ジェームズ・ドゥティ著『人生の扉を開く最強のマジック』を読む
ジェームズ・ドゥティという人の書いた『人生の扉を開く最強のマジック』(原題:Into the Magic Shop, 2016)という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。 これ、私の分類から言うと「引き寄せ系自己啓発本」ね。引き寄せ系って、インチキ臭い話が多いのだけど、これは、著者の実績からしてリアル・ガチなヤツ。珍しいよね。そういうのって。特に最近のものだと、あまり例がないので。 では、その実績たっぷりのドゥティという人はどういう人かと申しますと、スタンフォード大学の脳外科医。 本書によると、この人、人生のスタート時点ではあまり幸先よくなかった。親父さんは飲んだくれの暴力野郎で、ほとんど仕事をしたことがない。母親は、そんな夫に振り回されているのだから当たり前だけど暴力に怯え、薬物中毒になりがち。著者の兄貴は体が弱いいじめられっ子で、弟である著者が守らなければならないほど、しかも後にゲイとなり、エイズで死亡。まあ、そんな感じだから家に居ても落ち着いていられない。なにせ、いつ家賃未納で追い出されるかわからないし。 そんな少年時代のドゥティは、手品(マジック)に興味があって、たまたま家の近くにあるマジック用具店に行ったと。そうしたら、そこでルースという年配の女性と出会った。 で、どういうわけかルースはドゥティを見た途端にひらめくものがあったらしいんですな。この子にはマジックが必要だと。マジックというのは、手品という意味ではなく、人生を変えるマジック。で、それを伝授しようとドゥティに申し出る。で、ドゥティは訳が分からないものの、家庭では自分に関心を払ってくれる人なんかいないし、家を少しでも離れていられるならその方がいい、ということで、12歳のそのひと夏、毎日ルースのところに通ってマジックを伝授されると。 ではリースがドゥティに伝授したマジックとは何だったのか。 それは結局、瞑想だったの。ルースはドゥティに瞑想を教えたんです。ステップ・バイ・ステップ方式で。まずは全身をリラックスする方法から始め、心から雑音を取り除く方法、心を開く方法、そしてなりたい自分をイメージし、絶対そうなれると信じる方法。だからこれは瞑想でもあり、引き寄せでもあり、そして一点に集中するという意味では、マインドフルネスでもある。そっち系の自己啓発思想総動員って感じ。で、ドゥティはこれを「一応」マスターし、そしてルースは去っていく。まるでルーク・スカイウォーカーにフォースを教えたオビ・ワンのように。 で、それ以降のドゥティは、まさに引き寄せ的快進撃よ。家族の中で大学に行った人が一人もいない状況の中、カリフォルニア大学アーバイン校に合格。そしてテュレーン大学医学部に進学し、そこから有名なウォルターリードの脳外科で脳外科医になるという夢を果たす。それも、とてもそんなトントン拍子には行かない状況だったのに、まるでルースの魔法が次々と難関のドアを開けてくれたように、あり得ない幸運が続いて夢が叶っていくわけ。 で、ドゥティはもう、無敵感を抱くわけね。まあ、調子に乗るわけだ。で、そんな折、調子に乗った拍子にクルマで大事故を起こし、九死に一生を得る。それでもやっぱり、ドゥティはこの事故をサバイバルするわけ。で、ますます彼は調子に乗る。 で、ドゥティは脳外科医として成功したばかりでなく、最新の外科手術機器の開発にも成功し、総資産7500万ドルという、とんでもない大金持ちになります。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの成金に。生活は乱れますが、そんなこと知ったこっちゃない。 ところが。バブルがはじけ、ドゥティは一夜にして一文無しになる。友達はほとんど去っていきます。 で、そうなって初めて、ドゥティはルースの教えに立ち返るのね。そういえばルースがあのマジックを教えてくれた時、「欲しいと思っているものが、いいものだとは限らない」と言っていたことを思い出す。ドゥティは貧しい出自だったことから、金や名声を欲しいとずっと思って、そのために努力してきたわけだけれども、手に入れた金や名声は一夜にして崩壊するようなものでしかなかった。 そしてもう一つルースが教えてくれたことは、「心を開く」ということ。心を開き、心のコンパスに従えば、正しいことができると。ドゥティは、それをルースから教わった時、その教えだけはピンとこなかったんですけど、こういう状況になってみて、はじめてルースの言っていたことが分かるようになるんですな。 バブル成金から一夜にして一文無しになったドゥティですが、後で良く調べたら、調子に乗ってテュレーンとスタンフォードに多額の寄付をした、その手続きがまだ完了していなくて、今ならまだ相当額のお金を取り戻せることを知ります。しかし、ドゥティはその寄付金を取り戻すことはせず、一文無しの状態から人生をやり直すことを決めます。自分は大金持ちである前に一人の脳外科医なのであり、その技術によって多くの人を救えるはずだと。その原点に立ち戻ればいいだけだと。 そしてその決意の通り、ドゥティは脳外科医として活躍します。そしてルースから教わったことを脳外科医として科学的に解明することを志すんですな。CCAREという団体を起ち上げ、共感・利他ということが脳に及ぼす健康への影響を調べるというプロジェクトを立ち上げる。人間の脳にはあらかじめ、共感ということが組み込まれていると。だからこの本は、科学者の立場から、「共感」とか「利他」、すなわち「親切」ということが人間にとっていかに重要であり、メリットがあるか、を脳科学的に実証しようと試みている本でもあるわけ。 引き寄せ系/マインドフルネス系から親切系へ。自伝系からスタンフォード(大学教授)系/脳科学系へ。この本は、自己啓発本のジャンルを縦横無人に横断する本だったのであります。それに、元来自己啓発本というのは功成り名遂げた人が書くものでありますが、そういう点でもドゥティは自己啓発本を書く資格が十分ある。しかも、一度道を踏み間違えた人が正道に立ち戻るという、放蕩息子系の本でもあるから、面白いっちゃ面白い。教授のおすすめ!と言っておきましょう。これこれ! ↓スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック/ジェームズ・ドゥティ/関美和【1000円以上送料無料】 ところで、先にドゥティが自動車事故で瀕死の重傷を負ったという話を紹介しましたが、この時、ドゥティは臨死体験をしております。で、その話の中で、ヒエロニムス・ボスの「天国最上界への上昇」という絵のことに言及しているのですが、16世紀の異端の画家、ボスのこの絵には、臨死体験者が異口同音に語る光の世界に通じるトンネルのようなものが描かれている。このボスの絵は倫理体験の話をする時にちょっと面白い話題になるので、覚えておこうかな。