ロボコン文化の創造
新しい文化としてのロボットコンテスト ロボットコンテスト(略称ロボコン)なるものが始まってから,2007年現在で,すでに20年になります。はじめは,たんなる遊び事と軽視されたり,IT化時代の今日にハードウェアなどをいじくらせて時代遅れだ,などと批判された方も少なくありませんでしたが,今ではそのような方々も,ロボコンの教育効果――それもたんに技術教育とか創造性育成を越えた「ものづくりによるひとづくり」という総合的全人格教育としての驚くべき効果――を理解されて,自ら積極的にロボコンに取り組まれたり,陰から援助されたりするようになりました。 今日,全国には数十種類のロボコンがありますが,とりわけ高等専門学校のロボコンと,中学校のロボコンには目を見張るものがあります。高専ロボコンはNHKの力の込めたテレビ放送もあって,高専教育が水を得た魚のようになり,社会的認知度も飛躍的に向上し,高専希望者も大いに増加しました。中学ロボコンは全国12,500校の中で,2000校ほどで採用し発展させ磨き上げておられます。2002年12月8日には中学ロボコンの九州大会が沖縄で盛大に行われ大成功裏に終わったと聞いております。 また2002年以来,NHKのロボコンに対する熱の入れ方が盛り上がり,ABU(アジア太平洋)ロボットコンテストが実現し,その第1回の決勝戦が2002年8月31日に東京で行われました。ABUとは,Asia-Pacific Broadcasting Unionのことで,日本語では「アジア太平洋放送連合」といいます。このABUには49の国と地域の100の放送機関が加盟しています。この49カ国の大学の中から,今回は19カ国20チームが参加して行われました。この19カ国は,西はエジプトから東はフィジー諸島にまで及んでいます。この決勝戦に出場するチームを選出する予選は,それぞれの国で行われましたが,作られたロボットの総数は約750台,参加大学生は約3,000人にも上がりました。第2回以降にはヨーロッパからも参加申し出が出てきております。 このように,今やロボットコンテストは,大きく言えば,人類の新しい文化にまで成長する勢いを示してきました。 私たちは祖先や先輩たちによってつくられた,いろいろな文化のおかげを被りながら生きております。その祖先や諸先輩と同様に,私たち自身も新しい文化を創造して子孫に残す義務を負っていると考えます。 ロボコンの多彩でめざましい効果と,その確実な定着性からして,私はロボコンはこの新しい文化に成りえると認めております。 どうか,われわれの手で新しくロボコン文化を完成させ,子孫に残そうではありませんか。東京工業大学名誉教授森 政弘日本ロボット学会名誉会長ロボット創造国際競技大会中央委員会会長