※別にドライヤーなどで乾かしても構いませんが、あまりにも熱源との距離が近すぎるとスクリーン生地のテトロンが熱で収縮してしまい、メッシュの目を詰まらせたり、絵柄を歪めてしまったりという事態に成りかねません。 もしそうなってしまうと当然版は一から作り直しです。 たかが乾燥とは思わず、十分に注意しましょう。 6.乾いた版は光に当て、洗った際に傷やピンホールが出来ていないかを確認します。 もし傷が出来ていれば光がその穴を通過して漏れてきています。 傷やピンホールに感光乳剤を再度塗布して、もう一度焼き付け傷部分を補修します。 もしそのピンホールや傷を補修しないまま刷ってしまうと、インクが傷部分を通過して絵柄でもなんでもない部分にも付着してしまい、完成品のクォリティーを下げてしまいます。チェックは厳しく何度もしましょう。 ※この際絵柄の部分に油膜が出ているかどうかの確認もしておいた方がいいでしょう。油膜はインクの通過を妨げますので刷った時にインクが被写体に上手く乗らない場合が高い確率で起こります。油膜が残っていそうならもう一度軽く冷水で洗浄しましょう。 ここまでで完成です。 しかしなぜ、こんなにも『版』の話で引っ張ったのか・・・ 逆になぜこんなにも引っ張れたのか・・・ それは『それだけ版作りは重要』だということなんです。 後々の作業効率のほとんどを版が上手く出来たかどうかが左右してしまうほど重要です。 ・耐久性に優れ、たとえ1000枚刷っても、インクの色を変える度に何度洗い流しても、穴ひとつ開かない、傷ひとつ付かない【強い版】 ・焼き付けや洗浄が完璧で、インクの目詰まりをまるで起こさない【綺麗な版】 こんな版さえ出来るようになれば作業効率とコストは激変します。 何枚か刷っただけでスグに目詰まりを起こし、その目詰まりをなくすためにインクを洗い流す。そしてその度に傷が出来ているかどうかを確認し、乾燥させ、その傷を補修し、再度乾燥させ・・・をプリント数枚ごとに繰り返す・・・。 もし『全部で100枚』の注文がはいっていたとして、そんなことをしていたなら絶対に仕事としては合わない。 それほど重要なんです。 なのでここまで長たらしく書かせていただきました。 もしかして昨日お怒りだったのにも関わらず、今日も最後までお付き合い頂いた方いらっしゃいます? あなた本当はすごく優しい、いい人なんですね。 その他の皆さんにも心から感謝します。 コレを読んでらっしゃる方が例えば一人もいらっしゃらなかったら・・・ 当然です。僕が自分の為だけにココまでやるはずもありません。 こんな僕に、ここまで書き上げる情熱を与えてくださった皆さんにありがとう。 そしてお疲れ様でした。 明日からは少しフランクにいきますから。またお付き合いください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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