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カテゴリ:教授の読書日記
最近、韓国の自己啓発事情について聞かれることが多くなってきたので、情報を仕入れるためにハ・ワンの書いた『あやうく一生懸命生きるところだった』という本を読んでみました。
ハ・ワンはイラストレーター兼エッセイストで、この本でも文章とイラストを両方担当している。なかなか可愛いイラストです。 で、この本は、いわばハ・ワンの自伝的エッセイなのですが、それによるとハ・ワンの生家は貧しかったと。で、貧富の差がもたらす劣等感をそれなりに味わいつつ成長するんだけど、絵の才能があったので、韓国で一番有名な美術大学を目指すんですな。 ところが最初の年には落ちてしまう。で、翌年も受験して落ちてしまう。この時は滑り止め大学に通うようになったのだけど、どうしても夢が諦められず、もう一度受験し、また落ちると。で、ようやく4度目の受験で合格する。 で、卒業後、3年ほどフリーターをする。しかし、さすがに背に腹は代えられなくなって某会社に就職。そこはかなり自由な社風で、仕事もさほどきつくなかったようですが、会社員生活に馴染めず、40歳の時に突発的に辞表を出してしまい、今日に至ると。 まあ、つまり、あまりパッとした人生ではないわけですな。それは本人が一番感じている。 で、そのパッとしない自分の人生の味を味わいながら、なんでこんなにパッとしないのか、どうして自分は、若い頃に思ったような理想の生活ができず、不満を抱えて生きているのかを考えるうちに、これは自分だけの責任ではなく、韓国の社会風潮や、親からの期待、そして自分自身への幻想などによってもたらされたものなのではないかと気づくわけ。 すべてをあきらめて、ありのままの自分を肯定してみたら、まあ、そんなに悪い人生でもないのではないか? ということも分かって来た。もちろん今も、成功者を見て羨ましいと思うことはあるけれども、前と違って今は自分に対する高すぎる期待も抱いていないので、とっても楽。ああ! 以前みたいに周囲に流されて、馬車馬のようにシャカリキに生きる羽目に陥らなくてよかった! 危うく一生懸命生きるところだった!・・・という話。 だから、この本も、一生懸命頑張れ、頑張れというアッパー系のものではなく、むしろ一生懸命頑張るな、というダウナー系の自己啓発本ということになります。 これが自己啓発思想の観点から見た、韓国の今の風景なんでしょうな。 でも、この本を読んでいて、色々なことが分かりました。 たとえば韓国経済が落ち込む転機となったのは1997年のIMF通貨危機だったとか。で、以後、韓国ではお金が重要、という概念が広まるんだけど、それに追い打ちをかけたのが2000年にとあるカード会社が打ったTVCMで、この中で有名女優が「お金持ちになってください」と呼びかけたのが大ブームとなり、「お金持ちになる」というのが韓国人共通の夢になり、物質万能主義社会になってしまった、とか。こういう庶民感覚での時代意識ってのは、なかなか日本に居ては分からないことだしね。 あと、『孤独のグルメ』が韓国では人気なんだけど、なんでもスマホで情報検索する韓国社会の風潮とは逆に、井之頭五郎が自分の勘だけを頼りに店を選ぶ、その手法が斬新なんですと。韓国では「いつでも誰かと一緒」というのが当たり前(108頁)なのだそうで、そういう、集団の圧力というものから離れ、一人で自分の好きなものを食べるという五郎の生き方が、羨ましいと。 あと、韓国は「正解社会」(170頁)だ、という著者の指摘も面白かった。誰もが正解を求めていると。だから、著者が選んだ「脱サラ」なんてのは、不正解もいいところなわけ。だけど、その不正解なところにこそ自由があったわけで、この本はそういう正解社会からの離脱、というのがテーマでもある。 あとね、『ユン食堂』という人気番組があるそうで、これは俳優が海外でレストランを経営するというリアリティー番組らしい。「競争の熾烈な韓国を飛び出し、ゆったりと外国で店を開くというロマン」(173頁)を見せたところが受けたのだそうで。逆にいうと、こういう番組が流行るほど、韓国社会は熾烈だ、ということですな。だけど、こういうのが流行ると、今度は韓国人全員がこぞって「海外でレストラン経営」という夢に群がってしまう。この時はこれが「正解」だったから。 とまあ、この本には、こういう韓国社会の風潮を交えながら、この風潮に捉われたら、常に他人と比較する幸福競争に巻き込まれ、結局、幸せにはなれないと。だから、ドロップアウトするのが賢明なのだよ、ということが色々な観点から書いてある。これが本書のダウナー系自己啓発本である所以なんですな。 ま、自己啓発思想を考える上で、大いに役に立つ本ではありましたね。それにしても、お隣の国に暮らすというのは、大変そうだねえ・・・。 これこれ! ↓ あやうく一生懸命生きるところだった [ ハ・ワン ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 3, 2025 02:10:05 PM
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