常盤新平著『シチリア 地中海の風に吹かれて』を読む
常盤新平さんの書いた『シチリア 地中海の風に吹かれて』という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。 常盤さんという人は、どういうわけか若い頃からマフィアが好き――というか、マフィアに異常に興味があった人なんですな。それはゲイ・タリーズの『汝の父を敬え』を訳されたからなのか、それとも興味があったからそれを訳したのか、わかりませんが、とにかく。 だから、マフィアの故郷たるシチリア島に計4度も訪問している。 で、本書は、その4度のシチリア旅行を元にした旅行記、のようなものなのでありましょう。NHK出版の「世界・わが心の旅」というシリーズの一冊ですから、著名な作家に、執着のある外国の話をさせる、というのが狙いだったのではないかと。まあ、今で言えば『アナザー・スカイ』みたいな本と言っていいのではないでしょうか。 が! その目論見は見事に外れ、この本はまったく取り留めのないものになっております。 最初のうちはいいのよ。常盤さんがシチリアに着きました、みたいな状況の説明から始まるから。 ところが、そのうちに、過去にシチリアを訪れた話なんかが混ざってきて、今、語っている話が、今の話なのか、前にここに来た時の話なのか、ごっちゃになってくる。 しかも、その内にマフィアと関係があったのではないかと噂されるアンドレオッティとかいう首相の話が入ってきて、これが延々と続く。しかも、面白く書いてあるならまだしも、読者を置き去りにして、わけのわからないマフィアの抗争の話をするんですわ。自分ではよく知っている、興味のある話かもしれないけれど、訳もわからずに突然、そんなマフィアの内情みたいなものを、前後の事情も説明しないまま詳しく語られても、一体、わしは何を読まされているんじゃ? という感じにしかならないという。 だから、結局、一巻読み通しても、一体、これは何を読まされたのか、全然分からないし、書いている本人はなにやら悦に入っているようだけど、読者の方はキツネにつままれたような感じになるんですわ。 ほんとに、まったくまとまりのない本でした。何だこれ?って感じ。 唯一、収穫だったのは、『聖ルカ街、六月の雨』という小説に出てくる写真家・石原のモデルが、瀧上憲二という人だということが分かったことくらいかなあ。 これはまったくおすすめできない本。っていうか、逆にあまりにも散漫すぎて、わけわからないから読んでみて、とおすすめしたくなる本でした。【中古】地中海の風に吹かれて / 常盤新平