キム・スヒョン著『私は私のままで生きることにした』を読む
韓国系自己啓発本のベストセラー、キム・スヒョンさんの書いた『私は私のままで生きることにした』という本を読了しましたので、ちょいと心覚えをつけておきましょう。 ちなみに、この本を読む前に、とりあえず読書メーターでこの本の評判をざっと調べたのよ。そうしたら、概ね好評で、この本を読んで共感するところがあったとか、心に刺さる言葉が随所に出てきた、などといった感想が書き連ねてある。なるほど、じゃあ、いい本なのか。 と思って読み始めたのだけど、実際に読んでみてビックリ。というのも、予想していたのとは大分異なる感じの本だったから。 普通、自己啓発本って、読むと気分が上がるものじゃん? やる気が出て来るというか。ところがね、この本を読んでいると、逆にどんどん気分が下がって来て、もうだめだ―っていう感じになってくる。 まずね、ビックリしたのだけど、この本によると、現代の韓国社会って「ヘル朝鮮(ヘルチョソン)」と呼ばれているほど、それほど地獄のように住みづらい社会だと。 かつて韓国の高度経済成長時代には、自助努力によって社会階層を駆け上がることも出来たのだけれど、現在の既成社会が完成して以来、社会階層が固定化してしまった。金持ち階級はコネによっていい就職もでき、いい暮らしができるけれど、そうじゃない階級はずっと貧しいままで置かれる。 で、それだけならまだしも、社会階層とか、出身大学とか、預金残高とか、TOEICの点数とか、人間の価値を数値化できるようなもので計るような社会になってしまったので、貧しい階級の人たちは徹底的に馬鹿にされると。しかも努力は実を結ぶ、といったことはもはや夢物語なので、いくら努力したところで、馬鹿にした相手を見返すことができるようにはならない。 加えて、SNS社会だから、何かSNS上で発言したりすると、たちどころに叩かれる。いいことを書いても叩かれるのだから、もう、人の目を気にしてビクビクしていなければならない。 だから、もう、韓国社会って、絶望がみなぎっていると。自殺率もすごく高いんですと。 で、著者のキム・スヒョンさんは、このヘルに暮らしてきて、子供の頃からすごく苦労するわけよ。親の容姿のことで友達から馬鹿にされたり、わいろを渡す親の子だけ贔屓する担任の先生から厳しく扱われ、社会人になれば上司からパワハラされ、友達を作ろうとしても、初対面の時からこちらの年収とか尋ねてきて、大して稼いでないと知れるととたんにそっぽを向かれるとか。 で、そういう社会で生きてきたキム・スヒョンさんは、思うところあって、今後そういう周囲の連中の言いなりにはならないぞと決意した。周囲の敵は無視し、それでも危害を及ぼして来るなら反撃することに決めたと。その決意がたとえばこういう言葉になる・・・ 私は個人的に、どんなに優秀でも 数字に極端に執着する人には、 人生の幸福の基準があまりに単純なように思えて まったく魅力を感じない はっきり言って、私のタイプではない。 相手にとっては、私は不合格ということになるだろうけど、 その人も私にとっては不合格だ。 私にとって必要なのは、私と似ている一人の人だけ。 人を数字で評価するような人たちは、こちらからお断り。 だから、もし誰かが私を数字で評価しようとしたら。。。。 バカみたい。どうせ、あなたたちは全員失格。(53ページ) 私は人と対等な存在であって、弱者ではなく、 誰かが私を嫌っても、そのせいで私の人生が ぶち壊しになるわけではない。 だから私はもう、憎まれるのを恐れて、 いい人であろうとするのはやめようと思う。 他人を傷つけないのは立派なことだけど、 自分を守るのは、自分に対する責任んであり、権利だから。 To my enemies, (私の敵たちへ) I will destroy you.(私はあなた方をぶっつぶしてやる) (172ページ) さっさと消えてしまえ 先に手を出したら有罪 正当防衛は無罪 (173ページ) ・・・とまあ、こんな感じの呪詛が並ぶわけよ、本書には。 どう、これ。読んでいて悲しくならない? こういう環境だから、私は他人のことはもう気にしないことにした、それでもちょっかい出して来るヤツはただではおかないから覚悟しておけ! っていうことであって、良く言えば、これからの韓国社会は、集団主義ではなく、欧米のような個人主義社会にならなきゃいかんよ、という主張なんだろうけど、それにしてもねえ・・・。 ふうむ! これが韓国版の自己啓発本か! 厳しいな! なんか、自己啓発本というより、かの国の闇を見させられたっていう感じで、私なんぞは震え上がったのですが、この本に共感している日本の読者もまた、キムさんと同様の境遇にいるという自覚があるのだろうか? そうだとしたら、日本も相当やばいな。 ということで、自己啓発本を心から愛するワタクシですら、この本にはさすがに度肝を抜かれ、辟易してしまったのでした。これこれ! ↓私は私のままで生きることにした [ キム・スヒョン ]